1.《ネタバレ》 タイトルが示す通り、真っ暗闇の人生の中で孤独に生きる男が、そのとどめとも言える最悪の事件に巻き込まれて破滅へと向かうという、ポール・シュレイダーもかくやという暗い映画です。鍛えすぎてパツパツの体の上に、生気のない顔が乗っかっている男・ジャッキーが本作の主人公。このジャッキーが温厚そうな老人を容赦なく恫喝する場面から映画ははじまり、「これは何事か」と思わされるのですが、その後、ジャッキーがなぜこのような人格になったのかが明らかにされると、この男の悲惨な運命に同情せざるをえなくなります。。。
本作の理解に必要な情報として、牛成長ホルモンとホルモン・マフィアの2点が挙げられます。飼料を節約しながら食肉牛を大きく成長させたり、商品価値の高い赤身部分を増やすことを目的に、欧米諸国では牛にホルモン剤を投与するということが行われていました。しかし、人体への影響が懸念されることから規制の動きが活発化し、欧州では1981年に一切のホルモン剤の使用が禁止されたのですが、これに目を付けたのがマフィア達でした。いまだ合法とされるアメリカから仕入れたホルモン剤を畜産業者に提供し、利益をあげはじめたのです。禁止されている薬剤が密かに使用され、国民の健康を脅かしている。当局はホルモン・マフィアの捜査と食肉汚染の全容調査を開始するのですが、その過程において獣医検査官が殺害されるという事件が1995年に発生します。この一連の流れが、本作のモチーフとなっています。。。
主人公・ジャッキーは、人用ホルモン剤の投与によって成り立っている男です。外部から男性ホルモンを摂取することで男性性を維持し、強いコンプレックスによって攻撃性が定着した彼は、人為的に作り上げた男性性によって破滅へと向かいます。本来の彼はおとなしく、かつ冷静で正しい判断を下す男なのですが(ホルモン・マフィアと関係を持つことにもっとも慎重だった)、男性性をコントロールしきれなくなって起こした2、3のトラブルによって、その人生はどん底へと叩き落とされます。もし、クラブで会った男や自動車修理工に暴力を振るっていなければ、彼は幼い頃からの片思いを成就させて、幸せな人生を送れていたかもしれないのです。主題とドラマを完璧に一致させたこの設定は、本当に見事だったと思います。演技の質も極めて高く、必見のサスペンスドラマとなっています。