1.《ネタバレ》 1713~1716年頃のシベリアの話である。原題のТоболとは、当時のロシアがシベリア統治の拠点にしていた都市トボリスクТобольскを指しているらしい(正確には川の名前)。
映画宣伝では、スウェーデン・ロシア・ジュンガル(モンゴル系)・清国という強国同士の対決のように書いてあるが、実際は悪辣な清国の策謀のせいでロシアとジュンガルの間で戦いがあったというだけである。場所はほとんどトボリスクと前線の要塞なので壮大なスケールというほどではないが、それでもヨーロッパとアジアを一度に視野に入れた歴史物というのはロシアならではといえる。
どうせ適当に作った話だろうと思っていたら、実在の人物がかなり出ていたらしいのは意外だった。この映画は単なる娯楽大作に見えるが、これとは別に原作小説もあるようで、本来はもっと本格的な歴史劇だったのかも知れない。登場するロシア人にもスウェーデン人にも地誌関係の人物がいたのは、ロシアの東方進出が活発化していく時代の表現のようでもある(よくわからないが)。
物語的には、若いロシア人とスウェーデン人のダブル主人公にそれぞれヒロインがいて、特に序盤ではラブコメかと思わせる場面もある。中盤以降は要塞での戦いになるが、いったん丸く収まったと思わせておいて、終盤ではまた激戦になるので気が抜けない。戦いが中心の映画ではあるが、やはり人の生きる喜びは戦場では得られない、というのが一応最後の結論だったようである。
戦闘場面では、砲弾が直接人に命中するとか、本物の馬だとすれば心配になるような刺激的な場面もあって驚かされた。また要塞に関しては、近代的な星形要塞(四稜郭+1)の実物を映画のために作ったように見える。虎口の向かいにある稜堡を敵に奪われて、互いに大砲で撃ち合うというのが意外な展開だった。ちなみにジュンガル側の現地指揮官はカザフ人の役者とのことである。
登場人物では、最も有名なのは当時の皇帝ピョートル1世だろうが、その妻も次代の皇帝エカチェリーナ1世である(2世でなく)。
サンクト・ペテルブルクの最初の場面が造船所だったのはこの時代らしいと思ったが、そこで材木に斧をふるってわめいていたオヤジがピョートル本人だったというのは笑った。現場に出て自分でやってみるのが好きな人物だったはずなのでこれ自体は変ではないが、どうも基本的に茶化され気味だったようで、その後も人間味のある専制君主になっていたのは面白かった。
ほかロシア人とスウェーデン人の2人のヒロインにはけっこう和まされた。ロシア人ヒロインの「器は持ってきて」が好きだ。
[雑記]ロシア人が皆で気勢を上げる際にはウラー(Ура!)と言うのが普通だろうが、この映画でビバ(Виват!)と言っていたのは、ピョートル1世の西欧化(西欧かぶれ)の一環としてそのように言わされていたということらしい。これも若干の滑稽感を出していたかも知れない。