1. キートンの蒸気船
《ネタバレ》 喜劇王キートンのフィルモグラフィーの中で、最も有名な場面。 それが本作の「建物が倒れてくるけど、窓枠の部分にスッポリ収まり無傷なキートン」になると思われます。 「それはつまり、コレが彼の最高傑作って事なのか」と言われたら、自分としては異議を唱えたくなるんだけど…… そう認識されても仕方無いくらいの傑作である事は、間違いないですね。 とにかくもう、キートン自ら監督したという後半部分の「ハリケーンに襲われた町」の描写は圧巻であり、良くもまぁこんな世界を描き出せたものだと、感心するばかり。 キートンの魅力といえば、当人のアクロバティックな動きが真っ先に挙げられるけど、この人って自分以外の「舞台の作り方」も、本当に上手いんですよね。 自分は三大喜劇王の中でキートンが一番好きであり「王」というよりは「喜劇の神様」って表現が似合うんじゃないかとさえ思ってるんですが…… その理由としては「映画の中に独自の世界を作り上げる事。そして、その世界を壊す事に関しては、キートンに並び得る者は存在しないから」ってのが挙げられるくらいです。 本作に関しても、その力量は如何無く発揮されており「ハリケーンに襲われた町」という特殊な舞台ならではの面白さと、巨大な建造物を破壊していくカタルシスとが、たっぷり描かれていたと思います。 冒頭部分で言及した「窓枠にスッポリ収まったキートン」の場面も凄いけど、個人的には「家が飛んできて潰されたかと思いきや、普通にドアを開けて中から出てくるキートン」って場面も、同じくらいお気に入りですね。 ここ、本当に「朝起きて、出かける為にドアを開けた」くらいの気軽さで、暴風雨なんて起こってないとばかりに平然と出てくるのがもう、たまんないです。 特異な状況ゆえの「普通の事を普通にやってる可笑しさ」を、これほど見事に表現出来るのは、正にキートンだからこそ。 クライマックスでは「水没する檻の中から父親を救い出す」って見せ場も用意されているし、主人公とヒロインが結婚する未来を「溺れた牧師を助けた」という形で示唆するのも、オシャレな終わり方でしたね。 そんな神掛かり的な後半に比べると、キートン監督ではない前半部分に関しては、凡庸な出来栄えに思えたりもするんですが…… 「不器用ながらも息子を大切に想ってる父親」の存在など、魅力的な脇役も揃っているので、決定的な不満点って程では無かったです。 捕まった父を留置場から脱出させるべく、キートンがアレコレ画策する場面なんかは「刑務所モノ」「脱獄モノ」が好きな身としては、心躍るものがありましたし。 それだけでも「キートンが監督していない部分にも、確かに価値は有った」と言える気がします。 それと、本作の前半部分には、もう一つ興味深い場面があるんですよね。 美男子であるキートンが、どう見ても似合ってないチョビ髭を付けて登場し、それを剃る展開になる。 これってつまり「チャップリンのような口髭を付けた姿から、本来のキートンらしい姿に変身する」って形になってる訳で、非常に寓意的なものを感じます。 本作の監督であるチャールズ・F・ライズナーは、数々のチャップリン映画で助監督を務めた人っていうのも、何だか意味深。 そもそもキートンって、ロイドやチャップリンに比べると商業面では劣等生であり、本作でも多大な赤字を記録してたりするもんだから、周囲から「ロイドのような映画を撮るべき」「チャップリンのようなキャラクターを演じるべき」って要求されていたフシがあるんですよね。 「大学生」(1927年)や「結婚狂」(1929年)なんかは、それが顕著。 つまり、本作における「チョビ髭を剃る」シークエンスも、キートンなりの皮肉なユーモアが籠められていたんじゃないでしょうか。 映画を観てる自分としても「バスター・キートンはバスター・キートンであり、決して他の喜劇王と同じではない」という事を、確かに感じましたからね。 それは本作の後半部分、紛れもない「キートン映画」の魅力によって、力強く証明されていると思います。 [DVD(字幕)] 8点(2023-10-25 13:58:57)(良:1票) |
2. ギャラクシー・クエスト
《ネタバレ》 「スタートレック」のパロディ作品なのですが、どちらかといえば「サボテン・ブラザース」の影響の方が色濃いようにも思えましたね。 「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」という筋書きが全く同じであり、その枠組みを「西部劇」から「スタートレック」に置き換えただけ、という感じ。 である以上、既視感だらけで退屈な映画になりそうなものなのに……なんと吃驚。 これがまた、元ネタに優るとも劣らぬ傑作に仕上がっているのですよね。 自分の場合「サボテン・ブラザース」を観賞済みだったので、ある程度展開が読めてしまった部分があるのですが、そういった予備知識無しで観ていたら、本当に衝撃的な面白さだったんじゃないかと思います。 ストーリー展開が読めているのに、何故こんなに面白かったのかと考えてみたのですが、それに関しては「登場人物が魅力的である」という一点が大きかった気がしますね。 往年のSFテレビドラマ「ギャラクシー・クエスト」の栄光に縋って生きている、売れない俳優達。 互いに喧嘩したり、仕事に対する文句を言ったりはするんだけど「基本的には良い奴等」という線引きが絶妙であり、観客としても素直に彼らを応援出来るんです。 特に感心させられたのが、序盤にて主人公のジェイソンがファンに八つ当たりしてしまう場面。 ここって「主人公達は現状に不満を抱き、鬱屈としている」「そんな彼らが、この後ヒーローになる」という事を示す為、決して外せない場面だと思うんですが、一歩間違えば序盤の段階で「こいつは嫌な奴だ」と観客に悪印象を与えてしまう、非常に危うい場面でもあるんですよね。 でも、この映画ではヒロインのグエンが「ファンを相手に、あんなにカッとするなんて初めて」と驚く展開が用意されている。 それによって「主人公はファンサービスを大切にするような、優しい男である」「そんな彼が思わずファンに八つ当たりしてしまうほど、現状に対しては不満を抱いている」という二つの情報を、同時に観客に与える事に成功しているんだから、これは本当に上手かったと思います。 「ドラマでは直ぐに死ぬ端役だが、現実の世界では今度こそヒーローになろうともがいている男」を、ゲスト枠のような形で参戦させているのも良いですね。 主人公達が「ドラマのようにヒーローになる」という展開ならば、彼に関しては必然的に「ドラマと同じように死んでしまうのでは?」と思わされるし、その存在によって、適度な緊迫感が生まれてる。 女性型宇宙人とのロマンスを繰り広げる技術主任なんかも、程好いアクセントになっていたかと。 彼らに助けを求める宇宙人側の描写も、これまた良いんですよね。 「コスプレかと思ったら、本当に宇宙人だった」という序盤の展開だけでも面白いし、歩き方や笑い方がぎこちないという、わざとらしい「宇宙人っぽさ」の演出も素敵。 リーダー格のマセザーが、ジェイソンから「本当の俺達はヒーローなんかじゃない。全ては作り物だった」と告白されて、凄く切ない反応を返す場面も、忘れ難い味がありました。 「サリスの船から盗み出したテープ」「小さな猿のような生物」など、要所要所でハッとさせられる場面があり、コメディでありながら油断出来ない、シリアスな物語としての魅力が充分に備わっている点も、見逃せない。 そんな魅力がピークに達するのが「ドクター・ラザラスに憧れていた青年」の死亡シーンであり、彼を看取りながら「役者のアレクサンダー」が「ヒーローであるドクター・ラザラス」へと生まれ変わる流れは、本当に感動的だったと思います。 無名時代のジャスティン・ロングがオタク少年役で出てくるサプライズも嬉しかったし「いつも一秒で止まるのよね」などの台詞も、ユーモアがあって好み。 仲の悪かったジェイソンとアレクサンダーが、咄嗟の機転で一芝居打ってみせ、窮地を脱する辺りも面白かったですね。 無事に悪者を退治した後「ギャラクシー・クエスト、十八年振りのシリーズ復活!」「かつての端役が、今度はレギュラーに抜擢」「技術主任と女性宇宙人も、ラブラブなカップルに」といった映像が次々に流れるハッピーエンドも、非常に後味爽やか。 気になる点としては、切り札であるオメガ13の使用シーンにて(明らかに十三秒以上、時間が巻き戻ってない?)とツッコまされる事。 そして、上述のオタク少年も皆を救った功労者なのに、それが認められる場面が無かった事なんかが挙げられそうですが、精々そのくらいですね。 元ネタありきの内容でありながら「これは元ネタより面白いんじゃないか」と思わせてくれる。 非常に貴重な映画でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2023-03-15 23:35:23)(良:4票) |
3. キャンディマン(1992)
《ネタバレ》 最後のオチありきの映画ですね。 作り手側も、あそこの部分をやってみたくて制作に踏み切ったんじゃないかな、と思えました。 しかも、そこをあっさり描かないで「鏡の前でヘレンの名前を何度も呟いてしまう」というシーンを適度に勿体ぶって描いているから(あっ、これもしかして……)と観ている自分も気が付けたし、キャンディマンの代わりにヘレンが出てきた時には(ほぉら、やっぱり!)と、予想が当たって嬉しくなったのを憶えています。 基本的なストーリーラインとしては、主人公のヘレンが酷い目に遭い、最後は都市伝説の中の怪物になってしまうという悲劇なのですが、それほど後味は悪くなかった点も好み。 これに関しては作中で「人質に取られた赤ちゃんを救う事は出来た」という救いが示されているのが大きいのでしょうね。 わりと良い人そうだったヘレンの元彼氏が殺されてしまう件に関しても、作中で何度も「ヘレンが入院する前から実は浮気していた」という伏線が張られていた為(可哀想だけど、まぁ自業自得な面もあるか)と納得出来る感じに纏められており、脚本の巧みさが窺えます。 その一方で「本当にキャンディマンは実在するのか?」「全ては精神を病んだヘレンの妄想ではないか?」と思わせるような展開もあり、これが中々迫真の展開ではあるのですか(いや、明らかにキャンディマンの仕業でしょうよ)と思わせる情報が事前に多過ぎたので、何だかチグハグな気がしましたね。 例えば、冒頭にてキャンディマンの声で「血は、流す為にあるのだ……」なんて観客に語り掛ける演出がある訳だから、彼女の妄想の産物であるとは、ちょっと考えにくいんです。 このような展開にするなら、もっと序盤でキャンディマンの実在性をボカす演出(インタビューで聞いた話の中でのみ登場する、など)にしておいた方が良かったんじゃないかな、と。 あとは主人公のヘレンの存在感が強過ぎて、怪物役のキャンディマンの影が薄くなっている点なども気になりますね。 とはいえ、全体的な印象としては程好いサプライズが味わえた、中々面白い映画でありました。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2022-09-05 14:22:18) |
4. キューティ・バニー
《ネタバレ》 「元々は地味なタイプの子だった」「児童養護施設の出身である」という主人公の過去が、物語の進行をスムーズにしている点が上手いですね。 それによって、華やかなグラビアモデルだった彼女が、地味な「ゼータ」の子達に肩入れするのも、介護の仕事をしているオリバーに惹かれていくのも、自然に感じられるという形。 主人公の影響を受け「ゼータ」の子達が美しく着飾ってみせた場面では(……いや、元の方が可愛いじゃん)とノリ切れずにいたのですが、それがキッチリ伏線になっていた辺りにも感心。 周りにチヤホヤされる事によって増長し、彼女達も「見た目で他人を判断するような、嫌な女」になってしまうという、非常に皮肉の効いた展開になっているんですよね。 そこから改心し「元のままの、ありのままの自分の方が良い」と気が付いていく流れはとても心地良くて、ここが本作の白眉であったように思えます。 着地の仕方に関しても「綺麗になる事なんて意味は無い」とまで極端な結論には至らず「着飾るのは、それなりで良い。自分を見失わないまま綺麗になるのが大事」という辺りに留めているのが、これまた絶妙なバランス。 「変わる前の自分」と「変わった後の自分」の、良いとこ取りをしちゃおうという感じで、彼女達が下した答えに、自然と賛同する事が出来ました。 とはいえ「招待状を盗まれた」という件に関しては(今からでも事情を説明して呼び込めば良いのに、何で悔しがって見てるだけなの?)とツッコんじゃうし、ゼータ存続を決定付ける「三十人目」の存在については、もっと伏線が欲しいと思っちゃうしで、脚本の粗も色々と見つかってしまうのは、非常に残念。 特に後者の「三十人目」については致命的で、映画のオチに相当する部分にしては、インパクトが弱かった気がしますね。 これなら、観客に先読みされるのを覚悟の上で彼女の出番を増やし「本当はゼータに入りたいのに、周りの目を気にしてミューに所属している」などの描写を挟んでおいた方が良かったんじゃないかと。 後は……マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」を上手に歌えず、皆に馬鹿にされる場面が中盤にある訳だから、エンディング曲も「ライク・ア・ヴァージン」にして、今度は上手に歌ってみせるという展開にしても良かったかも知れませんね。 全体的には好きな作風ですし、楽しめたのですが「ここ、もっとこうしても良いんじゃない?」と口を挟みたくなる部分が、一杯ある。 魅力的だけど隙も多い、もっともっと綺麗になる可能性を秘めた女の子のような、そんな映画でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2022-08-03 21:58:45)(良:2票) |
5. 9か月
《ネタバレ》 94年のフランス映画「愛するための第9章」を95年にアメリカでリメイクしたという、風変わりな一本。 残念ながらフランス版は未見の為、詳しい比較などは出来ないのですが…… これ単品で評価する限りでは、中々良く出来た映画だったと思います。 結婚前の優雅な「恋人時代」が冒頭に描かれている為、そんな幸せな日々を奪われてしまった男として、妊娠に戸惑う主人公にも自然と感情移入出来ちゃうんですよね。 「赤ん坊の健康の為、飼い猫は捨てた方が良い」「二人乗りのポルシェは、買い替えた方が良い」と言われてしまう場面などは、本当に主人公が可哀想になったし「父親になるのを嫌がる男」として、きちんと説得力があったと思います。 それと、本作は豪華なキャストが揃っている点も特長なのですが、中でもやはり、ロビン・ウィリアムスの存在感は凄かったですね。 もう画面に彼が出てきた途端「ヒュー・グランド主演のラブコメ」が「ロビン・ウィリアムスの映画」に変わっちゃうくらいのパワーがある。 本作の場合、主演のヒューも魅力たっぷりな俳優さんである為、ギリギリでバランスが取れていたけど…… もっと地味で華の無い主演俳優さんだったら、完全にロビン・ウィリアムスに圧倒されて、歪な映画になっていた気がしますね。 そのくらい、彼の存在は光っていたと思います。 子供を産むデメリットについて、ヒロインが色々と語った後「それでも欲しいの」「私の中で、命が生きてるのを感じるのよ」と訴える場面なんかも、女の強さというより、母の強さが感じられて、印象深い。 母親は生まれてくる子が「自分の子」だって分かるけど、父親にとってはそうじゃないという普遍的なテーマについても、さらりと触れていたりして、この辺も良かったですね。 我が子の為なら、たとえシングルマザーになっても生きていくと、早々に決意を固めたヒロインに対し、中々煮え切らない主人公の姿に、リアリティを与えていたんじゃないかと。 主人公が小児精神科医という設定に、あまり必然性を感じない事。 途中何度か出てくる「蟷螂」の姿が怖過ぎる事。 車に関しては「ファミリーカーに買い替えた」とあるけど、飼い猫はどうなったのか明かされず仕舞いな事など、欠点というか、気になる点も多いんだけど…… まぁ、決定的な短所とまでは思えなかったです。 それと、自分は男性である為、どうしてもこの主人公は優し過ぎるというか (妻に対し、妥協し過ぎ。自らを犠牲にし過ぎ) って思えたりもしたんですが、それも観終わる頃には、あまり気にならなくなっていましたね。 女性の「産む苦しむ」に比べたら、そのくらい軽いもんだろって、クライマックスの出産シーンで諭されたような感じです。 産まれたばかりの赤ん坊を抱きながら「僕らは家族だ」と言ってキスする場面も、二人が「恋人」から「夫婦」になった事を感じられて、凄く良かったですね。 「一人の男が、父親になる物語」として、しっかり楽しませて頂きました。 [DVD(吹替)] 6点(2020-10-24 19:41:26)(良:1票) |
6. キス&キル
《ネタバレ》 アシュトン・カッチャーが好きな自分としては、それなりに楽しく観られたけれど…… そうでない人には、結構キツそうな一本でしたね。 まず、序盤は良い感じというか、中々面白いんです。 旅先で主人公とヒロインが出会い、結ばれるまでを描いており、ラブコメ要素が濃い目で、楽しい雰囲気。 空撮の映像が美しいし、海辺のプールなんて本当に素敵だしで、良質な「旅映画」だったと思います。 にも拘わらず、二人が結ばれ「三年後」に時間が飛んだ辺りから、一気に失速しちゃうんですよね。 主人公のスペンサーが莫大な懸賞金を掛けられ、友人達から命を狙われるブラックコメディと化すんだけど、どうも緊迫感が無くて、アクション映画としても魅力に欠ける感じ。 例えば、友人のヘンリーが突然ナイフで斬り付けてくる場面なんて(本気で殺そうとしてるの? それともふざけてるだけ?)と戸惑っちゃうくらいヌルい描写でしたし、彼の退場シーンもアッサリし過ぎてて、本当に死んだかどうか気になっちゃうんです。 この辺の作り込みが甘いせいで「平和な日常から、殺し合いの日々に戻ってしまう」というギャップの魅力が伝わってこないんですよね。 せっかく映画の前半と後半で違う「色」を打ち出しているのに、これは如何にも勿体無い。 あと、序盤から何度か「バンジージャンプ」ってワードが出ていたので、これはヒロインのジェーンが高所から飛ぶ場面が絶対あるだろうなと思ってたのに、それが無かったっていうのも、拍子抜けでしたね。 「(貴女と友達の振りをしていて)楽しい事もあった」と、友情を示した途端に撃ち殺されちゃうジェーンの女友達って場面も、凄く後味悪いし…… 黒幕であったジェーンの父と、スペンサーの和解もアッサリし過ぎてて(えっ、それで終わりなの?)って感じなんですよね。 「スペンサーに莫大な懸賞金を掛けたのはジェーンの父だけど、誤解だったので取り下げました。めでたしめでたし」ってオチにも(結果的に人が死にまくってるんだけど、それで良いのか)ってツッコむしか無かったです。 カメラワークや演出などは平均以上だと思うし「観客を退屈させないサービス精神」は伝わってきただけに、つくづく惜しいですね。 少し手を加えるだけで、絶対もっと面白くなったはずだと、観ていて悔しくなっちゃう感じ。 個人的には「人殺し稼業にウンザリしていたスペンサーが、結婚後の『普通の生活』を噛み締め、幸せそうにしている場面」が凄く良かったので…… その後の展開にて『普通の生活』を奪われた事に対する主人公の怒りや切なさを描いてくれていたら、もっと好きになれたかも知れません。 [DVD(吹替)] 5点(2020-09-08 21:13:10)(良:2票) |
7. 巨大怪獣ザルコー
《ネタバレ》 変に勿体ぶったりせず、始まって早々に怪獣が登場するのが良いですね。 これはスピーディーな展開で楽しませてくれる「隠れた傑作」じゃないかと、期待も膨らんだのですが…… 残念ながら、その後の展開は非常にノンビリしたものであり、本当に「冒頭で怪獣を出しただけ」だったりしたもんだから、ズッコケちゃいました。 そもそも本作って、劇中に「モスラ」の小美人のようなキャラが出てきたり、はたまたドクター・ストレンジラブっぽいキャラまで出てきたりと、如何にもな「オタク映画」って感じなんですよね。 恐らくは監督さんも「怪獣映画は、怪獣が出てくるまで長いのが嫌だ」って考えを、常々持っていたような人なんじゃないでしょうか。 だからこそ「勿体ぶらずに怪獣を冒頭で出す」っていう定石破りをやってくれたんでしょうけど……正直、この映画で評価出来るのって、そこくらいでした。 基本的なストーリーは「闘技場」(1944年)の系譜であり、王道の魅力はあるので、決定的に話作りがダメって訳じゃないんですが……やはり、もっと「本作独自の魅力」のようなものを感じさせて欲しかったです。 唯一「ザルコーは地球上のどんな武器でも倒せない」という前置きは中々面白くて、その倒し方に期待してたのに、それに対する答えも「謎の隕石が盾であり、ザルコーの光線を盾で反射すれば勝てる」ってのは、ちょっと拍子抜け。 実際に倒す場面も、人と怪獣の合成っぷりが丸分かりなクオリティだし (なんでザルコーは足元の人間を踏み潰さずに、わざわざ光線出すの?) って疑問も湧いてきちゃうしで、全然スッキリしなかったです。 他にも「主人公に背中見せたせいで銃を奪われる警官が間抜け過ぎる」とか「エイリアンの存在を信じてるジョージが仲間になる流れは、もっと伏線を張って丁寧にやって欲しかった」とか、色々と不満点が多い映画なんですよね。 そもそも、主人公達のパートと怪獣のパートが全然繋がってなくて、主人公達がアチコチ移動してる合間に、まるでノルマをこなすかのように怪獣がミニチュア破壊する場面が挟まれるって構成なのが、根本的にダメだったと思います。 例えば、せっかく「ザルコーは主人公を狙ってる」という設定がある訳だから、主人公がテレビ局を立ち去った直後にザルコーがテレビ局を襲う流れにするだけでも「巨大な怪獣に狙われている恐怖」「追われつつも、何とか巨大な敵を倒す方法を模索する主人公」って形で緊迫感が出たと思うし、作り込みが甘かった気がしますね。 軍隊と怪獣の戦いをラジオの中継で済ませたりとか、非常に低予算な作りなので、あんまりツッコミ入れるのも野暮なんでしょうけど…… それでも本作に対しては「もっと頑張って欲しかった」って気持ちが強いです。 自分も怪獣映画好きで、映画オタクだからこそ、観ていて共感しちゃうし、その分もどかしさも湧いてくるような…… そんなタイプの映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2020-06-04 22:57:35) |
8. きみがくれた未来
《ネタバレ》 こんなに可愛くって、しかもレッドソックスのファンな弟がいるだなんて、全くもって主人公が羨ましい。 一応、本作には女性のヒロインも登場しているのですが、明らかに「男女のロマンス」よりも「兄弟の絆」を重視した作りになっていますよね。 大人な自分としては、自然に兄の側に感情移入し (こんな可愛い弟がいたら、そりゃあ楽しいだろうな) と思えた訳ですが、多分コレ、幼い子供が弟の側に感情移入して観たとしても (こんな恰好良いお兄ちゃんがいたら、きっと楽しいだろな) って思えたんじゃないでしょうか。 そのくらい「理想の兄弟像」が描けていると思うし、兄を演じたザック・エフロンも、弟を演じたチャーリー・ターハンも、素晴らしく魅力的だったと思います。 「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る」という設定の使い方も上手かったですね。 特に序盤の、サリバン中尉殿とのやり取りなんて、凄く好き。 出征して戦死した友人に対し「俺も一緒に行けば良かった」と悲し気に訴える主人公と「来なくて良かったんだ」と笑顔で応え、静かに立ち去る友人。 ベタなやり取りなんだけど、じんわり心に沁みるものがあって、とても良かったです。 「実はヒロインも幽霊だった(正確には、仮死状態による生霊?)」というドンデン返しについても、彼女が墓場で眠っていたという伏線なども含めて、鮮やかに決まっていたんじゃないかと。 それと、この映画って「何時までも死者に囚われていないで、前を向いて生きるべき」という、ありがちなテーマを扱っている訳だけど、それがちっとも陳腐に思えなかったんですよね。 何せ本作においては「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る。たとえ幽霊でも弟と一緒にいれば、弟が生きていた時と何も変わらない、楽しい日々を過ごせる」という設定な訳なのだから、主人公が世捨て人のような暮らしをしていても納得出来るし、自然と感情移入出来ちゃうんです。 この手の映画の場合、いつまでもウジウジ悩んでいる主人公に共感出来ず、むしろ主人公を励ます側の目線で観てしまう事が多い自分ですら、本作に限っては完全に主人公側の目線で観る事が出来た訳だし、これって何気に凄い事なんじゃないでしょうか。 「良くあるタイプの映画でも、設定や描き方に一工夫加える事によって、独特な味わいになる」例の一つとして、大いに評価したいところです。 弟とのキャッチボールに、恋の悩み相談、雨の森ではしゃいで遊ぶ姿なんかも非常に楽し気に描かれており (このままずっと、兄弟一緒の世界で生きていくのも、それはそれで素敵な事じゃないか……) と思わせる作りになっているのも、凄いですよね。 「死者に囚われて生きる事」を決定的に否定するような真似はせず、むしろその生き方の魅力を存分に描いておいたからこそ、終盤における主人公の決断「弟と共に過ごす日々よりも、愛する女性の命を救う事を選ぶ」行為にも重みが出てくる訳で、この前後の繋げ方は、本当に良かったと思います。 約束の森で、一人ぼっちになった弟が「兄は自分よりも大切な存在を見つけたんだ」と悟ったかのように、寂しげに立ち去るも、恨み言などは一切口にせず「お兄ちゃん」「好きだよ」と呟いてから消えゆく様も、本当に健気で……観返す度に瞳が潤んじゃうくらい。 ラストシーンにて、以前のように会話する事も、触れ合う事も出来なくなってしまった兄弟が「それでも、何時かまた会える」「会えない間も、いつまでも俺達は兄弟だ」と約束を交わす終わり方も、凄く好きですね。 冷静になって考えてみると、肝心のヒロインには魅力を感じなかったとか、弟がお兄ちゃんにしか執着してないので両親の置いてけぼり感が凄いとか、色々と難点もある映画なんですが…… 眩しいくらいの長所の数々が、それらを優しく包み込んで、忘れさせてくれた気がします。 「面白い映画」という以上に「好きな映画」として、誰かにオススメしたくなる一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2019-11-11 18:07:00)(良:1票) |
9. ギャング・オブ・ニューヨーク
《ネタバレ》 序盤の乱闘シーンにて、白い雪が赤い血で染まっていく凄惨な演出は、流石スコセッシといった感じ。 少年院を出所する際に渡された聖書を、主人公が川に投げ捨てる場面なんかも、鮮烈な印象を与えてくれましたね。 これは傑作ではないか……と大いに期待が高まったのですが、その後は何だか尻すぼみ。 思うに、この映画の主軸は「主人公アムステルダムとビルの疑似親子めいた関係」のはずなのですが、その描き方が少し単調というか、シンプル過ぎるのですよね。 例えば、映画の中盤にて、主人公の父親である神父を殺したビルが「アイツは凄い奴だった」という調子で、神父を褒め称えるシークエンスがあるのですが、正直言って観客は、そんな事とっくに分かっているんです。 それは主人公も同様で、この告白を聞いても決定的なショックを受けたりしていない。 序盤の殺害シーンの時点でビルは神父に敬意を表しているのが明らかになっている訳だから、全く意外性が感じられないのです。 ベタな考えかも知れませんが、こういう話の場合は「親の仇と思って心底から憎んでいた相手が、実は良い奴だったと分かり、苦悩する」「ビルが神父に敬意を払っていたのだと知って、衝撃を受ける」という展開にした方が良かったんじゃないかなぁ、と。 本作の場合は「ビルは悪党ではあるが、一貫して憎み切れない魅力的な人物として描かれている」「最初から最後まで神父に敬意を払っているので、ビルには親の仇としての存在感が弱い」という形になっているのですよね。 主人公が最も動揺するのは「好きになった女の子がビルのお手付きだった」と知った時な訳ですが、これすらも「ビルは、その女の子に強い執着を抱いていない」と直ぐに判明する為、三角関係にすらなっていない。 咄嗟にビルの命を救った後に「ちくしょう、何で俺はあんな奴を助けてしまったんだ……」って感じに主人公が苛立つシーンさえも、観ているこちらとしては(いや、この関係性なら助けても全然おかしくないじゃん)とツッコんでしまう。 「親子」「宗教対立」「古い都市と新しい都市の対比」などといった様々なイメージが両者に投影されている事は分かるのですが、そんな代物を取り払って考えてみるに、根本的に二人が戦う理由が弱過ぎたように思えます。 だからこそ、最後の決戦も互いの想いをぶつけ合うような直接対決には成り得ない訳で、史実であった暴動や軍隊による鎮圧を絡めて、有耶無耶にしてしまったのではないでしょうか。 大砲の着弾の後に二人が倒れている姿なんて、ギャグにしか見えなかったりしますし「盛り上げて、盛り上げて、最後に肩透かし」という、一種の笑いを狙った構成なのでは……とさえ思ってしまったくらいです。 そんな本作で光るのは、やはりビル役のダニエル・デイ=ルイスの熱演。 ナイフ投げのシーンでは、惚れ惚れするような恰好良さを見せてくれましたし、一つの街を牛耳るギャングの親玉として、充分な説得力を備えていましたね。 「ビルが魅力的過ぎて、良い奴過ぎて、敵役や悪役として成立していない」と自分が感じてしまったのも、ひとえに彼の存在が強過ぎたせいかと。 戦いが終わった後に、無数の死体を見下ろして政治家が吐く「たくさんの票を失った」という台詞も、彼らにとって人命は「数字」でしかないと思い知らせてくれる効果があり、印象深い。 最後には、何だかんだで愛する彼女と一緒になってハッピーエンドという着地点な辺りも、安心感があって良かったです。 作り手としては色々考えて、力も注いで完成させた品である事は分かりますし、画面作り等のクオリティは高いと思うのですが「面白かった」とは言い切れない……勿体無い映画でありました。 [DVD(字幕)] 5点(2018-02-25 06:24:52) |