1. ケインとアベル/権力と復讐にかけた男の情熱<TVM>
《ネタバレ》 てっきりダブル主人公制かと思ったのですが、完全にアベルが主人公ですね。 ケインは副主人公、もしくは主人公のライバルといったポジションに思えました。 で、自分としては当然、出番の多いアベル側に肩入れしつつ、楽しく鑑賞出来たのですが…… 物語の一番のオチと言うべき「苦境のアベルを匿名で救った人の正体は、宿敵ケインであった」って事が、観ていてバレバレだったのが残念です。 これに関しては、古典的名作ゆえの弱点というか、原作が書かれた1970年代なら意外性のあるオチだったものが、現代では「王道」「ありきたりな展開」になってしまったがゆえの悲劇なんでしょうね。 観客の自分としても(これ、絶対ケインが助けてるオチじゃん)と思えたし、それと同時に(救い主はケインって展開が一番面白い、そうじゃなかったらガッカリする)と思えたりもしたんだから、何とも判断が難しい。 もうちょっと見せ方を工夫して「観客にはケインが救い主である事を示しておき、アベルがそれに気付くまでの流れを俯瞰的描写で楽しませる」という作りであったなら、印象も違ってたかも知れません。 そんな本作は、300分越えという長尺の品であり、色んな要素が内包された大河ドラマのような作りなのですが、自分としては「収容所から脱走するアベル」の件が、一番お気に入りでしたね。 列車の中で、たまたま相席となった貴婦人がアベルを庇ってくれたお陰で難を逃れる辺りとか、特に好き。 これに関しては、上述のオチと同様「この後どうなるか分かってる」「もし予想通りの展開にならなかったら、逆にガッカリする」という例の最たるものであり「古典的名作の良さ」を存分に味わえた場面として、印象深いです。 後は、終盤にアベルの娘とケインの息子が惹かれ合うという「ロミオとジュリエット」的な展開になるのも、また面白い。 こういうストーリーの場合、普通は惹かれ合う男女が主人公となるので「偏屈な親どものせいで結ばれない二人が可哀想」としか思えないのに、この話では、その偏屈な親の方が主人公になってる訳ですからね。 (実際に、原作の続編である「ロスノフスキ家の娘」では、娘視点の物語として描かれていたりする) 「憎いアイツの息子に娘を奪われるだなんて、冗談じゃない」っていう親側の気持ちに寄り添った作りなのは新鮮であり、三十年以上経った今観ても、目新しい魅力を感じました。 アベルだけが生き残り、ケインは死んでしまう後味の悪さとか、手放しには褒められないし、あまり再見しようという気にはなれないんですが…… 間違いなく「観て良かった」と言える、骨太な一本だと思います。 [地上波(吹替)] 6点(2023-08-02 20:43:51) |
2. 激流(1994)
《ネタバレ》 シンプルな邦題の「激流」ってのが、凄く恰好良いですね。 内容に関しても、画面に広がる雄大な自然を眺めてるだけで楽しいし「崩壊の危機にあった家族が、試練を乗り越え強く結ばれる」という王道展開も備えているしで、満足度は高いです。 一応サスペンス色も強い作りなんですが、血生臭い場面は出て来ないし、主人公一家の中から死人が出たりもしないという、安心設計。 程好い緩さの、程好い緊張感を味わえました。 旦那の命令は全く聞かないけれど、妻に命令されたらすぐに聞き入れる飼い犬の存在も、良いアクセントになっていましたね。 上述の描写は「旦那さんは仕事で忙しく、家を留守にしがち」「だからこそ、犬も旦那さんを家族として認めていない」と、さりげなく伝える効果があり、それだけでも感心していたのですが、実は終盤に掛けての伏線になっていたというんだから、もう吃驚。 共に協力し、危機を乗り越え「初めて私の言いつけ通りにしてくれたな」と、旦那さんが犬を抱き締め、喜ぶ展開に繋がってたんですよね。 「父と息子」「夫と妻」の和解は描かれるだろうと予測済みでしたが、この「主人と飼い犬」の絆に関しては予想していなかっただけに、気持ち良いサプライズ感を味わえました。 川下りの途中、釣りをする描写があるのも嬉しいし「一家は手話が使える」という設定の使い方も上手い。 メリル・ストリープも、流石の目力と存在感。 如何にも頼りなさそうな、眼鏡着用の旦那さんが、家族の為に奮起して超人的な活躍を見せちゃうというのも、観客としては応援したくなるし、良い脚本だったと思います。 そんな本作の不満点としては……やはり、ケヴィン・ベーコン演じるウェイドの扱いが挙げられるでしょうか。 勿論、良い悪役だったと思うんですけど、ちょっと勿体無い気がしたんですよね。 主人公一家の幼い息子、ロークと心を通わせる序盤の展開が好みだっただけに「結局は単なる悪人でした」というオチな事が、凄く寂しい。 ロークに拳銃の秘密をバラされた時に、傷付いた表情を浮かべたりするのが良かっただけに「悪人だが、子供には優しい」というキャラで通して欲しかったなと、つい思っちゃいます。 例えば「十徳ナイフ」の存在にしても、犯人達がそれをロークから取り上げておかないのって、凄く不自然なんですよね。 でも自分としては(ウェイドはロークが好きだから、誕生日プレゼントのナイフを取り上げるような真似はしたくないんだろう)と解釈し(十徳ナイフで危機を脱する展開を、自然にしてみせたな)と感心してたくらいなんです。 でも、クライマックスにてウェイドの本性が暴かれ「ガキも捕まえて殺せ」とか平気で言い出すもんだから(……じゃあ、あれって単に迂闊なだけかよ!)と、大いに失望。 自分の読み違いに過ぎないんですけど、それにしたってコレは落胆しちゃいました。 終盤の難所「ガントレット」を乗り越えるシーンに関しても、迫力があって良かったんですが(いや、旦那さんは陸路で先回り出来たんだから、無理して水路を選ばなくても良いのでは?)と、そこが気になっちゃうんですよね。 多分「犯人二人は、ガントレットを越える以外のルートは無いと、元仲間のフランクに騙されていた」「ローク達もそれを察し、陸路の事は口にしなかった」って事だとは思うんですが、それならそうで、もっと分かり易く説明して欲しかったです。 そもそも、登場人物達は「ガントレット」を越えた際に凄く盛り上がっている訳だけど、前提として「ガントレットを無事に越えたとしても、その後に犯人二人をどうにかしなければいけない」って課題が残っている訳だから、観客目線だと一緒に喜べないんですよね。 「犯人達と協力して難所を越えた事により、絆が芽生えて分かり合うなんて有り得ない」「勧善懲悪な結末であるべき」という真っ当な作りゆえに、映画の一番の山場で、カタルシスを得られなかったように思えます。 全体的には好みな作風ですし、家族の絆が深まるハッピーエンドなので、後味も悪くない。 それでも(最後、もうちょっと上手く着地してくれたらなぁ……)と、欲張りな気持ちを抱いてしまう。 そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2018-01-09 08:57:29)(良:2票) |
3. 刑事ジョー/ママにお手あげ
《ネタバレ》 劇中にて、ママが見せる幼少期のジョーの写真が「ロッキー」で飾られていた写真と同じであるというだけでも、何だか憎めなくなってしまう映画。 実際、自分が大のスタローン贔屓である事を差し引いても、結構面白いと思うんですよね、この作品。 思っていた以上に「刑事物」としての要素が濃いし、母子によるバディムービーとして、きちんと成立している。 ちょっと年増なヒロインの警部補さんもキュートで、彼女と主人公との恋の行方についても、素直に応援する事が出来ました。 オムツ云々の件は(そこまでやらなくても……)と感じるし「母親を撃ったの」が最後のオチというのは弱いと思いますが、それも御愛嬌。 なんていうか(映画に点数を付けるなら、ここはマイナスポイントだな)と思う箇所ではあるんですが(ここの場面は苦手だ)(この映画のココが嫌いだ)とまでは思わないラインに留めているという、非常に自分好みな作りなんです。 だから安心して観られるし、短所は受け流して、長所だけを受け止めるような形で、楽しむ事が出来る。 真面目な熱血漢なのに、恋愛に不器用で、ママに対してはとことん弱いという主人公ジョーのキャラクターも、非常に魅力的。 普段は素っ気無くても「プレゼントがある」と聞かされると、子供っぽく喜ぶ辺りなど、ママが溺愛するのも納得な愛嬌があるんですよね。 「愛から逃げる事」が貴方の欠点だと諭されるシーンでの、寂し気にママを見つめる表情なんかも、凄く好き。 アクション部分でもなく、コメディ部分でもなく、ここの真面目な母子の対話シーンこそが、本作の白眉であったように思えます。 ちょっとボケ気味かと思われたママが、実は驚異的な記憶力の持ち主だったと判明する件も気持ち良いし「お大事に」という台詞の使い方も上手い。 序盤と終盤、銃を撃った後の仕草が母子でそっくりであった点なんかも好きですね。 上述の通り「(その犯人は)母親を撃ったの」というオチに関しては、少し弱いと思っているのですが、それでもジョーの「おや、まぁ……でも、気持ちは分からんでもないよ」と言わんばかりの、複雑な笑顔を見せられちゃうと、何だかそれだけで(まぁ、良いか)と納得し、満足してしまう。 ダメな子ほど可愛い、なんて言葉に倣い「ダメな映画かも知れないけど、自分は好き」と主張したくなるような、そんな一品でありました。 [地上波(吹替)] 8点(2017-12-27 19:48:13) |
4. GAMER ゲーマー
《ネタバレ》 同監督作「アドレナリン」のラストでもゲーム風の演出がありましたが、本作でもラストに「全てはゲームの中の出来事だった?」と思わせる演出がありましたね。 現実と非現実の対比、今いる世界もまた誰かに支配されているゲームの世界なのではないかと、作り手の真意について色々と考えさせられる深い映画……なんて事は全然無くて、お気楽SFアクションとして楽しむのが得策な一本なのだと思います。 序盤において主題となるゲーム「スレイヤーズ」の勝利条件が不明な事とか、不満点は色々あったりするのですが「そんなの気にせず楽しんだもん勝ちだよ」と思わせる作品としての大らかさがあるんですよね。 ラストのゲームオーバー画面にしたって「全てはゲームの中の出来事。だから劇中で科学考証とかが間違っていてもツッコまないでよ」という免罪符であり「その代わり、色々アクションとかエロスとか詰め込んで、ゲームらしい楽しい映画だったでしょう?」というメッセージでもあったように思います。 それでも、せっかく主人公とプレイヤーの少年が意思疎通出来るようになったのに、その後に二人が全く絡まず、何の絆も生まれず、ラスボスを倒すのに少し手助けしただけで終わったというのは、何とも寂しかったですね。 あくまでも「ゲームの中で操られている主人公が、自分を取り戻し、家族も取り戻す物語」で終わらせたかった為、意図的にプレイヤー側の出番を減らしたのだと思われますが、そこはもうちょっと欲張って、両者の交流を描いても良かったんじゃないでしょうか。 俳優陣は豪華な顔触れの為(こんな人達をゲームのキャラクターとして操作出来たら、そりゃあ楽しいだろうな……)なんていう、不謹慎な欲望を刺激するものがあり、作中で「ソサエティ」が流行っている事への説得力にも繋がっていて、良かったと思います。 主人公の奥さんが扇情的な恰好をさせられて、四つん這いになった時のお尻がエロかったとか、でもそんな奥さんを操作している男は極度の肥満で、しかも裸でプレイしている姿が最高に気持ち悪かったとか、この設定ならではの印象的な場面が幾つかあるのも好印象。 「窮地の主人公を前にして、黒幕が自らの目論見について得意気にベラベラ喋り、それが中継されているせいで墓穴を掘ってしまう」なんていうテンプレ展開を、堂々とやってみせる辺りも、短所ではなく長所であるように感じられましたね。 全力で肯定するのは難しいけど、楽しめたか否かという基準で判断すれば、しっかり楽しむ事が出来た一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2017-03-16 20:28:18) |
5. ゲット スマート
《ネタバレ》 お気に入りのラブコメ映画「50回目のファースト・キス」と同じ監督さんという事で、大いに期待していた本作。 ところが、ジャンルの違いもあるからなのか、今一つ楽しむ事が出来ませんでした。 好きな女優さんであるアン・ハサウェイがヒロイン役ですし、アクションシーンなども結構しっかり描かれていたと思うのですが、熱中する場面も無く、気が付けばエンドロールになっていたという印象ですね。 自分にとっては善玉の印象が強いドウェイン・ジョンソンが実は悪役であったという展開なども、意外性があって良かったはずなのに、何故か興奮を誘われない。 その理由として、一つ印象に残っているのは、飛行機内にて手枷を掛けられた主人公が悪戦苦闘する場面。 スパイらしく、小型のクロスボウで狙いを定め、手枷を破壊しようとするも、見事に失敗。 自らの足に矢が突き刺さってしまい、悶える事になる……というギャグがあるのですが、これ、一回目はクスっと笑えたのです。 ところが二回も三回も失敗して矢が刺さるのを繰り返されてしまうものだから(もういいよ……)と、少々飽きてしまったのですよね。 で、ようやく最後に成功するのかと思ったら、間違えてボタンを押してしまって床が開き、そのまま主人公が地上に向かって真っ逆さま、という顛末だったのです。 この「肩透かし」っぷりがシュールで面白い、という人もいるのでしょうが、自分としては(どうも、この映画とは相性が悪いな)と思えてしまい、以降は少し距離を置いて観賞していたような気がします。 書類仕事は優秀であっても、実務においてはドジな主人公。 そんな彼が、有能な相棒の助けと幸運とで事態を乗り切っていくだけなく、終盤にて「やれば出来る男」と実力を証明してみせるストーリーラインなどは、とても好み。 最後も安心のハッピーエンドで、何故この映画を楽しむ事が出来なかったのか、自分でも納得出来ないくらいですね。 面白いはずなのに面白くないという、不思議な感覚。 映画と自分との「ズレっぷり」が残念に感じられる一品でした。 [DVD(吹替)] 5点(2016-05-20 06:54:56)(良:1票) |