1. 存在のない子供たち
《ネタバレ》 レバノンのスラム街に生きる貧しい少年がある日、裁判所に両親を訴えた。理由は、「こんなクソみたいな世界に僕を生んだから」。前代未聞のその理由にマスコミや世間は瞬く間に色めき立つのだった。そうして始まった公判で明らかにされたのは、あまりにも過酷な少年の人生だった――。まあ言いたいことは分かるのですが、僕は全く否の立場ですね、これ。無責任に自分を生んだ癖にロクに世話もしてくれない両親に対する、この少年の怒りは確かに分かります。でも、この少年、そんなどうしようもない境遇へと両親を追い込んだ社会というものへの視点が一切ないんですよ。ただちゃんと育ててくれない親に対する怒りのみ。これって、引きこもりの暴力息子が「腹減ったからとっとと飯作れ!」「可愛い息子のためにちゃんと金稼いでこい!」と怒鳴り散らしてるのと本質的には一緒なんじゃないでしょうか。この悲惨な境遇は全て両親のせいという、あまりにも視野狭窄なこの主人公に僕はムカムカと怒りが湧いてきて、最後など「そんなに産んでほしくなかったなら、とっとと自殺したらいいじゃん」とまで思っちゃいました。怒りを向けるべき相手は絶対的な貧困であり、それを生みだした社会システムであって、決して両親だけではないと僕は思います。ただ、とても芝居とは思えない子供たちのナチュラルな演技は素晴らしく、変幻自在なカメラワークにも目を見張るものがあります。あまりにも過酷な第三世界の真実をあくまで冷静に直視する監督の目線の鋭さにも感服せざるを得ません。とは言え、やはり僕はこの作品に通底するテーマというものに一切共感できない。こればかりは考え方の違いなので如何ともしがたいですね。 [DVD(字幕)] 5点(2021-01-23 01:00:43) |