1. ダンサー・イン・ザ・ダーク
《ネタバレ》 ◆久しぶりに、胸がしくしくと痛んで、もう二度と見たくないと思える映画を見ました。◆この映画のいい点は、映画の中での事実とセルマの空想とをしっかりと区別しているところだと思います。セルマに起こる悲劇的な事実は、色を抑え目にして手持ちカメラで撮影しているのに対して、セルマの空想は色をはっきりと使い、固定のカメラで撮っています。それによって事実と空想との区別をはっきりとつけています。◆その区別が生きてくるのは、後半です。セルマが独房に閉じ込められ、無音の中で刑の執行延期の連絡を待つシーン。セルマにとって空想をかきたてるような音は聞こえてきません。彼女はその中で自ら独房の中で音を出し、空想の世界に無理やり浸ろうとします。しかし、死刑への不安と、独房の静けさによって、彼女は自ら歌うことによって空想に浸らなければならなくなってしまいます。この時、撮影手法と色の明るさとが不安定になります。そして、不安に駆られながら『My Favorite Things 』が歌われます。これほど、この歌の持っている雰囲気と現実とのギャップを感じ、また、これほど歌の内容と事実とが調和していることを感じたことはありませんでした。◆このシーンを見れただけでも、この映画は十分に主張していると思います。◆そして最後の刑執行のシーン。現実の中で彼女は歌います。事実と空想とがカオスとなって、彼女の最後から二番目の曲が中断されます。その後はただ事実だけが淡々と続いていく。◆正直、二度と見たくない映画の一つとなりましたが、無駄なシーンが無く、撮影手法も練りこまれており、ストーリーも最後まで飽きさせませんでした。 [DVD(字幕)] 9点(2008-01-04 06:37:51) |
2. ランド・オブ・プレンティ
◆うーん、考えさせられました。◆ぼくは、マイケルムーアの番組が好きでよく見るのですが、彼は大局的にアメリカ国家を見ているので、アメリカの抱える社会問題に対して「国家の言い分に沿いつつ、ひねくれた自分の主張を表現する」という、いわばアメリカ国家の土俵に上がって、社会問題を批判しています。◆ところがこの映画は、イスラエルから来た女性、愛国者の男性から見える事象、つまり局地的な視点を中心に話が進んでいきます。◆その視点からは、ロスは飢餓の中心地であり、アラブ人は温和であり、グラウンドゼロは工事現場でしかない。◆アメリカ国家の言い分という色眼鏡をかけずに、全ての事象を淡々と映していきます。僕は特に、「アラブ人=テロリスト」という方程式に疑問を投げかけた点が素晴らしいと思う。あの温和なお兄さん、それからハッサンの生活実態、それを知ることによってその方程式はあっという間に崩れ去る。人の優しさを映すことが、そのまま一つの主張となる点がとてもよかった。◆僕はこのようなマイケルムーアとまったく違う色合いが出せたのも、監督が徹底的にローアングルにこだわったことに理由があるのではないかと思います。目線を人物に置くことで「個人から見たアメリカ国家」というものをうまく映せたのではないかと思います。シンプルですが、重要な映し方ですね。◆いい作品でした。ただ、若干冗長ぎみであることと、主張がいまいち絞れていなかったことから-2点で8点を献上させていただきたい。 [DVD(字幕)] 8点(2006-11-15 01:46:11) |
3. ヒトラー 最期の12日間
◆155分という長尺に耐えられるかどうか心配しながら鑑賞しましたが、最後まで惹きつけられながら見れた作品でした。◆僕はヒトラーに対して、「独裁者」で「虐殺者」という漠然としたイメージを持っていたため、ヒトラーの行動や言動に対して理解ができませんでしたし、なぜ彼に人々はついていったのかもわかりませんでした。◆しかし、実際映画を見て、もちろん数多く事実と違うことがあるでしょうが、「ヒトラーの言葉の使いまわし」と言う点においては、かなり卓越したものがあると思いました。「スターリンのように大粛清をおこなうべきだった!」とか、ヒトラーは激昂したときであっても言葉を巧みに使い分けて、人の感情に直接訴えかけていることがよくわかりました。◆彼の言動の物怖じの無さや、言葉の巧みさ、それから時折見せる悲しそうな目、節々に彼のカリスマ性が現れていたように思います。それはもちろん、ブルーノガンツの腕もあったでしょうが、ヒトラーのカリスマ性を少しでも理解できてよかったように思います。◆映像もきれいで、リアルな部分もあり、よい作品であったと思います。8点を献上させていただきたい。 [DVD(字幕)] 8点(2006-10-22 20:01:53) |
4. パトリオット
《ネタバレ》 ◆前半(長男がさらわれ、それを家族で助けるシーン)までは怒涛の展開で、ひきつけるものがありました。家族ぐるみで戦争に参加する・・・意外な展開です。と、思いきや、そこからだんだんと、家族・恋人・勧善懲悪・ハッピーエンド等々、定番の「アメリカ映画」へと変貌します。◆その大きな転換点は、教会のシーンでしょう。国のために命をかけるか否か、農民たちが葛藤するシーン。とても重要な判断を迫られた人々。どうするのか?・・・そこにヒロインおもむろに発言、「それでいいの!?」的な鶴の一声により、立ち上がって入隊を希望する農民たち。バックでは明らかに勇敢さ、かっこよさなどを意識したメロディ。微笑むヒロイン・・・。◆ぼくはここでアウトでした。これが大体、全体の6分の1にさしかかったところのシーンです。この先が思いやられましたが、我慢してみると、やはりの展開です。◆アメリカ人が正義でイギリス人が悪。アメリカ人が正々堂々と戦うのに対して、イギリス人は卑怯に戦う。最愛の人と恋に落ちれば、最愛の人が死に、怒りに燃えてとっこんでいく。家族を愛し、国を愛する、自由を守る。◆戦争はそんな綺麗なものばかりじゃない。手垢のついた道徳感の連続を2時間40分見続けるのは正直苦痛です。◆というか、そもそも、家族と国、両方は守れるものじゃないだろと。お国のために命を捧げるか、卑怯者と蔑まれながらも家族と暮らすかのどっちかじゃないのか?どっちかを守るためにはどっちかを犠牲にしなきゃいけない。そこを追求することで初めてリアルさが出るんじゃないか。◆撮り方で先が読めてしまうようなチープな演出と、勧善懲悪のストーリー展開、ハッピーエンド、もうやめてもらいたいです。いやいや、テーマがラブコメとかなら大いにやってもらって結構です。でも、国を守るため、家族を守るためという真剣なテーマ、ましてや2時間40分という長尺ならば、もっとリアルな撮り方ができたはずです。戦闘シーンだけは妙にリアルでしたがそれを後ろ支えするものが安っぽい。◆僕の嫌いな要素(全米が泣くパターン)が詰まった映画でしたが、前半と戦闘シーンは迫力があったのでその点をふまえて、6点を献上させていただきたい。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2006-09-12 23:37:22)(良:1票) |
5. 17歳のカルテ
《ネタバレ》 ◆『カッコーの巣の上で』と主題が同じということもあり、本作にかなりかぶるところもありました。ただ、『カッコーの』は救いようのない終わり方だったのに対して、こちらは逆に未来を感じさせる終わりかたをしています。◆どちらのほうが好きかと聞かれれば、ぼくは本作のほうをとります。『カッコーの』は世の中の不条理さとか、不自由さといったものに絶望していますが、本作ではその不条理さや不自由さを認めたうえで、それらとどう共存していくかといったことまで描かれています。広げた風呂敷はけして小さくはなかったのですが、それを畳みきった本作はすごい。◆また、演出面でも色の使い方や、猫の映し方、ホラー的なシーンの映し方などを意図的に変えていて、映画というメディアを使いこなしています。◆さらにはキャスト面でも、主演とその脇を固める人々のレベルが高く、唯一のミスキャストと思われたウーピー・ゴールドバーグも最終的には彼女でなければだめだと思わせられました。 [DVD(字幕)] 9点(2006-03-19 02:07:55) |
6. クライモリ(2003)
◆内容は、ありきたりの不条理殺人ものです。三人組の怖い人たちが、山道に迷い込んだ人を殺して食べる。◆今作はR-15ということもあって、結構リアルで残酷なシーンもあったわけですが、そうなるとますます「内容の不条理さ」と「殺人のリアルさ」とのズレがハッキリ見えてくる。◆日本と安易に比較するのは良くないと思うのですが、日本のホラー物は、割と人を殺すことについて動機付けがきちんとされていると思うのです。例えば、昔いじめにあったとか、殺された恨みが未だに、とか。一方、アメリカのホラーってなんの動機もなく人を殺しますよね。本作品なんてその典型だと思うのですが(一応、「食うため」かな)、やたら理由もなく、嬉しそうに悲鳴をあげながら人を殺す。そしてそれが、見ているものにとって「ありきたり」と思えてしまう。これって結構怖いことなんじゃないかとおもう。◆さらに怖いのが、あんなに凄惨な内容なのに、エンディングでアップテンポのロックを流しているところです。後味すっきりを狙ったんでしょうが、少し強引だと思います。こういう終わり方は、非常に嫌です。結婚の夢が志半ばでついえた二人に、ご冥福を祈る意味で5点を献上させていただきたい。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2006-01-28 12:53:27) |