1. 花の降る午後
若い頃のある時期、宮本輝氏の小説に傾倒していた事があり(傑作小説「青が散る」読了がきっかけ)これも原作を読んだ後、興味本位で映画を観たという経緯。まあこの原作自体、サクサクと軽く読めるおハナシで、宮本輝にしてはイマイチと思ったが、映画はそれに輪をかけ何のインパクトも残らない出来でした。この頃は、もう完全に着々と演技派女優としての途を歩んでいた桜田淳子が頑張ってたなあ、っていう程度。「春の夢」「骸骨ビルの庭」、短編も宮本氏の小説はいいのが沢山あるんですよね。「真夏の犬」とか。僕は彼の小説の登場人物が発する正統?関西弁が大好きなんです。一度ドラマ化された「青が散る」も含め、真摯に宮本文学と対峙した映像化作品が観てみたいなあ・・・。 [ビデオ(邦画)] 4点(2024-11-19 21:59:45) |
2. 快盗ルビイ
真田広之の母親役を演じられた水野久美さんが、この母親をどのように演じたらよいかと和田監督に尋ねたところ、『北北西に進路を取れ』(59)の、ケイリー・グラントの母親役、ジェシー・ロイス・ランディスのキャラクターを参考にとアドバイスを受けたとの事。このエピソードが凄く好き。和田監督、ホントにヒッチコックが大好きなんだなあって。『泥棒成金』(56)でも、グレース・ケリーの母親役で、同じような茶目っ気のあるキャラクターでしたね。水野さん、監督の意図を見事に咀嚼された素敵な助演っぷりでした。デビュー作『麻雀放浪記』(9点)より、全体的にキレイキレイにちんまり纏り過ぎた感はあるけれど、これはこれで愉しい作品。 [映画館(字幕)] 7点(2024-11-04 08:19:31) |
3. 妻として女として
女優として一枚看板の主演作が殆どだった高峰秀子の、数少ない貴重な「同格女優演技バトル作品」、私見ではベストスリーのひとつ。他は「華岡青洲の妻」(ver若尾文子)「女の園」(ver高峰三枝子・岸恵子・久我美子)番外として「稲妻」(VS浦辺粂子)同じ成瀬作品でも「ひき逃げ」「娘・妻・母」なんかは、演技のしどころというかバトルという点で、少々物足りず消化不足。この作品での淡島千景は、女優としての格、存在感と押し出しの良さ、演技力においても相手役として申し分なし。名コンビ森雅之氏ですら、彼女たちの前では役柄も含め影が薄くなってしまっていた。 [地上波(邦画)] 8点(2024-09-25 08:25:53) |
4. 遠雷(1981)
《ネタバレ》 「ATG製作邦画」といえば、私の中では真夜中の深夜放送で親に隠れこっそり観ていたエロ映画という印象。ニキビ面思春期時代の消し難き思い出。他にも「サード」や、ATGではないけど「もっとしなやかに、もっとしたたかに」とか。「ヒポクラテスたち」みたいな生真面目作品もあったはずなのに。当時、田舎の地方都市でただ漫然ノホホンと日々を過ごしていた中学生には、都会VS地方という構図がいまひとつ理解できない部分もあったけれど、ルックスからして土臭い永島敏行と石田えりの、演技以前「その辺歩いてそうなあんちゃんや姉ちゃん」的存在感に圧倒されました。あと忘れられないのは↓皆さん既に述べられてる若き日の石田嬢の例の件、プラス、アカペラで♪クック、クック、クック。クック~青い鳥~♪歌唱シーン。何故にここで桜田淳子?何故にここで「わたしの青い鳥」??カラオケがまだなかった時代、こんな風に時代的に少し前の流行歌を人前で披露するのがフツ―だったんかなあ・・・。アナクロ過ぎんか?「てんとう虫のサンバ」ならまだしも。今考えてもなんだか不思議。(追記)↓anemoneさんのレビューを改めて拝見し「青い鳥」には、実はそういう意図があったんだって瞠目。 [地上波(邦画)] 7点(2024-09-23 08:36:30) |
5. 空気の無くなる日
《ネタバレ》 名で客を呼べるような有名スターが出ているわけでもなく、公民館や学校の講堂とかで上映されてもおかしくない「教育映画」みたいな、ひたすら地味な映画。商売上手な監督さんなら、クライマックスとか、もっと見せ場があるような演出をしたと思う。いや、逆にそれが妙なリアリティーをもたらした摩訶不思議なニッポン製SF?映画。製作されたのが、戦後四年目1949年という事を考慮に入れたら、平和な村に「空気がなくなる日」が来たら、さあ一体どうなる?って思いつき只その一点のみで、たいして製作費もかけずに作品をこしらえた、その心意気を自分は買います。着眼点と発想の勝利とでもいえばいいか。登場人物の中では、窓際の机の前に腰かけ、本のページをゆっくり手繰りながらじっと「その瞬間」を待つ、おんな先生の心境に一番共感しました。↓ナルホド、これは児童文学の映画化だったんですね~、観ただけでは理解出来なかったトリビア情報ありがとうございました。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-09-17 22:31:08) |
6. 喜劇 初詣列車
《ネタバレ》 東映「喜劇列車シリーズ」三部作最終作との事だが、有終の美を飾るという訳にはいかず、残念ながらこれが一番ツマラナイ。私見ではこの三部作では、四国の観光的要素もふんだんに組込まれた「団体旅行」が最上。Wikiによると、この映画の後、更に続編が作られる予定があったとのことだが、佐久間良子さんと製作会社東映との間で、作品の内容に関していざこざがあり、結局渥美さんも続編から降りてしまったとの事。お正月にこの作品が公開された1968年といえば、長寿シリーズ「男はつらいよ」が夏からスタートした記念すべき年(フジテレビドラマ版)この気勢が上がらない最終作を観る限りでは、ここで打ち止めにしておいて結果的には良かったと思われる。本筋のヒロインの弟探しエピソードがどうにもこうにも締まらず、興が全く乗らない点、プラス、渥美さんには「守りに入った」妻帯者役はやはり似合わない。「団体旅行」が面白かったのは、寅さんと同じ独身で「攻めの芝居」で押し通していたから。佐久間良子も前二作の方が、キャラクター的にも魅力があった。佐久間さんには、寅さんシリーズでもマドンナ役として登板してもらいたかったなあ・・・。初代マドンナ光本幸子、「望郷編」長山藍子に次ぐ、寅さんの悲哀がより際立つ、無意識無自覚残酷マドンナにこの頃の佐久間さんならぴったりだったと思う。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-08-25 18:13:38)(良:1票) |
7. 好人好日
《ネタバレ》 血の繋がらない美しい娘が適齢期を迎え、無事お嫁に行くまでの古都奈良を舞台にした人情喜劇。題材だけなら小津でもこしらえることが出来そうな内容。しかし一体なんなんだろう・・・。キャストも新旧豪華でカラーなのに、この古色蒼然とした映画全体の雰囲気は。ホームドラマがお家芸だった松竹という映画会社の体質が、悪い方向の袋小路に入りつつあった時期の典型的な映画というか。1961年といえば、日活じゃ裕次郎「あいつと私」、アキラ、宍戸なんかが出ずっぱりで都会的で洗練された最先端の映画を量産していた頃。僕が当時の観客だったら、きっと松竹ではなく日活の映画館に入り浸ってたと思う。様式化された小津作品が今でも古びた匂いが殆どしないのに、割とキャメラを自由自在に動かしているこの映画がどこか古めかしく感じてしまうのは、監督の腕の差だけではないはず。 [DVD(邦画)] 5点(2024-05-13 20:59:20) |
8. 生徒諸君!
庄司陽子の原作マンガは姉貴が持ってたんで途中まで熱心に読んでました。連ドラもアニメ化も欠かさず観てて、主題歌のワンフレーズ、今でもソラで歌えます。♪ハッピー、ナッキー、プリティ~、ハイ!はい!はーい、せいーと諸君ッ~♪と。原作ファンもそれなりに満足させ、KYON2ファンの期待をも裏切らない「アイドル映画」としては極めて優秀な出来栄え。が、それ以上でもそれ以下でもない。デビュー当時のまだ猫被ってた、断髪前のコイズミさんの方が好きだった私は少数派でした。 [映画館(邦画)] 6点(2024-05-09 22:37:18) |
9. たそがれ酒場
《ネタバレ》 面白かったですね~、これ。たそがれ時から酒場に集ってくる多種多様な人間たちを最初は俯瞰でスケッチのように映し出す。来ては飲み、そして去っていく客たち。きっと連日連夜こんな夜が繰り返されているのだろう、何が店内で起こってもたいして驚かない客や従業員。徐々に特定の何人かの人物にフォーカスしていく。モヤモヤと得体の知れない混沌としたエネルギーが湧き上がってくるような、戦後十年目、大衆酒場の雰囲気、最高です。ほんのチョイ役でも、役者それぞれの個性を引き出す演出の妙。中でも加東大介、東野英治郎は別格。若き日の丹波大先生、殆どワンシーンのみの登場だけどやっぱり光っていました。生活に疲れた津島恵子の踊り子(ストリッパー?)役、意外な配役だがこれもなかなかの適役。天知茂はどこに出てたのか見つけられず。下戸だが食いしん坊万歳!な自分は、途中から壁にデカい文字でベタベタと貼り付けてある、どれもこれも旨そうなツマミのメニューとお値段が気になって仕方なかった。今なら幾らくらいでオーダーできるのかなぁなんて。 [DVD(字幕)] 8点(2024-05-08 07:54:16) |
10. 妻(1953)
《ネタバレ》 成瀬巳喜男監督「めし」「夫婦」そしてこの「妻」、「夫婦もの三部作」の一本。鑑賞は一番最後になったが、製作順序的にも「めし」⇒「夫婦」⇒「妻」の順との事。大阪が舞台で色々とゴチャゴチャ動きがあった「めし」は別格として、後の二作はとにかく類似性が高い。煮え切らない夫役がどれも上原謙、訳アリ同居人がどっちも三國連太郎。解る方には解って頂けると思うが、ハワード・ホークス監督「リオ・ブラボー」と「エル・ドラド」を連チャンで観た時の感覚になんだか似てる。しかし相手役は替われども、上原謙さんっていっつも同じ演技、同じ表情しかしていないように見える。同じ成瀬映画の常連森雅之氏と比べ、この方の演技についての評価は聞いたことが殆どないが、妻役が誰であれ、それを受けて立つ度量の深さ、もしやこの方は稀代の「女優輝かせ名優」だったのではないかと思えてきた。妻役原節子、杉葉子、高峰三枝子は、それぞれ自身のキャリアの中でも特に深い爪痕を残した好演技。そう考えると成瀬監督がこの方を繰り返し起用し続けた理由が何となく解る。それにしても若き日の三國連太郎が間借り人の自宅に、奥さん一人っきりで残して外出なんて危険極まりないってつい思ってしまうのは自分だけでしょうか(笑)? [インターネット(邦画)] 7点(2024-01-06 08:41:32) |
11. 浮草
大映専属だった山本富士子に「彼岸花」(10点)へ出演してもらった返礼として、翌年小津監督が大映に赴き撮った唯一の作品及び唯一の自作リメイク。妖艶になる、あと一歩手前時期の若尾文子がなんとも可愛らしい。いや、京マチ子にせよ野添ひとみにせよ、女優陣みんなそれぞれにいい。大映現代劇特有の、あのねっとりしたカラーが小津監督タッチによって若干浄化されたようなイメージ。小津監督の他社作品「小早川家の秋」(宝塚映画)「宗方姉妹」(新東宝)を観ると、松竹作品全般に感じられる、窮屈な「縛り」みたいなものから、ほんの束の間解放されたかのような自由な空気感を感じます。もちろんその「縛り」が21世紀になっても評価が全く衰えない小津作品の真骨頂だとは思いますが、この作品とか観ちゃうと、息抜き的に他社でこしらえた作品をもっと観たかったなあとも思います。流石に東映とは合わなかっただろうけど。 [DVD(字幕)] 7点(2023-08-26 07:53:34) |
12. 細雪(1950)
《ネタバレ》 最近観た鴎外原作の「雁」(8点)とは非常に対照的。こちらは長編小説である原作の粗筋を追うのに手一杯、表層的になぞっただけのダイジェスト映画になってました。「こいさん」高峰秀子を筆頭に、配役が豪華なので退屈はしないという程度の出来栄え。昔、谷崎原作を読んだ時、自分が一番記憶に残ったのは、本筋の三女雪子の縁談話より、関西地方を突如襲った大風水害の描写でしたが、ここでは何となく演出もおざなりな感じで物足りず。無論、この時代だとスペクタクルな特撮を求めるのは無理だったのかもしれませんが。市川監督のリメイク(9点)でも、この挿話は省かれていたものの、作品全体に原作が持つ、贅沢な上方風俗の美意識スピリットが巧みに生かされていた故、不満は全く感じませんでした。原作ファンにも目配せが必要だと思うし、名作文学の映画化ってホント難しいんだなって思いました。こうなったら、島耕二監督の大映カラーリメイク版も機会があったら是非観てみたい。京マチ子や山本富士子は関西ご出身だし、いかにも華やいで役柄にハマってそうなイメージ。 [ビデオ(邦画)] 6点(2023-08-09 23:31:39) |
13. 雁(1953)
《ネタバレ》 高峰秀子が小金持ちのジジイに囲われているお妾さんという役どころ・・・、ええぇっ!!彼女のキャラクターには全くそぐわない受動的な役柄やなあと思っていましたが、きちんと物語の中に溶け込んでいて、彼女の存在感と演技力に改めて感服した次第(←一体これまで何回感服したことか)聞けば、大映から何か企画をとヒアリングされ、彼女自ら「たとえば「雁」のような映画を」と申し出た結果、そのまんま映画化された経緯との由。こういう、明治時代の裏街の女性の役も演ってみたかったんだな、きっと。それ以上にインパクトを受けたのは、彼女がひっそりと棲む長屋前の、緩やかな下り坂道セットの精緻っぷり。これは美術を担当された木村、伊藤両氏に拍手!おハナシの展開にはそれほど感銘を受けなかったものの、この坂道の佇まいが高峰秀子演じるお玉さんの心の揺れ動きと連動し、いつまでも記憶に残る作品となってます。たいていが原作の表面をなぞるだけに留まってしまう名作文学の映画化としては、かなり秀でた良作だと思いました。 [インターネット(邦画)] 8点(2023-08-08 08:05:16) |
14. 将軍 SHOGUN<TVM>(1980)
先日急逝された島田陽子さん、この頃ホントお綺麗でした。この作品に出演して『国際派女優』なんて持ち上げられた事が、結果的に彼女の女優人生において吉だったのかどうか、もちろんご当人にしか解らない事。でもこの作品以降、出演料が高騰して起用しずらくなったのか、他の理由があったのか知る由もないが、映画でもドラマでもお見掛けする機会がグッと減ったのは事実。初代犬神家野々宮珠世、大河「黄金の日々」での細川ガラシャ役で、まるでお人形さんみたいなこの方の美貌に子供心に憧憬を抱いていた自分としては、何だか色々もったいなかったなあと、つい思ってしまうわけで。このテレビ映画、確かリアルタイムで観ました。前評判もやたら凄くって、お茶の間で家族揃って観た記憶があります。世間的にもちょっとした「ショーグンブーム」、劇場公開版は「これは東洋の風と共に去りぬだ!」と、大々的に宣伝されてました。劇場公開短縮バージョンももちろん初放映時に観たけれど、細部の違いまでは分からず。小学校高学年でも理解し易い、いわゆる波乱万丈ストーリー、颯爽とした青い眼の異人さんリチャード・チェンバレン、対する世界のミフネも貫録的に場を浚う存在感。やけに音楽が印象に残ると思ってたら、モーリス・ジャールが担当してたんですね。レビューしてたら45年ぶりに再見したくなってきたなぁ・・・。思ひ出補正含めこの点数。 [地上波(邦画)] 7点(2022-09-08 23:08:45) |
15. 白鳥麗子でございます!
バーチャルユーチューバ―日雇礼子氏(←好き!)の動画を観ていたら、ネーミングの元ネタであるこのマンガもとい、この映画を不意に思い出しました。初代鈴木保奈美もそれなりに良かったけれど、この松雪泰子バージョンが決定打でしたね。♪良くってよ~、良くってよ~オホホホホホホ♪と、仁王立ちで高笑いする松雪さんのお姿は、今やタカピシャヲンナを演じる女優演技のスタンダード。連ドラも観てたけど、映画もそれなりに面白かった。映画化した意味は?とか、もう今となってはどうでも良い。若かりし頃密かに想いを寄せてたコから、萩原聖人に似てると言われ舞い上がってたアホ丸出しな己の姿を、気恥ずかしく思い出してみたりもするアラフィフ晩夏の夜。はああああぁぁぁ・・。 [DVD(邦画)] 6点(2022-09-06 22:21:09) |
16. 雲ながるる果てに(1953)
《ネタバレ》 戦争の記憶がまだ癒えぬ、終戦後八年経過したこの時期でなければできなかった秀作だと思います。鶴田浩二さんが亡くなられた時、自分はまだ十代でしたが、葬儀の際、軍歌が延々と流れる模様がワイドショーで中継され、少々「奇異」に感じたことをよく憶えています。鶴田さんが特攻隊くずれだったとか、いや特攻隊員を見送る整備兵だったとか、映画の宣伝でそういう事実をでっち上げただけとか色々な説があるみたいです。御本人はすべての説を否定も肯定もしなかったとの事。でも彼がこの映画で、空の彼方に消えゆく一特攻隊員を、決して英雄化する事無く真摯な態度で演じられたのは事実。それは誰も否定できないはず。黄門様西村晃はじめ、この映画に出演された役者さん達は、きっと敬虔な気持ちと使命感で撮影に臨まれたことと思う。独立プロ勃興の時期だから出演料も安かっただろうし。ラストシーンのナレーション、それまで感傷を極力排して描いていたせいか、一気にいろんな感情が噴き上がってくる効果を上げています。『よっちゃん、リンゴのほっぺただ』泣けました。ただただ、泣けました。もう一人の主役、繊細キャラの木村功も良かった。『ひめゆり』は結局何度も再映画化されて質が落ちていったけど、願わくばこの作品だけは安易にドラマ化やリメイクはしないでもらいたい、強く心からそう願います。 [DVD(邦画)] 8点(2022-08-15 21:21:10) |
17. 妻二人
《ネタバレ》 私の世代だと高橋幸治氏といえば、幼い頃観た大河ドラマ『黄金の日々』での織田信長役!これに尽きます。まるで、天才児信長を演じる為に役者になられたようなイメージの方。ここでも喜怒哀楽をあくまでポーカーフェイスで最後まで押し通す、私の中のイメージ通りの好演技。いわゆる大映現代劇印特有のネットリしたオハナシなんだけれど、増村監督十八番の、一種乾いた演出の功で見応えある面白いプログラムピクチャーに仕上がってました。「清く正しく美しく」がモットーの嘘が許せない理知的な本妻、対照的な奔放で感情的な浮草その日暮らしの元カノ。最初、若尾文子と岡田茉莉子の配役、これ、あべこべなんじゃないかと思ったけど、全くの杞憂でした。どちらもホントお上手で、大女優演技対決は引き分けといったところ。いや、既にこの時期、増村&若尾コンビは話題作問題作を連発していたから、アウェイ側の岡田茉莉子に軍配を上げたいくらい。殺人事件なのに、警察の捜査体制がとろくさいというか、有り得ないほど愚鈍な点には敢えて目を瞑ります。有能だと逆にハナシが成り立たない展開だし。場の賑やかしみたく、扇情的に姿態を晒しまくる江波杏子も良い味出してました。この当時って、羽田-大阪間午前2時発の深夜航空便が存在してたんですね、殺人アリバイトリックにこの移動が絡むのかと思いきやあっさり解決したので、ビックリ。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-08-11 22:33:48) |
18. 日本やくざ伝 総長への道
ヤクザ映画、今に至るまで、ほとんど未鑑賞。シドニー・ポラック監督「ザ・ヤクザ」(6点)くらい。でも、あれは変化球的で純粋なヤクザ映画ではなかったような。東映の動画配信で、たまたまこの作品があったので観てみました。フツ―に面白かったです。ヤクザ映画での、傑作か凡作かの基準がイマイチ初心者の自分にはわからないんですが。健さんはここでもガマンにガマンを重ね、最後の大立ち回りで怒り大爆発、観客にカタルシスを与える後年のキャラを踏襲しているようでカッコいい。健さんを支える脇役陣もすこぶる充実。流血度もさほどではない。この作品あたりがヤクザ映画のスタンダードなら、もっと秀作と言われている作品群もこれから鑑賞してみたいと思います。映画ジャンルの食わず嫌いって、やっぱり良くないのかもしれませんね。色々これまでの事を後悔。 [インターネット(邦画)] 6点(2022-07-08 06:53:50) |
19. 麻雀放浪記
麻雀を知らなくても楽しめるけど、知っていれば、よりもっと深く楽しめるという映画。和田誠さんという方は、自分がそもそも映画好きになった上では欠かせない大いなる指針となった恩ある方。映画に関する書籍で、人生で一番最初に購入したのは「ロードショー」とかのファン雑誌を除けば、和田氏と山田宏一氏の対談集「たかが映画じゃないか」(文庫本版)。ああ、こういう風な映画の観方もあるんだと、両氏の嫌みのない映画通っぶりにひたすら感心しきりで。昔の映画を積極的に観るようになったのも、和田さんの影響。イラストレーターがご本業だと知ったのはずっと後。奥様が平野レミさんだと知ったのは、実はお亡くなりになってからでした・・・。監督二作目も三作目もそれなりには楽しめたけれど、このデビュー作が一番映画作品的には面白かった。片山まさゆき氏の初心者用麻雀本を授業中に廻し読みしてたバカ学生時代に戻りたい。このコロナ禍がひと段落ついたら、当時の雀悪友連中に声かけて卓囲みたいと思います。麻雀って(フリー除く)少しだけよそよそしい知り合い同士をトモダチに格上げする、一番手っ取り早いコミュニケーション方法だったんですよね、当時は。 [ビデオ(邦画)] 9点(2021-05-26 20:49:32) |
20. 朝の波紋
《ネタバレ》 当時この映画、「高峰秀子フランスからの帰朝第一作(!)」と、大々的に銘打たれ公開されたらしいです。「東京のえくぼ」(6点)同様、彼女の長い長い映画出演歴の中でも、ひときわふっくらふくよかな、貴重なお姿を拝見することができます。彼女の自伝「わたしの渡世日記」によると、この半年間のフランス渡航前後っていうのは、周囲で色々なゴタゴタやら「波紋」があった時期だったにもかかわらず、そんな混乱した背景を一塵たりとも感じさせない、普段通りの魅力的な高峰秀子を観る事が出来、もう自分はそれだけで感無量。英会話を自由自在に操れる、キャリアウーマン的役どころっていうのも新鮮。映画自体は淡々とした運びで「煙突の見える場所」(8点)しかり、いかにも戦前からの松竹の名匠五所監督らしい作品です。自社の切れ者のイケメン同僚(岡田)とライバル会社のヌーボーとした営業マン(池部)との狭間で揺れ動くヒロインの心情も、意外にあっさりスッキリで、それほど恋愛に比重を置かずに描かれ好感を持ちました。ラスト近くになって、唐突に尼僧姿で登場してきた香川京子にはびっくり。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-05-05 09:03:09) |