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1.  リング(1998) 《ネタバレ》 
晩夏の夜。テレビに垂れ流しのプロ野球中継。友だちと勉強の合間、息抜きに怖い話になって…… オープニングシーンの、この空気感は本当に見事だ。ブラウン管テレビ、ビデオテープという媒体が過去のものになっても、このリアルさだけは色褪せない。  冒頭で死亡した少女が主人公の姪であるという繋ぎ方も巧いし、この主人公を女性にしたことで、鈴木光司作品の男性的で脂ぎった世界観を払拭しているのも成功ポイント。随所に脚本の妙が光る。呪いのビデオの映像センスについては神が宿ったとしか言いようがない(あの「指差し男」のインスピレーション源について調べると、さらに背筋が凍ることになる……)。  すでに四半世紀前の作品になってしまったのに、今だに「モダンホラー」と呼びたい。そんな作品。
[ビデオ(邦画)] 10点(2024-06-29 01:29:11)
2.  護られなかった者たちへ
 震災を絡めて、あまつさえオープニングシーンに持ってくるのはあざとすぎるというか、「護られなかった者」の意味の半分が「震災で命を落とした者」、もう半分が「生活保護を受けられなかった者」というのは、あまりにも主題のすり替えが過ぎるように感じた。生活保護にテーマを絞った真っ向勝負だと、どうしても観客から「甘えんなよ」という感情が出てくる。それを封じるカードとしての震災。いいんだろうかこれで。演技も、中途半端に「とうほぐ」なイントネーションを付けたためリアリティがなく、避難所のシーンに幾度か出てくる波岡一喜という役者は特に酷かった。
[インターネット(邦画)] 4点(2024-05-08 08:51:17)
3.  映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット 《ネタバレ》 
 そもそもこのシリーズに『賭博黙示録カイジ』のような「ひりついたギャンブル」は求めていない……というのが、賭ケグルイファン共通の認識だろう。原作マンガからして、「ギャンブルというテーマにかこつけて、かわいい女の子にR-18スレスレの性表現をさせること」を目的とした青年男子向け作品にすぎない。   とはいっても、「目新しいルールのギャンブル」や「奇想天外なイカサマ」はマンガ的には機能しているし、何よりキャラクター作りとセリフ回しが絶妙に巧い。その素材を生かしつつエロを抑えてバランスをとったのがアニメシリーズで、さらにそこから「きれいどころの芸能人が顔芸をする話題性」で売ったのが実写シリーズ……という流れであり、それぞれがそれぞれの良さを持っている。   ところがこの映画2作目で敵が仕掛けてくる行為は、ギャンブルですらない。「人質をとりました。ゲームであなたが勝ったら人質を殺します」という、中身のゲームを何に置き換えても成立する単純な暴力だ。後半のロシアンルーレットではイカサマが行われるが、「銃弾がフェイクなのを知っているのは俺だけ。ディーラーも俺の味方。だから俺が100%勝つ」という小学生が考えたようなシロモノ。これに主人公はこっそり実弾を混ぜることで反撃するのだが、もはや駆け引きにすらなっていない。   ゲームはシンプルでもいいので、映画1作目のように「敵の驚異的な能力(カードをシャッフルしても順番を見失わない動体視力)に翻弄される」とか、「敵が政治的な理由でわざと負けようとしていることに気づき、自分も負けを目指すことで勝負に引きずり戻す」といったような、気の利いたものが見たかった。
[インターネット(字幕)] 2点(2021-09-27 23:06:57)(良:1票)
4.  バトル・ロワイアル 《ネタバレ》 
 公開当時、まさに15歳だった。当時もいろいろ思うことがあったが、20年も経った今だからこそ冷静なジャッジが可能な気がする。   そもそも2000年当時の私たちの間には、漠然とした無力感が漂っていた。バブルを逃げ切った大人たちの残飯処理をさせられているという自覚。なんとなく渦巻く「貧乏クジを引かされている感じ」「未来に希望を持てない感じ」……   そんな私たちが本能的に求めたのは、「クラスごと破滅するカタストロフィー」だった。「一握りの人間だけが幸せになれる可能性」よりも、「確実に全員が不幸になること」のほうが魅力的だったのだ。そういった世相を、深作監督は的確に見抜いた。だからこそ、この原作に興味を示したのだろう。   しかし監督は、リアルな若者像をそのまま写し取ることをしていない。登場する生徒はみんな鬱陶しいくらいに生き生きしていて、どこかアツい部分を持っている。みんな「生き残りたい」と願い、アホみたいにクサいセリフを吐いて、血まみれになって死んでいく。恋人との心中を選ぶ者もいるが、それだって「どう死ぬか」を積極的に選択するエネルギッシュな行為だ。あくまでも深作節。そこが、この作品の魅力になっていると思う。   それはラスト近く、担任キタノの〈楽しかったろう、好きなやつと2人で生き残って〉という皮肉なセリフに凝縮されている気がする。「お前らダルそうなふりしてても、本当は生き残りたいんだろう?」という、老監督からの若い観客へのメッセージだ。少なくともこれは、近年の若手監督が乱発するデスゲーム映画からは得られない何かだと思う。   それでもこの映画が「見せかけだけ」と言われてしまう最大の弱点は、「BR法」そのものの意味不明さだろう。これは、原作小説の設定(太平洋戦争で勝利してバリバリの軍国主義が続いているパラレルワールドの日本)をカットしたためなのだが、それならば、きちんと説得力のある設定を練ってほしかった。シーンと完全にマッチした天野正道のサントラも素晴らしいだけに、この一点がどうしても気になってしまう。
[映画館(邦画)] 7点(2021-07-24 17:36:14)
5.  暗黒女子 《ネタバレ》 
 「箱庭的な世界観+いかにも芝居っぽい演技」というのは、ジャンルによっては功を奏することがある。この『暗黒女子』も、そこをわかってこういう作りなのだろう。でも、ひとつ大事なことを忘れてしまっている。「耽美的な世界観を作るためには、ビジュアル的なキャスティングが完璧でなければならない」ということを。   学園の誰もが憧れる完璧なお嬢様・白石いつみ。ミステリアスな死を遂げた彼女を演じた飯豊まりえは、もちろん一般レベルで言えばかわいい部類なのだろうが、銀幕でアップにしたときに鑑賞に堪える美人とは到底言えない。口元が気になる感じが強調され、作品への没入感を見事なまでに削いでくる(花壇に倒れている画ひとつとっても、ソフトフォーカスで神々しく見せようとすればするほどギャグに見えてくるし、終盤で明らかになる性に奔放な一面は非常に安っぽい)。   では、「見た目よりも中身だよね」と言えるほどのミステリーがあるか……というとそうでもなく、最初から怪しいポジションの人物が黒幕というシンプルな構成。それも、現実的に考えたらツッコミどころ満載の筋運び。「ミステリーを楽しみたい」という欲求も「耽美的な世界観を楽しみたい」という欲求も満たしてくれない、毒にも薬にもならない作品という感じだった。
[インターネット(邦画)] 4点(2021-07-24 12:29:23)
6.  葛城事件 《ネタバレ》 
 断片的な事象だけが提示され、ストーリーのない作品だった。もし「毒親がモンスターを育てる」と言いたいだけであれば、それは周知の事実なのだから、わざわざ映画にする意義はないと思う。   「殺人者自身の葛藤」「その家族たちの苦悩」「死刑囚と獄中結婚する人間の思惑」……どれも、制作者が参考にしたという実際の事件を取り巻くモチーフだ。でもこれはドキュメンタリーではなく創作映画。どこかしらに重きを置いたプロットを示すべきだろう。   どの人物にもいまいち感情移入できない中で、稔を死刑から救おうと接近してくる順子の奥行きのなさは致命的だった。「胡散臭い新興宗教の女」という中傷を否定し、「私は人間に絶望したくないだけ!」などと語っているが、その思想に至った過去は明かされない。彼女をどう捉えて見ればよいのか、最後までわからなかった。   リアルさを狙った演出も、一周回って鼻につく。「ほら、通り魔に遭った群衆って、意外と蜘蛛の子を散らすようには逃げないんですよ」とか、「自殺に失敗したあと、おもむろに素麺をすするのって、リアルじゃないですか?」といったような、厨二病的なナルシシズムをまったく隠しきれていない。   結局のところ、「通り魔殺人」という素材で映像表現してみたかっただけ、という感じ。作中に「オナニー」という言葉が頻出するのは皮肉。
[インターネット(邦画)] 3点(2021-05-23 21:30:11)
7.  ハウルの動く城
 「荒唐無稽と支離滅裂は違う」という言葉をどこかで聞いたが、まさにその通りだと思った。   『千と千尋の神隠し』も行き当たりばったりなストーリーだったが、あれは主人公が子どもなのでギリギリ納得もできる。ソフィはけっこういい大人なのだから、確固たる指針を持ってストーリーを引っ張っていく責任というものがあるだろう。場面場面で意志の強そうな言動をさせて、魅力的なヒロインっぽく見せるだけではダメだ。   肝心の中身がないから、小手先のジブリ節(食事シーンやマルクルの大笑いなど)も鼻についてくる。ソフィの涙の粒はいくらなんでも大きすぎてギャグかと思った。
[地上波(邦画)] 4点(2021-05-21 19:36:50)
8.  かもめ食堂 《ネタバレ》 
 画作りと独特の空気感は面白いのだが、「ハートウォーミングなドラマです」と言われると、どうもしっくりこない作品。   サチエもミドリもマサコも、特に強いこだわりがあってフィンランドに来たわけではないと言う。でも、北欧ってふらっとたどり着くような場所だろうか……まずここから、疑ってかかってしまう。「みんな嘘ついてない?」と。   サチエのパーソナリティーも最後まで掴めない。初対面のミドリを家に引き入れたかと思えば、人嫌いのようなそぶりを見せるのはなぜなのか。即興の「こじつけトーク」で舌をペロリと出したりするが、それは核心を突かれたくなくて、話題を逸らすための術なんじゃないのか。たまに垣間見せるホンネ(父との関係など)すら、嘘のように思えてくる。   いったん否定的な反応を見せてから、「いや、いいんじゃないですか」と付け加える会話の多さに、すべてが表れている気がする。この「本当は心を開いていない感じ」が、最後まで引っかかってしまった。
[地上波(邦画)] 6点(2021-05-20 19:21:16)(良:1票)
9.  クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん 《ネタバレ》 
 私は『オトナ帝国』を何回見てもボロボロ泣くが、へそ曲がりなので「クレしん映画=感動」とはみなしていない。しかし世間では、「泣けるクレしん映画」はもはやブランド化されていて、誰もがそれを期待している。  今回の『ロボとーちゃん』は、そんな風潮に対する製作者側の照れ隠しのようなものを感じた。後半の五木ひろしロボのくだりは、「感動作の面構えにせず、あくまでギャグで見せたい」という理由のみで付加されているように思える。なぜなら黒幕の「古き家父長制の復古」という野望と噛み合っていなく、ストーリー上の必然性がまったくないからだ(ギャグ単体としては個人的には笑えた)。   国民的アニメ映画の制作体制というのは、ポーカーで言えば「それなりの役が約束されている」ようなもの。ただし観客側は中途半端な役が見たいのではなく、きちっと5枚全体で「ストレート」や「フラッシュ」を見せてもらいたいのだ(すべての要素が完璧に絡み合った『オトナ帝国』は間違いなく「ロイヤルストレートフラッシュ」)。  その点、『ロボとーちゃん』は「泣けるペア+笑えるペアのツーペア」という印象。プロットに組み込めていない「余分な1枚」(黒岩署長がナルシストである意味・段々原の存在意義…など)も内包してしまっている。  でも、それぞれのペアがエース級なので満足感がある。7点以上をつけるには値すると思う。
[インターネット(邦画)] 7点(2021-02-21 12:21:04)(良:1票)
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