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1.  MAMA(2013) 《ネタバレ》 
パパに殺されたママは一体どうなったの? という疑問がずっと頭から離れなかった。下の子を産んでまだ1年しか経っていない、かわいい盛りの娘たちと理不尽に死に別れてしまった若い霊は、古い霊の前では何の主張もできないのか。彼らが存在するのは、時の観念などない同じ霊界なのだから、この件をスルーされると違和感が大きい。我が子を救うために、実母の霊が狂暴なママと闘うというストーリーなら、もっとしっくり見られたと思う。  昔の霊がこの世を生きる子供に絡んでくる話としては、『シックス・センス』の方が断然自然で面白い。大仰なCGなど使わなくても、本当にこんな世界があるかもしれないと錯覚するほどのリアリティがあった。本作では、霊感の強弱に関係なく誰もがまざまざと霊の姿を見たり、物理的に触れるなど設定にこじつけが多い上、父親や叔父ともに、男性陣の存在感がうすっぺらいし情けない。何より、この物語で強調したいのは叔父の姪への愛の深さかと思っていたら、途中からアナベルの母性の目覚めに移行している。とにかく、全体的にすごく中途半端に感じた。
[インターネット(字幕)] 4点(2020-06-15 23:31:19)
2.  あなたになら言える秘密のこと 《ネタバレ》 
クロアチアの国情とはいいながら、この話はどの戦争でもあてはまる。国から無理やり出兵させられた男たちは、殺らねば殺られる戦いを前線で強いられ、精神を病んだ者が大勢出たと思われる。ハンナを始めとする女たちは、彼らの狂気を文字通り体中に浴びたのだ。ハンナは、「親友は自分とは正反対の性格の子」と言った。つまり惨事が起こる前までは、彼女は陽気で明るい笑顔をふりまく女の子だった、ということ。親友の名前が「ハンナ」なのだから。「(親友が)早く死ねるように祈った。彼女の悲鳴を数え、うめき声や痛みの深さを推し量った」という言葉から、ハンナが幽体離脱の感覚を味わっていたことがわかる。体を痛めつけられている間、狂気から逃れたい一心で意識が宙に浮いたのかもしれない。男女の別なくこうした人格破壊は、世界大戦を経た国の如何や時制を問わず、大量殺戮が行われる地なら当然のように起こり得るだろう。  ハンナが工場内で、リンゴとライスの味気ない昼食を取っているとき、彼女の背後の壁に、「健康への5ステップ」と書かれた栄養学の知識が掲示されている皮肉。また、彼女が海岸で海を眺めているとき、岸壁に「NO PARKING」とペイントされている。この「NO」という文字は偶然映像に入ったはずがない。生を拒否する彼女を強く暗示する演出だ。  ハンナがジョセフを受け入れたキー・センテンスは、「泳ぎを練習する」。このひと言は、とてつもなく深い。海上での労働者が泳げないといって、ハンナが初めて声をあげて笑ったシーンがあった。「泳げない」は彼女の唯一のツボ、そこをジョゼフはいく通りも意味を含めて見事に突いた。キスも、まず唇が重なるのではなく、互いの肌のぬくもりを確かめるように額や鼻が触れ合う。私は顔全体が重なるキスを見るといつも、どちらか一方、あるいは両者が深く傷ついているように感じてしまう。それほどに寂しく心に沁みとおるキスだ。2人が結ばれ、ハンナの架空の娘も、本物の子供ができてからは存在が希薄になりつつあるよう(完全に姿を消すことはないだろうが)。しかしこの症状は、統合失調症ではないのか。  ただ、この作品でひとつだけなかなか納得できないことがある。ハンナはなぜ、男性恐怖症にならなかったのか。看護師とはいえ、あんな目に遭わされれば男の股間など触るのも身の毛がよだつだろうに。ましてやジョセフは大男。この点だけはちょっと無理がある気がする。
[インターネット(字幕)] 9点(2019-03-28 00:22:06)
3.  死ぬまでにしたい10のこと 《ネタバレ》 
夫以外の人とつき合ってみること、自分に恋に落ちるよう誰かを誘惑すること・・・・・心優しいアンの最後の冒険と思えば、夫や子供たちにとっては大きな裏切りだけど、自然と許してあげたい気持ちになった。死ぬ前にしたいリストに何の毒も含まれず、優等生が書くような完全無欠のものなら、逆に映画にする必要はないのでは。人間には矛盾がつきもので、理性では抑え込めない情熱を欠いてしまっては、魂の抜け殻だ。雨のシーンが多いのも、先の短い彼女の命がみずみずしく画面に映えて、切なかった。彼女に都合のいい話の進行も気にならないくらい、理屈ではなく感性で視聴できた。ある意味、癒し系の映画だったと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2009-04-06 16:59:24)
4.  アザーズ 《ネタバレ》 
娘はいい子を装って母にこびることなく、言いたいことを正直にきっぱりと言う、その姿が勇ましい。彼女は母に襲われた記憶があるから始終つっぱっているけれども、受けた心の傷はむしろ弟より深そうだ。母親役のキッドマンが娘役の子役に圧され気味にさえ見えた。母と子の緊張感が、屋敷内の不協和音をいやがうえにも盛り上げていく。その過程がとても自然で巧み。またセリフの応酬など、舞台向きの作品だ。独特の死生観にわが子殺害問題をからませ、光と影、または生者と死者の服装などから時代のギャップを表したりと、シンプルだが古典的な演出が効いて、全体的にクラシカルなムードが漂う上質のミステリー作品だと思う。
[DVD(字幕)] 9点(2008-07-16 09:54:49)
5.  パフューム/ある人殺しの物語 《ネタバレ》 
誕生から死まで『オーメン』のダミアンを見るようだった。自ら殺人を犯すまでもなく、主人公に関わる人間は皆ろくな死に方をしない。搾取する側の貪欲な人間として描かれているから、彼らの哀れな末路がいかにもエンターテインメント。また、主人公が職人気質を残酷なまでに貫き、最高傑作を制作後、虚無感に陥り自ら命を絶つさまは、芥川龍之介の『地獄変』と酷似している。けれどもグルヌイユの決定的な個性は、臭覚で得るもの以外は無関心であること。名誉欲、物欲、性欲、人を困らせて快感を得ようとも思わない。ラストでも香水の威力を確かめれば満足で、支配欲はない。これぞ究極の職人気質では。さらに絶世の美女より、匂いの初恋ともいうべきプラム売りの少女の方が、彼にとってはその死が重い。視覚で得る美は臭覚の美より下だからだ。ただ、殺害される前にローラが投げた眼差しの意味は大きい。彼女が見た侵入者の表情は極悪非道には見えず、しかし体は棍棒を振りあげている、そのギャップにぴんと来なかったというところか。グルヌイユのためらいは、無邪気で美しいものを壊す罪悪感を呼び起こしたことから来たものだ。退化した尾の名残として人間に尾骨があるように、無意識に人間らしい躊躇が脳裏をかすめたのだろう。その瞬間の表情を、グルヌイユ本人のではなく、ローラの顔が鏡のように表現しているのだ。媚薬の香水をかぎ、また人々の愛の享楽ぶりを見て、彼自身もプラム売りの少女から癒しを受けたいという気持ちにつながったのかも。グルヌイユの不幸は、欲してやまなかった至高の香水が決して心の渇きを癒すものではないと知ったこと。生甲斐を失った職人ほど哀れな者はいない。
[DVD(字幕)] 10点(2007-10-02 11:00:19)
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