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1.  LAMB/ラム 《ネタバレ》 
シープではなくタイトルが「ラム」。子羊に焦点を当てるとなればキリスト教絡みかと思ったが、アイスランドの広大なロケーションを見ていると、宗教色というよりお国柄の生業(牧畜業)として素直に見ればいいかと思えた。 (ただ、出産シーンがそうとも言い切れないのが、かなり不気味) それにしても、セリフの少ないこの映画、見る側の想像力をすごく刺激してくれる。 まず第一に、ホワイトアウトから次第に視界がぼんやり開けたかと思うと、雪の大地に群がった野生の馬たちが、急に何かに怯えたように進路方向を変えて一斉に逃げ出してしまう。 次に、マリアたちの牧羊小屋が開き、何者かが入り込んだ気配を残し、やがて1頭の羊が囲いからよろよろと出てきて床に倒れてしまう。 そのお腹は大きく膨らんでいるから、妊娠しているメスだとすぐにわかる。 映画を全部見終えてからこれら冒頭シーンを見返して、初めてこれが異常な妊娠なのだとわかった。 何者かに交わった直後に臨月なんて、どう考えてもおかしい。 主人公の夫婦は、未来よりも現在と過去にこだわっていて、アダが生まれたとき、夫は組み立てられたままのベビーベッドを出してくる。 ということは、彼らの間には、事故か何かで幼いまま亡くなった子供がいたことがわかる。 子供部屋には、形の整った水鳥の絵が壁に貼られていたから、子供はそういうものを描けるくらいには成長していた。 つまり、セーターを着込んだアダと同じくらいの年かさの子か。 マリアはアダを呼ぶ母羊を毛嫌いし、家からアダを連れ出した(ように見える)その羊を、ついには殺してしまう。 この罪が非常に重い。何と彼女は羊の毛を刈ることも食用の肉にすることもなく、地中に埋めてしまう。 牧羊主としてはおよそ似つかわしくない行為で、病気でもない、子供を産むことができる若い牝羊を無駄に殺す。 それは、嫉妬や憎悪をはじめとするエゴによるもの。もし彼女が母羊とアダを触れ合わせていたら、また違う人生を歩めたかもしれない。 アダの父に当たる半獣人は、牧舎の周辺から離れず、夫婦やアダの様子を気づかれないよう遠巻きに伺っている。 彼が猫ではなく犬を殺したのは、吠えながら羊を追う牧羊犬への恨みかもしれない。 夫の弟が運転していたトラクターの調子が悪くなったのは、夫とアダをおびき寄せるために彼が細工をしたのかもしれない。 彼がマリアではなく夫を殺したのは、広大なアイスランドの牧羊地に彼女1人を取り残し、残酷な孤独を味わわせるためだったのかもしれない。 マリアが夫の死を看取った後、自分の腹を見て、天をあおぎ、ふらっとよろめいたのは、 自分の腹に死んでしまった夫の忘れ形見が宿っていないか希望を抱き、その儚い可能性に絶望したのかもしれない。 しかし、万一自分の腹から生まれる子供が半獣人だったとしたら、彼女は素直に喜び、その子を愛せるのだろうか・・・・・・。 などなど、感じたことをそのまま書き連ねたら、こんな感じになってしまった。 ただ、ストーリーには直接関係ないいろんな点にも興味をひかれた。 まず、冒頭でラジオが「クリスマス」と言っている。 このタイミングは、牝羊がアダを孕んだ直後で、どうにも雰囲気がヤバい。イエス・キリストも聖母マリアの異常な受胎によって家畜小屋で生まれたのだから。脚本家は、救い主級の純粋無垢なラムが宿ったということにしたかったのかもしれない。しかし、私のもっと大きな疑問はそんなことよりも、 年末に近いアイスランドで、どうして登場人物たちはそんな薄着でいられるのか!? ということ。 牧舎も自宅も、木と石で造られていて隙間だらけ! しかも暖房がガンガン効いているようにも感じられない。信じられない・・・。 素手で羊の出産に携わっている彼らの手には、あかぎれ一つない。雪の降らない日本の県に住んで食器を洗うだけで手荒れする私って一体・・・。 またタイル張りの浴槽がすごくきれい! 白い目地にカビひとつ生えてないってすごすぎる。 (もしやアイスランドの冷え切った大気にはカビが生える余地などないのか!?) 夫婦と夫の弟がテレビでスポーツ観戦をしているとき、アイスランドチームがデンマークに敗れてショックを受けているのも面白かった。 アイスランドがかつてデンマークの支配下にあったこともあって、国同士でライバル意識が相当高そう。 最後に、聞き覚えのあるクラシカルな音楽が流れてきて、「このメロディ、なんていう曲だったかな」とかなり考えて、やっとわかった。 クラシックじゃなくて、『風の谷のナウシカ』のレクイエムにそっくり。ラン、ララランのパートから別のメロディに変わるので、なかなかぴんとこなかった。 でも、物語の終盤の余韻は、まさにレクイエム・・・・・・。
[インターネット(字幕)] 9点(2023-01-25 01:47:57)(良:1票)
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