1. バーダー・マインホフ 理想の果てに
後にドイツ赤軍と呼ばれる組織の成り立ちと行く末が丁寧に描かれてゆく。さすがに全てを描ききるなんてことができるわけないので、初期主要メンバー3人の動向がメイン。テロは犯罪だから許してはいけない、と今なら言えるが、当時の社会を省みた場合、テロ行為は国家の作った法によって守られた合法的犯罪に抵抗する唯一の手段だったことがよくわかる。破壊行為は革命行為であり、そもそも体制批判なのだから体制の作り上げた法を遵守する必要がない。ベトナム戦争を発端とする反米デモと、暴力でそのデモを一掃した国家。この事件をきっかけとし、反ナチズムが反体制へと受け継がれる時代背景とリンクし極左組織が生まれてゆく必然が描かれる。そして体制をつぶすための破壊行為が、反体制であるがために抑止力を持ちえず、次第に犯罪行為そのものが目的となってゆく必然。ここまでの全体の流れが実にわかりやすく、面白い。ただ、肝心のメンバー逮捕に至るまでの体制側の描き方がブルーノ・ガンツの独り舞台であまりに短絡的に過ぎる。また逮捕後の展開が駆け足に描かれるのはしょうがないにしても組織の塀の中と外、どっちつかずの描き方も面白さを半減させているように思う。 [DVD(字幕)] 6点(2010-10-19 14:42:39) |
2. エイリアンVS. プレデター
『エイリアン』『プレデター』という作品とは全く関係なくキャラクターだけを借りてきた、いかにもな「企画モノ」なのだが、ちゃんと「企画モノ」の責務は全うしている。エイリアンとプレデターを引っ張り出してきた時点で成功と言ってもいいくらいなのだが、その商品価値の優位に溺れずに、元来持っているキャラクターの魅力を損なわずにちゃんと見せている。プレデターにいたっては魅力を倍増させている感すらする。ポール・W・S・アンダーソンはきっと両キャラクターを好きなのだと思う。好きこそものの上手なれ。辻褄を合わせたエイリアンとプレデターの歴史背景もその説明にくどくど時間を費やさない。見所はアクションと心得ている。とは言うものの「企画モノ」につきものの安っぽさはどうしたって拭えない。それは最初から分かりきった事。サスペンスやホラーなんて期待しちゃいけない。そこを割り切って見ればそこそこ楽しめる。作り手も割り切っている。これは「企画モノ」なのだと。 [DVD(字幕)] 5点(2009-08-24 18:50:24) |
3. 悪魔の発明
この作品はカレル・ゼマンのことを何も知らない数年前に、レンタル店で古そうな色あせたパッケージのビデオを見て、こうゆういかにも古いビデオはいつ処分されるかわからず、なにかの拍子に傑作だとわかって借りようとしたときにはもう既に処分されていたりということもあるかもしれないと思い、実際どんな作品なのかも全く知らないままに借りた作品なのだが、見てびっくり。傑作である。絵と実写の融合なのだが、どこからどこまでが絵なのかわからない。それほどに絵がリアルであるというのではなく、実写のほうが絵に近づいているのだ。潜水艦や潜水服の造形、またお宝回収のシーンなどはコレよりも先に作られた『海底二万哩』に酷似しているのですが、よりシンプルなデザインとより細やかなディテールによって、こちらがオリジナルなのではないかとさえ思えてしまいます。 【ドラえもん】さんが“絵が動く”と書いておられるとおり、「アニメーション」という言葉は不似合いで、まさに「絵が動いている」という表現がぴったりな作品。「絵が動いている」、、「アニメーション」、、いっしょじゃないか!と思われるかもしれませんが、観ていただければ解かってもらえると思います。 [ビデオ(字幕)] 8点(2007-08-24 18:16:26)(良:1票) |
4. ホンジークとマジェンカ
これまで様々なトリック映像を見せてきた幻想の魔術師カレル・ゼマンは、晩年まるでアニメーションの本質を悟ったかのように紙芝居的な切り絵アニメーションを世に送る。子供に絵本を読み聞かせる際に、あまりセリフを感情豊かにせずに淡々と読んだほうが、子供の想像力を促して良いというのを聞いたことがあるが、表情や背景に変化の無い切り絵というのはまさに観る者の想像力との共同作業にて作品をより豊かなものへと変えてゆく。この『ホンジークとマジェンカ』は彼の遺作となるが、そのストーリーも実に奇を衒わないシンプルかつストレートなおとぎ話。クロニクル(年代記)は偉大な英雄を語り継ぐが、けしてそこに語られることのない愛の物語は、童話として、おとぎ話として語られなければならず、そしてその物語こそが、真に大切なことを語っている、というゼマンの思想を感じることができる。子供たちのために視覚からくる情報量をなるべく減らす。実写映画にも当てはまる映画の真理です。 [DVD(字幕)] 7点(2007-08-20 12:04:59)(良:1票) |
5. ルナシー
《ネタバレ》 精神病院を舞台にした管理する者と管理される者の、抑圧と自由のせめぎ合い、という簡単なお話ではない。『まぼろしの市街戦』は正常と異常があって主人公は二者択一に迫られる。『カッコーの巣の上で』は抑圧と自由があって主人公は戦う。この『ルナシー』は結果的には病院を仕切る二つの方法が描かれるがそれだけで終わらない。二つの方法とは「完全な自由」と「徹底した監視と体罰」。冒頭に監督自身が言ったもう一つのやり方が描かれない。でも実は描かれていた。以前シュヴァンクマイエルについて書かれた物を読んだことがあるのですが、そこでたしか「完全なる管理」について語ったものがありましたがそれが描かれていました。この作品はストーリーは実写で描かれ、その合間にいつものシュヴァンクマイエルらしいグロテスクな舌や肉がストーリーの進行とは関係なく映される。でもストーリーには繋がらなくてもこの舌や肉は確実に話をなぞっている事に気づきます。ラストカットはラップで包装された肉。透明なラップ。管理されていることに気づかない管理。冒頭で監督がもう一つのやり方について言う。「それが使われているのが我々の住む狂った世界」。 哲学的ホラーとはよく言ったもので、ここで書ききれるほどの浅い作品ではありません。侯爵のあきらかなモデルとなっているサド侯爵について知りたくなりました。知ることによってこの作品のもっと深いところに行き着きたい。そんな欲望を奮い起こさせる刺激的な作品です。 [映画館(字幕)] 8点(2007-04-02 17:39:22)(良:1票) |
6. ボーン・アイデンティティー
すごくテンポが良くって最後まで飽きることなく楽しめました。ヨーロッパロケもスパイ映画にリアリティを与えていて成功している。ただしアクションシーンでは、一部マットの動きを早回しで見せているのがあきらかでせっかくのリアリティをぶち壊している。そんな小細工しなくてもじゅうぶん見せてくれていたのに。何気なく立っている姿や歩いている姿でもじゅうぶんその筋のプロであることを覗わせていたと思う。あと、不満ではなくて疑問ですが、どうして銀行の番号がケツに埋め込まれてるの?主人公は何台もの車のナンバーを瞬時に憶える能力の持ち主なので、主人公には必要ないですよね。CIAがもしものときの為にやったにしても銀行名までは必要ないでしょ。その銀行にはエージェントらしき人物がいたし、他者に見られる可能性があるし実際漁師が見つけたし。あと考えられるのは主人公が記憶喪失になることを想定していた、、ぐらいしか思いつかない、、、。もしかして根本的なところで思い違いをしてます?もしそうなら【嘲笑】入れられる前にこっそり教えて。 [DVD(字幕)] 6点(2006-02-06 16:08:47) |
7. 悦楽共犯者
うまくオチをつけすぎたような気がする。様々なフェチを見せる中で、鶏の被り物を淡々とつくる人の描写が一番面白かった。まるでシュヴァンクマイエル作品のメイキングを見せてもらっているようでした。それはそうと、この作品を見ている間、横で嫁さんがテレビに背中を向けてパソコンでなんかしてたんですけど、たまにチラッと見るんです。で、チラッと見たときに限って、おばさんがムチ打ってたり、おっさんが全裸で陶酔してたり、また別のおっさんが悶えながらモニターにチュ-してたりするもんだから、その度に冷た~い視線を感じるんです。感じるもんだからわざと聞こえるように「全然おもんないなー」とかつぶやくと、これまた冷たくぼそっと「しっかり見てるやん」と。そんな環境で見たせいもあってか、なかなか集中して見れなかったことが評価に多少の影響を与えた可能性を否定できません。作中の登場人物たちが人目を憚るように、この作品を見る側も一人こっそりと見たほうが良いようです。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-06-10 17:44:00)(笑:1票) |
8. オテサーネク 妄想の子供
《ネタバレ》 例によって人間ではないものが人間のように動く様をコマ撮りで描いてゆくんですが、今回はそいつが人間を食う。さらにそいつが本来可愛いはずの赤ちゃん。その設定が残酷この上ない。赤ちゃんの純粋なる欲求を、ワンワンと泣く切り株のおばけに変えて究極に描く。シュヴァンクマイエルの『アリス』が真の「不思議の国のアリス」だったように、これもまた民話の真の姿が描かれているのかもしれない。それにしても赤ちゃんを水槽からアミですくいあげて売ってる屋台って...そんなアイディアが出てくるシュヴァンクマイエル、あなたが一番怖い。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2005-06-07 17:47:20)(笑:1票) |