1. ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
《ネタバレ》 あのゲイリー・オールドマンがウィンストン・チャーチルに扮してオスカーを受賞するなんて、まさに“この世界は捨てたもんじゃない”ですな。だって『レオン』の『シド・アンド・ナンシー』の『二ル・バイ・マウス』のオールドマンですよ、それが歴史上の偉人とはいえ体制側のチャーチルを演じるなんて、「お前、転向したのか!」とツッコミを入れておきます。まあ辻一弘の腕前ならば白人の男優なら(女優でも?)誰でもチャーチルのそっくりさんを造り上げることができそうですが、キレ芸が持ち味のオールドマンが少々エキセントリックなところがあるチャーチルを演じるのに適役だったとは、このキャスティングを思いついた人、GJです。 お話しはチャーチルが首相に就任した1940年5月10日からの一カ月あまりの出来事、まさに彼が体験した“もっとも陰鬱だったとき(原題Darkest Hour)”というわけです。劇中たびたび描かれていますがチャーチルはそれまで政界では嫌われ者の問題児、なんとジョージ六世にまで嫌われていたんですね。失敗したけど初の敵前強襲上陸作戦であるガリポリ戦を立案したり、戦車の開発で中心的な存在だったり、戦略的なアイデアを発案するのが得意でもありまさに戦争指導するために生を受けた人と言えるでしょう。それだけに大戦終了直後に総選挙で敗北して退陣したのは象徴的だったと言えるでしょう。余談ですが退陣はポツダム会談の最中で、「なんで選挙介入しなかったんだ?」と出席していたスターリンが驚いたそうです。そりゃ、ソ連と一緒にされてもねえ(笑)。 「ぜったいに降伏しない」「死ぬまで戦う」という英国庶民の反応を見ていると、太平洋戦争末期の日本とどこが違うんだろうと、なんか複雑な気分になります。まあ結果的に勝ったから美談になると言っちゃうと、身も蓋もないんですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-12-27 22:00:38) |
2. 裏切りのサーカス
《ネタバレ》 ゲイリー・オールドマンがまさかジョージ・スマイリー役に抜擢されるとは夢にも思っていなっかったんですけど、これが実際に演らせてみると実に素晴らしい演技です。ル‣カレのいわゆる“スマイリー五部作”で本格的に映画化されたのは本作が初めてで、そう言えば『寒い国から帰ってきたスパイ』にはチラッとスマイリーが登場していた記憶があります。TV版のアレック・ギネスが今まで最高評価だったみたいですけど、これは残念ながら観たことがありません。 確かに難解とまでは言わなくても非常に判りづらいストーリーであることは確かです。でもこれがル‣カレの原作が持つ雰囲気を見事に再現しているんじゃないでしょうか。彼のスパイ小説は、英国情報部のメンバーたちのバックボーンであるオックス・ブリッジとパブリック・スクールの狭い世界を理解していないと、読み通すのはしんどい作業になります。また派手なアクションはほぼ皆無と言って良く、スマイリーたちも拳銃を手にするシーンはありますが、発砲するわけでもない。ソ連側のスパイ・マスターであるカーラも最後まで画面に姿を見せることもなく、下手にラスボスみたいに暴れさせる安易なストーリーじゃないことにしびれますね。また70年代が時代設定とは言っても、まるで倉庫の中にオフィスがあるようなサーカス(英国情報部)の質素ぶりが英国の落ちぶれぶりが感じられていい雰囲気です。そして観てて判ってくるのがサーカスというか英国エスタブリッシュメント層のホモ率の高さじゃないでしょうか。さすがにスマイリーにはそういう趣味がないみたいな描き方ですけど、彼以外のメンバーはみんな“お友達”なんじゃないかと疑いたくなります。本作では真逆な性癖みたいなキャラになっていますけど、べネディクト・カンバーバッチが演じるピーター・ギラムも原作ではゲイだったと思います。 とても万人にはお薦めできませんが、ル‣カレのファンには必見の映画だと思います。そして世界はゲイリー・オールドマンの価値に気づいていなさ過ぎる! [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-05-20 22:18:17) |
3. 宇宙からの侵略生物
《ネタバレ》 ハードボイルド・サイエンティスト、クエイタマス教授シリーズの第二作目です。今回のプロットは『ボディ・スナッチャー』ばりの寄生エイリアンものです。脚本家のナイジェル・ニールによれば『ボディ・スナッチャー 恐怖の街』のことは全然知らなかったそうですが、米英同時期にこのようなストーリーの映画が撮られていることからも、冷戦時代の世相が窺えます。前作のヒットで予算は二倍になったそうですが、ロケを多用しているのでどこにカネをかけているのかは判りにくいです。 ストーリー・テリングはさらにミステリー色が濃厚になっています。いつの間にかクエイタマスが計画していた通りの基地をエイリアンが建設していたり、政府の上層部もエイリアンが操っていることを示唆したりしていて、当時の“ケンブリッジ・ファイブ”スパイが英国政府に浸透していたことを考えると、かなり現実世界の不安が反映されています。でも肝心のエイリアン寄生の描写がかなりチャチだったりして、盛り上がりには欠ける映画となってしまいました。ラストにようやく登場するエイリアンもウルトラマンに出てくるグリーンモンスみたいな感じです。これじゃ知的生命体なのかモンスターなのか曖昧でしたし、エイリアンの母星に核ミサイルを撃ち込んだらみんなもとの人間に戻るというのもご都合主義の極みです。 前作と違って興業的に大コケして次作が撮られるまで10年近くかかったというのも仕方ない出来でした。 [DVD(字幕)] 4点(2016-08-11 23:30:37) |
4. ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館
《ネタバレ》 冒頭に現れるカンパニー・クレジットを観て思わず「おお、懐かしのハマー!」と心の中で叫んでしまいました。ハマー・プロが現在も活動しているとは恥ずかしながら知りませんでしたが、この映画にもしっかりハマー・プロのDNAが継承されていた気がしました。 まずハマーらしくゴシック調のプロットが素晴らしい効果をあげています。怪談映画にはその物語の舞台となる風景が重要な要素であるというのが自論なんですが、フランスの世界遺産のひとつみたいな潮の満ち引きで陸地から隔離される半島というロケーションが不気味な雰囲気を盛りたててくれます。時代設定も1900年代初頭(たぶん)に置いているというのも良く考えられています。自動車は存在しているけど田舎には電気がまだ通っていないという環境は絶妙ですね。若いけど妻の死で打ちのめされ生活に疲れきってしまっているというダニエル・ラドクリフのキャラも、けっこう説得力があったと思います。ラドクリフくんのことですから終盤にはハリー・ポッターみたいになって霊と闘うのかと誰しも思うでしょうが、最後にはあの結末ですからねえ。でもハリウッド映画では決してあり得ないこのエンディングは、“ものの哀れ”を怪談の神髄だと信じている自分にはとても心に沁みるものがありました。 小品ながら怪談映画の佳作だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2015-01-18 20:32:55) |
5. 運命の逆転
《ネタバレ》 米国で無罪が確定している事件なのに、こんな映画の撮り方をして実在のフォン・ビューローから抗議されなかったのでしょうか?原作は未読ですが、著者は映画にも出ているフォン・ビューローの弁護士だそうで、それって結構えげつない話ですよね。プロデューサーにオリヴァー・ストーンが入っているので、こういう作品になってしまったのかな。この映画はジェレミー・アイアンズとグレン・クローズの演技をひたすら堪能するのが正解なのでしょうが、この弁護士の言動がどうしても不愉快でしかたなかったです。この事件のほかに黒人少年の冤罪事件を無償で弁護しているという設定が、またわざとらしく偽善的でした。 [ビデオ(字幕)] 5点(2009-07-25 22:59:16) |
6. ウィッカーマン(1973)
《ネタバレ》 ついに観てしまいました、伝説のカルト映画を。ニコラス・ケイジのリメイク版を既に観ていますのでストーリーは解っていましたが、リメイク版がけなされるわけがわかりました。全編に流れるフォークソングはなんとものどかで、そのため映画自体のテンポが一拍子ずれるような独特のテイストを作り出しています。まるでミュージカルのような雰囲気でした。C・リーが若々しくて、髪の毛がふさふさしているのがなんか妙です。彼が演じるサマーアイル卿は結構知的な人物で、結局彼は島民を統治するために古代ケルトの宗教を利用していますが、自分は別にそれを信じているわけではないのでしょうね。最近DVDが発売され、その中に全長版映像が入っているそうでぜひ観てみたいです。 [ビデオ(字幕)] 8点(2009-04-10 18:56:13) |