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1.  ナチス第三の男
ナチスものを見ると、当たり前だけどどうしようもなく落ち込んでしまう。 これが本当に現実に起こったことなのかと、毎回毎回、史実を恨めしく思ってしまう。 しかもこの作品、フランス・イギリス・ベルギーの3国が製作していて、ドイツは全く絡んでいない。セリフも全て英語だし。 ドイツ人の若者たちは、こういう映画を真正面から鑑賞できるのかなあ。 決して風化させてはいけないとはいいながら、さすがに同情してしまう。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-08-07 00:03:03)
2.  蜘蛛の巣を払う女 《ネタバレ》 
えええ、違和感がありすぎる。リスベット、なんで自分と無関係な男相手に『必殺』みたいなことしてるの? そんなことしてる暇があったら、それこそカミラの言うとおり、救いきれなかった彼女をさっさと助けに行きなよ(子供の頃、DVを受ける母親のために父親を焼き殺そうとしたクソ度胸のエピソードはどこいった!? )。 敵役のセリフに共感し主人公に矛盾を感じた・・・・・・終盤にきたこのねじれ感にはモヤらずにいられない。そもそも、天才肌のリスベットが簡単にアジトを敵に察知されるって、何で? 即行で少年にチェスに負けるし(気づかないし)、敵陣に乗り込んだはいいけれど、スタンガンを振り回すばかりで、作戦BもCも考えてないって・・・・・・(プレイグたちの援護射撃が作戦Bだったにしては、ガスで気を失い、気がつき、拷問を受けるまでの長時間にさっぱり動きがなかった)。それにこれは仕方ないことだけど、この女優さんが大竹しのぶにそっくりだったのも、ちょっと辛かった。  ブルムクヴィストも存在感薄いなあ。3年もリスベットを捜し続けていながら、負傷した彼女をどうしていいかわからず童貞のように躊躇してしまう。人妻と関係を持つほどの男が娘のような若い女にハグもできないなんて、男性としての包容力や経験値を感じられない。リスベットの足を引っ張り、保育士さながら子供だけきっちり保護して、なんとか退場。記事も白紙に戻し、何かと戦い、糾弾することもなくジャーナリストの仕事をせずにさらりと終わる。薄いよ、ミカエル~。  それに核絡みのサスペンスも、いい加減腹が立つ。「核」をちらつかせれば悪事にハクがつくとでも? 2度も核を落とされた側としては、これっぽっちのストーリーごときにやすやすと絡ませないでくれと言いたい。
[DVD(字幕)] 5点(2020-09-13 00:46:15)(良:2票)
3.  ロケットマン
エルトンの楽曲を映画館で思う存分聞けると単純に楽しみにしていたが、まさかこんなにハンカチがぐしょぐしょになるとは思わなかった。思春期の息子と意思疎通がうまくいかなかった頃のことを思い出しながら鑑賞していたせいかもしれない。レジ―、あるいはエルトンが、両親の心ない言葉に深く傷つき、寂しさに打ちひしがれている様子が映るたび、わけもわからず泣けてきた。彼がど派手な衣装を身に付ける理由が初めて理解できたような気がする。主演のタロン・エガートンの歌もすごく上手かったけれど、長年彼の歌をCDがすり減るまで聞きまくってきただけに、途中から本人の歌声が聞きたくてたまらなくなって閉口した。家に帰ると、すでに成人して仕事にも就いている息子に無性に会いたくなった。  (タロンの2本の前歯の間にわずかに隙間があったけれど、あれはもしかしてエルトンに似せてわざと広げたとか?)
[映画館(字幕)] 10点(2019-09-05 00:13:43)(良:1票)
4.  ブリッツ 《ネタバレ》 
皆さんの評が低いのでびっくり。面白かったけどなあ。粗暴で、喧嘩っ早く、眼付きの鋭い暴力刑事は、基本的に同性にはやりたい放題無作法を押し通すのに(タレこみ屋やバーテンダーなど)、女性には一様に穏やかなまなざしを向ける。相棒になるゲイのナッシュにも、一度としてすごんだりせず、まあまあ普通に話をし、拍子抜けするほどすんなりコンビを組む。それが、ひとたび悪党を相手にすると、手の付けられない野獣と化す。そのギャップが面白かった。  ブラントは上司には持て余されていたかもしれないが、クレイグといいロバーツといい、署内では意外にもそこそこ良好な人間関係を結んでいる。最も印象的だったのは、ワイスを釈放するシーン。署員たちが横一列にずらっと並ぶど真ん中に、ぎらぎらとしたオーラを放つブラントが立っていた。粗暴で不器用かもしれないが、彼は仲間たちを誇りに思っている。そして署員たちも、お荷物になりがちなこの暴力刑事を決して否定していない。彼らのあの一体感は、途方もなくかっこよかった。  ワイスを捕獲するときもブラントは寸でのところで仲間に制止をかけられたし、釈放もせざるを得なかった。彼の鬱憤はたまるばかり。だからこそワイスのラストは大体ああなるだろうなという予想はしていた。ただ、白になったワイスの幸運を逆手にとるしたたかさには驚いた。一見真面目そうなナッシュも、一応キレた過去を持つ男。なるほど、ブラントと息が合うはずだ。  また、舞台が舞台だけに、イングランドやアイルランドの事情も少しは関係あるかもしれない。人種の微妙なニュアンスは、日本人としては感じ取るのが難しい。  細かいつっこみどころはたくさんあるけれど、「持つのは鉛筆じゃねえ」など、ブラントの骨太のセリフがいちいちかっこいいし、ロケ地も見ていて楽しかった。ドアを開けると、下に降りる階段があり、意外に奥行きの広いフラットの部屋の様子も、労働階級と中流階級の各部屋の違いも、石造りのモノクロのロンドンの街なかで、真っ赤なダブルデッカーがさっと通り過ぎる様子などなど、見どころがたくさんあった。もう一度見てみたい。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-08-11 00:16:50)(良:1票)
5.  あなたを抱きしめる日まで 《ネタバレ》 
フィロミナは赦すと言うが、ジャーナリストであるマーティンは、彼女の言葉に折れることなく「許せない」と言いきった。神の名のもとに行われていた人身売買が、告発もされず見過ごされていいはずがない。フィロミナが体験した男女間の愛の営みを、カトリックでは罪であると断罪するのなら、同性と交わり業病に侵された彼女の息子は、シスター・ヒルデガードの目にはどんなふうに映ったろう。カトリックのあまりにも狭い視野には、いつも辟易させられる。  放蕩息子やよきサマリア人など、聖書の有名なたとえ話を若い頃から読み親しんできたが、隣人愛を説くはずのキリスト教が、どうしてこれほどに狭義の枠の中でしか人間を認めないのだろう。右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい、という類の教えを学んでいるはずの聖職者たちが、なぜ「人を愛する」ことを知らないのか。聖書に記されたイエスの言葉を読めば読むほど、この宗教でひと悶着起こしている各国の歴史は一体どうなっているのかと、信者でもない私は、本当にわけがわからない。少なくとも、この映画の修道者たちは、人の命の重さを犬猫ぐらいにしか扱っていない(今やペットのお墓だって人間並みに手厚くなっているというのに)。修道院は神の家とよく言われるが、全く悪い冗談だ。
[インターネット(字幕)] 8点(2017-11-18 23:23:42)
6.  フィフス・エレメント
観た直後はただただ呆れ返って、2か3と思っていたけど、一晩経って思い返してみたら、5点、いや7点でもいいかなと。ストーリーはメチャクチャなのに、出てきた全キャラクターが強烈に印象に残ってる。野生ネコのようなキレキレの動きをするミラがすごく可愛かったし、常にぎょろ目で喜怒哀楽を爆発させる黒人DJも最高に楽しかった。たった1日経っただけで、こんなに印象が変わる映画も珍しい。それにしても、私の中ではあの『グレート・ブルー』を撮った監督という神々しいイメージが、途中で崩壊しそうで大変だった。北野武に傾倒している外国人がビートたけしを知った衝撃って、こんな感じかしら?
[インターネット(吹替)] 7点(2017-08-05 11:12:48)(良:1票)
7.  悪の法則 《ネタバレ》 
あまりに面白くて立て続けに3回観た。まるで、1枚の画像がところどころ虫食い状態になっていて、見えない部分は「想像して足してくれ」と挑発しているようだ。  『運命のボタン』という作品を思い出す。ボタンを押せば、見知らぬ誰かが1人死ぬが100万ドルが手に入る、という究極の選択を迫られる話。カウンセラー役に当たるヒロインを、偶然にもキャメロンが演じている。本作では、カウンセラーが「一口乗る」と意思表示しただけで、つまり捕らぬ狸の皮算用、まだ何一つ始めもしないうちから破滅するというカッコ悪さ(彼が新婚生活を楽しむためには、予算内のダイヤを購入するだけでよかった)。どちらの作品も、選択と結果が大きくものをいうタイプだ。  麻薬ビジネスでのし上がり、ライバルはことごとく潰してきたと豪語するライナーが、恋人の開脚ごときで動揺するなど実にヤワい。女性の股間から赤子を取り上げ、悪露を処理するカタギの産科医の方が、よほど肝が据わっていることになる。俗に、出産に立ち会った夫は、妻を女として見られなくなることがあると聞くが、「婦人科みたいでセクシーじゃなかった」とぼやくライナーも、まずその口だろう。マルキナ役が妻のペネロペでなかったのは、バビエルのためにラッキーだった。  ボリートを使ったのは、マルキナの配下。つまりライナーは、恋人から寝物語にボリートの話を聞いた可能性が高い。マルキナは、「私を甘くみるな」と電話で誰かを挑発するが、その相手はラストで会食を共にする投資アドバイザーのマイケル? 彼女の身を案じてあれこれおせっかいを焼き、逆に不興を買ったのかもしれない。組織の気配だけでビビりぬいている男3人に比べると、最新式の武器を備え、陰から積極的に組織を翻弄する彼女は、悪党の格が圧倒的に違う。ただ、ブツは結局組織に出し抜かれる。彼女は代価としてウェストリーの資産を奪うが、組織にとってはウェストリーの災難など、痛くも痒くもない。一矢報いぬまま米国やメキシコを捨て、香港に拠点を移すというのは彼女の敗走に見えなくもないので、ここが話の流れ上ちょっと弱い。またマルキナは、雇い人として唯一報酬を受け取らなかった女に、「(あなたは)あてになる」と矛盾した言葉をかけている。国を出る前に女を消すぐらいのことはするだろう。  街の有力者に諭され、絶望して戸外をさまようカウンセラー。そのとき、街の住人たちが犯罪率の多さを嘆き、世に訴える様子が背景に映り込む。ライナー一味の麻薬の悪事などが、そもそも住人たちの生活を脅かす起因であることを考えると、彼らの窮地に同情など必要ないことをこの短いシーンで気づかされる。  2頭のチーターは、マルキナが絶賛するほど野生美は持ち合わせていない。人間に飼われ、時に獲物を追う様子は、まるで家猫が鼠を追うように幼稚だ。何の威嚇もせず、飼い主(ライナー)の死を憐れむ様子まで見せ、雌は呆気なく死ぬ。とにかく弱々しい。会食のシーンで、マルキナが滔々と語るチーターの礼賛は的外れだ。むしろ、彼女の手の内で振り回された男女4人が、見えない首輪をつけたペットに見える。生き残ってアリゾナにいる雄チーターは、唯一の生存者で妻を亡くしたカウンセラーを暗示しているようだ。これらのちぐはぐさが、上映中最も気になった。  ラストの会食で、投資アドバイザーのマイケルに、「手を引いて。感謝して」と命じるマルキナの意図は、「香港マフィアを相手に大暴れするから、あなたは手を引いておかないと危ないわよ。ヤケドしなくてすむんだから、この提案に感謝して」というところか。「臆病者ほど残酷」というのは香港マフィアを指し、「これから始まる殺し合いは凄惨を極める」というのは、たった1人(バイカー)を殺しただけで悪が悪を駆逐する流れを作り出した手腕を、彼女はまた現地でも振るう気でいるのだろう。マイケルはそんな彼女の名が敵に知れることを案じている。このシーンを見ても、男の方がまだウェットな部分を持っており、マルキナには、男がアドバイザー兼セックスフレンドとして「有能だから」手放したくないというドライさがありそうだ。世界で2番目に危険な場所(メキシコの都市、シウダー・ファレス)が舞台の話として、悪の狂気がてんこもりの作品だった。
[DVD(字幕)] 9点(2017-07-31 01:05:36)
8.  バンク・ジョブ 《ネタバレ》 
うわ、これって本当に実話!? 舞台はロンドン、ベーカー街、地下を掘って銀行の金庫室へ・・・って、まるっきりシャーロック・ホームズの、ある作品に出てくるクレイ一味そっくり。 なによりすごいと思ったのが、三つ巴の思惑が絡んでいながら、刻々と変わる主人公たちの窮地がどういう状況なのか、もつれることなく手に取るようにわかること。全ての勢力がバランスよく引き合い押し合いしていて、その真ん中にテリー一味がいる。ここら辺の拮抗具合が妙にシェークスピアっぽい。イギリスが誇る2大文学のテイストが感じられて、うーんすごい、これ、本当に「イギリスで」あった話なんだと唸りつつ、かなり脚本が練られていると思った。  ただ、この作品に対する矛盾点が3つほど。 一味は素人集団かもしれないが、テリーの手腕はハンパじゃない。さすが元裏社会で生き抜いてきただけあって、どの勢力のプレッシャーにもつぶされることなく相手の弱みを鋭く突き、かえって有利な交換条件を相手側に呑ませるあたり、駆け引きがうまい。それに、緊急時に別の車を用意しておくなど隙がない。これだけ企画力があって、交渉術にたけ、リスク回避の勘どころも冴えている。臨機応変に動けて、ここぞというときの決断を下す度胸もある・・・・・・ビジネスマンとしては最高の人材だと思われる。しかるに、なぜ本業の中古車販売が繁昌しない? 表の仕事ちゃんとしろよ、テリー! それに、厄介な写真ネタを世間に公表しないための騒動が起こったというのに、今さら王女の実名をあげてエンターテインメントに仕上げるって・・・・・・どうなの? 薨去後に映画化しているから時効ってことかもしれないけれど、現代風にいうなら、完全にリベンジポルノでしょこれ? でも、その作品に9点も計上する私も私か・・・・・・
[インターネット(字幕)] 9点(2017-07-28 23:06:08)
9.  列車に乗った男 《ネタバレ》 
それぞれの人間関係や過去は、全て語られるわけではなく、視聴者が想像できるぎりぎりの流れだけを見せてくれる。そのぼかし方が絶妙に上手い。マネスキエがジグゾ―パズルをいじっているシーンがあるが、この映画自体がまさにパズル。映像の端々や台詞で垣間見せてくれるヒントを頼りに人間関係を解けとでも言っているようだ。  たとえば、強盗仲間であっても心を許して抱擁するほどの、実は人一倍人情の深いミランだからこそ、ルイジをかばって撃たれてしまうわけだし、マックスとドライバーのサドゥコは、警察と司法取引でもして仲間を売ったと思われる。初め、マックスは警察の潜入捜査官なのかと思ったが、ミランが彼に「太ったな」と昔馴染みをうかがわせる言葉を出しているから、違うだろう。抜けようとしたミランを無理に引き込もうとしたマックスのタチの悪さは計り知れない。  また、マネスキエもミランも、土曜日にのっぴきならない「用事」があり、この時間制限が、ドラマの明確な設計図でもある。自身の死を賭けたXデーを控えて、2人が次第に互いの人生を「隣りの芝生」視点で眺め始める。彼らの思いが、じわじわと交差していく。その流れが、小憎らしいほど自然で、台詞がまた上手い。ジョークを挟んだり、しないと公言していた質問をするなどして、饒舌と寡黙の単調なリズムが、少しずつナチュラルに変化していく。それは食事風景にも言えることで、最低限の料理と酒しか載っていないだだっ広いテーブルだったのが、ラストデイには、驚くほど小さな食卓となり、その上に果物、水差し、ヤカンとぎっしり物が載った状態となる。初日にはミランが酒を遠慮しており、最終日にはマネスキエが湯?ティー?を断る。しかも、ホスト側ではなく客のミランが最後の食事を用意しているのだから、2人の関係の変化もここまできたかというユニークさがある。こうした細々な仕掛けが台詞・映像を問わず、さりげなく張り巡らされている。何度見ても何かしらの発見がありそうな作品だ。   ラストの一見不可解な映像は、2人の叶わなかった願望をファンタスティックにシミュレーションしたもの、つまり演出家による、視聴者へのサービス映像に見えた。また、ミランが乗ってきた列車は、単なる交通機関である車両に過ぎないが、マネスキエが乗り込んだのは、ユーラシア大陸から直接北米の、例えばワイアット・アープが活躍したトゥームストーンへでも向かう夢の列車だったろう。ただ、ミランがこの街に来なければマネスキエの乗車に繋がらないわけで、タイトルの「列車に乗った男」はやはり両者を指すのだと思う。しかし、2人同時の乗車はありえないので、「男たち」ではなく単数形なのだろう。
[インターネット(字幕)] 10点(2017-06-10 02:14:18)
10.  マザー・テレサ(2003) 《ネタバレ》 
冒頭の、混み合っている駅のホームで、誰にも看取られずに命尽きようとしている男性のそばに、マザーテレサがうずくまるシーン。そのとき、すっとカメラが引いて、周囲の人々が姿を消す。貧しい人に愛を注ぐのに、周囲の雑踏が全く目に入らなくなる、これが彼女の類まれな集中力。1人1人の頬を両手ではさみ、声をかけるマザーの慈愛のこもったしぐさは鳥肌ものだった。彼女が亡くなった当時、世界各国に散っていた元孤児たちが「マザー、マザー」と実母のように嘆き悲しんでいた報道を思い出す。 イギリスやスペイン等のキリスト教がらみの時代劇を観ると、宗教と国家権力がどろどろと癒着した残酷極まりないエピソードがいくらでも出てきて、そのたびぞっとさせられてきた。本来キリスト教は、貧しき隣人を愛せよと人類愛に満ちた教義で説くはず。それなのに、神に仕える神父や修道女が虐げられた人々に直接奉仕することが、どうしてこんなにも難しいのだろう。マザーが修道院を出て、自ら神の家を設立する過程を初めてこの映画で見て、そこからしてガツンと大きな衝撃を受けた。つまり、冒頭から私は驚かされっぱなしだった。真の意味で、神に自らを捧げている聖職者が、どれほど存在するのだろうか。 3ドルの水の価値に言及する彼女は、『シンドラーのリスト』で「これだけあれば○人救える」と人の命を金に換算して苦しむシンドラーの姿と重なる。神の鉛筆になる者の苦悩は凡人にははかりしれないが、彼らは何と尊い存在だろうと深く考えさせられた。
[インターネット(字幕)] 9点(2017-05-18 01:21:40)
11.  ペネロピ 《ネタバレ》 
この映画ほど「レリゴー♪」の歌が似合う作品もないのでは。「美女と野獣」の逆バージョンで、さすが現代版だけあって、他力本願ではなく「自分で呪いをといた」と胸を張るペネロピが最高にかっこいい。自分の顔を世間に公表するあたりから、彼女の勇気に感動しっぱなし。あの失恋の落ち込みレベルは自殺を考えても不思議じゃないのに、そこから始まった彼女の行動は、「死ぬ気ならなんでもできる」を地でいっている。人から愛されるより前に、まず自分自身を愛する気持ち、心の声に耳を傾けることが大切だということを、この映画から教えてもらった。
[DVD(吹替)] 8点(2015-09-05 15:24:52)
12.  ゴーストライター
どんよりと重い曇天、陽を受けない冴えない砂浜。別荘の巨大なガラス窓では、そうした2種の灰色が上下でせめぎ合っている。夕方から夜間にかけての映像も多いし、ほとんどBGMがないもの静かな雰囲気、激しく対立する起爆剤があるでもなく俳優たちのセリフもこそこそと低くていまいち覇気がない、なのに、ジャンルはサスペンスであって、印象に残るシーンも数多くあり、数々の映画賞を受賞・ノミネートしている不思議。監督がロマン・ポランスキーと知って納得した。全編を通して漂っている上質な静けさと、それにマッチしたうす寒い島の風景が見ていてとても心地いい。もう一度観るときはストーリーを度外視して、映像美を主に楽しみたい。ただ、エメット宅の訪問のシーンでは、『アイズ・ワイド・シャット』の似たような場面を想い出し、少し迫力不足を感じてしまった。
[DVD(字幕)] 8点(2015-06-01 15:44:46)
13.  ジャガーノート
人間関係の各ドラマが薄いし、子供の不祥事や母親の無責任さなど不愉快な思いもあったが、ヘリから爆発処理チームが降下し船に乗り込むシーンや、爆弾処理の緊迫感には目が離せない迫力があった。特におどろおどろしい音楽が入らず静寂な中での作業がいい。リチャード・ハリスの癇癪声は哀愁を帯びていてセクシーだ。彼の仕事ぶりはうずくまって手先を動かすものばかりで、派手な動きはほとんどない。しかし作業中の集中力が生み出す緊迫感は、観ているこちらがまるでアクションものを味わっているかのようだった。
[DVD(字幕)] 7点(2014-03-02 00:19:32)
14.  ゼロ・グラビティ 《ネタバレ》 
さすが無重力をタイトルにすえるだけあって、3Dによる宇宙遊泳のリアリティはハンパじゃない。「アポロ13」のファンとしては、細々な設定では「ん?」と首をひねりたくなることも多かったのだが、ありとあらゆる点を徹底的にリアリティに描く必要はない作品なのだと途中で気がついた。特にラスト。ポッドが海に落ちて飛行士が1人で這い出し、陸地にたどりつくなど考えられない。あのラストでこの作品は、臨死体験して命が生還する、輪廻の叙事詩のようなものだったのではと感じた。no_the_warさんの書かれているとおり、「出産」をイメージして描かれている作品だと考えれば、数々の事故でヒロインが感じる苦痛や苦悩は、陣痛に苦しむ胎児、ヒロインの呼吸は、出産時の産婦があえぐ呼吸と思えなくもない。映画「ガタカ」の或るレビュワーが、主人公自身を卵子に向かって泳ぐ精子ととらえていて、その鑑賞力に感動したことがあるが、この作品も同じようなニュアンスを感じる。 またこの作品は伏線も何点か張られていて、そのうちの1つ、火災が発生して消火器が登場するが、これを噴射素材として利用するアイデアにはびっくりした。まるで「ダイ・ハード」のノリ! それにしても「ザ・インターネット」といい、サンドラはよくよく消火器に助けられる女優さんだ(笑)。
[映画館(字幕)] 10点(2013-12-18 23:48:02)(良:2票)
15.  ダイ・ハード/ラスト・デイ 《ネタバレ》 
息子と心が離れてしまったとくよくよ落ち込んでるマクレーン刑事なんて見たくない、亀有の両さんみたいにカラッと陽気で何でも笑い飛ばす、運の悪いデカなら最高なのに。悪役がいっぱい出てきたけど、途中からそんなのどうでもよくなったから恐ろしい、親子の対立が面白くて、悪者たちがオマケで暴れてるように見えてきた。欲をいえば、中途半端に協力し合うんじゃなくて、全編派手な親子喧嘩で通してほしかった。ラストで2人が我に返ったら、「やつらはどこへ行っちまったんだ、え、もう終わったのか?」みたいな。そもそも何人も入れ代わり立ち代り首謀者が代わるから、悪のイメージが薄れてしまう。シリーズ1のハンスくらい濃くなくては、マクレーンの相手は務まらない。ラストのヘリの墜落シーンこそ、お金を払って見にきて正解だった。現実の世界で恐縮だが、全く言うことをきかない息子の日頃のうっぷんがこっぱみじんに吹き飛んだ。思わず「今の、もう一回見せて―!」と叫びそうになった。(しかし同伴して隣りでいっしょに観てくれたのは息子だが・・・)
[映画館(字幕)] 7点(2013-03-07 00:08:57)
16.  スノーホワイト(2012) 《ネタバレ》 
醜いものにも、弱いものにも、どんな立場の相手にも優しく情け深いスノーが好きだった。死にゆく小人をいたわる彼女を見ていると癒された。この辺がもしかしてナウシカ? しかし甦った暁に大衆を前にして大演説をするシーンはどん引き。あまりにもお約束すぎて恥ずかしい。甦ったら、その姿は神性を帯びていて、本人が直々に演説ぶるまでもなく、おのずと大衆が「エイエイオー!」とならなきゃおかしいでしょ。ナウシカがよみがえったとき、金色の野から民に向かって 「皆さん、腐海を大切にしましょう!」 と鼓舞したら余韻台無し、目も当てられないよね。でも、お色気シーンはほとんどないし、子供向けの作品だとしたら、安心して親子で楽しめる作品なのでは。
[DVD(吹替)] 6点(2012-12-29 00:07:53)(良:1票)
17.  わたしを離さないで 《ネタバレ》 
もしブラックジャックがこの話の中に登場していたら、「わたしにゃあ関係ないね」といういつもの冷めたセリフですましていられなかっただろう。何しろ彼は、整形手術にしろ健康な体にメスを入れるのが大嫌いだから。
[DVD(字幕)] 8点(2012-03-29 14:35:50)
18.  アイズ ワイド シャット 《ネタバレ》 
原作を読んで本作品を観、再び本を開いてみたら、映画の音楽とシーンが「鮮やかに立体的に」よみがえってきて、まるで別の読み物を味わっているようだった。細部が適当に変わっているだけで、大筋は原作通り。不気味な音楽、スローテンポな演技、冗長な時の流れ、それらが絶妙に絡み合うことで異次元空間を創り出し、夢と現実の境界線をひどくあいまいにする効果を生み出している。それにしても、この映画において、性の道具として扱われる女性たちへの同情と賛美の深さはどうだろう。乱交パーティは確かに目を覆いたくなる有様だったが、ヒールで歩く裸身の彼女たちは気品にあふれ、異彩を放っていた。マスクをしているので、女優の顔や知名度が武器になるはずもなく、衣装の力を借りることもできない。まさに肉体だけでオーラを放たなければならない。また、命をかけてビルを助けるために、画面上方中央のバルコニーから「イエス!」 と言い放った女性の神々しいこと! 何度見ても、「彼女は裸だ」 と信じるのが難しかった。
[DVD(字幕)] 10点(2011-06-04 21:13:05)
19.  007/カジノ・ロワイヤル(2006)
ボンドが「Mというのは」と切り出したところ、「それ以上続けたら殺すわよ」と言ったM。ボンドが彼女のプライベートの部屋を出入りし、彼女の叱責を感情的にならずに受け止め(むしろ叱られるのを望んで彼女の元へ戻るような気も)、「この仕事は早死にする」と甘えたことを言ったりし、危機に陥ればコンタクトを取り、「敬愛するM」と呼ぶ。MとはMotherの頭文字の意味もあるかも。それにしても、こんなに母性本能をくすぐられる007も初めて見た。
[DVD(字幕)] 9点(2009-04-12 11:23:26)
20.  ユナイテッド93 《ネタバレ》 
重要施設に墜落させないように後方についていた戦闘機が撃墜した、という話が浮上していると後で知り、鑑賞中の違和感を改めて思い出した。ハイジャックした直後、50分後に目的地に着くと犯人は言っているが、だとしたら、一面識も無い乗客同士が、現状を把握して、一致団結し、行動に移るまでに40分前後しかかからなかったことになる。犯人に脅されている間は、余計なことを考える余裕はないだろうし、事が起こるまで飲み物を飲んだり、居眠りをしたり、すっかりくつろいでいた乗客たちが、機敏に生死の覚悟などつけられるだろうか。現状を把握するまで半時間ぐらい、あっという間に経つのでは。安々と鵜呑みにはできない作品と思いつつ、非常事態に陥ったときは、現状を把握する冷静沈着な姿勢が何よりも大事なのだと痛感させられた。
[映画館(字幕)] 9点(2006-08-21 14:06:57)
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