1. バニー・レークは行方不明
《ネタバレ》 サスペンスとは何かという私見は他の映画にレビューしたので置いておいて、この映画においては作品後半までは主人公兄妹の怪演やアフリカ帰りの大家、保育所の老女などの脇役の存在により本格ミステリーの体でいながらも、人形の修理店からの一連のプロットでこちらも非常に良質なサスペンスに様変わりするストーリー構成に唸らされました。 前半のミステリーについては、バニーを保育所に預けるシーンや渡英シーンを提示しておらず、観ている側としては警察が疑うのと同様、そもそも本当にバニーは実在するのかという疑念を抱かずにストーリーを追うことは難しく感じましたし、幼少期のアンの架空の友達ごっこのエピソードや、アンとスティーブンがあたかも夫婦であるかのような親密さも謎めいた様相を感じさせ、上述した脇役たちの存在を含め凄く引き込まれる感覚で観れたと思います。 後半の人形店のシーンで、何で室内の照明を付けずに手持ちのライトを持たせるのか一瞬不思議に思いましたが、何てことのない小道具をストーリー進展のキーアイテムに変換するテクニックや、本性を現したスティーブンの顔を抉るようなカメラのズームインなど、小説では決して表現され得ない演出はまさに絶品のひと言。 その後、冒頭で出てきた屋敷に戻ったシーンでは特に庭の遊具で遊ぶシーンが印象的で、「You cheated.(君はズルをしたね)」で心理的な不安感を煽り、極めつけのブランコのシーンでの「higher! higher!(もっと高く!)」は、観終わってしばらくしても耳に残っていたほどですし、カメラを激しく揺れ動かすショットも非常に扇情的なラストとして強烈に脳裏に焼き付く印象的なシーンでした。 ただ一つ気になったのが、オープニングで紙を破って剥がしながらクレジットを見せる演出なのですが、これが謎。玉にキズ。 (突っ込むのも野暮ですが)結局、劇中に紙を破るシーンが一度も出てこなかったのが勿体なく、これが伏線として機能していれば最高だったのにと考えてしまい、上手く利用できなかったのかor他のタイプのオープニングに出来なかったのかなどと難癖を付けたくなってしまいました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-05-25 23:51:15)(良:1票) |
2. 英国王のスピーチ
《ネタバレ》 この映画はレビューするのに困る。なぜなら、自分も吃音者だから。 自分の場合ですと、やはり英国王同様、家族や親しい友人などに対しては吃音が出にくくなる場合が多いため、そういった身近な人ほどなかなか自分が吃音持ちだという事をわかってくれず、他所でどもると、「単に緊張しているだけだからそのうち慣れる」「場数を踏めば大丈夫」などというトンチンカンな指南を受けるのがオチ。 難病でもなければ障害でもないこの吃音という症状が世に広く認知されるのは喜ばしい事ではあるものの、「吃音?」「じゃあ、英国王みたいに練習で治るでしょ」と、軽く考えられるのも困るわけで、そもそも、最後のスピーチを立派にやり遂げたように描かれていましたが、あれは対処療法的にその場を凌いだに過ぎず、根本から克服したと勘違いされてしまうのは吃音者である我々としては何とも微妙な所なのであります。 さて、ここからは映画のレビュー。 一番気になったのが、人物を画面の中心からずらした構図が多用されていた事なのですが、ただ単に中央に配置しないだけならまだしも、本当に画面の隅っこ1/4くらいの場所に人物を配置していたりといった極端な構図が多かったということ。 それと、どのシーンにおいても(特に療養所のシーン)画面が暗いことが多く、人物を正面からクローズアップで捉えたショットなど、ここぞという場面であっても顔に当たる光が弱いため、あまり上手くはないなぁと感じました。 ストーリーに関しては、英国王が医者と公園を歩いていたシーンで、口論になって別れた際、煙草に火をつけるというアクションが仲違いを象徴するするように機能していたのが良かったというのと、冒頭とラストでスピーチする時の独特のハラハラ感などは他の映画では味わったことのないような独特の感覚があったりして、自分にとってはいろいろとレビューが難しい映画でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-06-01 15:20:36)(良:1票) |
3. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 軽妙なBGMと共に頭を刈り上げるオープニングや最後のミッキーマウスマーチなど、この人の皮肉がかったジョークは自分には全く響いてこず、映画として面白いかどうかは言うまでもなく、またしてもキューブリックとの相性の悪さが出たように思いました。 映画の前半と後半で全く別の映画となってしまっており、どちらからも伝わってくるのは戦争という異常な世界による人間性の喪失であって、前半では前線に立った時に躊躇う事なく人を殺せるような殺人マシーンの製造過程の中、精神を崩壊させて脱落する者が出てくるほどの過酷な環境が丹念に描かれており、また後半では、苦しんでいる少女の息の根を止める時にふと出てしまうわずかな人間性が訓練よって形成された非人間性とぶつかり合う様を描いたところが最も大きなテーマと言えると思います。 前半部分で、タイトルの「Full Metal Jacket」がデブの訓練生が発狂した時の台詞で出てきましたが、この場面を一番のテーマと捉えているからこそこの映画のタイトルとなったと考えましたが、だったら何故、そのシーンのすぐ後で物語を分断してしまったのか、ここは大いに疑問を抱かずにはいられません。しかし、タイトルの意味を深く考察した他のレビューを拝見しますと、まぁ納得はできますが心に響くほどではないというのが正直な気持ちです。 後半部分は、スナイパーの少女が出てくるまでは単なる断片の寄せ集めという印象しかなく、ヘリからの銃乱射や新聞製作の会議や兵士のインタビューなど、どれも本題(少女と対峙する場面)に関係のないシーンやサブプロットばかりだったように思えました。 それよりも、この映画を観終わって自分が一番気にかけてしまうのが戦争が終わった後の事なのですが、前半に出てきたあのような軍曹は当時数多くいたと思われますが、あれはどう見ても“彼自身”であって教官の任務として罵っているとはとても思えず、もし戦争が終わり平和な日常に戻った時、暴言を吐くことなく“人間”らしく生きていくことが出来るのだろうか、また彼らの訓練を受けて非情さを植え付けられた人間はその数十倍におよぶはずで、彼らもまた戦争時の非人間だった自分自身をリセットし切り替え、再び心を持って生きていくことが果たして出来るのだろうかと、心配せずにはいられません。 ベトナム戦争が終わりPTSDで苦しむ人が数多くいたというのも、この映画を観れば分かる気がしました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-03-01 19:18:22) |
4. パンドラ
《ネタバレ》 もう、お話がロマンティックすぎてどう書いていいのかわからず、新規登録してから時間だけが過ぎ去っていってしまった・・・というのは冗談。 ドラマはドラマなのですが凄くファンタジーな要素が満載な、とっても素敵なストーリーです。 主演女優の名前はパンドラ。決して名前負けしていないことは観ればおわかりで、自身に惚れた男に対し「何を犠牲にするかで愛の深さがわかる」と、愛車を崖から落とすよう迫ることができるのも、もちろん彼女の美貌があるからこそ言えた台詞ですし、夜更けの海岸で裸になって、泳いで船まで辿り着くなり帆を身に纏って男の前に参上・・・って、こちらもまた“水も滴るイイ女”を地で行く美しさを堪能できます。 対する男も男で、肖像画をダメにされると「怒りという感情はとうの昔に置いてきた」と、こちらも負けず劣らずのロマンティックな台詞で応戦したりと、何か今までに経験したことがないようなとっても神秘的な雰囲気が感じられます。 また、車のタイムアタックや闘牛のシーンもスリル満点で非常に見応えがありますし、ナイフで刺されて殺されるシーンや、船の帆が上がるシーンのような夢か現かを煙に巻く表現も、こちらもまた何ともミステリアスな印象があり、あらゆる場面においてぐいぐい引き込まれるような感覚を受けました。 そして忘れてはならないのが、ただでさえ素敵な物語を一層引き立てるジャック・カーディフのカメラ。 宵の場面の月明かりや明け方の赤みがかった光で照らされる海面のきらめきは言うまでもなく綺麗ですし、どのショットにおいても、時間の経過とともに色合いが少しずつ変化していく映像がとても魅惑的で、彼の色彩の世界は本作でも健在と言っていいでしょう。 邦題がやや物足りない気がしますが、このストーリーだけに、下手にいじって壊してしまうのも怖かったのではないかと容易に想像ができ、原題の「フライング・ダッチマン」は、今までてっきりクライフの事とばかり思っていましたが、それよりも前に元ネタがあり、ご本家に触れることができて嬉しかったです。 [映画館(字幕)] 8点(2014-02-15 16:46:49) |
5. 袋小路(1965)
《ネタバレ》 主人公は、ジョージとか言うあの弱っちい男でしょう。 映画の中に流れる不条理感は良いけども、人物設定や状況の描き方が悪い。 悪漢が現れて脅すつもりで描くならば、腕を怪我しているから夫婦で連携してスキを見て警察に突き出せそうと感じさせてはダメだし、銃に弾を込める姿をまず先に見せるとかもしないため、さほど怖さが伝わってこない・・・と思いましたが、こう感じさせるのが狙いなのかも。 悪漢に対し何も出来なかった男は、最後まで何もできず終いで映画は終了。 最後、一人岩に佇む男。これがポランスキーの描きたかった事なのでは、と解釈しました。タイトルの「袋小路」は原題の直訳のようですが、ラストシーンの絵の通りどこにも行く事が出来ずにいる彼の姿、人間関係に行き詰まった心理状態の事でしょうか。一人の男の悲哀を描いた映画。 ここまでは、ポランスキーが映画を撮る才能とテクニックがある事を前提にした解釈。 細かな部分をあたると、ハッキリ言って描き方が余り上手でない箇所ばかり。 冒頭、悪漢が草の陰から上半身裸のカップルがイチャつく姿を覗き見るシーンは無用だし(後のその若い男の人物像もハッキリしない)、序盤からやたらと人物のクローズアップを多用するのも意図が見えず。車を懸命に押す悪漢の姿を捉えるカメラの動かし方もハンディーで撮ったような安っぽさが出ていますし、子供が銃を撃った時の客人の表情の細かなショットを連続で瞬時に見せるのもストーリーを勘案するとセンスのなさを感じます(子供が劇的な変化を生む訳ではない)。 冒頭で主人公に女装をさせるシーンも彼の情けなさを見せるのと、動けなくなった男の視点で彼を画面に出したかっただけでしょうし、また、後半で客が4,5人訪ねてきた時、カメラが最後を歩く男に注目していたので、この男がキーパーソンなんだろうと思い車で戻ってきた時に期待したのですが、女を連れ去るのみで特に驚くようなこともせず退散。これが一番酷かった。 いろいろとトータルで考えて、ポランスキーは映画を撮る才能やテクニックはこの時点ではなかったと判断。この映画は非常につまらないと考えるのが妥当だと思います。 [映画館(字幕)] 4点(2014-01-13 23:10:23) |
6. サボタージュ(1936)
《ネタバレ》 サボタージュというのは、要はテロの事ですね。 子供が持つ小包が爆発するという内容は観る前から知っていた事を差し引いても、あまり面白くは感じられませんでした、というか、ちょっとストーリーが弱い。 最初に出てきた砂についてもキーアイテムのようにも成り得ていないですし、テロを実行する過程や背景も描き切れておらず(世間の目を海外から反らせるなどという台詞のみで終わってしまっている)、ラストの映画館の爆発も唐突過ぎる印象ですし、ヴァーロックの人物描写についても爆発の後の異様に平然とした態度でいるのも理解に苦しんでしまいますし、入場料の払い戻しのワンプロットも単発ネタのままで終わってしまっているのもイタい。 つまるところ、本題に関わる話は掘り下げが弱く、そうでないものに関してはただ付け加えただけという印象しか残らない映画でした。 [映画館(字幕)] 4点(2012-12-20 01:07:06) |
7. 旅情(1955)
《ネタバレ》 始まって3分で観る気が失せる。汽車の中での女の厚かましい態度に、この女にあと100分付き合わされるのかと思い冒頭からゲンナリさせられてしまいます。 この時点で、この映画のどこかで馬鹿デカい声でわめき散らすシーンが出てくるだろうと想像はできていて、案の定ヴェネチアングラスの所でそんなシーンが出てきたものだから、だんだん観るのもバカバカしくなってきてしまいましたし、怒鳴り散らすとかするのではなく、もうちょっと洒落を効かせてウイットで返すとかすれば面白いと思うのにそういう事が出来ないのだからここは作り手のセンスの問題で諦めるしかなさそうです。 ホテルのテラスでの食事のシーンで一組ずつ去っていって最後に一人取り残された時や運河沿いの段差に座っている時もあからさまに悲しげな顔ですし、サンマルコ広場のオープンカフェで飲んでいる時もこれまた分かり易くニコニコしていたりと、要は演出が全て大味で登場人物の心情を描く力量に欠けているのがありありと分かってしまいます。 また、「空腹ならそこにあるものを食え」なんてとてもじゃないけど品があるなんて言えないですし、「失望」と「ショック」を入れ替えての掛け合いなんかいかにも作り話の中にしか出てこないようなリアリティを欠く台詞回しで、脚本にも問題ありでしょう。 おまけに、ラブシーンと花火のクロスカッティングなんて露骨の極み。ここまで来ると、もう失笑しか出てこない。 とどのつまり、このデヴィッド・リーンという人はやはり「アラビアのロレンス」「戦場にかける橋」のような大作にこそ本領を発揮する人であって、どう逆立ちしても男女の細やかな心情を描く人ではないと思いました。 唯一、恐らくオールロケで撮ったであろうヴェネチアの風景がその場の空気感や臨場感を感じさせてくれて良かったのですが、一方で、序盤で駅舎を出ようとした時と部屋の窓を開けて女主人と会話をしている時の2か所で人物にほとんど光が当たっていない状態が出来てしまっていて、折角の「旅情」を感じさせるオールロケの撮影スタイルがかえって仇となっていたように思えます。 普通、背景の方が明るい場合は手前から光を補うか、もしくは主観ショット&風景パンとかで話を進めるなど、アイディアで切り抜けたりも出来そうな所でそういう工夫を凝らさないわけですから、これはもう力量と言うより手抜きと言うべきかもしれません。 [DVD(字幕)] 5点(2012-12-15 18:28:59) |
8. 第三の男
《ネタバレ》 “一発屋の一本は駄作”という法則が自分の中にあるのですが、このキャロル・リードという監督の人気の出た作品はこれ一本のみだそうなので、今度こそその法則に例外を…と願っての鑑賞でしたが、やはりダメでした。 まず、オープニングから流れる音楽ですが、小さい頃からよく耳にする曲で元ネタに出会えて嬉しかったのですが、映画とマッチしているかと問われれば、ハマるどころか、かなり場違いな印象を与えていると言わざるを得ないほどのミスマッチな曲だと思います。しかも出てくるタイミングが悪く音量もストーリーを邪魔するほどの大きな音で流れてくることが多々あり、これはもう最悪なレベルと言ってもいいくらいでしょう。 更に最悪なのが、前半のストーリーを台無しにするかのようなハリーの存在。 映画前半は、事故で命を落としたハリーを運んだのが二人か三人か、即死かまたは会話が出来るほどの容体だったかなど、異なる複数の証言から真相を究明していくストーリーで進んでいくはずだったのが、ハリーの登場によってこれが根底から覆されてしまうという実に馬鹿げた急展開。 それまでの流れを一掃し推理を全て気泡に帰すようなこのストーリー展開は、今までの自分の推理は一体何だったんだというやり場のない怒りしか残らず、作る方も見た自分も、もうアホかという感情しか出て来ず。 細かい箇所もおかしなシーンばかりで、冒頭でホリーがハリーの自宅を訪ねたシーンで階上の住人からハリーはたった今死んだと聞かされるのも、妙にあっけらかんとした言い方ですし、車で講演会場に連れて来られたシーンも存在意義ゼロの無駄なシーン。 また、モノクロ映像が絶賛されているようですが、目を奪われるようなカメラワークは特に見当たらず、それどころか部屋の中のシーンでカメラを傾けて撮ったシーンも一番重要なワンショットのみに抑えれば効果が出たはずのところ、3回4回と無駄に多用してしまっていて作品を駄目にしているし、ストーリーに関係のない路上の人を何度もアップで捉えるのも意図が見えません。 遊園地を舞台にしたシークエンスはかえってサスペンス感が増すような効果を出していて、ここがこの映画での唯一の良かった所でしょうか。 それと、ラブストーリーの側面もあるようでしたが、自分は3人の誰にも共感は出来ず、どのような見方をしても良いところが見い出せない映画でした。 [映画館(字幕)] 5点(2012-11-04 22:03:32) |
9. 悦楽共犯者
《ネタバレ》 主ヴぁん九枚得る(直接変換したらこんなん出た)じゃなかった、シュヴァンクマイエルの作品は「アリス」に続いて2作目なのですが、まぁ~何と言うか、食べ物を不味く撮る天才だなと。頭の中を見てみたい。どんな環境に身を置き、どんなものにインスパイアされると、ああいう発想が生まれるんだろう?? さて、この映画はアレですよ。意識下にしろそうでないにしろ、人間誰でも行う心地良いと感じる行動を比喩的に表現した映画なんじゃないかというのが私の見解です。 例えて言うなら、映画を観てレビューをするという我々の行為は、それをしている自分たちにしてみれば楽しさを追求したり見聞を広めるとかストレスの解消だったりと、なんだかんだで好きでやっていることだと思いますが、一転、その行為を赤の他人が見ると、釘を打ち付けた棒を体じゅうに転がして悦に浸っているオッサンと何ら違いはないように見えているかもしれません。 ところで、「アリス」を観た時も思いましたが、パペットの動きが凄くスムーズで、カットが切り替わる前後に違和感がほとんど感じられず、非常に丁寧につないでいる印象を本作でも感じました。 画面の中の女子アナに夢中になっている時のロボットの手の動きなんかも、凄く丁寧でリアルに動かしているなと思ったら、男の後頭部をまさぐる時の手は・・・あれは本物ですね。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-11 13:47:48) |
10. アリス(1988)
《ネタバレ》 この映画のような妄想系やシュールレアリズム的な作品を観るたびにいつも思うのですが、感性を試されているとか、フィーリングがマッチするかどうかというよりも、観る側の心の広さ(キャパシティー)を推し量られているような気がして、映画そのものをバッサリ斬るような事が出来ず、面白く感じられずにいる自分に失望してしまったりします。 うんと子供の頃、この人形がこっちを見て自分に話しかけて来たらどうしようとか、この剥製がいきなり動き出したらどうしようとかっていう想像を膨らましていた頃も確かにあったような気がするので、この映画の本質的な部分は何となく理解することは出来たと思います。 面白いなと感じたのが、蛙の長い舌や生肉の質感などの異質な感じを出した描き方なのですが、蛙の舌で蝿を的確に捕らえるところに妙に爽快感を感じてしまったり、普段はまな板の上だとかお店で白いトレイに乗っかっていたりというところしか見たことがない生肉も、撮る人が撮れば全く違ったモノになるんだなぁと、捉え方に凄く個性が出ていて良かったと思います。 また、兎の胸元からおがくずが出てきていたと思ったら、お鍋の中のおがくずをスプーンですくって“補給”していたりして、ストレートというか単純というか、とても素直な発想だな~と思いました。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-03 23:31:33) |
11. 戦場のピアニスト
《ネタバレ》 冒頭のピアノを弾くシーンで客席を映したショットがないことから、スタジオのような所なのか大勢の客が集まっているホールなのかがわからず、ちょっとした違和感を感じていたのですが、演奏を止めて客席が映し出され、逃げる時になって初めて全体が把握できるような演出になってしまっていたのが余り良くなかったように思えます。 いろいろと他のレビュワーの方のコメントを拝見しますと、過剰な演出が少なく真実に基づいて描かれているとの意見が大半だったのですが、自分にはそうは感じられませんでした。 適当に人を選び地面に伏せさせて頭を撃つシーンでは、画面の一番手前の人は本当に頭の禿げた人だったのか?血が流れる様を克明に見せるために頭の禿げた人を手前にもってきたのではないのか? また、女性が走って逃げているところを後ろから撃たれて背中を丸めるようにして倒れたシーンの後、シュピルマンが死人のふりをして追っ手をやり過ごしましたが、本当にその女性の傍を這って行ったのか?その二つの出来事は本当に一連の流れで起こったのか?バラバラのエピソードをひとまとめにしたのではないのか? 何故、こんな馬鹿げたような疑問をでっち上げるのかというと、この両者にカメラワークの問題があり、前者は明らかにシュピルマンの目線の映像ではなく血を流した頭のアップの映像ですし、後者はシュピルマンの這う姿と背中を丸めて倒れている女性を同じフレーム内に収めることで過剰な“生と死が隣り合わせ”な映像になってしまっていて、カメラの位置関係や編集などを考えると真実をありのままに捉えたような映像には見えませんでした。 いずれのシーンも、真実はその現場に居合わせた人にしかわからないですし、真実をそのまま描くべきか、それとも手を加えるべきかという議論になってしまいますが、少なくとも故意的な演出の意図をもって撮られているのは明らかだと思います。 それと余談ですが、部屋にかくまわれている時、音を出すなと言われた直後にピアノが姿を現すという、このストレートすぎる展開も面白いとは言えないと思いました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-03-19 23:45:10) |
12. フレンジー
《ネタバレ》 これは良い意味で期待を裏切られた作品。 ヒッチコックの晩年の作品はあまり良いイメージがなく、主人公らしき人物には華がないばかりか、オープニングのテーマ曲もダメとくれば期待するものも全くないままで見たのですが、結婚相談所の殺害シーンをきっかけに見る目が変わっていったと思います。 主人公の友人ラスクが結婚相談所に来た時点では何の疑いも持たずに見ていたのですが、途中から徐々に様子がおかしくなり異常な性癖を現し始め、そしてついに正体を現したときの背筋が凍るような恐怖感。無意識から疑惑、確信へと移行する一連の流れが秀逸でした。 女友達のバーテンがラスクの家に入っていった時のカメラが後退していくシーンでは、「ロープ」(1948)をやっていましたが、実はその前に、ホテルで彼女が主人公と同じベッドで寝ているシーンでもその手法が使われているのを知った時には嬉しくなってしまいました。 最後は、主人公にあの刑事の奥さんの料理を食べさせてあげたかったですね。ムショ明けの人間には“スープ・ド・ポワゾン”はやはり美味しく感じられるのだろうか???(ポワゾン=poison←毒) [追記]ポワゾンはフランス語のpoisson(魚)で、“魚のスープ”ということ。毒などという意味じゃなかったです。失礼! [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-12-31 18:13:34)(良:1票) |
13. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 映画というのは客からお金を取って成り立つ商売であって、例えば、ピカソのような芸術作品を美術館に行ってお金を払い鑑賞すると、その絵を理解して納得する人は少ないと思いますが、ほとんどの人は満足し、鑑賞に費やしたお金と時間を後悔する人はほとんどいないと思う。さて、この映画はどうでしょうか。 この映画の余りの異質さに、なんでこんな映画が世に出たんだろうと思った。 この原作を読んだりして、この世界を表現したいと考えたクリエイターは他にもいたかもしれませんが、実際にその方法と資金の両方を持ち得たのは世界でキューブリックただ1人だったということ。この世界を表現してしまったのが、趣味で映像を撮る個人作家やイラストレーターや漫画家ではなくキューブリックだったということでしょう。 映画を見た後に皆さんのレビューを拝見してみると、映画の中に出てきたあの石板の役割や意味が少し理解できたような気がしたので再度鑑賞してみましたが、特に印象は変わることはなかったです。 つまり、面白くないものはどう逆立ちしても面白くないわけであって、原作を読もうが色んな解釈を聞こうが「だから何だ」で終わってしまうことがほとんど。 この映画に限らず、「原作を読んで評価が上がりました」とか「理解できない人は原作を読んだ方がいい」というレビューがあちこちで見受けられますが、映画の評価はあくまでも映画そのもので評するべきだと思います。 この映画の決定的にダメなところが、機械が人間に危害を加えようとするところなんですが、機械に対する考察や知識に欠けていると言わざるを得ません。多くは語りませんが、キューブリックは「ロボット3原則」についてもう少し勉強してからこの映画を作るべきで、それを知っていればHALが人間を陥れようとするくだりはこの映画の中に組み込まれなかったと思いますし、この映画の中でも肝となる部分ですので、ここでのリアリティのない安易な未来観のせいか、どうしてもこの映画に対して安っぽさを感じてしまいます。 それと、細かいところですが、船員二人が球体の中で作戦会議をする時に、スイッチを順々に切るシーンがありましたが、あのスイッチがいかにもアナログ的で笑ってしまった。キューブリックも未来に対しての先見があるようでいて、こんな映画を作って格好つけてはいるけども、やっぱりアナログの時代の人なんだなぁと思ってしまいました。 [映画館(字幕)] 6点(2010-08-01 20:05:19)(笑:1票) |
14. 10ミニッツ・オールダー イデアの森
《ネタバレ》 合わないのではなくつまらない、と言わせてもらいます。 一番良かった、というかマシだったのが「水の寓話」。 人生色々あってふと森の中を歩いていたら、いつか見たオヤジに出会う。水を求めて彷徨ってそこで過ごした時間は一体何だったのだろうという不思議な話。それはいいのですが、奥さんが破水したとか、新しく買った車をダメにしたりといった一節はインパクトに欠けるし、かといって日常の平穏さが出たというものでもない。水を求めて歩き回り、そこで紆余曲折を描かなければならないのだけど、そこのセンスの問題。 「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」は、二人がそこで話していた会話の内容通りの状況になり、そこから期待したが・・・。 ゴダールの短編も、内容はつまらなかったけど、作品から発せられるエネルギーのようなものは感じ取れました。 他は論ずるに及ばず。 やっぱり、「パリところどころ」とか「七つの大罪」とかを見ちゃうと、どうしてもその差を感じてしまう。自分には、その凄く大きな差を感じさせられてしまうだけの映画、にしかなりませんでした。 [映画館(字幕)] 4点(2010-01-05 00:38:24) |
15. ユリシーズの瞳
《ネタバレ》 アンゲロプロスには申し訳ないですが、ストーリーの中での出来事、主人公がどんなことに出くわしたかとか、いつの時代にどこの国でどんなことが起こったかとかは、はっきり言ってどうでもいい事だと思う。 話の大筋、主人公が幻のフィルムを求めて国境を越え、戦禍をくぐり抜けながらフィルムにありつく。この程度のことが読み取れさえすれば、あとは主人公がフィルムを追い求める情熱を感じ取るのみ。 この映画は他のアンゲロプロスの作品同様、旅を描いた映画。東欧の実情を主に描いてストーリーは副次的なものにしたいのか、またはその逆なのかはわかりませんが、少なくとも自分は画面の中で起きていることを見ているだけでも十分入っていけました。 途中、夢だか回想だかのシーンが出てきますが、これが少々解り辛い。特に入り方。ワンシーンで一気に時代がジャンプすることが珍しくはないアンゲロプロスの映画の中では、何が起こっても全く不思議ではないから。 最後、幻のフィルムにありつけるわけだけど、フィルムの内容などどうでもよくなるくらいの救いようのない結末には絶望してしまいます。せめて、霧の中で音楽を奏でているシーンで締めて欲しかったと思う。 [映画館(字幕)] 6点(2009-02-06 00:31:55) |
16. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 戦争とかをコメディにする事が不謹慎だなどという考えは毛頭ほどもないことを前提に・・・とにかく、つまらない映画だった。 映画冒頭の、戦闘機の中にいるのは遊んでる人間ばかりというフリから始まり、愛人が会議中に電話をかけてきたり、平和を謳う看板の前で銃撃戦が繰り広げられていたり、あと93年も生きられるわけないのに真剣に議論していたり、核弾頭に跨ったまま投下されたり、キノコ雲の映像の後ろで“また会いましょう”と歌っていたり・・・といったネタが至る所に転がっているのはわかる。長いタイトルの意味など「だから何だ?」というだけのもの。 印象に残ったのは、1人3役をこなしたピーター・セラーズと、同じ場所にいる2人のキャラを1人の人間が演じていることを察知させないカット割りと編集、やたらと長いタイトルくらいか。 [DVD(字幕)] 5点(2008-02-03 02:35:44) |
17. あの胸にもういちど
《ネタバレ》 アラン・ドロン目当てで観てみたのですが、本作の原題にある通り、この映画の華はあくまでもマリアンヌ・フェイスフル。 空想を繰り広げている時のあの表情といったらもうっ!嬉しい事、悲しい事、不安な事・・・どんなことを想像していても、みんなとてもいい顔。 たまに出てくるサイケデリックな画像処理も、レベッカが高速で飛ばしてる時の合成映像も、何となく想像できてしまう結末も、みんな古臭くて失笑モノ。おまけに、全編を通じてただレベッカが過去を回想するだけの淡々としたストーリー。しかし、しかーし、面白い! 英語を喋るドロンにちょっと違和感を感じたけど、まぁかろうじて合格点。スキーの宿で、ドロンがレベッカに向かって笑いかけていたのも、本屋にいる時のクールな印象からはかけ離れいてかなり違和感があるのだけど、これも気にしない気にしない(笑)。 とにかく、主演のマリアンヌ・フェイスフルの醸し出すオーラを始めとする、全体の雰囲気が実にイイ。 こういう映画、大好き。 [映画館(字幕)] 7点(2008-01-13 01:57:27)(良:1票) |
18. エンジェル(2007)
《ネタバレ》 この人はイギリスをどのように思っているのだろう。 オゾンはこれまでに、イギリスを舞台にしたり、イギリス人を登場させた映画をいくつか撮ってきていますが、皮肉った感じで撮っているのもあれば、憧れをもって撮っているのもあり、毎回作品によってイギリスに対する印象が異なるのが興味深いところ。今回描くのは、憧れか、羨望か、それとも軽蔑か・・・。 ストーリーですが、ごく平凡な一人の女性のサクセスストーリーとその転落を描いただけで、特に意外性もないストーリー。細かな所を指摘すると、久しぶりにパラダイスに戻ってきて、カーテンの配置が違うとか、犬が死んだとかというのがその後のストーリーに全然繋がっていない、というのがちょっと気になってしまいました。 また、完璧でない合成映像にも閉口。序盤で、エンジェルが編集長に連れ戻されて馬車に乗ってはしゃいでるシーンや、新婚旅行のシーンの映像は、誰が見ても合成とわかるようなものでしたが、これがもし、オゾンの言う“60年台ハリウッド映画へのオマージュ”としても、ちょっと問題でしょう。 映像面で更に付け加えるならば、序盤で駅のホームまでエンジェルを追ってきた編集長が、やっぱり君の言う通りにすると言ったときのエンジェルの表情(不敵な笑みを浮かべる)にピントが合っておらず、編集長の顔だけにカメラが集中してしまっているので、少々演出に失敗しているような気がします。 さらに、シャーロット・ランプリングの、若い女主人公に冷たい視線を浴びせる役も「スイミング・プール」の時と似たような役で、こういう役柄を2回も連続して与えてしまうキャスティングもいかがなものかと。女優を殺すなと言いたい。 ここ数年、毎年のように楽しませてくれたオゾンでしたが、久々の新作とあって期待を持ちすぎてしまったようです。ここは、大好きなオゾンなだけに厳しく評価させて頂きたいと思います。次作に期待。 [映画館(字幕)] 5点(2008-01-03 16:56:39) |
19. リング(1927)
《ネタバレ》 映像だけでストーリーを読むというのはやっぱり面白い。 彼女が腕輪を隠す、腕輪を指から腕に戻す、腕輪をリングサイドに放る。これだけで心理状態が解るのですから。 そして、ヒッチコックの映画を観ていると、背筋が凍るほどゾッとすることがよくありますが、こんな初期の頃の作品でも随所にそういったシーンが出てきます。いろいろある中でも、結婚式での指輪交換のときに指輪を奥まで挿入した瞬間、ボブから貰った腕輪が手首のところまでズルッと落ちてきたところが最高に好きですね。また、最初のジャック対ボブの対決で、ダウンしてカウントをとっているときまではどちらがダウンしてるのかわからないのですが10カウントくらいになって手前の男が消えたことによって勝者がボブだということを見せるという演出もかなり好き。 ただ、友人たちが集まって祝杯を挙げようと奥さんを待っているときにそこで一気にトーンダウンしてしまったところがすごく残念でした。画面の中で登場人物がファイトしてるときはこちらも熱くなるし、ドキドキしているときはこっちもドキドキする、待ちくたびれて寝てしまっているところを見るとこっちまで眠くなってきてしまうのです。あのシーンは何とかならなかったのかなぁ。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-08-27 12:24:39) |
20. 反撥
《ネタバレ》 スクリーンで見たので、オープニングのカトリーヌ・ドヌーヴの目のアップが超ド迫力で、あのワンショットに完全に圧倒されました。 60年代の他のカトリーヌ・ドヌーヴの作品を観てから本作を観ると、他の作品での彼女が演じる役柄との間にとんでもなく大きなギャップがあるのに驚かされます。 本作のドヌーヴは目つきからして違う。内に秘めた狂気が伝わってくるようで怖い。演技ではなく本当に精神が蝕まれているかのようです。釘を打ちつけるときの手の震え、ペンを持ってガラスに文字を書いているときのあの目つきは鳥肌が立ちます。 それと、この映画はカメラの動かし方がとても魅力的。カメラがゆっくりと動いて部屋の中で起こっている状況を長回しで映し出す場面が幾度となく出てきましたが、これがまた何ともいえない独特の狂気の世界を表現していると思うのです。また、ウサギの料理やジャガイモが腐敗していく様が時間が経過するごとに映し出されたりするのもいい味出してますね。終盤近くでの、管理人が部屋に入ってきてドヌーヴの体を求めるシーンがありましたが、普通こんなシーンでは他の映画だと、管理人と剃刀のアップを交互に映したりするものですが、この映画では画面の隅の方に剃刀をちらつかせるという方法でスリルを高めていたのが非常に個性的で斬新な印象を受けます。この監督のフィルモグラフィーを見てみると、やっぱりサスペンスが多い。どうりで撮り方が上手いわけです。 [映画館(字幕)] 8点(2005-03-05 22:42:20)(良:1票) |