1. コントラクト・キラー
《ネタバレ》 人生どこで転機が訪れるかわからないものだなあ。 死のうとしてたのに。仕事もお金も、何よりこの主人公には生きる希望が無くて。 なのに、特に何もしていないのに、ふっと心に気力の灯がともる。モノクロだった彼の生活に色を伴った彼女が現れたから。 かくして依頼したはずの自身への殺し屋からは逃げ続け、病を患っているというその殺し屋へ見舞いの言葉すら口をつくまでに彼の心は回復を見せるのだった。 けれんみとかドラマチックとかいう言葉をどこかに置き忘れているカウリスマキ作品群の中でもとりわけ淡々としている本作。イギリスに住むフランス男の情操が、暗いんだけどユーモアを帯びているのがいかにも同監督ぽい。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-11-10 23:48:56) |
2. マッチ工場の少女
《ネタバレ》 労働者三部作のラストはシリーズ中最も虐げられてる弱者が主人公。びっくりしたことに、今作で監督怒りでキレてる。いつもの鷹揚さはどこへやら、こういう発露の仕方もするんだなあカウリスマキは。 イリスの日々、しんどそうだもんなあ。若い女の子とは思えないほどに彼女から”はつらつさ”を感じない。カウリスマキキャラそのものの彼女は口数少なく、地味で感情は時折り流れる流行曲の歌詞で代弁されている。 給料はもちろん安い。それすら母と継父に取り上げられ自分の自由にならない。イリスの周囲の人間は彼女のお金も労働力も愛情すら搾取しておいて彼女に敬意を払わない。 いいように使われてぞんざいにあしらわれてきた者は暗い怒りを凝縮させて、ついには逆襲に出る。わたしは正直スカッとしましたよ。 弱者をなめんな。敬意を払え。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-09-09 22:37:35) |
3. 真夜中の虹
《ネタバレ》 勤め先の炭鉱は閉鎖、父親は自殺するわ出てきた都会で強盗に遭うわ、仕事は見つからないトコロに情状を一切酌量してくれない司法によって牢屋にぶち込まれるわ。 こう書き出すと目も当てられないほどに悲惨な主人公の境遇なのに、なぜこんなにユルくて悲壮感ゼロなのでしょう。 不運は呼んでもないのに来る。けれど幸運も「ちょっと気が向いたので」的にやってくるんですなカウリスマキワールドは。 “こんなことがありました”と、ぼそっとエピソードを差しはさんですぐ画面が切り替わる独特のリズム。会話より行間を汲んでコミュニケートする寡黙な人物たち。全部がザ・カウリスマキと呼びたくなる唯一無二の空間。 なんもかもパッとしないのよ。のっけから譲り受けたコンバーチブルの幌は北欧の冬だっていうのに閉じない(!)し。子持ちの彼女と3人でドライブしに出かけた先の海辺も岩場ばっかりの岸に波が愛想無く打ちつけるような映えないロケーション。音楽も絶妙にダサい。 だけどもね。収監された先で出会う妙な先輩マッティ・ペロンパーはもちろんのこと、外でも本を手放さない連れ子の男の子も愛さずにいられない。 人生の上手く行かなさも野暮ったさも何もかもが近しく親密に感じられる、好きすぎる一本。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2024-07-18 18:44:46) |
4. パラダイスの夕暮れ
サエないなー。役者もサエないし(北欧は美男美女ばかりとのイメージが覆る)話も地味だし音楽までイカサナイ。 なぜにあんなに表情筋を使わないのやら。寒すぎて(体感のほう)固まりがちなのか、日照時間が少ないと笑えなくなってしまうのか。 男も女も欧米映画の十分の一ほどのエネルギー量で恋愛してる。興味深いなあ。 観る側に緊張を強いないし、羨望ももたらさないし説教もされない。ただただゆるめの共感に心をゆだねるこの安らぎ。これぞカウリスマキ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-06-22 22:26:12) |
5. ハッチング―孵化―
《ネタバレ》 毒親と、機能不全家庭と、その犠牲になるこども。フィンランドにもこの手の社会問題はあるのですね。誇張されたホラー仕立てであるけれど、問題の根っこは現実的でそこが怖かった。 冒頭からヤバさ全開の母親がキツイ。自己実現欲求の塊なSNS動画には吐きそう。この家族、母親が上げる幸せ動画とは実態は真逆だもん。往々にしてそうだけど。自分の理想にかなう子どもだけ可愛がる母親と、妻の浮気に気づいていながら何もできない父親と、姉ちゃんだけ贔屓されてひねてしまっている弟。 長女ティンヤは12歳、大人の欺瞞に気づき始める年ごろ。“ママの良い子ちゃん”で幸せに生きてきた彼女の心の深層に芽生えてきた抑圧されている自己や、他者への妬みや母親への不信等の大胆なメタファーがあの怪鳥なのだと気づいた時はざわっとしましたね。 母親が刺したのは優しくて社会性のある方のティンヤ。もはや双子の片割れのように生き残った方を、これから家族の一員として受け入れ生活していくんだろう あの脆弱な家族は。 恐ろしい結末だけどホラーとしては上出来。加えて画が清潔で美々しいので目に優しく、引き込まれて鑑賞しました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-06-05 23:28:51) |
6. ライダーズ・オブ・ジャスティス
アナス・トーマス・イェンセンが贈る「かん違い世直し」奇譚。 理不尽な辛い目に遭うと人は因果を求めたくなる、これって洋の東西を問わないのですね。エストニアのタリンで女の子が青い自転車を欲しがったことから始まるデンマーク住みの家族の悲劇。 たしかに繋がってはいる。けれど、今生きてる我々の現在はなにがしかの結果であり、流れの途中でもあるのだから振り返って遡っても意味はないよ、キリが無いよと軽やかに言ってのける監督のセンスを大いに支持したい。 人物らがクセありな面子ぞろいで、いかにもイェンセン。傷心の父娘の前に現れるは三馬鹿(と言いたくもなる)トリオのおっさん。彼らの純度の高い阿呆力がじわじわと観てる方にも浸食してきます。いや、みんな傷ついててけっこうボロボロなんだけども。今作では飛びぬけて乱暴者のマッツも彼らの悪意なき天然に浄化されてゆくよう。 後に一人加えての、ラストのクリスマスシーンは奇跡的なまでに幸福な画でしたね。ああ、自転車タリンに渡ったんだ・・。思うところはあるけれど、まあいいでしょう。デンマークの6人が今幸せなのだから。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-08-13 23:08:41) |
7. アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場
《ネタバレ》 フィンランドでは誰もが知る戦争古典だそうで。かの国の「継続戦争」については、ほぼ知識なく鑑賞したのですが。戦地の実態はどの国の戦争であっても大差なく過酷で、やりきれなさのみが残るのも同じでした。 新婚の将校も若い一兵卒もベテランも次々斃れてゆく怒涛の終盤は、すぐそばで爆撃を受けたかのような臨場感といい圧倒的なリアリティがあります。 兵士目線と謳っているとおり、休暇を取って家に戻り束の間畑をおこしてまた戦地へ戻る者や、敵国の娼婦に恋をする若い兵士といった等身大の人間の心情、行いを細かく丁寧に拾っています。辛くも生き残り、帰還したベテラン兵士の顔にしかし安堵といった安らぎ感がなかったことに戦争の大きな罪を感じます。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-05-28 23:50:31) |
8. フィンランド式残酷ショッピング・ツアー
《ネタバレ》 まさかロシア国内では旧西側の映画作品が観られないってことはもはや無いと思うのだが、それにしてもこの”こなれてなさ”はかなりのレベル。なんか手持ちカメラで撮るのが新しいらしいよ?とばかり、全編にわたって張り切ったPOV映像がぶれっぶれ。観づらいよう~。あちらこちらで展開がもたつく脚本も素人ぽい。初めからえんえんと続く母子げんかには見てて相当ストレスが溜まる。あっさり繋がった彼女への救援電話も、肝心な命の危機についてトークが及ばない。こんなところで焦らされても観てる方はハラハラするよりイライラする。殺人者からなんとか身を隠した一室、一般的にはここでけっこう粘るなり、ピンチが次々襲うなり尺を取ると思うんだが、かなりあっさり脱出しましたな。 ただ、この素人くさい画がちょっと動画ぽくて映画離れしているとも言えるので、日常にふいっとイカレた連中がわいて出てきたような妙にリアルな恐怖の質感はある。 ぷいっと放り出したような終わり方には呆気にとられたが、ロシア・フィンランド合作というのにも驚いた。ロシア人の隣国コンプレックスも感じるし、フィンランドの人の懐の深さにも感じ入るなあ。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2016-01-25 00:04:16) |
9. かもめ食堂
過去をそこそこしょってそうないいトシした女性3人。でも各人のドラマに一切踏み込まないので、さらりとしていることこの上ない。「語らずとも画でみせる」ことのできる映画というのもあるけれど・・、この面子で静止画はそんなにもたないぞと思った。小林聡美はきりりとさっぱりした表情が魅力的だし、料理する所作が美しい。でも声が、というか前のめりがちな彼女独特の話し方がこの主人公のイメージにそぐわない気がしてしょうがないんですが。ほんとごめんなさい。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-04-17 14:32:07) |
10. レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
なんともすっとぼけた連中が驚くべき寡黙さで、一路もくもくとメキシコへ。ひたすらボケを垂れ流しながらの道中に、つっこみ疲れた当方は心地よい脱力感に見舞われた。こんな人生もいいんだよな。生温かく見守ろう。 [ビデオ(字幕)] 8点(2012-01-24 11:53:57) |