1. ヒンターラント
《ネタバレ》 第一次大戦後のヨーロッパ、まだ戦争の傷跡が深々と残るオーストリアを舞台に、猟奇的な連続殺人事件に巻き込まれたとある帰還兵を悪夢のような映像で描いたサスペンス・ミステリー。セットやロケなどは一切使わず、全編ブルーバックで撮影したというのが売りの本作、なんとなく興味を惹かれ今回鑑賞。全編CGで描かれたという映像はまるでヨーロッパの陰鬱な絵画の世界に入り込んだかのような感覚で、この重厚な世界観はなかなかのものだった。戦争の影響が生々しく残っていたこの時代と、おどろおどろしいこのストーリーも見事にマッチしている。ただ、肝心の脚本の方はいまいち。主人公である心に傷を負ったこの帰還兵の過去を巡る物語かと思いきや、何故かこのおじさんがいつの間にか刑事になって街を騒がす連続殺人事件を捜査し始める。元刑事という肩書があったとはいえ、友人の計らいで主任刑事にいきなり復帰とかさすがに無理がある。ここは要所要所で助言を行うアドバイザー的な立ち位置で良かったんじゃなかろうか。また、主人公の妻を巡る友人との三角関係を無駄に差し挟んでくるのもお話のテンポを悪くしている要因。中盤辺り、自分はかなり退屈してしまった。肝心のことの真相もけっこう無理があるうえにいまいち分かりづらい。全編ブルーバックで撮影したという映像も最初こそ「おお」と思わせるものの、それ以降はずっと同じような画ばかりが続くので早々に飽きてしまった。この手法を使うなら、もっとシュールでグロテスクで一度見たら忘れられないような悪夢のような世界で観客を魅了してほしい。なんだか全てに於いて中途半端な作品と言うのが自分の率直な感想だ。 [DVD(字幕)] 4点(2024-07-26 10:45:37) |
2. アイダよ、何処へ?
《ネタバレ》 1995年、冷戦終結により勃発した民族紛争が泥沼化していたボスニア・ヘルツェゴビナ。ムスリム勢力の町スレブレニツァはセルビア側の激しい攻撃の末、とうとう陥落してしまう。2万5千人におよぶ町の住民たちはたちまち難民化、安全を求めて国連平和維持軍が駐留していた基地へと一斉に雪崩れ込んでくる。当初は住民たちを受け入れていた国連側も余りの数の多さに途中で受け入れを拒否。結果、基地の周りには行き場を失くした町の住民たちが大勢なす術もなく立ち尽くすことに――。国連の通訳として働く元高校教師アイダは、そんな難民の中に自分の家族も含まれていることを知るのだった。夫と2人の息子だけでも基地に入れてほしいと上官に懇願するアイダ。だが、更なる混乱を恐れた上官は彼女の要望を拒否する。到底納得できないアイダは、何とかして家族を安全な基地内に引き入れようと画策するのだが、さまざまな手続きの壁に阻まれどうにもうまくいかない。そんな折、セルビア側の司令官ムラディッチ将軍から住民を安全な場所に移動させるので速やかに引き渡せとの要請が国連側に届く。何か信用できないものを感じたアイダは、家族とともに逃げようとするのだが……。デビュー以来、一貫してボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争を題材とした映画を撮り続けるヤスミラ・ジュバニッチ監督の最新作は、そんな過酷な運命に翻弄される一人の女性を通して戦争の不条理を冷徹に見つめたヒューマン・ドラマでした。この監督の作品は今回初めて観ましたが、全体を覆うひりひりするような緊張感がとにかく真に迫っておりました。この時代、この地で実際に撮られたドキュメンタリー映画なんじゃないかと思えるくらい。そんな中、ただ家族を救いたいがために奔走する主人公。国連にたまたま通訳として現地採用されたというだけで、軍人でも実力者でもない単なる一市民のエイダに出来ることなんてたかが知れている。それでも愛する子供たちをなんとしても救おうと駆けずり回る彼女には胸が締め付けられる思いでした。でも、そんな過酷な現実は彼女だけのものではなく、ここに押し寄せた2万5千人の全ての人々にそれぞれの事情がある。そう思うとやはりやり切れない思いにさせられます。みんな普通に生活していただけなのに。そして最後に辿り着く悲惨な現実――。戦争の愚かさをこれ以上ないくらい痛感させられてしまいます。過去を乗り越え、気丈に振る舞っていたエイダがそれでも最後に辿り着いた場で泣き崩れてしまった姿に自分も思わず涙してしまいました。最後に表示される、「スレブレニツァの女性たちと殺害された8372名の息子・父・夫・兄弟・いとこ・隣人に捧ぐ」というテロップが重い。ただただ最後、彼女が育てた教え子たちがいつまでも平和に過ごせることを祈るばかり。人間の愚かさと悲哀を鋭く捉えたなかなかの秀作と言っていい。 [DVD(字幕)] 8点(2023-02-10 08:33:06) |
3. アイ・アム・マザー
《ネタバレ》 そこは再増殖施設と名付けらた、とある広大な建物。最先端技術で管理されたそこには、意思のある人間は一人も存在しない。ただ、そこには凍結された胎児が6万体も保存されていた――。大量絶滅を迎えたその日、施設を管理する一体のドロイドによって一人の赤ん坊が蘇生される。生まれてきた赤ちゃんには名前すら付けられず、ただ〝娘(ドーター)〟と呼ばれ、ドロイドによって大切に育てられるのだった。施設の外は毒素に満ちた危険な世界で、人間は一人残らず死んでしまったと教えられる娘。いずれ大量に蘇生される幼き弟や妹たちのために日々勉強にいそしみ、美しい少女へと成長したある日、予期せぬ事態が起こる。なんと重傷を負った一人の女性が助けを求めてやってきたのだ。戸惑いつつも中に入れてやる娘。するとそれまで最大限の優しさを見せていた〝母親(マザー)〟は豹変する。果たしてここは何処なのか?本当に世界は滅んでしまったのか?今、娘の手によって回復した女の口から驚きの真実が語られる……。ディストピアと化した世界で、外界から完全に隔離された施設に暮らすある少女の葛藤と成長を描いたSFドラマ。舞台となるのはほぼこの完全隔離された施設内のみ、登場人物もこの主人公の少女と途中から登場する謎の女性のみ(演じるのはオスカー女優のヒラリー・スワンク)と言う低予算ながら、細部にまで拘ったであろうこのスタイリッシュな世界観のおかげで普通に観ていられる作品になってましたね、これ。特に、主人公を育てるドロイドなんてきっとパントマイムの人が中に入って演じてるんだろうけど、それを全く感じさせない自然な動きでなかなか良かったです。ただ、それに対してお話の方は正直微妙。何と言うか、細部の詰めが非常に甘いのです。まず、この広大な施設を管理するのがこのドロイド一体のみと言うのが不自然すぎます。後半に警備用ドロイドがたくさん出てくるのですが、それならこのうちの何体かはこの施設に配備されてても良かったんじゃない?おかげでこの主人公の少女にかなり自由な行動を許しちゃってますし。それに、この施設へと駆け込んでくる謎の女の存在もよく分かりません。外に仲間がいると嘘をついて主人公を外へと連れ出す、その理由がさっぱり分からない。要するに、腑に落ちないのです。終始そんな感じで、終わってみれば「結局、あれやこれはいったいなんだったの?」と言うもやもやしたものばかりが残る、何ともすっきりしない作品でありました。 [インターネット(字幕)] 5点(2020-05-21 01:18:00) |
4. ハッピーエンド(2017)
《ネタバレ》 フランス北部の街カレーで大豪邸に住むとある裕福な家族。会社を経営する長女を中心に三世代が同居する、この一見幸せそうな家族の生活にある日、長年離れて暮らしていた長男の前妻の子供が引き取られることに。エヴというもうすぐ13歳になるその少女の母親が自殺未遂を起こし、しばらく入院することになったのだ。数年ぶりに出会った父親との同居に初めは戸惑いつつもエヴは、少しずつ新たな生活に馴染んでゆく。すると、一見幸せそうに見える家族の隠された本当の姿が炙りだされていくのだった――。認知症を患う祖父は死への誘惑を抱え、エヴの父親である長男は浮気相手とチャットでエロトークをし、会社を経営する長女は社内での訴訟問題に頭を悩ませ、彼女の息子である孫は連日のように深酒をして問題を引き起こし、そしてエヴ自身もまた心に暗い闇を抱えていたのだった。そんなもはや崩壊寸前の家族が最後に辿り着く〝ハッピーエンド〟とは?社会の不条理や人生の生きづらさを透徹した目で描き続けてきた鬼才ミヒャエル・ハネケ監督の最新作は、SNS時代における家族のありようを皮肉たっぷりに描いたヒューマン・ドラマでした。あのハネケがハッピーエンドなんて撮るはずがないと分かっていましたが、いやー、これがまた相変わらずのハネケ節(笑)。すっかり冷め切ってバラバラになってしまった家族の醜悪なドラマが、ただ淡々と、それでも知的で気品に満ちた映像でもって描かれておりました。無駄を削ぎ落したシンプルなストーリーの中にたくさんのヒントを散りばめ、現代社会が抱える様々な問題を観客自らに考えさせるというその手法は並みの才能では出来るものではありません。そして迎える皮肉なハッピーエンド。長い人生を生きてきた老人とこれからも生きていかなければならない若い少女がともに達したこの結論に、果たして人生に生きる価値などあるのかと鋭いナイフで自分の倫理観をえぐられるような思いをさせられてしまいました。ミヒャエル・ハネケ、70歳を過ぎてもいまだ衰えぬその負のパワーは凄いです。正直、僕は嫌いですけど(笑)。あと、関係ないけどエヴ役をやった女の子の存在感は凄いですね!むちゃくちゃ可愛くてキュートで、久々に僕のロリコンレーダーにびしばしくる逸材を見つけてしまいました。ファンティーヌ・アルデュアン、これから要注目!! [DVD(字幕)] 6点(2019-06-14 23:37:40) |
5. グッドナイト・マミー(2014)
《ネタバレ》 オーストリア郊外に建つ一軒の豪華な別荘。社会からほとんど隔離されたこの館には、双子の兄弟ルーカスとエリアスが自由気儘に暮らしていた。顔はもちろん背丈も髪型も体型も着ている服もほとんど同じな彼らは、どこに行くにも一緒の仲良し兄弟だ。そんな彼らが住む館に、手術を終えたばかりの母親が久しぶりに帰ってくる。だが、包帯で顔をぐるぐる巻きにされた彼女は以前とは性格ががらりと変わっていた。常に神経を尖らせ、ちょっとしたことに怒りをあらわにし、あろうことか二人に手を上げるまでになってしまったのだ。「あの人は本当のママじゃない」――。そう確信した兄弟はママの本当の正体を探り始める。そんな2人もとある秘密を抱えていて……。パッケージの感じからもっとB級寄りのハリウッド的エンタメ・ホラーだと思って観てみたら、まさかのヨーロッパ系アート作品でちょっとびっくり。冒頭からBGMや具体的な説明は一切なし、ぶつ切りに編集された静かな映像が淡々と続いていき、気軽な感じで見始めた僕は「あぁ、こっち系の映画かぁ」と頭を切り替えるのがなかなか大変でした。と、最初こそその余りに淡々とした展開に眠気が隠し切れなかったのですが、後半、徐々にこの兄弟の背景と狙いが分かってくるにつれ、この作品に漂う不穏な空気にじんわりと冷や汗が…。いやー、この胸糞悪い感じはいかにもヨーロッパ的ですね。胸糞悪映画の巨峰『ファニー・ゲーム』や『マーターズ』を観た時のことを思い出してしまいました。と、確かに完成度は高かったのですが、その2作品に比べるとあまりにお話がシンプル過ぎてやや深みに欠けたのが残念。ホラーでいくのかアートでいくのか、ちょっと軸が明確でない感じもして、僕はそこまで好きにはなれなかったです。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-16 22:37:17) |
6. ピアニスト
《ネタバレ》 「私は音楽一筋で生きてきたわ。覚えておいて、私には感情も欲望もないの。あるとしても、必ず最後は知性が勝る」――。保守的で厳格な母親と2人で暮らし、ほとんど恋愛経験もないまま、これまでずっと独身を通して生きてきた40過ぎの生真面目な音楽教師エリカ。それでも抑えきれない性欲を満足させるため、一人で個室ビデオ店でポルノを鑑賞したり、他人のカーセックスを覗き見ながら放尿したりという、誰も知らない秘密の顔を隠し持っていた。そんな空しい日々を過ごすエリカの元にある日、情熱的な青年ワルターがわざわざ自分にピアノが習いたいと申し出るのだった。いかにも軽佻浮薄な現代の若者といった彼に最初は反発を覚えた彼女だったが、授業を進めていくうちに突然愛の告白をされてしまう。あまりのことに戸惑いを隠せないエリカ。そのことをきっかけに、エリカの心の奥底に溜め込んだ暗い澱のような感情と欲望が徐々に暴走しはじめるのだった……。恋愛にもセックスにも、まして男にもなれていない、そんな誇り高き中年女性エリカの愛と性欲とプライドがいびつに交錯する、いかにもミヒャエル・ハネケ監督らしい歪んだラブストーリー。この監督の作品は何作か観てきて、その人間の酷い感情や欲望、理不尽な暴力を圧倒的な負のエネルギーで映像化する作風には心底うんざりさせられることもしばしばだけど、それでもその高い芸術性は認めざるをえないので、カンヌで初のグランプリを取ったという本作を今回鑑賞してみました。うん、相変わらず鬱ですね~~。もう最後まで絶対に人に見られたくないような自分の恥部を、これでもかこれでもかと見せ付けてくるような暗鬱極まりない作品でございました。愛する青年のモノを欲望のままに咥えたものの馴れていないせいで思わず吐いちゃったエリカが、怒った青年に「お前、口が臭いんだよ!」と追い出されふらふらになりながら歩いて去るシーンなんて、あまりにも鬱過ぎて見てるこっちが吐きそうです(笑)。人間なんて芸術だなんだと言いながら、一皮向けば誰しもこんなもの……、なんという絶望的でシニカルな思想に貫かれた映画なのだろう。それでも、最後にエリカの取った行動には、微かだけど(本当に本当に微かだけど!笑)感情よりも知性が勝った人間の高尚な姿を見たような気がします。 [DVD(字幕)] 7点(2014-07-15 21:27:51) |
7. 白いリボン
《ネタバレ》 第一次大戦前夜、ドイツ郊外にある平凡な田舎町。地主である横柄で嫌味たらしい男爵のもと、村人たちは日夜野良仕事に従事していた。ある日、そんな彼らの一見平凡に見える日常を不穏な出来事が襲い始める。木の幹に巡らせた針金によって村唯一の医者が馬から滑落し、小作農の妻が事故死し、復讐心から彼女の息子がキャベツ畑を無茶苦茶にする。そして、とうとう男爵の幼い息子が暴行されて磔の状態で発見されるという大事件まで発生してしまうのだった。激怒する男爵やおののく村人たちの間に次第に相互不信や悪意が侵食しはじめ、やがて更なる悲劇が村を襲う――。誰もが目を背けたくなるような、人間の悪意や理不尽な現実を圧倒的な負のエネルギーで映像化してきたミヒャエル・ハネケ監督らしい、そんな村人たちの隠された悪意や暴力衝動を美しいモノクロ映像で淡々と描き出すカンヌ映画祭グランプリ受賞作。ずっと僕とは感性が合わないと敬遠してきたハネケ監督の代表作で、しかも2時間20分もあるモノクロ作品ということで、あんまり期待せずに観始めたのだけど、予想外に良い映画でしたね、これ。中盤までは、あまりにも淡々と続くストーリー展開と誰が誰だか分かりにくい登場人物が織り成す複雑な人間関係に辟易していたのですが、どんどんと平穏だった村を侵食しはじめるそんな不穏な空気がモノクロ映像とばっちり嵌ってきて、最後は「なんて深く美しい映画なんだろう」と素直に感動です。男爵も医師も村人たちも、そして無垢だと思われていた子供たちも、それぞれに鬱屈した心を抱え込み、そんな誰かの暴力衝動がやがて酷い悲劇に繋がってゆくのに、その真相は誰にも分からない…。そんな第一次大戦前夜のドイツを覆っていたであろう暗い雰囲気を小さな村の中に象徴的に描き出すことに成功しています。第一次大戦敗北→屈辱的な国家賠償→社会の不安定化→ナチズムの台頭→日独伊同盟→第二次大戦勃発→そして、悲劇的なホロコースト…。誰も全体像を把握できないまま、何かとても悲惨な出来事が起こっていることを誰も正面から認識せずにそんなかつてない悲劇へと突き進んでいったドイツの、萌芽と呼ぶべきものがここにはある。正直、もう一度観るにはかなりのエネルギーがいりますが、淫靡で不穏な美しさに満ちたなかなかの良作。 [DVD(字幕)] 8点(2014-04-15 19:48:44) |
8. 愛、アムール
《ネタバレ》 子供たちも独立し長年仲睦まじく暮らしてきた老夫婦ジョルジュとアンヌ。ところがある日、妻アンヌに不穏な病の兆しが現れる。診断の結果は軽い脳梗塞。だが、簡単に成功するはずだった手術は失敗し、アンヌには半身不随の後遺症が残ることに。失意のうちに妻を自宅へと引き取り献身的に在宅看護する夫ジョルジュだったが、アンヌの病はどんどんと悪化の一途を辿ってゆくのだった――。都会の片隅で次第に追い詰められていく老夫婦の姿を淡々と描いた哀切な人間ドラマ。かつて「ファニー・ゲーム」という、観終わった後に強烈な不快感だけが残り、しかも観客に強烈な不快感を残してやるというこの監督の意図にまんまとハメられたと思うと二重の意味で腹が立つ最低最悪な映画を撮ったミヒャエル・ハネケ監督。もうこいつの映画は二度と観まいと心に誓ったのだけど、一作だけでそう判断するのはフェアではないと思い、カンヌでグランプリを取ったという今作をあらためて鑑賞してみました。舞台は何処にでもあるようなアパートの一室のみ、登場人物もほとんど老夫婦二人のみという挑戦的な演出、そして内容の方も老々介護というとてもじゃないが胸踊るような楽しいテーマとは言いがたい作品なのに、最後まで観客の興味を持続させ2時間強という長い上映時間を淡々と見せ切るところは、悔しいけど彼の才覚を認めざるをえませんね。特に主演俳優2人の真に迫った熱演には素直に圧倒されました。とは言え「ファニー・ゲーム」同様、今回も見れば見るほど気が滅入るような理不尽な現実をひたすら観客の前に提示するという、この監督の(ラース・フォン・トリアーとはまた違ったタイプの)圧倒的な負のエネルギーは確かに凄いとは思うし、その芸術的価値も充分に認めるけれど、やっぱり積極的に次を観たいとは思えません。どうぞご自由にやっててくださいといった感じです(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2014-02-02 10:26:18) |
9. 360
《ネタバレ》 芸術の都、ウィーン。大金を得るため、高級売春クラブで働くことを決めたブランカ。最初についた客に会いにホテルのバーへと向かうと、そこには妻のいる身でありながら初めて女を買おうとするエリートサラリーマンのマイケルが待っていた。一方、ロンドンで働くマイケルの妻は若い写真家との不倫に苦しんでいた。物語の語り手は、そこからその若い写真家と別れてブラジルへと帰ることを決めた恋人へとバトンタッチし、さらには飛行機で彼女と偶然隣り合わせた遠い過去に失踪した自分の娘を捜す老人、自分のなかに蠢く歪んだ欲望に苦しむ出所したばかりの元性犯罪者、同僚で人妻でもある女性への恋に苦悩する歯科医、ボスから犬のような扱いを受けているチンピラマフィア、と次々と移行していく。それにつれて舞台も、ウィーンから、ロンドン、パリ、ロシア、アメリカの各都市、ブラジルのビーチへとまるで奔流する大河のように世界を駆け巡り、最後は広大な大海原へと還元するかの如くウィーンの売春婦へと360度の円環を閉じてゆく。「シティオブゴット」で鮮烈なデビューを飾ったメイレレス監督が、豪華な俳優陣を起用しこれまでに培ってきた技巧を駆使して描き出した群像劇。と、聞くととても壮大でドラマティックな作品を思い浮かべるけど、今作は意表を突くほど地味な展開が最後まで淡々と続きます。それなのに相変わらずの見事なストーリーテリングで、最後まで観客を飽きさせないところはさすがでした。うまくいかない男と女、親と子、上司と部下、それでも人生は一度きりと幸せになるチャンスを必死に手に入れようとする人々の姿が、観終わったあとも良い余韻となって心に残ります。豪華俳優陣のわりに、あまりにも地味すぎて世間ではいまいち評判にならなかった作品みたいだけど、僕にはなかなかの良品に思えました。 [DVD(字幕)] 7点(2014-01-27 00:14:33) |
10. ファニーゲーム U.S.A.
《ネタバレ》 奇をてらった映画というだけで、ほとんど評価に値しない。なぜなら、延々と繰り返されるこの暴力描写にいっさい思想が感じられないからだ。世の中には、もっとこのような救いのない暴力は確実に存在するし、もっと酷い現実だってある。それを確認したいならドキュメンタリーを観ればいいだけの話。少なくとも、人間の主観で作られる映画という表現方法を採るのであれば、そこには監督がどうしても観客に伝えたい思想がなければならないはず。この監督は、そんな基本的なこともわきまえずに、ただ「どう、こんな暴力的な映像撮ってみましたけど」と、『時計仕掛けのオレンジ』のように思想的な素晴らしい映画の、劣悪なイミテーションを見せられてもこちらとしては失笑するしかない。 [DVD(字幕)] 2点(2012-12-18 22:34:50) |
11. ダーウィンの悪夢
《ネタバレ》 言いたいことは分かるけど、で、だから?という印象。ほらほら世界にはこんなにもグロテスクで不条理な現実があるんですよ、なんてことをわざわざ教えられてもじゃあどうすればいいんだという疑問に、この映画はなにも応えていない。村上龍がコメントを寄せていたから、もっと「シティ・オブ・ゴット」のような、どんな劣悪な環境のなかでも力強く生きる人間の姿を描いたドキュメンタリーだろうと期待していただけに残念。 [DVD(字幕)] 3点(2012-04-24 13:31:20) |