1. モーターサイクル・ダイアリーズ
「アメリカ」と聞けば、ぼくたちは、すぐに「アメリカ合衆国」のことだと思ってしまう。しかし「アメリカ」とは、南北にまたがる広大な大陸(=土地)に与えられた名前でもあるのだった。そしてまだアルゼンチンの若い医大生だったエルネスト・ゲバラが、友人とともに敢行した冒険旅行のなかで見出したもの。それは、常に虐げられ“搾取”される「(南)アメリカ」という土地と人々という現実に他ならない…。 この映画は、50年前にゲバラたちが見た風景を、あらためて映し出す。それらは、ゲバラが眼にした時とほとんど変わらないのだろう。同じく、差別と貧困にあえぐ先住民や、工事現場での苛酷な労働を余儀なくされる人々の姿もまた、きっと当時のままだ。ウォルター・サレス監督は、まるでドキュメンタリ-作品であるかのようにナマの土地を、人間たちをフィルムにおさめていくことで、そういった「現実」を静かに告発する。そうしてぼくたちは、ゲバラが見た・感じた・考えたままの「現実」、今も変わることのない南アメリカの「現実」と直面することになるのだ。 …ただ、このハンサムで喘息持ちの理想主義者に過ぎなかったひとりの青年エルネストが、後に真の「革命家」チェ・ゲバラになっていったことを、本作は描くものでなかったこと。そのことだけは、やはり少し残念に思う。ゲバラがこの旅を通じて見出したもの、それは“ふたつの「アメリカ」”だったのではないか。ひとつは土地としての「アメリカ」であり、もうひとつはそんな土地を搾取し続ける国家としての「アメリカ」。その構図と直面したことが、彼を“アクティヴィスト(実践的革命家)”へと成長させたはずだ。その“ふたつの「アメリカ」”の関係を、本作は巧妙に避けている。確かに後半のハンセン病患者たちとの交流を描くシーンは、美しく感動的だろう。が、あれだけでは、ゲバラとは単なる「理想主義者」のままにしか見えない。そして「理想主義者」とは、決して偉大な「革命家」たり得ないのだ…。 それでも、映画のなかのナレーションにもある通り、これは「偉業の物語ではない」のかもしれないが、「偉大な“魂”の物語」であることは間違いないだろう。本当に、こんなにも“美しい人”を、ぼくは映画のなかで久しぶりに見た気がする。そのことだけでも、この作品に出会えたことを心から喜びたいと思う。 7点(2004-10-27 17:23:14)(良:2票) |