1. スプライス
《ネタバレ》 観ているとどうしても、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督と同じくカナダ出身の先輩監督の名前が浮かんでくる。ああ、これって、デヴィッド・クローネンバーグだなあ、と。 例えばあの『ザ・フライ』なんてのは妙な作品で、映画が始まったら殆ど前置きも何もなく、いきなりジェフ・ゴールドブラムが「オレって凄い研究してるんだぜ」みたいなことをジーナ・デイヴィスに吹聴している。そんでもって物語はとっとと禁断の実験へとなだれ込み、あとはひたすら、主人公の体に生じた異常が描かれていきます。登場人物がごく限られた、割と「内輪」のお話でして、これらの人物はそれぞれ、どこかイヤな部分があり倫理的な問題を抱えているにせよ、誰も悪人という程の人はおらず、なのにメチャクチャ悲惨なお話が、その特異な映像でもってこれでもか綴られていって。 ただただそこにあるのは、決して引き返すことのできない、残酷な変化。 この『スプライス』でもまるでこの『ザ・フライ』を踏襲するかのように、エイドリアン・ブロディとサラ・ポーリーはあれよあれよという間に異常な実験へと突き進んでいって、あとは、その実験がもたらした奇妙な日々が描かれます。人間に似ているけれども、人間に非ざるもの。それが、社会とどう関わるか、どう排斥されるか、などといったことはまるで描かれず、そこにあるのはただ、この3人による「内輪」のお話。ただしその中で展開される変化というものは、我々の予想を超える速度で、我々の予想ができないような方向に進んでいく。いや、マジでついていけん。と言いつつ、心のどこかに「ああ、やっぱりそうなるのか・・・」という思いもあって。こういう不条理感がまた、クローネンバーグ作品を思い起こさせます。 この「ドレン」なる生命体の描き方、幼少時の姿が登場した際は違和感ありまくりでギョッとさせられ、何だか映画が間違った方向に向かっているんじゃないか、と心配になりますが、成長すれば違和感も無くなり・・・ということは勿論無くって、違和感はずっと消えないし「間違った方向」感も消えないんですけれども、一方で、別の危うさも、何となく感じさせる・・・つまりそれが、「ああ、やっぱりそうなるのか・・・」に繋がる訳で、結局のところ映画が向かうのは、我々が予想できない方向というよりも、我々が予想したくなかった方向。 という訳で、ヒジョーに残念ではあるのだけど、「ドレン」の描写は結果的に、上手かった、ということになります。 全体的には、クローネンバーグ作品を思い起こさせること自体は悪くないとしても、その亜流止まりであるように感じさせるのは、少し残念でした。ラストもぶった切るように終わってしまう『ザ・フライ』と比べると、こちらの方がナンボがオチをつけようとはしてますが、言tっていることは同じという(笑)。変な続編が作られちゃっても知らないよ。いや、もうそれは無さそうか? それにしても、やはりというか何と言うか、エイドリアン・ブロディは役に立たんヤツを演じるとピカイチですな。演技かどうか知らんけど。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-11-17 06:10:15) |
2. CURED キュアード
《ネタバレ》 感染したらゾンビみたいになっちゃう病気。という設定は、『バイオ・インフェルノ』あたりが元祖なのかどうなのか、ゾンビ映画界で脈々と受け継がれる定番のようになっていて、これ自体が一種の病気、のような。 しかしこの作品の一風変わっている点は、その病気が完治する場合がある、という点。しかし完治したとて、周囲からの冷たい視線に晒され続ける。そういう、ゾンビ・パニックその後、みたいな世界を描いています。おそらくはこの作品では、「社会の分断」という問題を描く一般的な象徴として、この病気が設定されたのでしょうけれど、この作品が制作された後の実世界において、新型コロナのパンデミック騒動が巻き起こり、実際に差別や分断が発生・・・という訳で、象徴(隠喩)ではなく予言(直喩)であるかのような作品となっています。 いや、それだけではなく、病気が完治しても本人には、ゾンビ化して他人を襲った際の記憶が残り続けている、という設定。前世の因縁、あるいは人間の原罪。といったものも感じさせます。 だもんで作品自体も、かなり鬱屈したような、閉塞感に満ちた雰囲気で作られています。登場人物たちは、ある程度立場を同じくしてもいるのだけど、緊密な連携というには程遠く、それぞれの立場でそれぞれの接点を持ちつつも、全体としてはどこか、空虚。 そんな中でやがて、分断が分断を呼び、カタストロフへと向かうことになるクライマックス。静から動への移行、しかしそこには常に虚無感に裏打ちがあり、結局は居場所を失い「ここではない、どこか」に向かわざるを得ないラスト。これは基本的には「死」と読み替えてもいいと思いますが、これを、ただただ絶望と受け止めるか、それとも将来へのかすかな希望もそこに見出すか。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-11-10 08:06:03) |
3. 密告(1943)
《ネタバレ》 それにしてもこの、全編通じての不穏な空気。ただ事ではありません。 「からす」を名乗る人物が次々にばらまく怪文書。そこには、主人公である医師への糾弾が綴られている。となると、映画の描き方としては例えばこれを医師の目から描き、追い詰められた彼の焦りなどでもって、ハラハラドキドキ、ってなテイストもあり得ると思うんですが、この作品はちょっと違う。 主人公はむしろ冷静にも見え、いやどこか冷たい人物に見える。実際、まったくの清廉潔白な人物という訳でもないらしい。作品を見ていると、この人が被害者であることは間違いなさそうなのだけど、それが判っててもなお、「からす」の正体はコイツなんじゃないの、と疑いたくなるくらい、突き放した描写になっています。 真犯人は誰なのか。終盤は二転三転し、一応は真相が明かされて物語に決着はつきますが、単純な安堵感には全く結びつきません。むしろ、「からす」はこの人ひとりではなく無数にいるんじゃないか、とも思わせるし、因果応報ともいうべきラストも、どこかしっくりきません。言いようによっては「死人に口無し」とも言える訳で。というぐらい、ラストシーンが不気味。立ち去る後姿は、まさに死神のそれ。 メタ・ミステリ、あるいはアンチ・ミステリの先駆け、とでも言いたくなるような。 全体の不穏な空気感は、作品中のさまざまなイメージによってももたらされますが、私が特に印象に残ったのは教会で怪文書が降ってくるシーンですかね。人々が次々に上を視線を向けると、一枚の紙が舞い降りてくる。静的な大空間に、劇的な要素が撃ち込まれる瞬間。他には、「割れた鏡」なんかも、実にイヤらしいです。街が騒動に包まれ、女性が走る姿を傾いたカメラが捉え、彼女が家に辿りつくと、そこに待ち受けるのは、割れた鏡に写る自分の歪んだ顔。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-10-06 07:03:52) |
4. 4匹の蝿
《ネタバレ》 夜の公園でオバサンが謎の人物に襲われる場面。公園の生垣の間をオバサンが逃げ回ると、まるでそこが立体迷路であるかのような、シャイニングチックなシーンに見えてきて、するとそこには何となくペンデレツキチックな気がしないでもない鋭い音楽が被さる。もちろんアルジェントがキューブリックをパクった訳でも何でもなく、そもそもこの映画が作られた時にはキングの原作小説すら世に出ていない訳で。さすが、ダリオ・アルジェント。 などと、無理して褒めてくれとはいいませんけれども。 その前の場面、オバサンが公園のベンチで誰かを待ち続ける姿が、不穏な空気を伴ってやたら長く描かれます。さらにその前には、オバサンが誰かと電話する場面。これがまた、カメラが電話線を追いかけていって我々を会話先の謎の人物のところまでいざなうような、奇妙な演出になってます。こういったシーンが醸し出す得体の知れない空気感の中、ついに起こる惨劇、という訳ですが、突然襲われるにせよ何にせよ、被害者が殺されること自体よりも、殺害に向けてジワジワと追い詰められていく姿、それを描くことが、主眼。アルジェントらしさ。オバサンの死はカメラの前で直接描写されはしないけれど、ジワジワ感は充分です。 他の被害者も、ロクな殺され方をしません。いや、映画の中でジワジワ死んでいかないようなヤツは要注意。実は生きていました、ってなことになり、改めて死んでもらうことになってしまう・・・。 ミステリ仕立ての作品ながら、謎解きよりは、幻想シーンを含め、ヤな感じを醸し出すことに重点が置かれていて、真犯人が明らかになるくだりも「そんなアホな」ではありますが、タイトルの「4匹の蠅」にも強引ながらちゃんと意味があったりするのが、作品の意外性。さらにこの作品、陰惨な内容ながら、トボけた探偵とか、犯人と間違えられて主人公にタコ殴りにされる気の毒な郵便配達とか、ユーモアも盛り込まれていたりするが、さらなる意外性。 真犯人は誰なのか。これが一番、意外性が無いかもしれないけれど(笑)、その最期は誰の死よりも唐突かつ派手に描かれていて、これぞミステリにおける犯人の特権。先ほど、ミステリ仕立て、などと言いましたが、謎解きだけがミステリではなく、怪しさと妖しさを兼ね備えたこの作品もまた、立派なミステリ作品と言えるのではないかと。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-08-25 17:14:19) |
5. ダークグラス
ダリオ・アルジェント監督は1940年生まれとのことで、ウチの両親とほぼ同じというか、少しだけさらに上ですぜ。そんな爺さんが殺人鬼モノの映画撮ってるなんて、想像を絶する話で、もうそれだけで眩暈がしてくる。。。 まあ、一般人と比較してもしょうがないのであって、さすがアルジェント、としか言いようがありません。相も変わらず映画の中で血をぶちまけ、人を殺し、女性を襲わせる。相変わらずエゲツない。正直、特に目新しい点も無いのですが、奇をてらうこともなく、変な色気も出さず(ハダカは出てくるけどそういう意味ではなく)、もはや枯れた味わいとでもいいますか。奇妙な印象を残す要素をしっかり盛り込みつつも、それが過剰にならず適度に抑えられていて、自己主張し過ぎないのがよろしいかと。もはやショック映画を褒めてるのか懐石料理を褒めてるのかよくわからん文章になってきましたが。 冒頭、ヒロインの周りの人たちが皆、空を見上げていて、日蝕が起きる、というシーンですが、日蝕だから別にどうしたという訳ではなく、どうという伏線がある訳でも無く、ただ、何だかイヤな予感がする、という場面。彼女の服も口紅もやたらと紅く、そういうのが妙に印象に残る。日蝕なのでサングラス。ココは何となく、彼女が視力を失うこの後の物語を暗示してます。 で、ラストの空港のシーン。彼女はすっかり地味な出で立ちですが、やっぱり、少年のカバンとか、彼を迎えにきた女性の服とかが、やたらと紅かったりする。やや悪趣味な色彩がやっぱりアルジェントらしさ。 イヌが人間を襲ったりするのも、ああ、そういうのあったよなあ、とか思いつつ。 蛇がウジャウジャ出てくるのも、わけがわからなくって、イイじゃないですか。蛇でもいいし、ウジ虫でもいいし、針金の山だってかまわない。 結局、こういうのを一般には、マンネリとか劣化版とかいうのかもしれないけれど、こんな映画に、爺さんが生涯かけてここまで一生懸命取り組んでるのを、見過ごすわけにいかないですよね! [インターネット(字幕)] 7点(2024-08-14 18:22:46) |
6. アルティメット
映画冒頭から徹頭徹尾ガラが悪く、徹頭徹尾、アクションを展開。主人公が必死にヤクを始末しようとしていて、何が何やら・・・ではあるのですが、細かい話はどうでもよくって、おおよその状況の見当がつけば充分。悪いヤツはとことん悪くって、主人公はとことんスピーディ、という、それだけで充分。超人的な身のこなしで、その移動には上下左右関係なく、建物は3次元の迷路と化す。彼を追う悪玉たちにもついゴクロウサマと言いたくなる、圧巻の活劇。カメラ(=演出)もそれを必死で追いかける訳ですが、むしろ、引いたカメラで飛び跳ねる彼の姿を捉えた瞬間に、その凄さが最も伝わってきます。 で、舞台はいきなり半年後に飛んで、するとここにもまた、凄いヤツがもう一人。フランスって、こんな凄いヤツだらけだったのか? とにかく、この二人が組む、という、バディ・ムービー。だけど、二人ともに手も焼いても食えない連中、ということだけが伝わればそれでよいので、ほどほどにモメて、後は深入りしない。その方が、もともと有って無いようなストーリーが、それなりに妙な方向へ転がっていくというもの。 ひたすら目まぐるしいアクション、それをゴチャつかせない程度に、カメラが捉えていきます。もう少しメリハリがあってもいいか、とも思わんではないけれど、とにかく突っ走っていく。治安が悪化しまくった近未来、という設定も、この破天荒なアクションにマッチしています。なけなしのストーリーに申し訳程度に入れたヒネリが、映画の中で一番ショボく感じてしまうんですけどね。とは言えこれも、クライマックスのどうでもいい死闘を導き出すための方便。 痛快作、と言ってよいでしょう。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-05-04 07:42:03) |
7. クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち
《ネタバレ》 宗教チックで秘密結社チックな猟奇殺人事件、それを捜査する刑事。という、いかにも「ジャンル映画で一本、でっち上げました」というだけの作品っぽい感じではあるのですが、しかし。 中盤の、修道士姿の曲者との間に演じられる追跡劇の、しつこいこと。こういうのはやっぱり、楽しいですね。 マジノ線に残されたトーチカからの銃撃、なんてのも、地の利を活かしている、と言うと変ですが、なかなか意表をついています。あらためて、ここは昔、戦場だったんだなあ、と。 終盤、襲い来る鉄砲水から、走って逃げる。このシーンもやたら長くって、いや、あの水の勢いから、そこまで走りまくって逃げ切ろうなんて、そりゃ無理でしょ、と思うのですが、映画だからできちゃう、やってのけちゃう。いや、ホント、厚かましい演出。でもこれがまた、楽しいもんなのです。 という、荒唐無稽な冒険アクション風味をまぶした、ミステリに仕上がっていて、いやもはやミステリでも無い気もしますが、とにかく一筋縄ではいかないところを、見せてくれます。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-01-13 18:01:24) |
8. ホドロフスキーのDUNE
結局は製作されなかった実在しないSF超大作を、「まさに傑作である」とドキュメンタリ冒頭からやたら誉めそやす。これだけでも充分、聞いてて不安になってきますが、その後続く証言を聞いているうちに、その熱量に圧倒されて、不安も消し飛んでしまいます。もっとも、実際には作られなかったんだから、不安に思う必要は無いのですが。 しかし、いやコレ、もしも作られちゃったりしていたら、大変な事態に陥っていたんじゃなかろうか、このホドロフスキー監督作の『DUNE』。ヤバそうな臭いが、プンプンと。 自分が目指すのはあくまで芸術だ、ということで、芸術のためなら採算度外視、成算までも度外視・・・という訳にもいかず、サルバドール・ダリ相手のギャラ交渉のくだりではチャッカリしたところも見せるけれど、基本的にはすべてが規格外。このとんでもないプロジェクトには、仲間となる「戦士」が必要だ、ということで、各界に手を伸ばし、仲間に引き入れるべくアタックする。そのメンバー選定が、話を聞く限り、なんだかその場の思い付きに過ぎないようにも思えてくるのですが、思い付きであろうがなかろうがとにかく、これぞと思えば早速アタックし、次々に仲間に引き入れてしまうこの情熱と行動力。恐るべきものがあります。 早く誰かが止めなきゃいけなかったのかもしれないけれど、誰も止めず、あるいは止められず、ホドロフスキーの妄想は、具体的な形を伴ったものとなっていく。商業的には絶対に大コケしそうなこの企画、芸術的にも「?」な感じが拭えないこの企画、このまま行くとあわや実現しかねないところで、結局ストップがかかってしまい、幻となってしまう。芸術のためなら一切妥協しないという姿勢が、プロジェクトをここまで進めた原動力でもあると同時に、それを葬ってしまった原因にもなっている訳で。必然と言えば必然のような気もするけれど、それを思うと、あのナゾの「太陽の塔」を建設する一大プロジェクトをまとめ上げ、完成させた岡本太郎は、やっぱり凄い人だったんだなあ、と。 この作品、ドキュメンタリ映画というよりは、メイキングビデオを見せられている感もありますが、普通のメイキングと違って、本編を我々は見ていないし、そもそも見ることができない、という点で興味をそそられるし、聞けば聞く程とんでもないこの作品に、ついつい思いを馳せてしまいます。インタビュイーであるホドロフスキーが話しているうちに興奮していく様を捉えているのがまた、面白くて。冷静な中にも残念そうな気持ちを垣間見せる息子との対比。 この企画が、いかにその後の大ヒット超大作に影響を与えたか、というくだりは、要するに「パクられた」と言っているのですが、これまたこじつけのようで胡散臭くて、しかし言われてみればそうかも知れない、とも感じさせて、これもまた妄想の楽しさよ。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-09-03 07:22:37) |
9. パリは燃えているか
乱暴な感想ですが、こういう映画、やっぱりこの「約3時間」という長さが、いいなあ、と思っちゃいます。描いても描いても描き切れない、という、この長さ。 で、また、この「市街戦」というやつに、惹かれてしまう。日常であるはずの街の風景が、戦場と化す。大規模な破壊シーンなどは出てきませんけど、パリでのロケ撮影をこれだけやったのだから、やっぱり大したもの。かつて戦場となったこの街、あわや灰燼となり果てかねなかったこの街で、その戦いを描いて見せる。街の歴史、歴史を抱えた街。その歴史があってこそ、今の街がある。 不足を言えばキリがないだろうけれど、充分に堪能させられる、約3時間でした。 とは言えやっぱり、セリフは各国語でやって欲しかったなあ。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-01-29 20:40:04) |
10. 狂気の愛
最後にテロップで、「この作品はドストエフスキーの『白痴』にインスパイアされた」とかいうのが出てきて。まだ読んでないんですけど、ホントにこんなオハナシだと信じていいんですかね。責任取ってくれますか?(笑) でも実際、この映画を見てると何だかまるで、メロディはきっとどこかにあるんだろうけどそこにメチャクチャな対旋律や伴奏を重ねたもんで全くメロディが聴き取れなくなった音楽、を聞かされてるような。 しかし、必ずしもそれが悪いというワケではなくって。 必ずしもイイとも限らないけど。 最初、無軌道な若者たちが登場し、時計仕掛けの何とやら、みたいなノリかと思ったら、それよりもずっと要領を得ない展開が続くのは確か。ではあるのですが、よくワカランながらも画面上でイロイロな事象が発生するもんで、「次は何が起きるんだろう」と、ついつい引き込まれてしまう。銃撃だのカーチェイスだのはアメリカ映画ほどこなれてないにしても、暴力や血といったものが、しっかりと映画のスパイスになってます。街の風景の切り取り方の意外性なども見どころ。などといったあたり、好感が持てます。 それ以外の点はあまり好感持てませんけどね(笑)。 ソフィー・マルソーは『フォート・サガン』で少しだけヌードを披露してましたが、この作品ではいよいよ大胆に。実際、不思議な魅力を放ってて、個人的には、もう少し出番が多かったらよかったのに、と。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-07-30 18:21:05) |
11. カットスロート・アイランド
《ネタバレ》 以前は赤字映画の代表作みたいに言われてましてけれども、昨今、大作映画の製作費はハネ上がる一方で、なんだか(投資対象としての映画、という意味で)リスクヘッジの体制みたいなモノも出来てきてるように思われるので、いずれは本作の赤字なんて大した話ではなくなるんでしょう・・・・・・でもやっぱり、そんなに赤字だと聞くと、どんなにヒドい作品なのか気になってしまうのか、人のサガ。と言うわけで、それはそれ、一種のギミックとして、赤字映画の看板を背負っていってもらえばいいのではないか、と。 などと思いながら観ると、何がそこまでヒドかったのか、少しばかり肩透かしにあう映画、ではあります。 いやまあ、アクションシーンでむやみにスローモーションを使うあたりとか、いかにもイケてない印象はありますけどね。でも、海賊らしい海賊映画、冒険活劇として、そんなにダメとも思えない。いや、作品のダメなところばかり注目したらやっぱりダメなんだろうけど、ジーナ・デイヴィス、マシュー・モディン、主役二人の活躍ぶりは、作品の欠点を補って余りあるんじゃないでしょうか。 二人が断崖絶壁を落ちるシーン、岩に激突する寸前で押し寄せてきた波に九死に一生を得るのですが、ここで「いや、でも、即死でしょ」と賢明にもツッコむか、「あははは、なるほど!」と無邪気に楽しめるかで、作品に対する印象もかなり変わってくるのではないか、と。 [インターネット(吹替)] 7点(2022-07-24 14:56:43) |
12. シューター
安っぽいアクション映画、ではあるのですが、これがなかなかの拾いモノ。こういうのを拾いモノなどと言ってると、「っまた、もう、こんなゴミばかり拾ってきて!」と怒られそう。幼稚園くらいの男の子がよくママに叱られるパターンですね。 主な舞台はチェコのプラハ。きっとロケ費用が安かっただけなんじゃないの、という気もするけど、何とも言えぬ田舎くさい雰囲気があって、作品の特徴になってます。 監督がテッド・コッチェフ、ってのがまず嬉しくなります。いや、何が嬉しいのかと訊かれても答えに窮しますが、「ランボー」「地獄の七人」以外にもちゃんと仕事してるんだなあ、と。しかも今回の主演は人間核弾頭こと、ドルフ・ラングレン。なんと絶妙な組み合わせ。 そのドルフ・ラングレン、アクション映画なので一応はアクションやってますが、とても極真空手の使い手とは思えない、ノッソリとした印象。その巨体に加えて持ち前のイカツイ顔立ち、雰囲気的にはニック・ノルティみたいな、不器用そうな感じ。 そこに少し、ラブ・ロマンスっぽさを絡めてくるのが、不器用さを際立たせて、いいんですねえ。哀愁もあって。 超人的なアクション、という路線ではない代わり、ビルの壁面だとか、屋根の上だとか、高さを利用した活劇を演じているのが、これまた見せ場になってます。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-06-19 13:55:43) |
13. ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!
《ネタバレ》 ちょっと、狙いすぎかなあ、と。 そんなこと言って、狙って何が悪いのよ、と怒られそうですが。 サイモン・ペッグが、優秀過ぎるくらい優秀な警官、という無理のある設定に、銃を振りかざし彼の前に立ち塞がるジジババ軍団。というコレ、単なる「ネタ」であって、肝心のアクションシーンが細切れショットを寄せ集めたゴマカシになっちゃったのでは仕方がない。いや、結構ガンバってアクションをこなしている部分があるのも何となくワカルのですが。 ギャグも伏線も、作為が透けて見えて、ちとクドくもあるかなあ、と。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-04-12 22:42:24) |
14. 馬を放つ
《ネタバレ》 主人公のオジサン。結構、普通のヒトなんですよね。ツケで茶を飲んで、ついでに店の女性と浮気寸前、なんとか踏みとどまったりして。ちょっとした事件もある、普通の日常。 一方でオジサンは、他人が飼ってる馬をこっそり逃がしてしまう、という妙なクセがある。もちろんこれは犯罪。しかし、その背景には、馬とともにノビノビと暮らしてきた、遊牧民としての民族性みたいなものが、オジサンの心の一角を占めている、というのがあって。 民族の誇り。それは別に、意味も無く自分たちを持ち上げて自慢することなんかじゃない(そこは勘違いしちゃいけない点)。先祖から受け継いだものに対する、責任感、とでも言えばよいか。 しかし、誰もが同じ責任感を共有している訳じゃなく、時代は変わり、価値観も変わり、揺らぎが生じる。オジサンはいささか、ラジカルに過ぎたのかもしれない。けれど、それをただ排除すればいいのか? オジサンの正体は、実はこの映画の監督さんで(笑)、やはり、祖国の美しい景色を、飾ることなく在るがまま、しかし真摯に映画へと焼き付けています。主人公が映写技師だったというエピソードもまた、映画愛の表れのようでもあり、フィルムに収められた「古き良き時代」(イヤでもここには「良き」が付いてしまう)に対する郷愁の表れのようでもあり。 ラストは一種の悲劇、ではありますが、イマイチ頼りない主人公の息子が、主人公の何かを受け取ったのかもしれない、ということを微かに感じさせて、映画を締めくくります。 [インターネット(字幕)] 9点(2022-03-13 12:30:35) |
15. スペシャリスト(1969)
主人公が一匹狼的なガンマン、規格外の存在、世俗のゴタゴタからは一線を画した男、異邦人・・・ ってのはいいんですけど、それを象徴するクライマックスが「大量のケツ」って。 気持ちはワカランでもないけど、イマイチ見栄えがしない・・・。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2022-02-13 15:05:08) |
16. 去年マリエンバートで
この作品を見てると、何となくムンクの絵画を想い出しちゃったりします。例えばあの、「生命のダンス」の、生命感の無さ(笑)。 映画にしては人物の動きが乏しく(まるで調度の一つとして存在するような)、しかしカメラはその壮麗ながらも空虚な雰囲気の中を、緩やかに動き続けたりして、どこまでも、落ち着かない感覚。噛み合わない視線。 話によれば、一応は整合性みたいなものを内在しているらしく、謎解きをすれば出来なくは無い、というコトなのかも知れないけれど、私のような不真面目な人間には手に余るので、分析してみようなんて気は全く起こりません。例えば、セリーがいくら厳格なルールに基づく作曲技法であったとしても、それが聴き取れないのでは、如何ともし難いワケで・・・。 菊地秀行さんが著書(「怪奇映画ぎゃらりい」)の中で、怪奇映画ベスト100の一本としてこの作品を挙げてたような記憶が何となくあるのですが、確かにこの作品、そういう楽しみ方が一番楽しめるような気がします。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-01-30 10:07:54)(良:1票) |
17. 5時から7時までのクレオ
自分はガンなのではないか、と不安を感じている女性歌手の、診断結果ご出るまでのひと時。 冒頭、占いで悪い相が出たもんで不安になっちゃいました、ってんだから、カルメンじゃあるまいし。イマイチ深刻さもなく、階段を降りる姿からは早くも不安の影が薄れてきて。 しかし機嫌良さそうにしてるのか、と思うと、何かにつけて縁起のよろしくないものを目撃し、またへコんでしまう。カエルを飲む人間ポンプのオジサン(←ヘタクソ)も、縁起が良くない部類に入るんですかねー。 本人は不安なんでしょうが、見てて何となく、笑ってしまう。ご愁傷さま。 さまざまな街の光景、人の姿が脈絡無く登場し、そうは言っても本人にとってはカウントダウンの真っ最中。というほどの切実さも無いのだけれど、些細な事物や出来事が画面に次々と現れるうちに、気がつくと時間が迫ってきて。 都会の生活って、こんなもんでしょ、、、? [インターネット(字幕)] 8点(2022-01-29 12:26:18)(良:1票) |
18. 氷の微笑
《ネタバレ》 映画における濡れ場というものは、個人的には「お金のかからないスペクタクル」だと思っており、こういう大作枠の作品がやるのはズルくないかい?とも思うのですが、別に反対はしません、ハイ。ついでに言うと濡れ場というものは、新人女優がやればご褒美に新人賞の候補になるし、くすぶっている中堅女優がやれば「これで大女優の仲間入り」という自信だけは持つことができる、という利点もあって。そういう意味では、一見似てないとは言え、シャロン・ストーンと川島なお美にはどこか共通点を感じてしまうし、それどころかマイケル・ダグラスと古谷一行に何か近いものを感じてしまうのは、これは一体どうしたことか。 それはともかく。シャロン・ストーンの謎めいた感じは、ズバリ、イイと思います。真相の意外性よりも過程の意外性、それが作品の魅力。 結局、この映画に言わんとしていることは要するに、「人間誰しも、今日はたまたまアイスピックで刺されなかったけど、明日はわからんよ」ということですかね。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-12-04 14:45:55) |
19. 薔薇の名前
《ネタバレ》 サスペンス映画の作り手としてのジャン=ジャック・アノー監督って、どうなんですかね。ここぞという場面で画面をゴチャゴチャさせるだけであまり緊迫感を感じないのですが。 しかしこの作品の魅力は何といっても、この雰囲気、中世の独特の雰囲気、宗教に縛られた閉塞感がもたらすアヤシげな雰囲気。ですね。 オカルトじゃないんだけど、どこかオドロオドロしくて、何が起きるか分からない。そして発生する連続殺人事件、その謎解きに挑戦するのが、ショーン・コネリー。このヒトが演じるとどんな役でもチョビっとだけ頼りなく見えてしまうのは、何故なんでしょうね。 火炙りの刑が進められるその向こうで発生する大火災、というクライマックスも見応えがあって、この時代背景、この舞台背景があってこその盛り上がりを見せてくれます。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-10-17 14:06:31) |
20. パージ:アナーキー
年に一度、犯罪が許され人間狩りの殺戮が行われる。実際のアメリカの銃社会においても、「私は銃所持に反対です」と言ってみたところで自分だけが安全になるわけでもなし、結局は何らかの形でリスクに向き合わざるを得なくなる。一種の寓話みたいなところがあって。 この設定からは、色んなバリエーションが考えられるよね、ということで、前作が自宅での攻防戦、「わらの犬」的な状況を設定したのに対し、第2作ではパージ開始までに帰宅できず襲撃の危機にさらされる、という設定から始って、今回はちょっと「ウォリアーズ」的、とでも言いますか。 前作が当たってそれなりに儲けたのか、第2作は還元セールっぽく、肉付けもしっかりしてパワーアップした感はありますが、やはり前作の閉鎖系の籠城モノには独特の緊張感があり、今回の開放系の筋立ては少し分が悪い印象。次第に次第に窮地へ落ち込んでいく、というようなコワさがあまり無く、一作目のインパクトを超えるには、さらに工夫が必要そう。 不安感の弱さ。緊張と緩和の弱さ。せめて夜明けぐらいはもう少し印象的に描いてくれたなら。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-08-29 09:44:54)(良:1票) |