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1.  ナチス第三の男
ナチスものを見ると、当たり前だけどどうしようもなく落ち込んでしまう。 これが本当に現実に起こったことなのかと、毎回毎回、史実を恨めしく思ってしまう。 しかもこの作品、フランス・イギリス・ベルギーの3国が製作していて、ドイツは全く絡んでいない。セリフも全て英語だし。 ドイツ人の若者たちは、こういう映画を真正面から鑑賞できるのかなあ。 決して風化させてはいけないとはいいながら、さすがに同情してしまう。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-08-07 00:03:03)
2.  ブルー・リベンジ (2013) 《ネタバレ》 
冒頭からのけぞる展開。とある囚人が司法取引によって刑期を全うせずに釈放される。2人も殺害しているのに? アメリカのサスペンス映画では「司法取引」は当たり前のように出てくるし、まあそんなものかとこれまで何となく思っていたけれど、「犯罪者を逮捕・収監するたび刑期短縮の司法取引を延々と繰り返せば、ドミノ倒しのような有様になる。そんな状況下で『人を逮捕する』という行為に果たして意義があるのか?」と、本作で初めて疑問に思ってしまった。  警官がドワイトに余計な進言を入れているように思えるが、犯罪率の高いお国柄ではやむを得ないアドバイスなのかもしれない。加害者が釈放されたことを知らずに暮らすリスクは、おそらく私たちが想像する以上に大きいのかもしれない。それにしても、一般市民がマフィアにしか見えないおぞましさ。今自分が見ている映画は『ゴッドファーザー』じゃないはずだと何度も頭の中で戸惑っていた。社会的地位もそこそこ築いて人間らしい生活をしているように見えるドワイトの姉ですら、「(加害者を)苦しませたでしょうね」と弟に確認するくらいだ。いや、本当にありえない。  とにかく呆れるばかりの倫理観のなさ。置き引き、車上荒らし、不法侵入、病院の治療費の踏み倒しと、罪の意識を全く感じることなく次々と犯しつづけるドワイト。殺人の替え玉がまかりとおるゆるゆるの司法。ライフル銃、散弾銃がふつうの家から当たり前のように出てきて、十代の少年ですらしっかり的を狙って撃つことができるバリバリの銃社会。 それに、とても清潔とはいいがたいロケーション。ベニヤ板で作ったような隙間だらけのトイレとか、銃痕だらけの錆びついた車で寝泊まりとか、簡単に侵入者が出入りできるような戸締り不完全な木造住宅とか。治安の比較的よい日本でも、犯罪者の部屋は不衛生で荒れていることが多いと言われているけど、この法則はアメリカでも有りなのではと思ってしまった。  それにしても、どうして登場する人々は誰も彼も直情的なのだろう。なぜこんなに短絡的に、武器をもって人を傷つけることができるのか。不倫をすることは確かに褒められた話ではないけれど、その前に話し合うとか、弁護士を呼ぶとか、いくらでも理性的に話を勧める手立てがあるだろうに。そもそも加害者側であるクリーランド家の人間は、遺族に対して初めから何の引け目も感じていないのだろうか。  物語を全て観終わって強烈に感じたことは、登場した人物に成熟した者が誰一人としていないこと。加えて、法が驚くほど機能しておらず、大なり小なり何のストッパーにもなっていない。皆本能的に、後先考えず憎しみの連鎖にやすやすと巻き込まれていく。この地の学校では、他者とのかかわり等、社会面には重きをおかず学業ばかりを教える教育が主体なのか? 生活圏にあふれる銃器に住民は思考力を奪われているのか? 諸悪の根源はどこからくるのかと真剣に考えてしまった。最後に「ヴァージニア」という文字が入ったちらしがドワイトの姉の家に新聞とともに投げ込まれる。ドワイトが町を出るとき購入した地図もまた「ヴァージニア」のもの。原作者はこの州名をよほど強調したかったと見える。青いオンボロ車の復讐劇は、強烈なインパクトを残して幕を閉じた。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-07-30 01:36:59)
3.  ブリッツ 《ネタバレ》 
皆さんの評が低いのでびっくり。面白かったけどなあ。粗暴で、喧嘩っ早く、眼付きの鋭い暴力刑事は、基本的に同性にはやりたい放題無作法を押し通すのに(タレこみ屋やバーテンダーなど)、女性には一様に穏やかなまなざしを向ける。相棒になるゲイのナッシュにも、一度としてすごんだりせず、まあまあ普通に話をし、拍子抜けするほどすんなりコンビを組む。それが、ひとたび悪党を相手にすると、手の付けられない野獣と化す。そのギャップが面白かった。  ブラントは上司には持て余されていたかもしれないが、クレイグといいロバーツといい、署内では意外にもそこそこ良好な人間関係を結んでいる。最も印象的だったのは、ワイスを釈放するシーン。署員たちが横一列にずらっと並ぶど真ん中に、ぎらぎらとしたオーラを放つブラントが立っていた。粗暴で不器用かもしれないが、彼は仲間たちを誇りに思っている。そして署員たちも、お荷物になりがちなこの暴力刑事を決して否定していない。彼らのあの一体感は、途方もなくかっこよかった。  ワイスを捕獲するときもブラントは寸でのところで仲間に制止をかけられたし、釈放もせざるを得なかった。彼の鬱憤はたまるばかり。だからこそワイスのラストは大体ああなるだろうなという予想はしていた。ただ、白になったワイスの幸運を逆手にとるしたたかさには驚いた。一見真面目そうなナッシュも、一応キレた過去を持つ男。なるほど、ブラントと息が合うはずだ。  また、舞台が舞台だけに、イングランドやアイルランドの事情も少しは関係あるかもしれない。人種の微妙なニュアンスは、日本人としては感じ取るのが難しい。  細かいつっこみどころはたくさんあるけれど、「持つのは鉛筆じゃねえ」など、ブラントの骨太のセリフがいちいちかっこいいし、ロケ地も見ていて楽しかった。ドアを開けると、下に降りる階段があり、意外に奥行きの広いフラットの部屋の様子も、労働階級と中流階級の各部屋の違いも、石造りのモノクロのロンドンの街なかで、真っ赤なダブルデッカーがさっと通り過ぎる様子などなど、見どころがたくさんあった。もう一度見てみたい。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-08-11 00:16:50)(良:1票)
4.  髪結いの亭主 《ネタバレ》 
日本の民話「天女の羽衣」や、デンマークの「あざらしのお母さん」を思い出す。男が異形の女に惚れて結婚し、相思相愛にもかかわらず妻は夫の元を去っていく。天女もあざらしも、天や海に帰るために必要なアイテム、羽衣や毛皮を見つけてしまうのがきっかけだが、マチルドの場合は、夫との些細な喧嘩がそれにあたる。幸いすぐに仲直りができたからよかったものの、今後、どんなトラブルに見舞われて夫婦生活に亀裂が入るかわからない。仲の良い夫婦生活をずっと続けていきたかった彼女は、大きな不安に襲われたのだろう。アントワーヌと同じくマチルドも彼に一目ぼれしたのだと思う。容姿の好みや性的嗜好も完全に一致した夫婦は、はた目から見ると羨ましい限りの幸せぶりだ。それなのに、妻は入水してしまう。映画では多くは語られなかったが、結婚するまで孤独を愛してきたマチルドは、過去に悲惨な性的虐待を受けた、あるいは愛する男の子供を堕した経験があったのかもしれない。膨らみようのない腹という言葉からも、不妊のにおいがする。彼女の寂しそうな笑顔は、常に秘密を抱えているせいだ。過去を一切語らない妻を、夫アントワーヌは丸ごと愛して子供すらも欲しがらなかった。マチルドは、そんなアントワーヌにいつか愛想をつかされることに、死ぬほどおびえていたのだろう。民話の哀しい妻のイメージが、どうしても彼女について離れない。アントワーヌも、マチルドも、深く心にしみこんだ。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-04-13 22:46:31)(良:2票)
5.  あなたを抱きしめる日まで 《ネタバレ》 
フィロミナは赦すと言うが、ジャーナリストであるマーティンは、彼女の言葉に折れることなく「許せない」と言いきった。神の名のもとに行われていた人身売買が、告発もされず見過ごされていいはずがない。フィロミナが体験した男女間の愛の営みを、カトリックでは罪であると断罪するのなら、同性と交わり業病に侵された彼女の息子は、シスター・ヒルデガードの目にはどんなふうに映ったろう。カトリックのあまりにも狭い視野には、いつも辟易させられる。  放蕩息子やよきサマリア人など、聖書の有名なたとえ話を若い頃から読み親しんできたが、隣人愛を説くはずのキリスト教が、どうしてこれほどに狭義の枠の中でしか人間を認めないのだろう。右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい、という類の教えを学んでいるはずの聖職者たちが、なぜ「人を愛する」ことを知らないのか。聖書に記されたイエスの言葉を読めば読むほど、この宗教でひと悶着起こしている各国の歴史は一体どうなっているのかと、信者でもない私は、本当にわけがわからない。少なくとも、この映画の修道者たちは、人の命の重さを犬猫ぐらいにしか扱っていない(今やペットのお墓だって人間並みに手厚くなっているというのに)。修道院は神の家とよく言われるが、全く悪い冗談だ。
[インターネット(字幕)] 8点(2017-11-18 23:23:42)
6.  コロンビアーナ 《ネタバレ》 
『悪の法則』を見たときは、麻薬組織のあまりの残酷さに数日ショックを引きずったものだけど、本作を見て、あれ? 『悪の法則』ともしかして、逆?『悪の法則』では、ワルのメインキャラたちが、神出鬼没で現れるメキシコの麻薬組織に追い詰められ、次々と悲惨な目に遭わされる。本作はコロンビアの組織を相手に、たった1人の女性が透明人間のように神出鬼没で現れ、大暴れ。どこから降ってわくかしれない敵というのは、確かにハンパなく怖い。愛する身内を殺されて、鬱憤ばらしのようにマシンガンをバリバリ打ちまくっているカトレアを見て、不覚にも、「か・い・か・ん・・・」と往年のセリフが脳裡で聞こえた。女性が男性並みに闘うときは、体を回転させて遠心力を利用するんだなあ。男性はそんなアクションなしでパンチを繰り出せるから、女性は相手以上に素早く動かなきゃ大変だ。(それにしても、あんなに激しく股間に蹴りを入れられて倒れ込まない男っているの?)ラストの死闘はなかなか迫力があって楽しめた。  ともかく『ニキータ』『レオン』とほぼ同じフォーマットで話が進んでいたので、細かい矛盾点は気にせず、割り切ってカトレアの復讐劇をシンプルに楽しんだ。 小さなカトレアを追う男たちのバイクにある「HONDA」の文字が何度も映り込んでいたし、エミリオが殴りダコのある大きな手で姪っ子を抱き寄せるシーンが印象的だった。3分署のシャーリの顔芸も面白かったし、人の不幸は他人事という連鎖も皮肉たっぷりだ。カトレアの身内の不幸を淡々と聞いていたFBIは、自分の身内を脅されて初めて動揺し、FBIの悩みを歯牙にもかけなかったCIAは自身の命を狙われて、初めて怯える。この一連の流れは人間心理のさもしさを見せつける。  で、ストーリーが終わった。エンドロールが長々と流れる。それをぼうっと見ていたら、supplier(小道具供給者)の文字が。テクニカル・ビークルとか、ボディガード(!)、ユニフォームレンタル、スカルプチュア・ワークショップ(シャーリの付け爪ってここから来たのかな)、フィルム・ストックはコダックだって。そのうち、「ディレクター一同、感謝申し上げます」という言葉が流れて来て、撮影に協力したホテル名やフランス、アメリカ各大使館などの紹介が続く。そこへ、「SPECIAL THANKS TO」という言葉が上がってきて、私たち日本人にはなじみのある「HONDA」のロゴマークがでかでかと!!! それもエンドロールのほぼラストのタイミングで来た。映画は製作年が2011年だというし、このサプライズはすごく嬉しい。
[DVD(字幕)] 7点(2017-09-14 01:21:19)(良:1票)
7.  フィフス・エレメント
観た直後はただただ呆れ返って、2か3と思っていたけど、一晩経って思い返してみたら、5点、いや7点でもいいかなと。ストーリーはメチャクチャなのに、出てきた全キャラクターが強烈に印象に残ってる。野生ネコのようなキレキレの動きをするミラがすごく可愛かったし、常にぎょろ目で喜怒哀楽を爆発させる黒人DJも最高に楽しかった。たった1日経っただけで、こんなに印象が変わる映画も珍しい。それにしても、私の中ではあの『グレート・ブルー』を撮った監督という神々しいイメージが、途中で崩壊しそうで大変だった。北野武に傾倒している外国人がビートたけしを知った衝撃って、こんな感じかしら?
[インターネット(吹替)] 7点(2017-08-05 11:12:48)(良:1票)
8.  列車に乗った男 《ネタバレ》 
それぞれの人間関係や過去は、全て語られるわけではなく、視聴者が想像できるぎりぎりの流れだけを見せてくれる。そのぼかし方が絶妙に上手い。マネスキエがジグゾ―パズルをいじっているシーンがあるが、この映画自体がまさにパズル。映像の端々や台詞で垣間見せてくれるヒントを頼りに人間関係を解けとでも言っているようだ。  たとえば、強盗仲間であっても心を許して抱擁するほどの、実は人一倍人情の深いミランだからこそ、ルイジをかばって撃たれてしまうわけだし、マックスとドライバーのサドゥコは、警察と司法取引でもして仲間を売ったと思われる。初め、マックスは警察の潜入捜査官なのかと思ったが、ミランが彼に「太ったな」と昔馴染みをうかがわせる言葉を出しているから、違うだろう。抜けようとしたミランを無理に引き込もうとしたマックスのタチの悪さは計り知れない。  また、マネスキエもミランも、土曜日にのっぴきならない「用事」があり、この時間制限が、ドラマの明確な設計図でもある。自身の死を賭けたXデーを控えて、2人が次第に互いの人生を「隣りの芝生」視点で眺め始める。彼らの思いが、じわじわと交差していく。その流れが、小憎らしいほど自然で、台詞がまた上手い。ジョークを挟んだり、しないと公言していた質問をするなどして、饒舌と寡黙の単調なリズムが、少しずつナチュラルに変化していく。それは食事風景にも言えることで、最低限の料理と酒しか載っていないだだっ広いテーブルだったのが、ラストデイには、驚くほど小さな食卓となり、その上に果物、水差し、ヤカンとぎっしり物が載った状態となる。初日にはミランが酒を遠慮しており、最終日にはマネスキエが湯?ティー?を断る。しかも、ホスト側ではなく客のミランが最後の食事を用意しているのだから、2人の関係の変化もここまできたかというユニークさがある。こうした細々な仕掛けが台詞・映像を問わず、さりげなく張り巡らされている。何度見ても何かしらの発見がありそうな作品だ。   ラストの一見不可解な映像は、2人の叶わなかった願望をファンタスティックにシミュレーションしたもの、つまり演出家による、視聴者へのサービス映像に見えた。また、ミランが乗ってきた列車は、単なる交通機関である車両に過ぎないが、マネスキエが乗り込んだのは、ユーラシア大陸から直接北米の、例えばワイアット・アープが活躍したトゥームストーンへでも向かう夢の列車だったろう。ただ、ミランがこの街に来なければマネスキエの乗車に繋がらないわけで、タイトルの「列車に乗った男」はやはり両者を指すのだと思う。しかし、2人同時の乗車はありえないので、「男たち」ではなく単数形なのだろう。
[インターネット(字幕)] 10点(2017-06-10 02:14:18)
9.  レッドタートル ある島の物語 《ネタバレ》 
裏返った亀の腹が、ばりっと割れた瞬間・・・・・・ 静まり返った映画館の中だというのに思わず、「勘弁してよ!」とつぶやいてしまった。 まさか、大好きなマイケル作品でこんなシーンに出くわすとは夢にも思わず(涙)。 でも、次の瞬間、大きな安堵のため息・・・・・・  全編を見終わったあと、涙でしばし立ち上がれなかった。 『岸辺のふたり』以来、彼のカラーの長編が見られるというので、ずっと楽しみにしていた。 二次元でありながら、目の錯覚かと思えるほど水の中、自然光にあふれる大気、ありとあらゆる空間が、重力に縛られず変幻自在に表現されていた。 水に浮かんだ男の、海底で揺れる淡い影、女が翡翠の海に浮かべた巨大な甲羅、2頭のカメと並走して鳥のように泳ぐ息子、 これほど目にここちよい浮力を味わえるアニメは、そうはないと思う。 ああ・・・・・・やっと、自分の頭の中に念願の作品が収まった、という思いでいっぱいだった。  ただ、  宮崎氏だったら、「もののけ姫」のシシ神のように、カメを何かの象徴のように扱った気がする。 人間に恋をしたカメとなると、大自然の象徴が個人の人間に合わせてレベルを落とさなければならないので、どうしてもスケールが小さくなってしまう。 また、 いつ「紅の亀」が男を見初めたかがわからない。 人間界を暗示するボトルで巣立ってゆく息子の行く先は、カメとしての大海なのか、人間としての街なのかがわからない。 男と成長した息子があまりにもよく似ていて、まぎらわしい。 地震もなしに、いきなり大津波がやってきたことも引っかかる。 無理して言葉を飲み込んでいるような3人が、逆に不自然。 ・・・・・・と、つっこみたいところは多々あって、どうしても秀作『岸辺のふたり』と比べてしまう。 無理に長編にしたことで、マイケル作品の歯切れ良さが間延びされ、大味になった気がする。それが残念。  それでも、もう一度見直しても、多分、涙でぼろぼろになる予感・・・・・・
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-09-28 20:45:39)
10.  ゴーストライター
どんよりと重い曇天、陽を受けない冴えない砂浜。別荘の巨大なガラス窓では、そうした2種の灰色が上下でせめぎ合っている。夕方から夜間にかけての映像も多いし、ほとんどBGMがないもの静かな雰囲気、激しく対立する起爆剤があるでもなく俳優たちのセリフもこそこそと低くていまいち覇気がない、なのに、ジャンルはサスペンスであって、印象に残るシーンも数多くあり、数々の映画賞を受賞・ノミネートしている不思議。監督がロマン・ポランスキーと知って納得した。全編を通して漂っている上質な静けさと、それにマッチしたうす寒い島の風景が見ていてとても心地いい。もう一度観るときはストーリーを度外視して、映像美を主に楽しみたい。ただ、エメット宅の訪問のシーンでは、『アイズ・ワイド・シャット』の似たような場面を想い出し、少し迫力不足を感じてしまった。
[DVD(字幕)] 8点(2015-06-01 15:44:46)
11.  美しき諍い女 《ネタバレ》 
音楽なしで、画家の走らせるペンや絵筆の音が心地よく、無駄と思える冗長な時間の流れも、観終わるとどっしりとした質量で心に残る。物語の細部まで語らず、さまざまなドラマを匂わせるセリフ回し、隠ぺいする完成作品、いたるところに深い余韻を感じる映画だった。家猫のようにだらんとした姿勢をとったり、山猫のように機敏に動いたりと、エマニエルの緩急のメリハリが効いた諸動作が魅力的だったし、貴金属もつけず、櫛の入らないばさっとした長い髪姿のナチュラルさも素晴らしかった。ただ、視聴の途中から苦痛に感じてきたのは、画家のデッサン。プロの画家の手によるものらしいが、私には彼の線が硬く見えて惹きつけられなかった。あんなにもなめらかな女性の腕が、なぜ棒切れのような平行線で描かれなければならないのか。線の太さの強弱もあまりないし、黒い染みの入れ方も効果的には見えず、観ていて次第に飽きてきた。・・・それと、フランス人は、こんなにぶっきらぼうな物言いや態度をふだんからとるのだろうかと勘繰りたくなることもしばしば。セリフのやりとりには、心がやすりで擦られるような気がした。しかし、そうした語調や態度も、この作品のスパイス風な魅力でもあるのだろう。
[インターネット(字幕)] 7点(2014-09-25 01:30:37)
12.  みなさん、さようなら(2003) 《ネタバレ》 
「あなたのことが大好きだよ」と、余命いくばくもない本人に幸せな気持ちをプレゼントしてあげる、お酒と料理を囲んで大勢で晩餐会、そういうことができる日本人がどれだけいるだろうかと、深く深く考えさせられた。ハグや握手など、人に触れる文化に乏しいシャイな日本人は、家族が人生のラストを迎えるとき、あの息子が父親に見せた愛情表現をいざ見せられるかというと・・・・・・。こういうシーンを見るたびに、いとも簡単に壁を越えてダイレクトに愛情を伝えられる欧米人が羨ましくなる。また、モルヒネで死ぬタイミングをはかるという演出がズルいというか悔しいというか羨ましいというか、この時間さえわかっていれば、どんな演出も間に合うし、粋な計らいも可能になるというもの。法的に許されないことでも軽々とクリアされているノリを見ると、この映画は「どんな主義を信奉していようがどんな過去を抱えていようが、細かいことは全部忘れて人生の終わりは平らな気持ちで迎えよう(あるいは見送ってあげよう)」ということを人間賛歌として伝えたいのではないかと思う。人づきあいが不器用で問題を多く抱えた人を全身で受けとめる姿は、本当に美しい。
[DVD(吹替)] 8点(2014-03-03 00:19:51)
13.  女はみんな生きている
途中からリスベット・サランデル(『ドラゴン・タトゥーの女』)がゲスト出演してきたかと思った・・・・・・。
[DVD(字幕)] 8点(2014-02-24 10:56:44)
14.  最強のふたり 《ネタバレ》 
「アルプスの少女ハイジ」と同じタイプの作品だと思った。はた目からは全くうまくいきそうに見えない2人が、実は呼吸がぴったりで、一度離れて改めて再会し、互いの絆をいっそう深めるというパターン。私はこの手の感動ものにとても弱い。 ドリスの笑顔もいいが、首から下が動かない重度の障害を負いながら、心の底から嬉しそうに口を開けて笑うフィリップがなんとも微笑ましい。笑顔が笑顔を引き寄せる引力のすがすがしさにあふれた佳作。最後の方で、ひげをおもちゃにするアイデアには脱帽した。  それに考えてみたらこの2人、一度も深刻な喧嘩やいざこざのシーンがなかった。凹凸の凹に凸がぴったり合わさって、誰もつけ入るような隙のない最強の「□」になった感じ。原題はIntouchable(最強のふたり)だが、 Untoucthable でも通るかも。この絆はうらやましすぎる。
[映画館(字幕)] 8点(2012-10-31 20:09:08)(良:1票)
15.  バベル 《ネタバレ》 
4つの物語の共通事項は、主要人物たちが、突然思いもかけぬ絶望の淵に立たされること。バベルの塔は、建設中にいきなり人々の言語が分かれて意思疎通ができなくなり、工事が中断された忌まわしきオブジェだ。元々人々は同じ言葉を話す同一文化人だったが、突然予期せぬ災難に遭い、世界各国へと放浪を余儀なくされる。聖書のこのエピソードを考えたとき、この作品のタイトルの巧みさに舌を巻いた。幸せを求めて挫折し、孤独な魂を抱えて放浪せざるを得ないという人間の性は、正しくバベルそのものだ。また、4つの国をまたいでグローバルな視点をうながすことも、安易にインターネットを用いていないのが気に入った。国と国とが連携するとき否応なく時間がかかること、インフラの整っていない地での絶望的な医療や、見はるかす大自然の脅威などで、地球という惑星の大きさをずっしりと重く感じることができた。
[DVD(字幕)] 10点(2011-02-18 23:35:21)(良:1票)
16.  アザーズ 《ネタバレ》 
娘はいい子を装って母にこびることなく、言いたいことを正直にきっぱりと言う、その姿が勇ましい。彼女は母に襲われた記憶があるから始終つっぱっているけれども、受けた心の傷はむしろ弟より深そうだ。母親役のキッドマンが娘役の子役に圧され気味にさえ見えた。母と子の緊張感が、屋敷内の不協和音をいやがうえにも盛り上げていく。その過程がとても自然で巧み。またセリフの応酬など、舞台向きの作品だ。独特の死生観にわが子殺害問題をからませ、光と影、または生者と死者の服装などから時代のギャップを表したりと、シンプルだが古典的な演出が効いて、全体的にクラシカルなムードが漂う上質のミステリー作品だと思う。
[DVD(字幕)] 9点(2008-07-16 09:54:49)
17.  パフューム/ある人殺しの物語 《ネタバレ》 
誕生から死まで『オーメン』のダミアンを見るようだった。自ら殺人を犯すまでもなく、主人公に関わる人間は皆ろくな死に方をしない。搾取する側の貪欲な人間として描かれているから、彼らの哀れな末路がいかにもエンターテインメント。また、主人公が職人気質を残酷なまでに貫き、最高傑作を制作後、虚無感に陥り自ら命を絶つさまは、芥川龍之介の『地獄変』と酷似している。けれどもグルヌイユの決定的な個性は、臭覚で得るもの以外は無関心であること。名誉欲、物欲、性欲、人を困らせて快感を得ようとも思わない。ラストでも香水の威力を確かめれば満足で、支配欲はない。これぞ究極の職人気質では。さらに絶世の美女より、匂いの初恋ともいうべきプラム売りの少女の方が、彼にとってはその死が重い。視覚で得る美は臭覚の美より下だからだ。ただ、殺害される前にローラが投げた眼差しの意味は大きい。彼女が見た侵入者の表情は極悪非道には見えず、しかし体は棍棒を振りあげている、そのギャップにぴんと来なかったというところか。グルヌイユのためらいは、無邪気で美しいものを壊す罪悪感を呼び起こしたことから来たものだ。退化した尾の名残として人間に尾骨があるように、無意識に人間らしい躊躇が脳裏をかすめたのだろう。その瞬間の表情を、グルヌイユ本人のではなく、ローラの顔が鏡のように表現しているのだ。媚薬の香水をかぎ、また人々の愛の享楽ぶりを見て、彼自身もプラム売りの少女から癒しを受けたいという気持ちにつながったのかも。グルヌイユの不幸は、欲してやまなかった至高の香水が決して心の渇きを癒すものではないと知ったこと。生甲斐を失った職人ほど哀れな者はいない。
[DVD(字幕)] 10点(2007-10-02 11:00:19)
18.  禁じられた遊び(1952) 《ネタバレ》 
ポーレットのことが好きでたまらないミシェルにとっては、宗教も、戦争も、大人たちの争いごともみな色あせて見えたことだろう。十字架の窃盗を神父に告白しつつもさらに大きいのを盗もうとしたり、大人からみれば、こうした子供の心が純粋だなんて、まず信じられないに違いない。少女の気をひくためなら、自ら小動物を殺し、十字架を盗み、墓を作る。叱責を恐れても良心が痛むことのない子供特有のエゴイズム、残酷さ、そして愛する者を奪われる悲しさなど、子供の心情が素直に描き出されていた。それは『ピアノ・レッスン』で母を独り占めにしたいと願う少女に通じるものがある。さらに戦争を絡めることで、子供のエゴイズムや大人の無理解は、反戦という、より深いメッセージ性がこめられる。禁じられた遊びとは、神を象徴する十字架をもてあそぶことだが、遊びの真相を周囲の大人は結局誰一人知ることがない。戦争こそ、愛国心から端を発し、途方もない矛盾が積み重なり、誰も解明することのできない殺戮の遊びなのではないか。
[インターネット(字幕)] 10点(2007-04-20 15:22:41)(良:2票)
19.  ユナイテッド93 《ネタバレ》 
重要施設に墜落させないように後方についていた戦闘機が撃墜した、という話が浮上していると後で知り、鑑賞中の違和感を改めて思い出した。ハイジャックした直後、50分後に目的地に着くと犯人は言っているが、だとしたら、一面識も無い乗客同士が、現状を把握して、一致団結し、行動に移るまでに40分前後しかかからなかったことになる。犯人に脅されている間は、余計なことを考える余裕はないだろうし、事が起こるまで飲み物を飲んだり、居眠りをしたり、すっかりくつろいでいた乗客たちが、機敏に生死の覚悟などつけられるだろうか。現状を把握するまで半時間ぐらい、あっという間に経つのでは。安々と鵜呑みにはできない作品と思いつつ、非常事態に陥ったときは、現状を把握する冷静沈着な姿勢が何よりも大事なのだと痛感させられた。
[映画館(字幕)] 9点(2006-08-21 14:06:57)
20.  息子のまなざし
音楽も、セリフも極端に絞られていて、どうしてこんなに彼ら(オリヴィエ・別れた妻・少年)の悲鳴がつんざくように聞こえるんだろう。しかも、視聴が終わった後でも、ずっと頭の中で響いている。
10点(2004-09-21 21:09:36)
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