3. 奇跡の海
万人が信ずるものは宗教であり、流行であり、常識である。たった1人しか信じないものを世の中は認めない。排斥する。おかしいかおかしくないかなんて、生まれついた運の問題でしかない。世の中は多数派のイデオロギーで営まれる。思想傾向が多数派に属する者は常人とされ、そうでなければ変人であり狂人だ。しかし世の中の思想傾向は常に流動的で、いい加減。つまり人間には “多数派の狂人”であるか、“少数派の狂人”であるか、それだけの違いしかないということだ。そして多数派に属する狂人は、自らを“常識人”と呼ぶ。ラース・フォン・トリアーはそれらを知っている。誰もがそれに触れられたくないことも。そして彼はその触れられたくない部分を最も汚いやり方で突付くのが大好きだ。露悪が大好きなのだ。ベスはそれらを描く為に犠牲になったスケープゴートだと思う。彼は最凶の監督だ。なぜ最凶か。非常に頭が良く、非常に性格が悪いからだ。悔しいことに彼は、人間の業を知り尽くしている。彼はあからさまに“少数派”に属する。でも世間は彼を無視出来ない。彼は狭義において“狂人”でありながら、世間に自らのイデオロギーを発信出来る。そういう部分において、彼は恐ろしい程に稀有で貴重な人種だと思う。 10点(2003-12-18 23:40:28)(良:1票) |