1. ゴールデンボーイ(1998)
《ネタバレ》 ブライアン・シンガーが『ユージュアル・サスペクツ』の次回作として製作した作品であり、主演は当時人気絶頂だったブラッド・レンフロ、おまけにスティーブン・キング原作と話題性には事欠かない企画だったのですが、シャワールームの撮影においてヌードの強要があったとのことでエキストラの少年数人から訴訟を起こされて、完成後1年以上も作品を上映できない期間が発生し、すっかり熱の冷めた状態でロクな宣伝もないまま公開されたために興行的には惨敗。結果、ブライアン・シンガー監督作中においてもっとも注目度の低い作品となっているのですが、これがなかなか見ごたえがありました。 作品では、少年が悪に飲まれていく様がじっくり描かれるのですが、元ナチの老人にも一定程度感情移入の余地を作っており、その結果、悪とは誰にでも根付くものであるという含みを持たせている点が見事でした。並みの監督であれば元ナチは純粋悪として描くしかないところですが、シンガーには自身がユダヤ人であるという強みがあるため、この辺りに創作上の自由を持つという優位性があったのではないでしょうか。なお、シンガーは後に手掛ける『ワルキューレ』においてもナチの様式美等をじっくりと描いており、彼はユダヤ人カードを結構有効に使っています。 圧巻なのがブラッド・レンフロとイアン・マッケランの演技合戦なのですが、撮影当時14歳だったブラッド・レンフロが30年超のキャリアを誇るイアン・マッケランと互角に渡り合い、時に圧倒している点には驚かされました。本作を見るに、ルックスも演技力もあったレンフロならば後に大スターに成長することもできたはずなのに、私生活の乱れから代表作を残すことができず、わずか25歳で命を落としたことは残念で仕方ありません。 作品中で良くなかった点は、入院したドゥサンダーの隣のベッドにはかつての彼の被害者が入院しており、その被害者に正体を見破られるという後半の転換点があまりに強引すぎたこと。どんな凄い偶然だよとツッコミを入れてしまいました。トッドとドゥサンダーがやってきたことの結果としてドゥサンダーの正体が暴かれるという因果にまみれた展開とした方が、内容的にはしっくりくるのですが。 [インターネット(吹替)] 7点(2017-08-19 03:14:51) |
2. コンフィデンスマン/ある詐欺師の男
邦題の「コンフィデンスマン」とは詐欺師の意味なのですが、さらに副題でも「ある詐欺師の男」と謳っており、えらくクドイ邦題だなぁと感じました。これだけ投げやりな邦題からも察しが付く通りさほど金のかかっていない作品であり、アメリカではDVDスルーだったという不遇ぶりからも期待値の上がらない中での鑑賞となったのですが、意外にもこれが犯罪ドラマの掘り出し物でした。映画とは自分の目で見るまではわからないものです。なお、原題の”The Samaritan”とは新約聖書の「ルカによる福音書」でイエス・キリストが語ったとされる「善きサマリア人」の話に由来し、詐欺師を善意の人として信用させることでターゲットから金を巻き上げようとするクライマックスの信用詐欺と、ある人に対して無償の善意を注ごうとする主人公の姿がかけられたものだと考えられます。 サミュエル・L・ジャクソンが演じるのは長期刑を終えて娑婆に出てきた元詐欺師。服役により失った時間があまりに長く「犯罪はもう懲り懲り」と更生を誓っているものの、かつて一流の詐欺師として通っていた逸材を裏社会が容易に手放さないことはこの手の映画の常であり、あの手この手の懐柔や脅迫により主人公は新たな犯罪計画に巻き込まれていきます。重厚な枯れを見せるサミュエルがとにかくかっこいいし、主人公が過去に犯した罪については具体的に言及されないながらも、サミュエルの存在感により「かつて大物犯罪者だった男」にきっちり見えるのだから大したものです。 脚本はコンパクトながらも緻密に練られています。この手の映画ではサプライズ優先で主人公がバカだと観客は冷めるものですが、その点本作の主人公は疑うべきものをちゃんと疑ってかかるため、観客はストレスフリーで鑑賞することができます。また、観客に与えられる情報は常に適量で維持されており、単純すぎず複雑すぎず丁度いいサジ加減で見やすい作品にもなっています。途中には適度なサプライズがあり、クライマックスにはハラハラドキドキさせられ、熱い男のドラマもありで、90分程度のVシネとは思えないほど充実した作品でした。たまにこういう掘り出し物に出会えるから、B級映画漁りはやめられないのです。 [インターネット(字幕)] 8点(2016-10-12 13:15:56) |
3. コロニー5
午後のロードショーを録画して鑑賞。 2010年前後にB級映画界で大流行した終末SFものの残りカスのような作品ですが、製作国カナダらしく凍結した世界を舞台としていることが本作の特徴となっています。ジャンル的にはB級SFに分類されるとはいえ製作費は13億円と非ハリウッド映画としてはかなり奮発しており、VFXやセットはよく作り込まれています。寒々とした世界が視覚的に表現されているし、俳優はきちんと寒さの演技をしているため、世界観はそれなりに説得力があるのです。旬を過ぎたとはいえ、かつてのハリウッドで一線を担っていたローレンス・フィッシュバーンとビル・パクストンを重要な役柄に起用することで豪華な雰囲気も出せており、「そこいらのB級SFとはモノが違う」という期待を抱かせます。少なくとも序盤では。 ただし、どれだけドラマを眺めていても感情移入可能なキャラクターが登場しないこと、SF映画として「ほぉ~」と感心させられるような面白い設定がないこと、アクション映画としてのテンションが上がってこないことから、次第に不安になってきます。「この映画、見かけ倒しでつまらないんじゃないか」と。何もなくなった世界に拠点を築いて細々と生活している農耕系の人々が、奪う・殺すを基本原理とする狩猟系のヒャッハーに襲われるという、『マッドマックス2』以降何度見たか分からないほどありきたりなあらすじからまるでブレない脚本の工夫のなさ。派手な見せ場を作ることもゴア描写に特化することもなく、ただ撮ってるだけ状態の演出の凡庸さが猛烈に睡魔を誘い、90分程度の作品でありながら何度も中断しながらの鑑賞となりました。本作よりも小規模で製作された上に、お世辞にも良い出来だったわけでもない『THE DAY』や『HELL』の方がまだ勢いがあり、見応えもありました。 [地上波(吹替)] 3点(2016-07-20 10:40:49) |
4. コズモポリス(2012)
近年はヴィゴ・モーテンセンとのコンビでドラマ性と娯楽性を両立したバイオレンスを製作し、意外と引き出しの多い監督であることをアピールしていたクローネンバーグですが、本作では小難しい上に面白くない、いつものクローネンバーグに逆戻りしています。生の実感を持てない者が、新しい何かに変化しようとする物語。『ビデオドローム』以来、しつこいくらいに繰り返されてきたテーマなのですが、表現の引き出しも80年代以来ほとんど変わっていないので、本作には何ら見るべきものがありません。。。 本作の9割は難解で哲学的な会話で形成されているのですが、これは何度でも読み返しの利く本というメディアでこそ楽しめるものであり、観客の理解度とは無関係に物語が突き進んでいく映画というメディアにおいてこれをやられると、非常に厳しいものがあります。何か良いことを言ってるっぽいんだけど、その内容を味わう前に次のセリフが流れてくる。こんな調子で2時間が過ぎてゆくので、見終わった後には頭に何も残っていません。せっかく映画というメディアを使っているのだから、視覚的にテーマを語るという工夫をして欲しかったし、クローネンバーグが惚れ込んだであろう原作のセリフの数々にしても、観客が飲み込める形で提示して欲しいと感じました。『ファイト・クラブ』や『マトリックス』は、10年以上も前にそれをやりきっていたというのに。 [DVD(吹替)] 3点(2013-11-28 19:00:55) |
5. コンフェッション(2002)
面白くなるべき題材をつまらなくしてしまった罪な映画。ソダーバーグの影響か、ジョージ・クルーニー監督は本作から徹底的に娯楽性を排除しており、ひどく単調でつまらない映画に仕上がっています。もちろん、娯楽性を排除するというやり方は映画作りの手法のひとつであって、そのやり方自体は否定しないのですが、問題は娯楽性以外の何かを観客に提示できているのかということです。リアリティなり、哲学的なメッセージなり、捻じれた笑いなり、娯楽性を犠牲にした引き換えとして何か一つでも飛び抜けたものがあればよいのですが、この映画にはそうしたものがありません。ただダラダラとしてフラストレーションが溜まるだけの映画に終わったのでは、監督の基本姿勢に誤りがあったと評価せざるをえません。演出は決して下手ではなかっただけに、ソダーバーグという悪しき友人からの影響が悔やまれます。 [DVD(吹替)] 3点(2012-10-29 01:19:38) |