1. バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
《ネタバレ》 中盤、空を飛ぶかつてのバードマン。でも実際はタクシーで夢を見ていただけだった(かのような描写がある)。全てを懸けた舞台の終わりに文字通り命を懸け、それでも生きなければいけないと知り、彼は、もう一度、飛ぶ。その姿は画面上には見えないけれど、彼は内なるバードマンに別れを告げ、バードマンの仮面のような湿布をはずし、何にもすがらずに、飛んだ。今度は本当に飛べたのだと思う。生き恥を晒しながら、笑われながら、ズタズタになっても、やめない。それが執念なのか、挑戦なのかわからないけど、とにかくしぶとくいることで人はもっと遠く、高いところまでいけるということだと私は解釈した。情けなくて馬鹿みたい、でも、すごくかっこいい、そんな映画だった。 [映画館(字幕)] 8点(2015-05-03 13:49:21) |
2. 大いなる休暇
《ネタバレ》 「生活保護は人間の誇りを奪う」だったかな、昨今のどこまでも楽な方に堕ちていく日本人たちに捧げたい台詞が印象的だった。男たちが働き、女たちは家庭を守り、夜、愛が育まれる。単純明快な生活スタイルがもたらす穏やかさは、ありきたりなものかもしれないが、幸せと呼べるだろう。物質的には豊かでも、求めれば求めるほど飽き飽きするような私の(というよりは一般的な日本人の)生活を思えば、狭い町で狭い人間関係の中にいて、多くを望まず、そこに存在するものに価値を見出していくほうが、却って満たされるのかもしれない。展開は読めたが、思ったとおりでほっとした。ただ、良い人たちだらけなのに、医者が彼女に裏切られた時にみんなして喜んだのにはちょっと違和感を覚えた。人間らしいっちゃらしいけど。 [DVD(字幕)] 8点(2010-04-06 18:39:32)(良:1票) |
3. ラースと、その彼女
要するにダッチワイフの話という点で本作は「空気人形」と似ている。しかし、心を持った空気人形が、「心なんか持ったら面倒だ」と言われるのに対し、本作は心がないはずのビアンカが、さも心を持っているかのように周囲から生かされているという話で、全く正反対である。不思議なことに、人形が動き出すという設定上、ファンタジー要素は前者のほうが強いはずなのに、本作のほうがよりファンタジックである。多分、現実ならば、この映画の登場人物たちのようにラースを温かく見守る人は皆無で、どちらかといえば、大多数の人間がラースを気味悪がるはずだと思うから。そういう意味では、「空気人形」の登場人物たちのドライさが私にとっては現実的で、ラースの周囲の温かい人たちは何だか出来すぎた感じがした。だが、虚構ゆえに、と切り捨てたくない気持ちがあるのも確かだ。「ビアンカの存在は我々の勇気を試した」という神父の台詞があったが、そのまま私自身にも投げかけられたような気がしている。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-08 20:19:05) |
4. ブラインドネス
《ネタバレ》 設定そのものには色々と筋の通らないところがあるのだが、突然わけのわからない極限状況におかれたとき人がどうなってしまうのかという心理的な面は上手く描けていると思う。右も左も分からない不安定な世界だからこそ、日頃は社会性という名の被服に隠された肉欲、性欲、支配欲が丸裸になり、(各々の共通認識では)全員が盲人という等しく不自由な状態にあっても、何らかの条件で自然にカーストができあがる。おぞましいシーンの連続で非常に不愉快だが、このようなテーマであるからにはそのあたりの描写は避けて通れまい。そんなもんは観てるこっちも覚悟の上だ。ただ、どれほど苛酷な思いを味わっても、恵みの雨に打たれたとき、視力が回復したとき、傍にいる仲間との友情を確かめ合ったとき、人は笑っていられる。乗り越えていけるのだ。この、人間の精神の強さや美しさが大事なところなのだと思う。また銃と視力という、集団内で圧倒的に強い武器を持った二人の運命が、己の欲のために使うか、他人を助けるために使うのかによって、明暗分かれたのも良かった。性悪説も性善説もなく、人は王になるべきか聖母になるべきか、その都度選択するのだろう。非常に訓示的であり、理屈っぽさも感じるところだが、純粋に心に残る作品だった。ただ欲をいえば、もう少し目の見えない演技を徹底してほしかったかな…一番重要な設定のはずなのに、時々完全に忘れていることがあった。 [DVD(字幕)] 7点(2009-10-18 14:16:05)(良:1票) |
5. JUNO/ジュノ
《ネタバレ》 映画としては楽しめた。ジュノのファッションなど可愛らしく、ジュノと同年代くらいの女の子は好みそう。ただなんというか…「クール」かどうかが判断基準だという女の子が、十代半ばでの妊娠というイレギュラーを結局は「クール」の一言で片付けてしまっていそうな点がいただけない。倫理観がどうのとかいうお堅い理論を持ち出す以前に、ただもうなんとなく受け付けない。「個性的」というのは褒め言葉なんだろうかというのが大いに疑問だった。似たようなテーマでも「14歳の母」のほうは、主人公がどこにでもいるような女の子で、だからこそもっと悩んでいたし、差別とも戦っていたし、そのあたり、日本人の私からすると共感できた(確かに14と16じゃ大違いではあるけど、もしジュノが14歳だったら尚のこと「私ってばクール!」に拍車がかかりそうな…)。あとは余談ながら…「ハード・キャンディ」のときから思っていたのだけれども、エレン・ペイジがどうも大竹しのぶに見えて仕方ない。いい女優さんだと思うけど、年齢設定からしてもうちょっとあどけなさが残る女の子はいなかったのかな?? [DVD(字幕)] 6点(2009-06-12 21:31:20) |