1. 真田風雲録
《ネタバレ》 私、こういう作品好きです。前にVIDEO鑑賞で気に行って、今回、スクリーンで楽しむことができた。堂々たる絵巻時代劇的な作品でもいいんですが「真田モノ」は、あのキャラクターからも、製作者の創造力が試される格好のネタであると思う。 ミッキーのギターと猿飛佐助が超能力を使えるというコトを早めに出していたのは正解だと思う。序盤から「変調」な作品であると宣言したほうが良い。 結構、ブラックしていて面白く、真田勇士だけではなく、千姫・秀頼・淀君らも面白く描かれていたのが好感。千姫のダンスシーンでの衣裳、秀頼とのあや取り、最後に渡辺美佐子に言う「要は、捨てられちゃったということなのネ」は最高でした。 あと、「七人の侍」以上に輝いていた真田幸村演じた千秋実。彼を筆頭に楽しそうな笑みを浮かべながら街を「人生50年、カッコ良く死にてえな!」と行進するシーンが特に好きです。 また、ただ、キワモノ作品ではなくて、作品全体に虚無の世の中に「生き様」を求める若い者達の青春群像が統一されていたと思います。 [映画館(邦画)] 8点(2008-04-01 17:03:41)(良:2票) |
2. 沈まぬ太陽
《ネタバレ》 山崎豊子の映画化となると、どうしても、山本薩夫監督を思わずにはいられないのですが、「不毛地帯」「華麗なる一族」、作者は違うとはいえ「金環蝕」などの作品と比較すると、纏まりが悪い。 事故は起きるべくして起きた、国民航空の信じられない企業体質。この追求が大分甘く感じた。原作では主人公の悲壮な境遇・苦悩に加え、墜落事故を事故を招いた驚くべき企業体質、そして(得意の)政治権力の内幕を逃さずに描くことで壮大なドラマとなっていたのだが、映画ではやや企業実態の描写が散漫にみえる。原作の台詞の「主要部分抜粋」のような感じ、典型像の域でとどまっていた。 3時間以上の時間があるのだから、もう少し企業・政治家の癒着を突く事ができるのではないだろうか。 いつの時代もそうだが、国民よりも自分の保身を優先する企業トップ・政治家、その利権に群がる人間達。その告発的な部分を持つ映画も観たい。 渡辺謙の熱演、彼の悲壮な境遇と決意は伝わったが、もっと「大きな作品」に出来たはず。現在、支援問題が話題となっていますが酷いものです。経営陣の責任は重大です。ただ、その末端で安月給で油まみれになって航空機を整備している者ら多くの末端従業員らの存在も忘れてはならないですね。そう思うと、余計に腹がたってしょうがない。 [映画館(邦画)] 7点(2009-11-01 17:02:53)(良:2票) |
3. 女は二度生まれる
《ネタバレ》 両親を戦争で失い、芸者になったものの、とりわけ芸が得意な上手い訳でもなく、ただ色気を武器に男にすがるしかない「こえん」こと若尾文子。それは、そういう彼女が男遍歴を重ねる姿は、確かに美しいのだが、それ以上に何ら目標を持たずに、その場を過ごしているだけの彼女の姿は「生きている」というよりは「浮かんでいる」ように見えた。 この「浮遊している」描写というのは、これまで、軽妙加減に才能を発揮してきた監督が、若尾文子を得て一層、焦点を強く当てたものであり、川島さんの演出に合っているようにも見えるし、他の監督では表現できないのかも知れない。 ラストシーンがとても好きで、ベンチに腰かけて佇む若尾文子をカメラはスーッと引いていく。若尾の佇まいがこれまでに見られなかったものであり、この変化は、山村聡の死や、藤巻潤の裏切り・決別によって起きたものでしょうか?しかし、この余韻には大きな力を感じさせるものがありました。 とても、素晴らしい作品だと思います。大映3作品は格段に作家性が見えます。ただ、好みでいけば「しとやかな獣」「雁の寺」の方が好きです。 [映画館(邦画)] 8点(2007-08-14 18:10:14)(良:2票) |
4. 黒い画集 第二話 寒流
《ネタバレ》 本日スクリーン最前列で鑑賞しました。私も同感でして、隠れた傑作を発見した気持ちです。いくつか、まず、「作家性を感じさせないところに作家性を感じたところ」に驚きがあり、まぶせさんの素晴らしいコメントのとおり、鈴木監督は非常に手堅く演出をしていると思う。 特に無表情の池部良のシーンは極力科白を排しているのですが、その余白にも科白が流れている。やはり(続けてですみません)、三人が湯河原のホテルに滞在するシーンは際立って良い。 雨の旅館内部屋での三人、襖を閉める池部良、そして布団に横になる(左から、平田・新珠・池部)この構図は見事。三人の関係(出会い・関与・遷移・裏切り)が刻々と変わっていくのですが、このシーンでは新珠の移り気、平田の欲、池部の焦燥を台詞なしで完璧に描写していた。 銀行の組織の暗部をも描いている。 所詮、池部良は支店長クラスの人間、平田昭彦は時期頭取の座の地位に近い常務、この縦社会の構図をも淡々と描いているのも面白い。 終盤、池部良が不正融資をあちこちに触れまわるのだが、ことごとく平田に跳ね除けられる。今ではコンプライアンス機能が動いていれば、すぐさま処罰となるのであろうが、当時はこういう女がらみの不正融資というのはよくあったと聞いていた。 しかも、たしかに不正融資とはいえ新珠三千代の事業が仮に軌道に乗っているのであれば、あのような結末は当然といえるのかもしれない。 『支店長クラスの告発でもって、銀行TOPがグラ付くような組織はたかがしれている。』 正義感のある個人(暖流)を容易く呑み込んでしまう組織の闇(寒流)のようなものが、乾いたフィルムの中に息づいていた。 特に、最後の中村伸郎のあの冷酷な視線は傑作! 池部の復讐が成功に終わったら普通の作品になり得たと思う。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-15 22:55:47)(良:2票) |
5. 雨月物語
《ネタバレ》 観るのは5度目くらい。最初はVHSのvideoで画面もセリフも荒くて良く解らなかったですが、リマスターされた溝口健二生誕祭だったりDVDでも格段に見やすくなりました。カメラワークと光の使い方が凄すぎです。 森雅之と京マチ子の「朽木屋敷」のシーンは衣装・美術・照明・カメラ・音楽を含めての形式美が素晴らしい。溝口のサイレント作品時にはドイツの表現主義(ガリガリ博士等)に影響を受け「光と影」をかなり応用していたのですが、朽木屋敷でも姿を影で隠したりと伺えます。 また台詞を途中でフェイドアウトして流れるカメラで次のシーンを繋いだり、森雅之の入浴シーンでも京マチ子が着物を脱いで湯に入る所を影で描写し、カメラは逆の方向に流れてそのまま広い庭で寛ぐ二人へ繋ぐシーンなど絵巻のようだ。 カメラの連続移動で時空を越えるというのはテオ・アンゲロプロス監督ですが、影響受けたはず。 また、森雅之が故郷に戻ってからのシーンも秀逸で、森が家をグルッと一周するのを追うカメラワーク、田中絹代の陰影、彼女の表情と所作、それらが嵌り最高のシーンだと思います。これだけ計算してやられると俳優さんが大変じゃないかと思います。 なお、溝口監督は出来上がりに不満があったようで『「雨月」はもっとカラいものなんだよ。小沢栄の男ね、あれもラストであんな改心したりしないで、もっと出世を続けて行くように書いたけど、会社から「甘くしろ」と指示があった』と(キネ旬より)。 確かに男二人の欲の渇望からも、最後には見事に改心するという流れは溝口作品からすれば甘いと思ったのが、それでも前述の田中絹代のシーンで観る者を救済したのだからOKでしょう。 いずれにせよ、このような映画はもう作れないと思います。死ぬまで何度も観るのだと [映画館(邦画)] 10点(2018-01-10 00:49:57)(良:2票) |
6. お遊さま
すんません、私には駄目でした。映画館でもその後、DVDでも鑑賞したのですが、他の作品群に比べると凡作と感じました。乙羽の一途な愛に揺れる心の動きや、田中絹代の凛とした美しさを動きを、圧倒的な映像美や美術で作られる世界に同調して演出しているものと思いますが、私には如何せん動きに欠ける。この奇妙な関係の各々の心の動きは興味深いのですが、3人という限定した人物で持って、人物を描くのが難しいのかも知れない。内面の心情描写が巧いと言われる成瀬監督は、些細な動きを一瞬で捉えたり、狭い空間の中でも動きを見せたりするのですが、溝口監督は動かない。武蔵野夫人にも同様の印象があり、この手の作品は祇園2作品(姉妹・囃子)、「噂の女」のような、動きのある作品・題材の方が得意だったのかと思う。 [映画館(邦画)] 4点(2007-10-11 13:45:06)(良:1票) |
7. 残菊物語(1939)
溝口健二作品の中で一番好きな作品です。50年代の傑作群も好きですが、この作品が 恵比寿ガーデンシネマとNFCの「溝口健二特集」で観たのですが、両方とも涙ボロボロ。コメントはもう素晴らしいコメントが書かれているので書くことないんですが、私の好きなシーンは、二人で西瓜を切って食べるところで、観ていて心地良い。菊之助が成長し、東京へ帰ってくるのですが、かつてお徳と一緒に西瓜を食べた名残をこれまた一連の長回しで撮っていて泣かせます。 [映画館(邦画)] 10点(2007-10-05 17:44:53)(良:1票) |
8. 女の子ものがたり
《ネタバレ》 原作も監督も全く知らず、たまたま入った映画館で観た映画でしたが、かなり面白かった。単なる青春映画に留まらず、「しあわせとは?」「友達とは?」と観る者に問いかけていたと思う。 極貧乏のために虐められる友達とも三人になれば仲良し、スカッと晴れた天気で自転車で海に向かって飛ばす、純真だ。そして、時が流れ、将来の生活・結婚を意識し始めた三人に価値観のズレが生じてくる(田舎の世界ですね)。 貧乏で辛い現実を(無意識に)受け入れている二人と、そういう二人に疑問を持ち続けるなつみ・・・進行は同じゆったりとしているんですが、徐々に重い現実が浮かんでくる。で、青春映画にありがちな、雰囲気を出しつつも、三人各々の成長・心境のズレをさりげなく演出していた。世代を越えてもブレていない。これを、計算して演出しているとしたら「この監督やるな!」と思いましたね。 最後に涙をしてしまった。 子役たちの演技もみな素晴らしかった。良作です。 [映画館(邦画)] 8点(2009-10-08 22:34:42)(良:1票) |
9. 王将(1948)
《ネタバレ》 「雄呂血」で大暴れする姿など、私にとってのバンツマはいずれも時代劇でのもの。今回、現代劇ではじめて拝見!味があって笑顔に愛嬌があって驚いた。所作に歌舞伎的な動きが目立つんですが、それにはオーラが感じされられる。坂田三吉は文字さえまともに読めず「規則」の意味さえ知らない男だが、正義感・暖かい心・愛嬌がある関西人。これを見事に演じた。関根八段(滝沢修)が名人となり、そのお祝いに大阪から東京へ駆け付けるが、妻が病床に伏し亡くなってしまう。電話で妻に呼びかける阪妻の迫真の演技による名シーンといえるのですが、10分以上の間、名人となった本来の主役である滝沢修が俯いたまま。もう置いてけぼり状態。これは、ちょっと過剰すぎる演出にみえた。 裕福とは言えない市井の貧しい生活をしながら将棋に打ち込む姿。献身的な妻の姿。そして、「ハッタリ」の辛勝を非難する娘。これらは当時の「日本の美徳」とされる部分をしっかり演出に盛り込んでいるところはさすがですね。もはや「将棋もの」というよりは「家庭ドラマ」です。家族や長屋の人間に迷惑をかけっぱなしだが、アマチュアながらプロの棋士を倒していく浪花のボクサー(じゃなかった)浪花の棋士を描いた前半部分の方が印象に残ってます。(NFC「撮影監督特集」) [映画館(邦画)] 7点(2007-10-11 14:17:53)(良:1票) |
10. 銀座二十四帖
ここまで、銀座の街を徹底的に撮るとは・・・ もう物語云々よりも「銀座を撮る」という方を優先しているようにもみえる。森繁さんのナレーションも銀座の歴史・広さなどの統計や全国の「○○銀座」まで様々な角度から調べ、紹介しているし、ヘリで銀座の全景を撮ったりしている。 ジョッキーとして森繁久弥を起用したのは成功だと思う。 その分、物語については面白味は感じなかったが、街を舞台としているので川島さん得意の演出(狭い所で動かす)は発揮しずらい環境もあったかと思う。 その中で、北原三枝は素晴らしい。美しい容姿にときにはコミカルで溌剌とした動きが凄く好感が持てる。彼女がズッコケル、三越のモデルショーのシーンなんかは最高でした。 銀座をここまで撮った作品は他には無いという意味で価値はあるし、楽しめる一品でもある。(NFC「川島雄三特集」) [映画館(邦画)] 7点(2007-08-01 12:44:26)(良:1票) |
11. 人も歩けば
東宝色が強くみえて、岡本喜八作品のカラーに近いものを感じましたね。東宝喜劇系ではやはりスピードとテンポ、そしてユーモアが抜きんでている感じがする。それは、タイトルまでのナレーションを持って、観る者をワクワクさせる事からも明らかだ。 沢村=横山の親子、横山道代の表情と動き、沢村貞子の性格演技が組み合ったヘンテコでユーモアのある質屋一家も川島演出ならではです。そのほかにも、藤木悠、加東大介らが完全に川島ワールドの車輪となっているし、春川ますみ・小林千登勢の若さが、作品に好影響を与えていますね。特に、小林千登勢の存在をもって「貸間あり」の重さ・暗さが排除された感じを受けました。 タマに観る脱線も程よい加減で、川島演出を楽しめました。 [映画館(邦画)] 8点(2007-08-30 15:30:13)(良:1票) |
12. 有りがたうさん
《ネタバレ》 舗装もされていない道を運転し、人とすれ違う旅に「ありがとう」と声を掛けるため、「有りがたうさん」と呼ばれている。安全運転がモットーで二枚目の伊豆の名物運転手。その運転手役には若かれし上原謙。彼が実際にバスを運転して撮ったオールロケの作品です。 音楽も作品の雰囲気を充分汲んでいて、独特のほのぼの感を上手く出してますね。 「台詞の棒読み」がはじめビデオで観た時は気になったが、スクリーンで観た時はバスのスピードを含めて全て計算なんだろうなと感じる。そして、これがむしろ心地よくなる。翌年の「花形選手」の行軍なんかもそうですね。 製作時の伊豆の山と海岸線の風景、バスの後ろに乗っかるために笑顔で追いかける学生など、窓から見える風景に文句のつけ様がないし、一方、車中でも水商売の女・桑野通子がゆったりとした口調でたまに毒を吐いたりするのが面白い。東京へ行く娘の母がみなに羊羹を差し入れるが、桑野には勧めない。桑野は「甘いのは駄目」とウイスキーを取り出して、男達に勧めるシーンなんかは特に好きですね。 ほのぼのとしたロードムービーとしても充分に面白いのですが、その中で、街道・トンネル工事に転々とし、父を失った朝鮮人(日本併合)の娘の言葉であったり、車内は東京へ売られていく娘を軸に展開したり、当時の社会模様をしっかりと反映させている。大きくないバスが伊豆の山中をひたすら進むというシンプルな話なんですが、観るものを魅了させます。傑作! [映画館(邦画)] 9点(2007-08-02 12:08:08)(良:1票) |
13. 家光と彦左と一心太助
これは喜劇として傑作に入ると思うので、私も乗っからせてもらいます。神保町で今、「時代劇特集」をやっていて、今週「中村錦之助小特集」として、「関の弥太っぺ」、「沓掛時次郎」「武士道残酷物語」「真田風雲録」「反逆児」「殿さま弥次喜多」と本作を上映していて、未見作品3作品を観たんですが、この作品が一番好きです。 「ズレ」を交換に使った見事な脚本。「小国英雄流石にやっぱ巧いなあ」と序盤感じた。だって、将軍・家光と江戸の魚屋・一心太助を交換するのだから面白くないわけがない。でも、それ以上に錦之助の演技の幅に感心。「将軍の威厳」と「魚屋のキップの良さ」を見事に演じきっていて、とにかく笑いの連続でした。 あと、進藤英太郎・中川怪奇モノの常連・北沢典子、あと、家光を補佐する役目で一緒に魚屋にいった柳生十兵衛・平幹二朗がストイックながらも時折見せるお茶目さが最高だ。 「くるしゅうない!すておけ!!」の錦之助には特に笑ってしまった。あの陽気さに当時天国に居た山中貞雄や伊丹万作が手を叩きながら笑っていたに違いない。 演出も冴え渡り、江戸の城のよりどっしりとした陰湿な官僚的な世界と魚市場のあの活気あふれる(動きの多さ・早さ)の対比が素晴らしい。魚市場での人の多さとスピード感は川島雄三も唸ったはずだ。 と堅い感想はさておき、多くの人が楽しむ「娯楽時代劇」としては最高峰に入るかと思います。 とにかく観てください(笑) [映画館(邦画)] 9点(2008-04-01 17:32:18)(良:1票) |
14. 青べか物語
《ネタバレ》 この作品はNFCで三度(川島特集2度、アンコール上映1度)鑑賞したほど興味を引いた作品です。というのも、これまでの川島雄三には無い要素が多分に詰まっていたから。 まず、叙情性。かなり反映されている。この作品の舞台は今や「ディズニーランド」が建っている浦安です。原作でも表記があるんですが、この作品が製作された年でもかなり街が変わっている。この作品には、なにか「近代化されて無くなりつつ風景」という意図がみえて、かつてない叙情描写がわかりやすく盛り込まれている。 その湿地帯であり「べか」が並ぶ光景などを捉えた岡崎宏三のカメラがとても美しい。こういう自然描写はこれまでにはないです。そして、左ト全の老船長、山茶花究=乙羽の夫婦、母に捨てられた娘、等々の人物描写にもそんな意図がハッキリとみえていた。 そして、群像劇もこれまでには無かったと記憶してます。一つの建物に住む様々な人間模様(幕末太陽伝、しとやかな獣、貸間あり、雁の寺)など、狭い空間を得意とする監督が一つの街しかも異なるエピソードを繋いだ作品は他にはない(日活時代以降は全て観ているがない)。その内容も尺に上手く収めていると思う。あの時間であれ以上は酷であり、森繁=住人=街の光景のバランスが良かった。 で、この作品は作者(森繁久弥)が浦安の街を見聞するという話であり、主役はあくまで町人であり、森繁久弥云々ではないと思う。 以前(女は二度生れる以前)の作品にはない川島雄三のチャレンジ意識が感じられて、監督も必死に格闘している姿が鑑賞しながら私の頭に浮かびました。 [映画館(邦画)] 8点(2008-09-15 23:37:57)(良:1票) |
15. 川の底からこんにちは
堂々と「中流階級」よりも下、「中の下」を宣言している作品。登場人物はみんなロクでない人物(不倫・駆け落ち・復讐・・・下ネタ)だったりするのだが作品は暗くない。笑える部分もある。各登場人物を掘り下げているためか、観る者も近いものをかんじるのではないか。「どうしようもない」人生と割り切って生きる事のエネルギーを頂きました。主人公の満島ひかりはとても魅力がありました。高得点! [DVD(邦画)] 8点(2011-04-29 20:25:39)(良:1票) |
16. 暗黒街の弾痕(1961)
《ネタバレ》 題材として産業スパイを取り上げているが、そのスジよりもエンターテインメントに重きを置いているのが何より良い。三船・鶴田ではなく、加山・佐藤允を主役に抜擢した事で、監督のテンポ・センスを存分に発揮されてる感強し。この二人は俳優としてのキャラが対照的なので、とても相性が良いのでは。喜八・暗黒街シリーズでは断然この作品が好き。 [DVD(邦画)] 8点(2014-03-06 20:44:46)(良:1票) |
17. 硝子のジョニー 野獣のように見えて
《ネタバレ》 私はこの作品を芦川いづみの代表作品に挙げたい(すべての作品を観ている訳ではないが)。「白痴」、そのために人に捨てられてきた彼女の人生。稚内の漁村から売られ、脱走した彼女を列車で助けた宍戸錠を「ジョニー」と呼び、彼にくっ付いていく。 この二人の出会いのシーンだけでも、彼女の存在感に圧倒され、宍戸錠の豪快な男とのやり取りに観るものも引かれていく・・・宍戸錠に必死について無邪気に喜び笑う芦川いづみの表情を見よ!もはや演技という事さえも感じさせない純真な姿。 そんな奇妙な二人の関係も、徐々にせつなさが帯びてくる。逃げた彼女を追うアイ・ジョージョの存在、一人の競輪選手にしがみつく宍戸錠。そして、宍戸錠に結局捨てられ「私をすてないでえ」と無垢に叫ぶ彼女の姿。 そこからは、三人の「さすらいの旅」となるが、三人とも人に裏切られる。北海道(函館)を舞台とした切ない物語へと変貌していく。なにか「渡り鳥」のような、人に裏切られそして流れていく寂しさ、荒涼感が良く出ていた。 構成上やや無理も感じられるのですが、それでも、この三人、特に芦川いづみの存在だけでも観るものに強く訴えるものがあった。凄みがあった。 彼女の純真さが、もっとも発揮されていた。 私が思うに、強引かもしれないが、他の作品は作品に対して彼女を充てているためか、表面上の清楚さしか垣間見れないのだが、この作品は、まるで彼女の魅力を引き出すかの如きシナリオ。その違いを凄く感じたし、彼女の「演技にみえない演技」でもって十二分に魅力が発揮されていたと思う。 [映画館(邦画)] 8点(2008-09-21 21:58:35)(良:1票) |
18. 雁の寺
《ネタバレ》 和尚・三島雅夫、妾・若尾文子、慈念・高見国一の三人のドロドロとうごめいている関係。水上勉独特の重さを川島流にするとこんなに魅力的なものになるんだなあ、と驚きました。三島・若尾の痴態を捉えたカメラワークと舞台である寺を立体的に捕らえた構図、「ズンズン、ズンズン」という不気味な効果音、便所の汲み取りと「くっさーい」の若尾文子(笑)。これらが日活や東宝作品のように軽妙さや下品さではなく、大映のモノクロ美の中で芸術的にみえる。この作品は大映3部作の中でも「女は二度生まれる」の性であり、「しとやかな獣」の密室を覗き見る感覚を合わせていると思います。増村さんが撮るともっと暗く、ジメジメしたものとなったでしょうね。川島好きには必見の作品です。 NFC「川島雄三特集」にて [映画館(邦画)] 10点(2007-10-05 18:25:46)(良:1票) |
19. 曽根崎心中(1978)
物語は終始人情を無視した血と血の交わいだ。台詞がダイレクトだし、宇崎・梶の表情が登場時点から血走っている。これは、増村さん独特ですね。他の監督は仕草や動作、表情などをも使って演出をするのだが、増村さんの場合はとにかく「身体」を直接使って表現させる。甘ったるさは微塵もなく力強く痛々しい。二人が心中に至る細かい描写はお構いなしに、互いに信じ愛するという男として女としての「意地」や「誇り」が観るものさえもグイグイと押していく。完全に「曽根崎心中」の増村流解釈がここにあります。二人の心中も「悲劇」ではなく「前向き」にみせてしまうほどの力強さが特長ではないでしょうか。この解釈はとても面白いと思います。一つ残念なのはテンポ。初期作品のような流れをあれば私は文句ありません。(シネマアートン下北沢) [映画館(邦画)] 8点(2007-10-11 10:32:54)(良:1票) |
20. にごりえ
《ネタバレ》 DVDではなんだか良く解らなかったのだが、文芸座で観て「フィルムの方が遥かに画像・音声が良いじゃねえか」と驚いた。私は「映画的」には第一話が素晴らしいと思う(原作は第三話と「たけくらべ」が好き)。 他の二作は写実的な描写であるのに対し、第一話は叙情味に溢れている。『嫁ぎ先の理不尽な扱いにお関は離婚を覚悟して実家へと帰るが、父に諭されて再び嫁ぎ先へと帰る』という話ですが、彼女が実家の門を出たところからの描写に映画の真価が発揮されていた。 上野広小路(鶯谷あたりから)までの暗い夜道、幼馴染(芥川)と出会うが、彼は落ちぶれているわけです。相手はお関の事を「裕福な家に嫁いだ幸せ者」と思っている・・・が、お関は「そうではない、私もとても辛いの・・・」と訴えたいのだが、言葉にできないまま上野広小路へと着く(右手にはセットながら不忍池が!)、二人の別れの先には全く希望は見えない。今井正はこの二人の刹那の時間そして空間に着目した。映画的だと思う。 第二作・三作ともに良い出来なんですが、二作目はドラマチックにカメラを動かしていたのが面白く、久我美子の行為は『是か否』ということが気になった。 三作目は、原作の素晴らしさに監督が映画化に困ったのではないかと思わせる印象を受けた。山村聡と淡島千景よりもとにかく杉村春子が持っていっているような・・・ 三人の女主人公ともにともかく悲惨です。 ただ、第一作の丹阿弥谷津子が、一番の成功者のようにみえて一番残酷なような気がしました。子供・家族の経済的支援のために半ば奴隷になるかのような決心をし、更に幼馴染の落ちぶれを見、暗い夜道で別れていく。希望が本当にみえない。 溝口健二「浪華悲歌」のラストのような暗さです。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-15 23:10:56)(良:1票) |