1. オッペンハイマー
《ネタバレ》 IMAXにて鑑賞。音響はド迫力でした。 本映画関連で大昔にNHKのドキュメントがあり(マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪)、ニューメキシコのすさまじい実験の映像とか、赤狩りの対象になり地位から追われた話は何となく知ってました(最近再放送)。 本映画で個人的に一番興味があったのは ・オッペンハイマー氏が核兵器反対に転じたきっかけは何か? でした。期待しつつ観たのですが、それっぽい要素は丁寧に漏らさず取り込まれてましたが、巧妙に恣意的に時系列を混乱させごまかされてるため、結局よくわかりませんでした。 たとえば、有力候補で「終戦から数カ月後、広島・長崎の状況視察者の報告会が開かれたそれを見て改心?」という説があり、その場面もあるのですが(直接映像は悲惨すぎるため映画中では見せられないのですが)、一方、氏の主観的場面で講演時にフラッシュバックで人が焼き尽くされる映像が出て衝撃を受けるんですけど、順序が入れ替わっており、 ・論理的展開:報告映画を観る→それが印象に残って講演時にフラッシュバックをする ・映画の表現:講演時にフラッシュバックをする→報告映画を観る て感じに、実に巧妙に順序を入れ替えた問題の焦点をごまかす印象操作がされてるので、なんだかなあと。 あるいはですね、核実験のすさまじい結果であの甚大な大量殺りく兵器に対する罪悪感を醸造したというごく人間的な説も考えられます。しかしオッペンハイマー氏の女性関係の節制のなさ罪悪感のなさ子供に対する無関心から、全然まったく氏に一般的な倫理観があるように見えずどうなんだろうっていう。まあ、(既婚ですが)以前付き合ってた女性の自殺への強い罪悪感の表現があるので「死」に対しては罪の意識があったのかもしれませんが。 で、実験結果で罪悪感を覚えたとすると、本映画では、爆発映像が大きな花火を打ち上げたかのような実に美しい絵柄で描かれ、時間差のすさまじい爆音と衝撃波でその恐ろしさが表明されるのですが(爆音・衝撃波のフラッシュバックは何度も出てくる)、これも恣意的に「被害」を隠ぺいした表現になっていて、もちろん実験は人を避難させてたと思うんですが、ドキュメントの映像などであるように、近隣の建築物がすさまじい爆風で吹き飛んでたわけですけれども、映画中ではそういう「被害」も一切見せないわけです。だから、人ではないけど、人の作った構築物への甚大な被害を見て、これは良くないと、見識を変えたのでは? と想像したくなるのですが、そのような映像も全て隠蔽される。 あと、世界初の核実験なので認識は甘く(実際、投下時の被害者数見積も大幅に少なく)、日焼け止めクリームにサングラスしただけでは到底足りず被爆してしまった人もいたと想像するんですが何も説明はなく(水爆実験の被爆者は大問題になりました)、本作で一番無神経な演出と思ったのは「実験が無事終わったらシーツを家に取り込んでくれ」てのがあって、映画では家が実験場からそれほど遠くない場所に見えたんですが(勘違い?)、そうすると外に干したシーツが被爆して大変なことになるのでは、ってのがすごい観ててヒヤヒヤした。爆発・炎・爆音・衝撃波等「目に見える」被害は認識するけれど、放射線被ばくなどの「目に見えない(聞こえない)」被害への認識がまったく甘く、無神経な演出をついついしてしまう、という昔ながらの悪癖は全然直ってないな、て感じでした。 あと話の終盤オッペンハイマーがアインシュタインと実はこんな会話をしてた、というネタ晴らしがされるのですが、個人的意見としては、 「アインシュタインはそんなこと言わないんじゃないかな」 と思ってしまった。実際どうなんでしょう。 そんな感じに、まとめると、前世紀最大の発明であると同時に最大最悪の大量殺りく兵器を作り出してしまった「罪」に真正面から対面しようとして、結局対面できずごまかした作品かなあと、私は認識した次第です。 で、今年のアカデミー賞は本作と、大量殺りく兵器に真正面から立ち向かう「ゴジラ-1.0」が同時に各賞を受賞するという、非常に面白い巡り合わせになっており、現実では各地で戦争が巻き起こり、禁止されてたはずの非人道的兵器もバリバリ投入され、最悪、核使用の危機すらあり得る状況で、このような映画が高評価になったのは、世間への問題提議としては良かったのかも、と思ったりなんかしました。 そんなところです。 [映画館(字幕)] 6点(2024-04-11 13:21:51)(良:3票) |
2. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 初日に観ました。 正直まったく期待しておらず観る気はなかったのですが、ネット上の感想が非常に良くタイミングも良かったので。 国内実写版ゴジラは「シン・ゴジラ」が大好きで6日間連続視聴とかしてました。もうあそこまでのものはできないだろうと思ってました。 本作に至るまでにアニメ版(TV版、劇場版)海外版もいくつか出ており海外版ゴジラはCG表現などド迫力で良かったですしアニメ版もTV版はSF的な非常に凝った仕掛けが面白く、楽しませてもらってた感じです。 で、今回は日本の実写映画でまさに王道を突っ切るゴジラもので、いやおうなく「シン・ゴジラ」と比較されるだろう状況でどこまで行けるだろうか? って認識でした。 結論としては、すごい良かった。 科学考証は微妙にゆるくツッコミどころがなくはないものの、創意工夫にあふれてワクワクする展開はとても楽しかった。 湿っぽい人間ドラマも、もともとゴジラ映画の初代からそうなので、個人的にはまあこれもアリと思い、いちおう価値観なり設定は、二次大戦の事情をあまり知らない人にもわかりやすくかみ砕かれ、かつ現代的価値観に刷新されたストーリーになってて、ハッピーエンドになるのもエンタメ娯楽映画だからなー、というので普通に受け止められました。というかめっちゃワクワク、ハラハラして、最後うまく行って良かったー! と気持ちよく終われる映画でした。 以下、個人的に特に気に入った点を書きます。 ・水中ゴジラ! その手があったか! とのけぞりました。 ・ゴジラは核兵器の脅威の象徴的怪獣であることをきちんと描いている 海外ゴジラって「核兵器」の表現が生ぬるいと思うんですよね。 あの恐怖と絶望と根本的に受け入れ不可能な決定的断然がしっかり描かれてました。 ・就業状況がホワイトで、あるべき理想の組織論として素晴らしい 二次大戦の教訓として一番受け継ぐべき事項の一つとして、とにかく組織のリーダーが無謀で無計画で、無茶な命令ばかり出すので現場の人間が何万人も死んだ、しかもその責任をだれも取らない、という悲惨な状況があって、それは二度と繰り返すまい、って話があると思います。 「シン・ゴジラ」や本作では、理想のあるべき組織が描かれるのが良いと思うのですが「シン・ゴジラ」で唯一気に入らなかったのが、ブラック企業的ブラックな就業状況を「がんばってる」と礼賛する場面です。それは倫理観が壊れてるだろうと。 本作では、まずきちんと計画を立てます。絶対とは限らないが少なくとも成功する可能性のある計画を立てる。この時点でスゲエって思うんです。作中「生還する可能性があるんだよな? それなら戦中よりましだ」って笑う場面がありますが、わりとマジメに切迫した問題だったりして、たまりませんでした。 あと、絶対確実に生還できるか問われて「未知の挑戦なので、やってみないとわからない。可能な限り尽力し生還できる可能性はある」と説得する場面が、とにかく素晴らしいと思いました。新しい試みをする時って、当然やってみないとわからないことがある。数多のリスクや危険があるが、いっしょに協力してやってくれないだろうか、と正直に説明する。そして有志のみを募って計画を実行する。 問題組織では、無茶な計画を立て、担当にリスクなど何も説明せず、たまたまうまく行ったら上の手柄にし、うまく行かなかったら担当者の頑張り不足と現場の責任にし、上の問題が全く問われない状況がいっぱいあった。 それが本作では、上の人間は素直に窮状を包み隠さず公開し、それでもやってくれる有志を募る。現場の担当と上の指示者が一体のチームとなって、それぞれ「今やれることをやって」問題解決する。そういう姿勢が描かれて、全俺が泣いた感じです。素晴らしい、そう、そうですよって。 ・技術者が技術者としての矜持を見せる オチの部分が伏線があからさま過ぎるとか、さんざん煽ってひっくり返すんかとか批判されてるようですが、個人的には、ちゃんとした技術者だったら必ずそうすると思うんですよ。自分の仕事に誇りをもった本物のプロフェッショナルであるならば。戦時中様々な事情でちゃんとした仕事ができず無念なことがいっぱいあったと思うんです。あの時こそ、今度こそ、ちゃんとした仕事ができるっていう悲願の時だったと思うんです。なので回想シーンで主人公以前の着陸してきた特攻隊員の思い出話のエピソードなどあると良かったと思うんですよね。……てところが足りないと思うものの、私自身が、そういう技術者的仕事をしてるのであそこは非常に共感した部分でした。 そんな感じで、非常に良いエンタメ作品で、邦画もやるなあ! って思いました。 以上です。 [映画館(邦画)] 8点(2023-11-07 15:20:20)(良:3票) |
3. JUNK HEAD
《ネタバレ》 すごい! ストップモーションアニメというと、海外ではすごいのが出てて、日本はあまりなく、最近やっと「PUI PUIモルカー」で総時間33分くらいのものが出て、日本でも少ないけどあるんだなあと思ったところに、この壮大な、遠大な世界の作品が出てきて、全俺がどよめいた! みたいな感じでした。 とにかく背景のセットが混沌として奥深く果てが見えないくらいのスケール感があって、これは元々監督の方が芸大の創作でそういうのを作られてたのが生かされたということで、終盤には宗教的な深みまで垣間見えるようになって、とにかく素晴らしかった。 キャラクターも、どれもこれもグロテスクで、血も飛び散ったりしておぞましいものばかりですが、それぞれが息づいていて、ユーモラスな部分もあって終わりごろには愛着がわいてきさえする、最後に対決する敵すら「貴様、あの傷! あの時のあいつか!!!」という、人格的なものがあるものに対する敬意みたいなものが生まれて、すごかった。あと、いちおう人間は新しいテクノロジーで永遠に近い寿命が得られるようになったということで、そういう話もちらっと出てくるのも面白かったです。 パンフレットでは、最初のクラウドファンディングは失敗してしまった、ということらしくて、今後は、これが評価されて、終わってないので(全3部作らしい?)、潤沢な資金支援を得て、ぜひとも最後まで完結して欲しい。また、クラウドファンディングなどで支援の募集などあれば、ぜひぜひよろこんで支援したい! と思いました。 あとまあ、以下は盛大ネタバレですが、個人的には、本作は銃夢リスペクトがすごいと思って、ストップモーションアニメ版:銃夢じゃん! と思って、あの遠大な鉄骨やらなんやらのゴミゴミごちゃごちゃ入り混じった汚い世界は、まさに俺たちのクズ鉄町だし、天から人間である主人公が頭部だけで落ちてくるのはまさに銃夢の冒頭だし、異形の化け物の描写もまさに銃夢(というよりはギーガー的か)だし、最後の山場の、あの機械の身体だからこそできるあのアクションは、まさに銃夢だし、あの銃夢的な未来のSF的世界を描く魅惑的作品として、ずっと続きを待ちたい所存です。 そんなところです。 [映画館(字幕)] 9点(2021-05-22 20:09:38)(良:2票) |
4. ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り
《ネタバレ》 バリガチな(T(T))RPGファンとしては、良作だろうがそうでなかろうが履修必須という事で観に行きました。 視聴環境はIMAX Atmos上映のほぼ最高環境でした。 原作ファンのファン的見解の感想という事で。 正直2000年の「ダンジョン&ドラゴン」(1,2)は、実際ゲームをしてる人間の風景としては残念さ加減も含めてある種とてもリアルで、話自体はポンコツだけど、まあ、ゲーマーの生態描写としてはひどいわあ(笑うところ)という感じに私は結構好きでしたが、エンタメ作品とかファンタジー映画としてみると微妙で人には勧めがたいかなあという感じでした。エルフの女魔法使いというだけで過剰反応をする、野良の腐れゲーマーみたいなものが実際よくいたりしまして。 そんな事情で、まったく期待せずに観に行ったのですが、意外にネットや知人の評判は悪くなくて、むしろなかなかいい感じであり、加えて原作提供会社のウィザーズ・オブ・ザ・コーストは今猛烈にD&Dというものを日本に広めようとしていて、しかし海外ではいざ知らず国内では全く販路がまともに構築されてないので日本国内ではマニアの間でしか知れ渡ってなかったりするのですが、それがより広く一般にも認識されるようになる礎になるかどうかの試金石になる作品であって、そういう戦略的展開とか金銭的事情のために作品の面白さが損なわれてたら嫌だなあというような、愛憎半ばな部分もありつつ観た感じです(つい先日D&D関連の二次創作物に対するライセンス管理でファン層と散々抗争してたりしてましたし)。 あと、オウルベアが映画中では最高にカッチョ良くて素晴らしいのですが、あれは魔法生物なのでドルイドの変身対象にはなり得ずルール誤りである、なんて話題が1~2年前くらいのドラフト版で話題になってたりしました。面白ければ良いの心意気でルールの方を改訂すればいいじゃんと個人的には思ってましたが、結論はどうなったんですかね。 あとまあ、原作ゲームの方で、ポリコレ的なジェンダーにまつわる表現も、ユーザに断りなくいっせいに勝手に書き換えられてしまったのが表現弾圧になるのではないか、というような物議を醸していたこともあったりして、なかなか原作ファンとしては悩ましい部分もあったりしましたか。 ……というような、元のゲームファン界隈ではいろいろ引っかかりを覚える悩ましい部分が多数あったりしたんですけど、そんな一般人にはわかりようもない面倒ごとなど全部うっちゃって、純粋にエンタメとして楽しい! 素晴らしい作品と思いました。 本格的ファンタジーっていうと指輪物語的なちょっと高尚なイメージがあったりするんですけど、D&Dの世界ではいろんな雑多で野卑なものも合わせたごった煮状態で、SF的要素もあって猥雑な雰囲気があったりするんですけど、そういうのがいかにも生きてるって感じで良いんですよ。 あと、戦闘アクションや魔法の扱いがいちいちキチンとゲームの設定を踏まえていて、最近は四角マス(スクエア)ボードゲーム的設定に、3次元マップで立体感も出して遊んでるものが、いまどきの3DCGアクションを駆使して3次元的にグリグリ動きまくって挟撃しまくってるとかいうのも楽しくてたまらんし、あと「キャンペーン」といっていくつもの冒険やエピソードや試練を潜り抜けていくうちに、いっしょに冒険の旅をし続けてきた仲間同士の、仲間の情みたいな、いっしょに遊んできた仲間同士に芽生える感情の醍醐味みたいなものを見事に映画作品のエンタメストーリーとして昇華していて、巨悪に対抗して世界を救うみたいな壮大な話がベースにあるけれども、直接的なそれぞれの登場人物の動機は、肉親とか、旅の仲間とか、友人とか、ごく私的な情愛のために頑張る、等身大の1個の人間でもあるという距離感というか親しみやすさが、実にいいと思ったりなんかしました。 普段は、私利私欲とか金などのごく低俗な欲求のために冒険してるはずが、身近な仲間を助けるために全財産なげうって借金まで追うとか、よくあるんですわ。何を気が触れたんだろうと思うんですが、実際そうなんだわ。 という感じで、ファンのゲーマーとしてはとてもリアルでありつつゲーム体験の中での感動の良い側面を見事に凝縮して作品化したなあ、という感慨深い作品でした。 前の時は技術も予算も足りなくてあれでしたが、いろいろやっとちゃんと描けるようになったんだなあと。 そんなところです。 [映画館(字幕)] 9点(2023-04-12 22:26:23)(良:2票) |
5. TAR/ター
《ネタバレ》 音楽もの&演技派ケイト・ブランシェット主演作という事で期待して観に行きました。 ケイト・ブランシェットは主演をすると割と破滅的主人公をされることが多い印象だったので、わりと期待通り、圧巻の演技でした(その上、世界一と言って差し支えない美貌!)。 あと演奏の音の方も、クラシックレーベルの老舗ドイツ・グラモフォンが大々的に出てくる関係で素晴らしく良かったです。 作品の内容についてはぐいぐい引き込まれて、サスペンス・スリラーやホラー的な様相も帯びてくるのはサスペンスものとしてかなり面白かったです。 一方「カウンター・カルチャー」「カウンター・カウンター・カルチャー」的に見える部分も多々あり、差別的価値観の話もあって、登場人物が偏った価値観を持ってるのは、そういう設定のキャラクターだから、で受け入れられたのですが、作り手側に差別的価値観があってそれを強調するために偏った演出をされてる、みたいなのがあると、それはプロパガンダ作品であっていかがなものかと。監督のインタビュー記事など見ると、監督自身は日本の作品は大好きでネガティブな印象を与えようと思ってそのような演出をしたのではなく、希望の象徴として見て欲しいみたいな話があり、そうか、と思ったりしました。 個人的にわりとカチンときたのは、主人公がクラシック指揮者のTOPになっている状況で(現実にはそんな状況の人はおらず、過去百年のベスト指揮者100人には女性指揮者が一人も選ばれてないというくらい、クラシックの指揮者界隈というのは超絶差別的状況となっているので、まったく絵空事にしか見えないわけですが)、コンサートを開くときに古典的な作品はもちろん演奏するけれども、新しい曲も扱って未来の作品への投資もしてますよ、とアピールする点で、これはまあ、西欧では定番的に使われている偽善的スタンスで、演奏者は新曲などなくても昔の名曲を上手く演奏していけば食っていけるわけですが、それだと新たな作曲家が育たないので、投資として支援しておくべきという考え方があります。で、作中紹介では主人公TARはそういう作品もやってるよと言うけど、インタビューの後のジュリアード大学のオーディションシーンでは全く逆のスタンスを取るわけです。そちらの場面はアーティストは作品自体に向き合うべきで、作り手の属性に対する差別的認識で差別すべきじゃないという主張をされてそれはそれでいいんですけど、「作品自体に向き合うべき」という話で偉大なるバッハの作品を崇め奉るのは良いんですけど、それと同等に生徒の提示してきた現代曲にも真摯かつ公平に「作品自体に向き合うべき」であって、バッハの作品を持ち上げるために、直前に演奏されてた現代曲を不当に貶めてる表現が、「人種差別の問題」を強調するためにクラシック界隈で頻繁に行われている「現代曲差別」を不当に強調していて、それはどうなんだろうと思ってしまったわけです。 そんな感じに、ある種の偏見なり差別認識をただすために、別の偏見や差別認識が作品演出から滲み出してくるところがわりとあって、主人公がスキャンダルで追われて東南アジアのあたりに飛ばされる演出も、描き方が前時代の未開地表現のようになっててアレでしたし、最後の曲も、普通に観ると狂気とかとんでもない状況の転身みたいに見えてしまいがちな演出をされてたと思うんですが、そもそもクラシック音楽の20世紀の発展を踏まえると、ロックやジャズみたいな新進の音楽が隆盛してきた関係で、もはやメジャーな音楽ではなくなった時に映画音楽や、アニメの曲や、エンドで出てきたゲーム音楽の世界の中で、本来のクラシック音楽の精神が引き継がれて生き延びたのだ、という歴史的経緯があるのですが、その「クラシックの正統的後継者」であるところのあの作品を「狂気」とか「恐怖の対象」であるかのように見せる演出は、クラシック音楽というものを根本的にバカにしてるようにしか見えないわけで、なんだかなあと思ってしまったわけです。 あとまあ、クラシック音楽界隈だと楽器ごとに女性差別が大変だったりそうでなかったりするようなのですが、差別が大変と評判の指揮者にやっとTOPの音楽賞総なめのすごい人物が出てきて業界が改善されていくのではという期待をさせる状況ができたのに、こういう内容だとなあ、と残念に感じたりもしました。女性キャラクターだから清廉潔白であるべきでないといけないというわけじゃないですけど、この辺のスタンスからして総じて、本作の音楽ネタの扱いというのは作品演出のダシに過ぎない扱いで、同様のドラマチックな演出ができるのであればなんでも良かったんだ。クラシック音楽業界というものに対する愛はなかったんだ、としみじみ感じてしまったわけです。 そんなところです。 [映画館(字幕)] 5点(2023-05-21 09:39:23)(良:2票) |
6. ワンダーウーマン 1984
《ネタバレ》 観ました。 こういうのは結構好きで、今の時世にも合ってて非常に良かったと思います。 ワンダー・ウーマンって、正直強すぎる問題があって(DCワールドに組み込まれたパワーバランス的に)、仕方なく、よくわからない謎の過去の名も忘れられた神様が何となく出てきて、何となく強くなって、何となく倒すという展開が多く、アクションが派手でもいまいちカタルシスがない、というのがずっと不満でした。 本作では、魔法という別軸を作り出して、元の強さと関係なく願いによって強弱が組み替えられるルールを作り、さらにワンダー・ウーマン自身の意思で、その強すぎる力を捨て、また、世界を救うという使命感(真実)のために、願いを捨てる展開が仕掛けとしてうまく効いてて、理論的にはいろいろゆるいけど、ドラマとしてうまく構成されてたかなと。 ヴィランも、前の、なんだかよくわからんけど神なので強い敵、じゃなくて、ごく身近な人がその願望から悪になる、今まさに現実で起こってることを彷彿させる展開で、身につまされる感じがしたし、それでも元は普通の人なので、なんだか憎めないのが非常に自分好みでした。 最後も、だから、単純に力で勝ったらあかんわけで、それではどうしたら良いか? で、見事な回答をしてたかなと。 いろいろ論理的に見ると甘っちょろい脇の甘い話ではあるんですけど、エンターテインメントでは、甘っちょろいと言われようが何だろうが、あるべき理想と正義と愛と真実を描くべきと、私は考えていて、そういう点では本作は完璧だった(ちょうど時勢に合ったというめぐりあわせもありますが)と、思った次第です。 良かったです。 [映画館(字幕)] 8点(2020-12-27 22:36:24)(良:2票) |
7. アナと雪の女王2
《ネタバレ》 映像はとにかく美しく最高で、前作で決着のついてなかったエルサが本来の自分のあるべき姿を獲得していく過程は、映像としてとても感動的で素晴らしかったです。 しかし、断片的イメージは技術の粋を尽くした素晴らしいものであるものの、話のつながりとしては結構弱くて何となく旅してる感がぬぐえず、エルサとまともにコミュニケーションする相手が基本的にアナしかいないので、人間関係が薄いなあって感じがあり(この二人の関係も今回はあまり起伏がなく)、アナとクリストフの関係も序盤中盤上手く行かせないためのすれ違いやり取りがあからさまで結構イライラするのと(クリストフの歌もコメディとしてスベってるのをさらに助長する感じで乗り切れず)、自然主義的オチも、ダム大国日本の感覚からするとかなり安直だしスケールも小ぶりだし微妙なところよのう、て感じでした。 売りの音楽・曲については前作ほどのキャッチーな曲はないものの、北欧&ネイティブアメリカン? の土俗歌をベースにしたあるあるな感じの曲で結構好きでしたが、ストーリー上最も重要な「北から聞こえてくる声」が、歌なのか、悲鳴なのか、中途半端なヒステリックな声に聞こえてしまって、あれさえ、美しい、何らかの情感を強く掻き立てる声としてきっちり聞こえてたらまだ話の推進力として説得力が付けられたのではないか(そういう話は結構好き)というところに、惜しいなあ、と思いました。 [映画館(吹替)] 6点(2019-11-30 14:09:33)(良:2票) |
8. パッドマン 5億人の女性を救った男
《ネタバレ》 インドはカースト制のため、あまたの差別・偏見があり、それを乗り越えるような題材の映画も最近増えてきて良作が多いのですが、これも非常に良い作品でした(「P.K.」「ダンガル」など)。 主人公は、妻のためを思って、ひたすらパッド(ナプキン)制作に奔走しますが、そこには、こんなにもたくさんの偏見と障害があったとは。 主人公がイケメンでいいやつで、とにかく愛妻家で、観ててハラハラしながらも応援したくなります。 インド映画なので例によってダンスシーンがあって楽しいです。 上映時間も例によって長めで「インターミッション」なんて久しぶりに見ました(「きっとうまくいく」以来か)。 製品開発だけにとどまらず、それをどのように展開していくか? というところが今風ビジネスの先駆けにもなってて非常に面白かったです。 映画「バーフバリ王の凱旋(完全版)」で、民の生活を良くするために自動機械を開発するエピソードがあって、発想は面白いけど現実的にはどうだろう? と疑問に思ってたのですが、この映画を観ると、それって本当にできるし、下手に高額な機械を作るよりも、手作業でできるごく安価なちょっとした装置を作った方が、意外とコスト削減になる――特に、この映画の件では、人の生活・人生を激変させるほどまでに劇的に――という辺りが目から鱗でした。 [映画館(字幕)] 7点(2018-12-08 08:48:07)(良:2票) |
9. 風をつかまえた少年
《ネタバレ》 以前、劇場で視聴。 とにかく、干ばつと飢えと貧困の描写がすさまじくて、アフリカだととにかくカラカラに乾きってどうしようもない情景が描かれて、「水」というのが全ての命の源であり、「水」さえあれば、そこから作物が取れ、人が活動できるようになり、すべてのものが作り出せるようになる……という生きる上での根源を呼び覚まされるような映画でした。 問題の解決方法は、ごく誰でも知ってる理論に基づいた話で新しい先鋭的発見というわけでもないのですけど、インド映画の「パッドマン」(インドでナプキンを作る話)でもそうだったんですけど、 「理論上可能で金さえあれば実現可能だが、貧富格差の大きな国の極貧の中で、それを実行するにはどうすればいいか?」 というところに新しい発想なり発見が求められてるのが非常に現代的かなあと、私たちの生活の中では取るに足りないようなことでも、現地では実に命に関わる重大事である、というのがまざまざと知らされて、なるほどなあと思った次第です。 [映画館(字幕)] 6点(2021-02-08 13:56:49)(良:1票) |
10. バジュランギおじさんと、小さな迷子
《ネタバレ》 年々ぶっ飛んだ王道エンタメ映画を提供してくるインド映画の、今年の1本。 近年のインド映画はとにかくコテコテでベタベタな表現に、あの耳について離れないカレー味のキレキレのダンスと歌と踊りで押し寄せてくる印象で、最近はインドの社会問題もうまくエンタメに乗せて扱うようになってきており、今回はいまだ紛争をしてると思われるインド・パキスタン問題でした。 そこ来ますか(笑)。 インド主流のヒンズー教は多神教ですが、信奉する神様によって思想というか信条が変わるみたいで、このバジュランギおじさんは「ハヌマーン」を信奉しており、その教義に基づくのかよくわかりませんが、 ・レスリングを親から習わせられる(弱いと言われてたけど実は強い) ・卑怯なことは絶対せず常に正々堂々真正面から対決する ・嘘は絶対つかない という信条を持っており、絶対的に自分に課している。 それが、助けた迷子が、実はパキスタン人だったことが明らかになり、母親のもとに連れて行こうとするが、そもそもインドとパキスタンは過去のガンジーの件があって政情不安でお互い憎しみあっており、デモや場合によってはテロすらもあり得る。入国すら困難。 というところで、ただ、迷子の子供をパキスタンの親元に届けるだけでも大変なのに、上記の主人公の信条、「卑怯なことは絶対せず常に正々堂々真正面から対決する」「嘘は絶対つかない」があるため、道のりは限りなく困難になり到底実現不可能と思われるのが、最終的に主人公がどこまでも善良で「卑怯なことは絶対せず常に正々堂々真正面から対決する」「嘘は絶対つかない」を貫き通すがゆえに、主人公の善意のみによる行動に周りがほだされて、到底不可能と思われたものが共感した人々の協力によりだんだんと実現されていく、そんな熱い話でした。 現実にこんなことが可能かというと、非常に難しいんじゃないかなと思うんですが、現実に無理であったとしても 「こうあって欲しい」 を描くのが、エンタメであり、もしかしたら現実自体を変えうるのがエンタメのすごいところで、この作品はとてつもなくベタだけれどもまさにエンタメの王道と言っていい作品と思います。 いま、ちょうど高評価によるリバイバル上映が各地で行われ、観れる機会が増えてきてますので、興味を持たれた方はぜひ見てみるとよいかもしれません。 [映画館(吹替)] 9点(2019-03-02 13:15:35)(良:1票) |
11. 犬王
《ネタバレ》 前提条件としてアニメ「平家物語」は観てました。あと同様の設定を描いた作品として「ワールド・イズ・ダンシング」という漫画を見てます。湯浅監督作品は好きでそれなりにちょこちょこ観ており「夜明け告げるルーの歌」で音楽表現とアニメの快楽的融合が好きなんだなあとは思ってました。マインドゲームもそうでしたね。 で、本作は音楽表現とアニメの動きの快楽をとことんやって見せびらかしたい作品だろうなと思っていて、やりすぎなくらいの過剰な表現(場面によっては長すぎるとか)をどこまでやってくれるかというのがあり、個人的にはそのためにアンバランスで歪であってもいいだろうという心持で観ていて、実際作品の大半は歌とダンスで埋め尽くされており、途方もない美しい表現もあり満足できました。 ただ、人間ドラマとしてみるとほとんど葛藤も描かれずすんなり行き過ぎてどうだろうという部分があり、そこは必ずしも本作の主旨じゃないので、まあ置いておくとしてちょっとこう登場人物に感情移入しがたいなあという部分ではあったのですが。 それよりも気になったのは主旨の部分です。私は本作の主旨は「ダンス(のアニメ表現)」「音楽(琵琶→ロック)」をいかに見せるかだと思うんですけれども。 ダンス部分について「猿楽→能」という展開があるところのものを現代的なダンスに置き換えるのは猿楽なり能の振り付けに対する思想的なものを踏まえた上での振り付けなんだろうか? というのは気になったところです(「ワールド・イズ・ダンシング」だとその辺の思索を深めているので)。説明はないけど考えた振り付けになってるのかも知らんけど、私にはよくわかりませんでした。 音楽部分については、それまでにない新しい音楽として、現代的な「ロック」を当てはめてるのですが、当時の人にとっては当然新しい聞いたこともないような音楽であるという設定なのはイイとして、視聴者にとっても斬新に聞こえるべきかという点で、いまいちピンと来ませんでした。なんか「円熟のロック」みたいに聞こえてしまって、私個人としては新しみのない面白くない曲だなあと感じた感じ。そもそも琵琶を演奏する友魚にとってもロックは新しい発見の音楽であるはずで、発見のための物語があったはずだし、なぜそのような音楽表現になったかの思索なり論理があったはずなんだけどそこがわからなかった。あるいは既存のロックミュージックをベースにするにしても、ロックというジャンルが出来上がっていく黎明期の曲なりがベースになってるなら登場人物の立ち位置に近くなって、何らかのみずみずしさなり斬新さが出るはずだと思うんですが、全然そんな感じには聞こえず、要するに「円熟のロック」のように聞こえて、いやなんか曲が合ってないんじゃない? と思っちゃったんですよね。良い、面白い演奏ではあったけど。 湯浅監督作品って、最初の発想は斬新で面白いけど、いざそれをどう表現するかについて、わりと安直にわかりやすいネタに飛びついてしまう所があると思ってて、本作は安直でちょっと物足りないなあと思った次第です。 そんなところで。 [映画館(邦画)] 6点(2022-06-22 12:22:14)(良:1票) |
12. リバー、流れないでよ
《ネタバレ》 ループ物のSF系映画には良作が多数ありますが、本作は劇場内で終始笑いの絶えない上映で、けらけら笑いながら観られました。とても楽しい映画で良かったです。 貴船を舞台にしてるので、だいたい場所の配置が行ったことあるのでわかってる中で、2分という時間制限があって、そこを場面を全く切らずに1ショットでずーっと回していく臨場感がありつつ、記憶は視聴者と同じく巻き戻らず連続してるので時間がループして大変なことになってるにもかかわらず「今ちょっと災害が起こってますが状況がわかるまで落ち着いて問題解消するまでお待ちください」みたいな、ループ物にあるまじき和やかさで、昔の辛口ショートショートにあるようなユーモアあふれるコミカルな展開でした。 話の主旨としてはタイムトラベルの仕掛けよりも、現実のせせこましい時間に追われる気の休まらないところから、ホッと一息ついて、時間の大切さとか、人と人とが触れ合うちょっとした時間の積み重ねが上で大切だみたいなところがにじみ出してきていて、ハッとするような、ほろっとするような部分もありつつ、最後の結末ではみんなの意思が一つに揃って、問題解決するっていう、実に気持ちいいさわやかな映画で素晴らしかったです。 [映画館(邦画)] 8点(2023-07-28 20:20:36)(良:1票) |
13. フォードvsフェラーリ
《ネタバレ》 私は仕事がら、中間管理職であるシェルビー(マット・デイモン)に感情移入して観たのですが、そうすると、この映画ってタイトルに偽りあり! で、フォードvsフェラーリというのはフレーバーに過ぎなくて、本当はフォード vs クリスチャン・ベイル&マット・デイモンなんじゃないかと思いました。 なので、レースの話はおまけで、メインはフォードという、どうしようもなく腐敗した巨大組織の話という認識(レースに勝つ・名誉を得る、という観点で)。 ぶっちゃけ、あのさんざん嫌がらせをしてくるレオ・ビーブって、現代の価値観で言えばパワハラ上司以外の何者でもないのですが、いちおう映画上の言い訳は、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)が技術は素晴らしいがとても独断的で合わない人にはとことん合わない性格で、加えて、レオ・ビーブとの最初の遭遇が最悪の印象になってしまったのを引きずって、あの映画中のような対応ばかりになってしまったのは、巡り合わせと人の相性の問題で仕方ない、という見せ方になってて、今だと明らかにパワハラで労基の監査を入れる案件と思うんですけど(証拠がバリバリあるし)、まあ当時はそういう権力の横暴が放置されてたのでしょうがなかったのかなあと、思えなくはない。 で、この映画で一番のハイライトと思うのはシェルビー(マット・デイモン)が、上が埒が明かないので、会長のフォード氏に直談判したところと思います。 これが、普通のエンタメであれば、上の経営者層の人は、人格者で、しかし常に多忙を極めて主人公側に配慮できてなかったが、直訴で状況改善される、とかになると思うんですが、この話では全然そうならない(笑)。上司がろくでもないパワハラする組織で、なんでそんなひどい上司がまかり通るのかといえば、その上の上の経営者層がろくでなしだからである(ただし、人前に立つ関係で、体裁を取り繕って偽装するのだけはうまい)、という現実の腐敗組織のあるあるがまさに体現されていて、それが毒素のようにじわじわ効いてきて、最終的に悲劇的な終わりになる。 シェルビー(マット・デイモン)も、あまり良い管理者とは言えなくて、自らル・マンに優勝した経験があり、命がけでやる気概のある者でないと勝利できないとわかってるのに、いざ管理職になると、上からの支持を唯々諾々と受け入れて初回のレースではケン・マイルズを外し、最後のレースではやっとケンが仕事に専念できるよう防波堤の役割をするよう、かなり改善するんですけど、最後のいざという決断の時に、自分では何も決断をせずに、上からの支持をケンにすべて伝えた上で、最終決断をケンに丸投げする。 いちおう 「担当者に決断を任せる、という決断をする」 という言い訳をしていて、以前の、担当者に話を聞きもせず決定するのよりは改善しましたが、本来、管理者のやるべき仕事って何かっていうと「決断すること」であり、担当者はその決断に従って全力で問題解決するという役割分担があり、それができない場合はせめて担当者と話し合うべき(特にシェルビーは、どうするのが良いと思うという意見を述べるべき)……ということを何もせずに結局決断を担当に丸投げしていて、現代の価値観だとそういう一番やるべき仕事の決断をせず、丸投げする、仕事しない管理者のことを「土管(俗語)」とか言うんですが、まさに仕事しない無能な上司をやってる。 ただ、当時だとあそこまでの譲歩が限界だったのかな、というのはわからなくもないです(一応後で悔いてはいるし)。 その腐敗しきった組織の中で、記録に残らない最大の功労者のケンの話を掘り起こしたのは、すごいと思って、終わりもあれ以上ないかっちょいい終わりで、良かったです。 いろいろグダグダ書きましたが、組織の話として非常に面白かったということです。 [映画館(字幕)] 8点(2020-01-25 05:39:57)(良:1票) |
14. サスペリア(2018)
《ネタバレ》 前作が大好きな人間の感想ですが、サスペリアというものを、美しくもおぞましいものをとことん突き詰めて描く(他は知らない)作品という認識で観ており、前作でそれは大体成し遂げられてしまってもうこれは覆しようがないな、というところにリメイク……再構成の作品を作っても生半可なものでは劣化コピーにしかならないであろうところで、 主人公を赤毛にする というアイデアですべてを持っていく力技で、わりと面白く見られました。 少なくともインパクトだけで言えばこれ以上のものは今年はもう観られないかも、という感覚です。 最初の惨殺のエグい場面が、前作の痛いけど美しいものと比べると、グロくて吐きそうなのは、インパクトは素晴らしく、あまり目に慣れてないモダンバレエとおどろおどろしい現代音楽風音楽で描くのもアイデアとして悪くはないと思い、最後のクライマックスでどこまで見るもおぞましい耐え難いものが現れるのかとワクワクした。 しかし終わってみると一番インパクトがあって恐ろしかったのは最初のあの場面だったというので、ちょっと肩透かしを食らわせられてしまいました。最後はあの何倍ものすごいものを見せていただきたかった。 ただ、現代芸術的なものをおぞましい恐ろしいものの象徴として使うセンスが100年前くらいのすごい古めかしいカビの生えたようなセンスで安直ではないか、というのがあってそこは何とかならんものか、というのと、あと魔女集団が成立する説得力として、第2次大戦~1970年代くらいの時代背景を持ってくるのは、悪くないと思うんですけど、見せ方のバランスに問題があってそれが上映時間の長さに直結してしまっており、前作と同じく90分程度にまとめられなかったものかと。デビット・リンチのおどろおどろしい系でも同じような時代背景っぽいものを匂わせることがあって好きなんですけど、そういうのはチラッと見せて、マニアが調べてみたら実はしっかりとした考証があった……とかいう程度のバランスが良いかと思いますが、本作では見せすぎかなあという印象でした。 エンドが前作と反転してることについては、主人公が赤毛になった時点でもう納得なので個人的に全然OKで、そっちを行くならスージーとマダム・ブランの絡みをもっとやってよ! という物足りなさはありました。 そんな感じです。 [映画館(字幕)] 7点(2019-02-09 14:45:35)(良:1票) |
15. 燃ゆる女の肖像
《ネタバレ》 この話は、とてつもなく狂おしい永遠の愛の物語と思い、非常に心を揺さぶられました。 とにかく美しく、静謐な映画でした。 映像は一つ一つの場面がそのまま絵画にして飾られてもまったく遜色ないくらいで、主人公2人とその周りの人たちがそれぞれ個性的で美しい顔立ちで、着てる衣装も18世紀のそれぞれ美麗な衣装で、描かれる場面も独特の形の岩を背にした海岸だったり、屋敷も貴族の家の、派手派手ではないけど、美しい調度や楽器や椅子や食器や、主人公の一人が絵描きなので絵を描く道具などが並べられて、それらをじっくり見てるだけで眼福という感じ。 静謐の方は、とにかく「音楽」が作中ほとんど流れる場面がないので、大半が自然音ばかりなのですが、登場人物の声と、息づかいと、足音と、衣擦れの音と、海辺の波の音と、風の音と、道具や食器の音くらい。声や人の動きによって出る音も、終始感情のない淡々とした言葉や音ばかりで、ほとんど全部の箇所がずっと静かなまま淡々と進んでいく(親しくなるにつれてだんだんお互い感情を出すようになってきますが)。 ただ、その静けさというのは、登場人物が心穏やかなので大きな音を立てないというのではなくて、本当は熱い情念を内に秘めてるけれども、それの心をじっと殺して、そんな感情などあることなど忘れ去ってしまうくらいに殺し続けて、保たれてる静寂であって、だから、静かだけど、ものすごい緊張感が最初から最後までピンと糸が張ったように持続し続けています。 それが、打ち破られるのが、4か所音楽が鳴るところで、それまで音声的にはまるで白黒映画を観てるような、乾ききった音しかなかったものが、音楽が鳴る場面だけ、極彩色のカラーの映画を観てるような、音的に華々しい躍動感あふれる場面に変貌して、その劇的変化に痺れました。 作中で、主人公二人が「どこで初めてキスしたいと思ったのか」と問いかける場面があります。女画家の方は焚火の場面でそうだったと答えるのですが、貴族の娘の方は、いろいろあって答えられずに、その問いの謎が「永遠の謎」として残ります。永遠の愛をテーマにした物語ではそういう「永遠の謎」が残って、そのまま相手が死んでしまうので、答えがわからないまま残された人が途方に暮れるというのが定番の展開と思うのですけど。本作では、相手は死ぬわけではないけど、社会的に許されないので、死ぬまで秘密にし続けなければならない、ということによって「永遠の謎」が「永遠の謎」になるという構成が、愛の物語として、すごい画期的だなあと感じました。 当時は女性はまともに人権が認められず、結婚相手も親に勝手に決められる状況で自由はなく、なおかつ宗教的(もしかすると法律的にも)同性愛は認められない時代でしたので。 この辺は、18世紀の話だけど、現代でも、ある意味、あまり変わってないのではなかろうか、というのも思いました。LGBTQの件なんかも法律的には許されてるけど(国によっては許されてないところもまだありますが)、信頼できる人などに「カミングアウト」した時しかそのような志向であることをなかなか明らかにできない、という現状があったりしますし。 ……というようなことを考えあわせた結果、貴族の娘が「どこで初めてキスしたいと思ったのか」の場面は、あそこかなあと思った次第で、話の構成自体は割とシンプルかつシステマチックだなあと感じました。 [映画館(字幕)] 8点(2021-01-01 05:22:14)(良:1票) |
16. 侍タイムスリッパー
《ネタバレ》 全国上映展開されたすぐ後に地元で観に行ったのですが初回は「SOLD OUT」で視聴できず、後日再チャレンジしてやっと観られた感じです。観た日もほぼ席はいっぱいで盛況でした。 情報的にはSNSで話題になって、東京1館でしか上映されてなかったのが連日満席で全国展開が決まったというのは認識しており、観たいなと思ってました。「カメラを止めるな!」と比較されてインディーズ映画でも面白げな話なのかなあと思いつつ。 率直な感想としては、メチャメチャ面白かったです! ハラハラする超カッコいい本格的な鬼気迫る殺陣に、タイムトラベルネタ的な笑いあり(劇場中が笑いに包まれてみんなで映画観て楽しんでるなあって感じが非常に良かったです)、ホロっと泣ける話もあり、あと、個人的にはそれだけで十分インディーズ映画として元が取れて大満足だったのですが、その先にさらなる驚愕の展開があるという予想を上回る出来で、インディーズどころか全映画の中でエンターテインメントかくあるべき、時代劇エンタメ最高! と快哉を叫びたくなるような素晴らしい作品でした。 映像的には、時代劇としてあまりにもクオリティが高く「これ本当にインディーズ映画なのか!?」と疑ってしまったのですが、インタビュー記事など見ると脚本を気に入った東映が全面的にサポートしてくれたみたいで(ただ予算節約のため舞台のオフ期に撮影されたとのことです)、映像的には本格的時代劇とまったく遜色ないレベルの作品となっておりました。 特に"殺陣"の部分が、主人公が斬られ役の殺陣師に入門する設定なのもあり、どこもかしこも殺気立った緊迫感のあるカッコいいものになっていて、あの抜刀して刀を鞘に納めて"チャキン!"てやるだけで、ああたまらん! と思ってしまうのですが、これが主人公は当然として、端役の隅々まで行きわたっててみんなカッコいい。主人公の当て馬的、チャラい二枚目俳優の心配無用ノ介すらも、漫画チックなコテコテな役をしてるのに刀の扱いはクソかっこいいという、もう大満足でした。 最近は時代劇というとほぼ地上波では放映されておらず、BSで往年の名作が再放送されるか、多少新しめの新作が出てくるものもあるのですが昔ながらのチャンバラ劇のようなものはあまりやられなくて(役者が殺陣を身に付けるのが難しいというのもあり)人情ものが主流だったりして、こういうバキバキのカッチョ良いチャンバラのある作品てすごい久しぶりだなあと思って……いや、NHK大河ドラマでは考証含めてしっかりやってますか。映画も何だかんだ毎年ちょっとずつは作られてきてますね(今年は"碁盤斬り"ですか)。 あと、時代物タイムスリップネタだと定番的なお笑いのネタについてですが、ケラケラ笑って楽しく見られたのですけど、同時にこういう純粋な、単純な感動の感覚ってすっかり忘れてしまっていたなあと思い起こさせられました。新興国の新しい映画作品とか見てもしばしば認識させられるんですけど、ごく単純な、人が死んだら悲しいとか、食べ物がおいしくて平和なのはなんて素晴らしいことなんだろうとか、親子の情愛は泣けるなあとか、妙に斜に構えてしまって、そういうシンプルな原点の感動を見失ってしまっているというか、そういうのはダサいとか感動ポルノとか言って叩き回ってるのはどうなんだろう、というのをしみじみ考えさせられた感じです。 あと、インタビュー記事で監督氏がヒロイン役の人に「めがねをしたら最強だから」と言ってて、めがねをした役としてヒロインの人は出演していたのですが(当人はあまり気に入ってないようでしたが)(同時にリアルでも助監督をしていたそうです)、これについてはめがね好きとしては監督に大賛成で、とても良かったです。あからさまに度のない伊達めがねなのと、めがねに慣れてない人にありがちなしばしば微妙にめがねのかけ具合がズレてるのを直していただけたら完璧なめがね女優になっていただけるかと、今後にとても期待を持たされる出演となっていました。 いいぞ(超ウザい)。 そんな感じで、時代劇愛の感じられる実に良い作品でした。 ちょうど真田広之の「SHOGUN 将軍」が同時期にエミー賞受賞とのことで、これからこういう時代ものの波は来るのでしょうか。 そんなところです。 [映画館(邦画)] 10点(2024-10-03 11:55:52)(良:1票) |
17. 音楽(2019)
《ネタバレ》 劇場で視聴。原作(漫画)を事前に読んでました。 この作品の漫画は非常に難しくて、実に漫画らしい漫画というか、抽象的なキャラの絵に、絶妙の「間」で、おかしみを出す話なので、映像的には、映像が何も動かない絶妙の間がおかしい、というのを映像作品で一体どう描くのか? というのが最大の懸念と思ってました。 この映画アニメ版では、そのおかしみを見事に実現しており、何も動かない主人公・研二の顔をボーっと数秒見せられるシュールな場面だけで、思わず吹き出させられてしまうっていう、アニメなのに動かないのが楽しいという異次元のユーモアを感じさせてくれたと言いましょうか(もちろん、別の場面では「間」がなく即座に反応することで、この「間」というのが主人公研二の思考時間であることがわかるんですけど)。 ただ、この辺は、原作とか、原作者(大橋裕之)の諸作の雰囲気を知らないとわからないであろうと思い、私自身も2回目以降の視聴で「ああ、ここがめちゃ笑える!」と、その感覚にやっと気づいて、ゲラゲラ笑いながら観られたんですけど。わかりにくくてすみません(誰得 映画オリジナルのエピソードとしては、音楽部分もかなり膨らませられてますけれども、なんといっても、古美術の「森田」が、最高に良かったです! 特にフェスの宣伝で覚醒するところの演奏が死ぬほどカッコよくて、その時の演奏がアルバム「古美術」にも載ってないので、ぜひどっかで公開していただきたく! 映画は、そこの演奏場面ばかりリピートして観ています。 あと、ブルーレイ等購入された方は、オーディオ・コメンタリーが死ぬほど暑苦しくて最高なので、是非1度はオーディオ・コメンタリーONで視聴してください(願。 以上です。 [映画館(邦画)] 10点(2021-03-15 14:59:21)(良:1票) |
18. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 この映画は、ぶっちゃけ映画「セッション」と同じテーマの作品と思うのですが、要するに美しいものを創るためにどこまでヒトデナシになれるかという話。 「セッション」では作り手がヒトデナシであるということを自覚しているので、それなりの因果応報もあって、その上で、素晴らしい芸術を生み出す事実に震撼としたりもしたのですが、この「風立ちぬ」はその辺の倫理観によるリミッターが何もなく、ただただヒトデナシ行為が粛々として続けられていき、それがヒトデナシ行為でないかのようにごまかして描かれ、最後にはあたかも美しい物語であったかのように美化されて終わるという、割とどうしようもない救いがたい自己満足作品かなあと思いました。 相変わらず映像は素晴らしいので、倫理的に誤ったヒトデナシ行為を、あたかも美しい素晴らしいものであるかのように誤認させる極めて悪質極まりない作品という認識で、だから最後に「生きねば」とか、主人公がふざけたことを言い始めますが、くそじじいはとっととしねよ、としか思えませんでした。 あと、時期的に宮崎吾朗氏の「ゲド戦記」への返歌的作品かなと思いつつも観てたのですが、作中には息子どころか子供の話すら一切出てこないありさまで(さすがにあの当時結婚して子供の話が一切出てこないのは異常でしょうと思うのですが)、何もかもすっぱりなかったことにされてて、その辺りも酷さに拍車をかけています。 現在、結局引退すると言ったくせに、また復帰しておりますが、本作のような純文学的な話を描こうとするとどうしてもヒトデナシな話になって勘弁してほしい感じなので、どうせ作るならエンタメ作品を! と思う次第です。 [映画館(邦画)] 0点(2018-12-16 07:59:13)(良:1票) |
19. ハンターキラー 潜航せよ
《ネタバレ》 潜水艦ものに外れなし! と言われますが、これもなかなかハラハラドキドキ、謀略アクション娯楽作で良かったです。 「ワイルド・スピード」のスタッフによる制作ということで、エンタメ度、ヒロイック度が上がっており、その分、理詰め部分はゆるいです。しかし、様々工夫が凝らされてて楽しい。ポップコーン片手に気楽に観るのが良さげかと。 あと、熱い展開がてんこ盛りで燃えます。個人的には、斜面の場面が「おおおおおおおお!!!」っと、内心超盛り上がりました。良い。 [映画館(字幕)] 7点(2019-04-16 22:13:28)(良:1票) |
20. ミッドナイトスワン
《ネタバレ》 ちょっと自分には合いませんでした。 他の人たちは、割とリアル寄りの自然な演技で静かにいい感じの雰囲気を醸し出してるのに対して、草彅剛の演技&セリフがコテコテ過ぎて、現実世界の真っただ中に半沢直樹が突如降臨して倍返しだ! とか土下座しろ! とか言い出すみたいな、リアリティのレベルが全然合ってない感じ。 セリフもくどくて、そこまでの表情や動きで十分感情は描けてるのに、わざわざくどく説明台詞を入れて要らない解説をするとか、それだけならいいんですけど、言ってる内容が話の流れからすると微妙にずれてて、いやそこまで言っちゃうとなんか話として変わっちゃうだろうみたいな、草彅剛は、私の感じたのでは、セリフを言わない時がいちばん良くて、あの哀愁ただよう美しくも闇を秘めたたたずまいをただ撮り続けてくれてる瞬間の方が良かったです。 そういうのが積み重なって、話の最後の辺は、映像的にきれいなのに、もはやホラーにしか見えなくて、ちょっとギャグかと、内心爆笑してしまって、なんか済まない感じになってしまいました。 とはいえ、割と踏み込んだエグイ場面を体当たりで熱演されたのは、すごいなと。 ただ、表現的に、ネガティブな印象/偏見を視聴者に付けてしまいそうなところがあって、そこはどうだろう、と思いましたが。 新人の、服部樹咲と水川あさみは、演技が自然で素晴らしく(二人の交流のふれあいと過去絵の掛け合いとかすごくいい)、バレエも見事で、特に服部樹咲は話が進むにつれて、どんどん輝くような美しいカリスマを発揮して、将来がとても楽しみだ、と感じました。 あと話の展開が、白鳥の湖をなぞる感じにされたのでしょうか、あの辺の話って、愛のためにとりあえずしねばそれこそが至上の愛と短絡するパターンだったりするのをそのままこの映画では踏襲してるので、それはちょっと今の死生観では納得しづらいかなあと、いや、さっさと医者に連れてくか、携帯あるんだし119で呼べばいいのに、とずーっと思ってしまった感じでした。 そんなところです。 [映画館(邦画)] 4点(2020-09-30 21:42:04)(良:1票) |