1. アラビアのロレンス
《ネタバレ》 「狂気が充満したような映画」、そう観終わりスクリーンを後にする時に思いました。この"狂気"とは、勿論、主人公であるロレンスが段々と狂気に染まっていくということでもあるのですが、それ以上に、この作品を評する一番の賛辞は"狂っている"と言うことだと強く思ったのです。つまり「素晴らしい」とか「美しい」とかのありきたりな美辞麗句を超えて、「こんな映画を撮れるなんてどうかしている!」という感覚こそが、この映画を評するのに最も相応しいかと。 主に前半部に見られる砂漠の映像美、合戦シーンのスペクタクル、作りこまれた巨大なセットや人間達、全てが古い映画なのに規格外で、それをコントロールし撮影しているのだと思うと、ついついため息と共に笑ってしまいました。だって、有名なシーンですが、広大な砂漠に映る蜃気楼からラクダを駆ってくる人間の姿が浮かび上がったりする。どんな忍耐力と集中力で撮影をしていたのか、想像できないです。唯々、驚愕するしかないシーンの連続。 また主人公・ロレンスの人物描写の巧みなこと。イギリスとアラブ、どちらにも属しきれない人間としての悲しさも非常に感じられましたが、その性格は、清廉であり残酷、勇敢であり臆病、理想家であり現実家、とあらゆる人間の側面を内包している。その上映時間の長さを活かし切った壮大な人間ドラマでした。 [映画館(字幕)] 9点(2015-10-28 15:31:49)(良:1票) |
2. ある戦慄
《ネタバレ》 これは大変恐ろしい密室ホラー映画でした。舞台はニューヨークの電車の一車両から基本的には動かない。こういう密室の車両に閉じ込められるっていう設定自体は、例えばアクション映画等では良く出てくる設定ですが、そういった映画類の何倍もこの映画の方が怖かったです。列車に爆弾を積んだ政治犯が銃を突き付けてくるより、イカれた男が二人乗り込んでくる方が遥かに恐ろしいというのは何とも面白い。多分設定に現実に起き得る様なリアルさが感じられることと、基本的には人間の醜さを主眼に置いているからだと、個人的には思いました。 完全にイカれていると思いきや、極限状態における乗客たちに醜い振る舞いをさせたいだけに思える様な、トニー・ムサンテとマーティン・シーンのチンピラッ振りが大変に良いです。というか堂に入り過ぎていて、こいつらホントに普段からチンピラじゃねーのか?とも思ってしまったり……。まあ息子のチャーリー・シーンと違って、オヤジは真面目なリベラル左派らしいですが。俳優ってスゴイ。 [DVD(字幕)] 8点(2015-03-04 23:39:45) |
3. 網走番外地(1965)
《ネタバレ》 素晴らしい。任侠映画の極北だと思います。母親の死に目に立ち会いたいと願う主人公。しかし一匹狼故にトラブルを周りから起こされてしまい、中々その機会に恵まれない。自分を良くしてくれるお偉いさんはいて、恩を感じているものの、自分のせいではないとはいえ、その奥さんを傷つけてしまう。さて、こんな絶望の主人公はどうなってしまうのか!?と思わせておいて、最後は人情の極を味あわせてくれる。繰り返しますが素晴らしいです。 ヤクザ映画では定番となっている田中邦衛の阿呆さや、錠を鉄道で切ろうとする時の一悶着等々、笑えるシーンが多々あり、刑務所ものでありながら清涼感があるのも面白いです。あと実は鬼寅だったおじいさんの迫力が凄いですね。演技の凄い説得力。 [映画館(邦画)] 8点(2015-01-11 21:50:40) |
4. 愛すれど心さびしく
《ネタバレ》 アラン・アーキン演じる聾唖の男シンガーは、精神病院に入れられた友人を追って南部の街に越してくる。そこで主に三人の人達と知り合います。一人はいつかピアニストとして立身したいと思っているが貧しさ故にその夢を諦めている少女ミック。一人は飲んだくれて自暴自棄になっている浮浪者ブラント、一人は医者という社会的地位の髙い職についている故に向上心の無い黒人を許せない老人コープランド。彼らがシンガーと触れ合うことで塞がっていた人生が開かれていく様は非常に感動的で、一種の人生賛歌となっています。私は特にお金が無いからコンサートを裏口でこっそり聞いていたミックがシンガーの部屋でレコードを夜遅くまで延々と聞いているシーンでびっくりする位泣いてしまいました。生まれがどうであれ音楽(芸術)は関係ないというシーンに自分を重ねてしまいました。 しかしそんな人生の素晴らしさを説いただけでこの映画は終わらない。そこから殆ど全ての人達が次々と不幸になっていく。ブラントは職を得るも喧嘩を起こし街を去り、コープランドは自尊心故に娘の恋人を助けず娘から憎まれ、ヒロインとも言えるミックは自分の夢の為にボーイフレンドに体を捧げるも裏切られピアニストの夢を捨てる。そしてシンガーも友人が急死し、ミックに拒絶されたことで自分が真に孤独になったと思い込み拳銃自殺でこの世を去る。 この映画で引き起こる不幸は全てが"すれ違い・相手を理解できない"ことによるものです。原作『The Heart Is a Lonely Hunter』の著者カーソン・マッカラーズも自らが孤独であると思う故に、この様な誰も分かり合えない人間の辛さを描いてきた作家でした。 私も所詮人間は相手の気持ちを100%は理解できない(実際は5%にも満たないと思う)と思いますが、だからこそ逆にシンガーの様に「僕は孤独なんだ!だからあなたと解り合いたいんだ!相手になって欲しいんだ!」という気持ちを持ちたいと思います。ヒロインであるミックが最後にシンガーの墓前で「I Loved You...」と呟くのと同じく手遅れにならないために。 [DVD(字幕)] 10点(2013-03-03 17:02:52) |
5. アパートの鍵貸します
《ネタバレ》 私は結構テーマ主義な部分があって、良くも悪くも作品が持つテーマを意識して観ることが多いです。大体の映画というものは一つのテーマに沿っているもので、多くても二つまでが殆ど。しかし驚くべきことにこの映画にはテーマがいくつも混在している様に思えます。 まず恋愛が一つ。この映画を通して強く感じるのはシンプルな「恋は半端にするんじゃなく、本気でやれ」ということ。主人公の周りの上司達は火遊びとして女の子と遊んでいますが、主人公のバドは全く違います。だからフランについて茶化された時はムッとしましたし、フランもずっと一人一人の男を真剣に愛してきた。上司達と主人公(バドとフラン)を見るとどちらがメンチュ(立派な大人)かは明らかでしょう。上司達は社会的地位はあるかもれませんが子どもです。 次に自己犠牲が一つ。恋愛と少し被りますが、本当に愛してるってどういうことなのか?上司のシェルドレイクは家族を失うのは嫌だけれど若い女を取っ替え引っ替えしたいという自分の身を出来るだけ削らない人間でした。バドは惚れたフランを庇うために彼女の義兄に殴られますが、彼は彼女の役に立てて嬉しそうでした。つまり愛するということは相手のために自分を犠牲にするということです。そうじゃないと愛してるとは言えない。 その次に仕事が一つ。主人公は自分のアパートの一室を上司に貸し出すことで易々と出世しますが、彼の能力によってではありません(逢引の場を工面する要領の良さを私は能力の一つと思いたくない)。上司におべっか使うことが出世としての正しい道なのか?そうじゃないだろうということでしょう。その証拠に部長補佐に落ち着いたバドは空虚な人間としてカメラに映されています。 以上の様に、「愛・仕事・人生」と生きる上で重要なヒントが山程込められている大変に素晴らしい作品でした。 [DVD(字幕)] 9点(2013-02-24 23:37:46) |