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1.  悪人 《ネタバレ》 
主人公の男と女。出会い系サイトで知りあった二人は、いつしか互いを祐一、光代と呼びあうようになる。だがそこには、肝心の説得力が伴わない。彼らがそうして親密さを深めるに至った経緯が物語からきれいさっぱりと抜け落ちているからだ。それは、観客の想像を刺戟するような映画的表現としての「省略」ではない。本来あるべき必要なシーンが強引に割愛されてしまったかのような、単なる唐突さだ。食卓に並ぶイカ(奪われた生命)の目に罪悪感を喚起された祐一が殺人の回想へと至る場面のひとりよがりな上滑りも、さらには祐一の祖母が自分を騙した漢方薬詐欺の事務所に敢然と乗り込む薮から棒な描写にしてもそうだ。巧みな演者が見せる登場人物たちのゆらぎ移ろい変化する多面的な心情も、その過程や余白が綿密に描ききれていないため、まるで一貫性のない突飛な言動に見えてしまう。李相日監督は前作『フラガール』もそうであったように、俳優たちから最上の演技を引き出す術に実に長けた映画監督だ。本作でも、主演から助演に至るすべての俳優から瞠目に価する素晴らしい芝居を導き出すことに成功している。妻夫木聡のこんな表情を、今まで一体誰が想像できただろう?自転車置き場で涙する深津絵里のせつないたたずまい、あるいは雨に打たれる満島ひかりと柄本明の、傘一つに万感の思いを託した鮮烈な切り返しなど、特筆すべき描写だっていくつもある。水準を下回る映画では決してない。だが、だからこそ、残念なのだ。ラスト、花束を抱えた光代がいつまでも車中に留まり続けるのは、彼女が悪人と被害者の狭間に立ちすくむ非力な存在だからだろう。ここでも深津絵里は、悪人を愛した女の、被害者にはなりきれぬ苦悩や葛藤をその表情に滲ませ見事だ。しかし、やはり映画としては最後まで消化不良で上滑りした印象が拭えない。
[映画館(邦画)] 5点(2010-12-04 16:21:24)(良:1票)
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