1. 愛のコリーダ
《ネタバレ》 知ってしまったことを知らないこととするのは難しい。重ねたからだの血と肉の細胞どうしが互いに蹂躙しあい、あるいは混じりあい溶けて常ならざるものに変容してゆく性愛、肉が肉ではなくこころがこころではなくなる濃密な交接を表現するには、これほどの密室が必要だったということか。とはいえ不親切といえば不親切である。多くのシーンをセックス描写に費やさなければならなかったこともあろうが、定と吉が世事を放擲して曖昧宿に逗留し続ける事情や、ややもすると説明になりがちな二人の背後の物語には惜しげもなく鋏を入れられているうえに、宿代のため身を売る定とそれを甘受する吉蔵の表情は観客が心根を推しはかるにまかせられている。だがそれも大島監督のネライにすぎない。多大のケレンを含んで「これはポルノグラフィーです」と見得を切った監督の意図は「知らない人は吐き気をもよおしてもかまいません。知っている人はコーフンした上で涙を流してください」と開き直ることだった。欧米とりわけヨーロッパでの評判が高いわけは云わぬが華のもうひとつのスパイスがある。オレンジ色の行灯の光を障子に映えさせた耽美な映像は、定と吉蔵の血と肉の照り返しであった。私は初回の公開当時、その無残を通り越して滑稽ともいえる検閲に「金返せ」と叫んだクチだが、2000バージョンを劇場で観てようやく積年のウップンを晴らしたというわけだ。上記の感想は当然ながら新版に対するものです。大島監督の一世一代の傑作に満点を捧げたい。惜しむらくは今なお残る検閲のキズアトだが、ならば性器を撮らなければよかったのかということになりかねないので、減点はしません。 [映画館(邦画)] 10点(2006-04-25 16:46:23)(良:1票) |