2. 暗黒女子
《ネタバレ》 前半は、文学サークルの部員4人全員が会長のいつみを賞賛し、彼女に魅了されていったエピソードが紹介される。その一方で、4人全員が別の誰かを犯人と示唆するという筋書きが興味深い。思春期の少女たちによる甘酸っぱい生活が描かれながら、実は嫉妬や憎悪という誰もが持つ「暗黒」に光を当てる物語だと最初は思った。 証人ごとに証言が違うという作品はすでにあるが、本作は警察や探偵による事情聴取ではなく、部員たちによる「小説」というのがユニークだ。4人の書く筋書きは互いに矛盾しており、いつみの父と浮気する、いつみの家から盗む、いつみに呪いをかけ血を吸う、いつみによる廃部に抵抗する、などの4人の動機は、小説の作者による創作なのか、いつみから聞いた嘘なのか、いつみから聞いた真実なのか、外見上はわからないようになっている。ただ首から血を吸ったり、盗んだバレッタを髪につけて学校に行ったりするのは不自然なので、おそらく4つとも嘘だろう。真の動機は、いつみの小説に書いてあるとおり彼女による脅迫で、そのネタはそれぞれ盗作による文学賞受賞、援助交際、姉を負傷させたこと、自宅への放火である。4人は真の動機を言うことができなかったため、嘘の動機を捏造し別の一人に疑いを向けさせ、被害者のいつみを理想化した。これこそがお嬢様学校の闇ということで、弱みを握られていた部員たちが逆にいつみの不純交遊・中絶のネタを握って自由になろうとし、いつみを屋上に呼び出して迫ったら事故で落ちてしまったという筋書きの方がよかっただろう。だが本作はその後、キリストの聖餐をモチーフにした非現実的結末へと突き進む。スズランの毒を盛るシーンが二度出て来るのはくどいと感じるし、いつみの心の闇を告白して終了で十分だと思う。原作どおりなので仕方ないのだが。 筋書きがそうならなかった理由は、朗読会を主催する副会長の小百合だけ清純な少女にするわけにはいかず、5人を凌駕する超絶暗黒少女に描く必要があったからだ。彼女は挙動からして怪しく、また犯人として名指しされた4人の中に真犯人がいれば動揺するところを、平静でいられるのは、最後に残った彼女が怪しいとわかる。その点、過剰に慇懃な言葉と不気味な笑みによって、清水富美加はよく演じてくれたと思うが、思春期の嫉妬などというレベルを超えて、殺人・食人まで行くのはシャレになっていない。 本作は細かい設定に、アラが見られる。ディアナはブルガリアでいつみに恋愛感情を抱いているが、同時に彼女に恨みを抱き、教師との不純な交際を盗撮している。いつみが留学生誘致を中止するのはディアナが来日した後のことなので、手順がおかしい。ディアナが語ったブルガリアの話は、海外ロケなしで、絵の中に人物をはめ込み幻想的・絵画的・非現実的に描いているが、そもそも内容がほとんど嘘なので、これでいい。父親がいつみを叩くシーンで「小百合!」と叫んでいるのは、何かの手違いと思われる。 事件の真相は、小百合がいつみを殺したのだから、部員たちはそれをネタに脅して小百合を支配できるはずなのに、逆に小百合に支配されている。いつみに支配されていた彼女たちは、何のことはない、しょせん主役を張れる器ではなく、強い人の子分になるのが関の山だったということだ。 私は某ミッション大学附属女子中出身の女性と交際したことがあり、女子中時代の友人たちを紹介されたことがあったが、大学教授の娘がボスで、それ以外は子分だった。だが私を真に驚かせたのは、彼女たちは好んで強い女に支配され庇護されたがっていたという事実だった。これこそが真の闇と言うべきであろう。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-02-04 20:34:19) |