1. 怪物(2023)
《ネタバレ》 母親、教師、ミナト目線のパートで描かれているけれど、私はこの作品は、「大人の部」と「子供の部」の2部構成とみた。 正直、「大人の部」は、子供たちの心理を理解するための添え物という認識で視聴した。 冒頭で、足元のみで登場する少年は、虫笛を鳴らしている以上、星川、怪物の登場だ。 「怪物」と呼べる人物は、私には彼ただ一人を指しているように思える。 その他大勢のキャラたちは、どこにでもいる大人あるある、子供あるあるで、別段特異には見えない。 でも星川は違う。 おそらく彼の母は、アル中の夫と性同一性障害の息子が手にあまり、離婚して、家にいない、 父は、児童手当欲しさに息子を引き取り、息子の障害を許せず「怪物」と呼び、体罰で女の心を治療する気でいる。 当人は、浴槽で体を冷やさねば痛みを抑えられないほどの暴力を父から受け、 学校では、同級生たちから性がらみのいじめを受け、 好意を寄せているミナトからは、「皆のいる場所で声をかけるな」と言われ、 当てものクイズに使うイラストカードに「怪物」を描いたり、陰でしか一緒に遊べないミナトと「怪物だーれだ♪」と歌うなど、 人格否定のあだ名を、ふだんから気軽に遊びとして取り入れている。 これらの状況下で、小学5年生の「男の子」が、なぜニコニコと愛らしく笑っていられるのか。 星川の父がいうには、息子の頭の中には、豚の脳が入っている。 だから、植物の名前を覚えるような女々しい趣味があったり、男らしい言動ができないのだというのだろう。 自宅で人格を否定され、暴力を受け続けていれば、何ぴとたりともふつうの精神状態ではいられない。 映画の前半では、麦野家の屋内が雑多なもので溢れかえり雑然としていて、それが心の整理がつかないミナトの心を象徴しているように見え、 みずから生を断ちそうな不安定なミナトにハラハラさせられるが、 それ以上に深刻な家庭事情を抱えているのは、実は、星川の方。 その彼の唯一の口癖は、「生まれ変わる」。 星川は、性同一性障害という個性を持たず、心と性が一致した人間として人生をやりなおしたかったのか? ラストで、横倒しになった車両の下側の窓から出て、狭い坑道を腹ばいになって進み、 明るい表の世界に出た彼らは、母体の産道をくぐりぬけて文字通り「生まれ変わる」疑似体験をした。 ミナトとの会話で星川は、生まれ「変わることなく」元のままで「良かった」と言う。 性の別なく、ミナトを好きでいられる従来の自分を受け入れている自然な様子に、ただ感動した。 2人の子供はきっと、神隠しさながらに、大人たちの手の届かぬところへ消え去ってしまったのだろう。 抜け殻のように車両に残ったミナトのレインコートが、それを物語っている。 何よりも、母や教師が車両に駆け付けたときは豪雨が降っていた。少年たちが脱出したのは、天候が回復した後。時の矛盾がすでに現実離れしている。 現代劇でありながらかすかにファンタジー要素が入っている。現実と虚構の絶妙な配分が、私にとってたまらないツボ。 それに、この作品には、3つの文学作品の香りがする。 冒頭で諏訪市の夜景が映し出される。左右に広がる明かりの帯は、まるで地上に降りた天の川。 夜の街に、遠目に映る火事の光景は、さながら「さそりの火」。 廃車両の中で飾られるのは、土星や太陽のモビール、窓には星などの切り絵、 横倒しになった車両の泥まみれの窓に雨が降る、それを内側から見れば、まるで宇宙の星々のきらめき。 どしゃぶりの中で聞こえた「出発の音」。それは、ジョバンニとカンパネルラが宇宙旅行に出かける時刻。『銀河鉄道の夜』だ。 病気の母を忘れ、ジョバンニはカンパネルラと「どこまでも一緒に行こう」と旅に出る。ミナトもたった1人の身内である母よりも、星川を選ぶ。 また、ジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』のエリザベートとポール姉弟。 危険な遊戯や人に漏らせぬ思いのために、周囲の大人たちに嘘をつく。それがどれほど多くの人たちを傷つけ、騒ぎを引き起こすかということもいとわずに。 最後に『スタンド・バイ・ミー』。 2人の子供が光の指す線路を目指して駆けていくシーン。映画の文法でいうと、左方から右方へ移動するのは、過去に戻ることを表すらしい。 大人の事情を全く必要とせず、性不同一の目覚めもまだない幼い心に戻って、ただ大好きな友達といられる幸せに浸りながら、力強い雄たけびをあげているラスト。 「怪物」という言葉が、残酷という形容以外に、これほど甘酸っぱく、切なく、狂おしい響きを帯びていることに、本当に心を揺さぶられた。 [インターネット(邦画)] 9点(2024-07-02 00:09:10) |
2. ガガーリン 世界を変えた108分
宇宙ものはいろいろ見たが、本作は人類史上初めて宇宙に飛び出した男の物語で、特別な思いで視聴した。死後の世界は、人は生存中には誰1人確かめようがないが、宇宙は違う。帰還さえすれば、地球以外で生存可能な世界を語り、証明できる。「宇宙に出て、本当に神の声を聞いたらどうする?」というガガーリンの言葉にぞくぞくした。これまで誰も神の声を聞いていないが、宇宙にはこれまで人類が愛してやまなかった神が、本当におわすのではないか。命を賭けなければ見てこれない異世界を、1人の人間が世界で初めて目撃する。当時の人々は現実にありえるかもしれない奇跡を想像するだけで、どれほど心躍ったろうかと思う。本(知識)でしか知らなかったガガーリンの偉業を、本作で初めて理解し、実感できた。当時の彼の手記があれば、読んでみたい。 [インターネット(吹替)] 8点(2019-02-12 23:52:55) |
3. 髪結いの亭主
《ネタバレ》 日本の民話「天女の羽衣」や、デンマークの「あざらしのお母さん」を思い出す。男が異形の女に惚れて結婚し、相思相愛にもかかわらず妻は夫の元を去っていく。天女もあざらしも、天や海に帰るために必要なアイテム、羽衣や毛皮を見つけてしまうのがきっかけだが、マチルドの場合は、夫との些細な喧嘩がそれにあたる。幸いすぐに仲直りができたからよかったものの、今後、どんなトラブルに見舞われて夫婦生活に亀裂が入るかわからない。仲の良い夫婦生活をずっと続けていきたかった彼女は、大きな不安に襲われたのだろう。アントワーヌと同じくマチルドも彼に一目ぼれしたのだと思う。容姿の好みや性的嗜好も完全に一致した夫婦は、はた目から見ると羨ましい限りの幸せぶりだ。それなのに、妻は入水してしまう。映画では多くは語られなかったが、結婚するまで孤独を愛してきたマチルドは、過去に悲惨な性的虐待を受けた、あるいは愛する男の子供を堕した経験があったのかもしれない。膨らみようのない腹という言葉からも、不妊のにおいがする。彼女の寂しそうな笑顔は、常に秘密を抱えているせいだ。過去を一切語らない妻を、夫アントワーヌは丸ごと愛して子供すらも欲しがらなかった。マチルドは、そんなアントワーヌにいつか愛想をつかされることに、死ぬほどおびえていたのだろう。民話の哀しい妻のイメージが、どうしても彼女について離れない。アントワーヌも、マチルドも、深く心にしみこんだ。 [インターネット(字幕)] 8点(2018-04-13 22:46:31)(良:2票) |
4. 海難1890
《ネタバレ》 NHKをはじめとする様々なドキュメント番組、書籍などを通して、ある程度知識の底入れがあった。串本の人々が生活に余裕のない状況も顧みず献身的にトルコの遭難者を救助したこと、また、イラクの戦場の地で、トルコの人々が日本人のために危険を承知で陸路を選んだこと、この2点が事実であるなら、どう描いてもこてこての美談になるだろうという予感があった。つまり、映画で表現すれば 「やりすぎだ」 と言われても不思議ではない話が現実に起きていて、感動が偽物に感じかねないほどの美談だった、ということ。初めからそういう思いで鑑賞した。トルコ海兵たちを見送るために、浜の人々が総出でずらっと並んだ光景が出たときは、鳥肌が立つほどの感動がきた。(ここ、思い切りネタバレですが → ) エンドロールが終わって席を立とうとしたとき、トルコの現首相が大きく映し出され、私たち観客に向かってあいさつの言葉を述べられた。この映画は、単なる安っぽいプロパガンダ作品ではなく、日本とトルコ両国の絆を深めるための、尊い記録映画でもあるのだと思う。ちなみに、安倍首相は映らなかった。トルコで上映される場合は、日本の首相があいさつしていて欲しいと切に思う。 [映画館(邦画)] 10点(2015-12-16 23:36:05) |
5. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 もし10代20代の頃にこの映画を見ていたら、きっとあれこれと物足らなくて消化不良に終わっていたかもしれない。思った以上に深かった。次郎が心血を注いで作り上げた飛行機は、機関銃を載せざるを得ず、強くて勇ましいが、防御力は弱く砲を浴びればひとたまりもない。愛妻は他者に感染する病気を患い一見弱々しいが、気持ちは最期まで凛とし、決して折れない。どちらもただ美しいでは済まない存在であり、のちに夢のようにはかなく消えていく。次郎の愛するこの二者が美しい協和音のように響いているように見える。そういう意味で、堀越二郎と堀辰雄を融合させたキャラは成功していると思う。 個人が自由に生きることが難しい戦時中に病身の妻を支える暮らしは、どれほど大変なことかと思う。しかし二郎は不平をこぼさず、その時々の条件下で自分にできることのみ集中し、黙々と努力を続けていく。心の声に驚くほどスピーディに反応して、リスクを恐れず迷わず行動に移す。生きることの集中力とでもいうか、侍スピリッツにあふれる二郎を見ていると、今自分が抱えている問題ごとなどやる気次第で案外何とかなりそうな気力が湧いてくる。夢破れても、亡き愛する人へ「ありがとう」という言葉でしめくくるラストも爽やかだ。 [DVD(邦画)] 9点(2015-03-04 00:44:12)(良:3票) |
6. 鑑定士と顔のない依頼人
《ネタバレ》 鑑賞し終わった後、DVDを再度再生してあちこちを「飛び見」してみた。鑑定士をとりまく登場人物たちのセリフが再び耳に入ってくる。・・・・・・はっきり言って聞くに堪えない。裏切り者たちの言葉は何一つ真実がこもっていない。そう考えると、この手のサスペンスは「一度見たらたくさんだ」という思いにどうしてもかられる。しかも、壁の中の女性のぺらぺらしゃべるセリフが軽すぎてミステリアスに聞こえず、最初からかなりの違和感があった。姿が見えないという特異な条件を活かしていない脚本だった気がする。壁の向こう側とこちら側を行き来する彼女のオーラが全く同じだから、観ているこちらは次第にその味気なさに退屈してくる。存在感のある女優さんだったら、姿を消したり現わすたびに、その場の空気が一変すると思うのだが。それでも、怒りにまかせて書類を派手に放り投げるジェフリーのかっこいい演技にはほれぼれした。願わくば哀れな鑑定士のために、忠実な秘書の存在に彼があらためて気づくことと、年若い技術者との友情が本物であるようにと祈っていたが、叶わず、視聴後は寂しさと虚しさが残る苦み走った思いが残った。 (後日、再び書き込んでます→)初めて視聴してからかなり経ったが、やはりこのストーリーは許せない。生理的にどうしても受け付けない理由が今頃やっとわかった。高齢者をターゲットにする日本の劇場型オレオレ詐欺が、この犯罪の本質だからだ。 [DVD(吹替)] 6点(2014-12-05 01:13:30)(良:1票) |
7. ガタカ
《ネタバレ》 「ルディ 涙のウィニングラン」と「砂の器」を足して2で割った作品というイメージ。「ルディ」ほど純粋な感動を得られないし、「砂の器」ほど絶望的でもない。ほどよく適温で生暖かい感動だった。で、もし「相棒」の右京さんにかかったら、ラストのドクターの心憎い見逃しなどもってのほかで、「生まれながらに希望の職に就けないのはあなただけじゃありませんよ!」と説教しながらビンセントの首根っこをつかんでズルズルと宇宙船から引きずり降ろしたことだろう。 遺伝子操作された者の優位性は、確かに非人間的な価値観だが、あくまでこの作品では「肺活量が弱い人はパイロットになれない」くらいの差別にしか見えなかった。清掃員、ドクター、車いすのジェロームに怒鳴られる刑事にしろ、社会的弱者を決して蔑み切っている社会のようには見えなかったからだ。「アポロ13」だって、はしかの疑いが出たクルーはメンバーから外されたのだ。リスクを負わされる他のクルーの迷惑を考えずにいられない。 そもそもこの作品を手放しで感動できないのは、姑息なイメージが強いからだ。「ズルをしてでも夢をかなえてやる」という男を大真面目に描き、病的なまでに徹底した不正工作をするから、悪質で不愉快なのだ。ビンセントが陣川クンのノリだったら、右京さんも彼を止められないだろう。そういうノリでこのテーマを扱われてももちろん困るのだが・・・・・・。 [DVD(吹替)] 6点(2013-06-14 00:01:59) |
8. 借りぐらしのアリエッティ
《ネタバレ》 映像はとても美しいし、内容も惹きつけられたが、「借りぐらし」という言葉に最後まで引っかかった。借りてくるだけとはいいながら、あまりにも用意周到なお父さんの装備や、人間に見られないようにこそこそ動く彼らを見ていると、たとえ目当ては些細な物であっても悪質な窃盗にしか見えず、かなり不愉快だった。ジェリーがトムのチーズを狙うような茶目っ気や、ルパンがカリオストロの城壁を登っていくようなわくわく感もなく、ただただ大真面目に、冷静に、慎重に「ブツ」を持っていこうとするお父さんには、幻滅。黙って持ち出すことはしても、与えられたものには手をつけないという彼らのかわいげのない用心深さや、返すあてもなく寄りかかりっぱなしでありながら、感謝もせず人間を災いの種とし、果ては勝手に住み込んでいながら引っ越しせざるを得ないことまで人間のせいにする。何もかもがカチンときて仕方がない。一方動物は、理性がないゆえに食欲だけのつながりとして純粋に人と共生する分、よほどすがすがしい。リスクを背負ってまで人間界とつながっていたいなら、ひとかけらでも人への愛情くらい持ち合わせてほしかった。あれでは物質だけでしかつながっていない。だから素直に感動できなかった。 [DVD(邦画)] 4点(2011-11-01 22:39:11)(良:7票) |
9. かもめ食堂
おにぎりを握る、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっという音、フライを揚げるじゅわ~っとジューシーな音。さくとん、さくとんと鳴る包丁とまな板のリズム。料理の載ったお皿をテーブルに置く、ごとっという音。それらを聞かせるために、料理中はBGMを排除していたようだ。小林さんの美しい手の動きとこれらの音を楽しみたくて、またこの映画を見たいと思ってしまう。同じく食べ物を扱った癒し系「ショコラ」では、視聴したあと特にチョコレートを食べたいとは思わなかったが、今回は黒い海苔を巻いたシンプルなおにぎりが無性に食べたくなった。それと何より、箸とおにぎりに何の違和感もなく食事を楽しんでくれるフィンランド人のお客の姿が日本人として嬉しくて、最高の癒しになった。 [DVD(字幕)] 10点(2010-03-17 10:41:38) |
10. 崖の上のポニョ
《ネタバレ》 美しい絵も、話の尊さも、音楽のすばらしさも一応わかる。それでも全編に漂う偽善の匂いにむせ返りそうだった。監督がごっちゃにしているものが2組ある。まずは、大人と子供。魔法を見ても子供の心を忘れていないといわんばかりに、全く動じない大人たち。子供が望めば、ものわかりがよく全て受け入れ、いつもにこにこ笑っている。ちょっと意地の悪い老婦人以外は全員神の国の住人みたいだ。それは、大人と子供の世界をきっちり分けて描いたトトロ、またはハイジと決定的に違う。このお話は、過剰なまでに子供の世界に大人が入り込んできているため、登場する大人たちはみな幼稚に見えるのだ。さらに、宗助が母親以上にしっかりしている点も、大人と子供の境界線があやふやに。友達のような親子関係は問題が大きいから、あまり今の親や子供たちに推奨してほしくない。 2つ目は、現実と幻想の区別。そもそも、オーソドックスの人魚姫の方がよほど心に食い込む力を持っていると思う。なぜなら世界中の誰もが、この童話のテーマは無償の愛だと一言で説明できるからだ。でも、このぽにょは? 会いたくてたまらないから津波を起こしてでも宗助に会いに来た、という我儘ながらも愛くるしい一途な気持ちをテーマにするなら、津波はラストにもって来るべきだ。宗助の家に上がりこんで、現実とファンタジーをごっちゃにした辺りから、恐ろしく退屈になった。会えるか会えないかで、さんざん気を持たせてくれた方がきっと集中できたし、話の流れが分かるから退屈せず、ラストの感動も大きいというものだ。最近の宮崎さんは、話を必要以上に複雑化しすぎる。子供を対象にして作ったというなら、手塚作品のユニコのようになぜ極力シンプルにしないのだろう。この作り方は、やはり大人の視聴もほしかったのだと思う。 [DVD(邦画)] 3点(2009-07-20 10:05:16)(良:2票) |
11. カポーティ
《ネタバレ》 冒頭からひどい皮肉をとばすトルーマンを見て、「性格の悪そうな作家だなあ」と引いてしまったが、事件の取材で、いとも簡単にナンシーの親友から彼女の日記、捜査担当刑事から捜査ノート、犯人のペリーからは日記の提供を受けるのに驚いた。信用がなければ決して人にゆだねることはできない個人的な資料ばかりだ。また、仕事の名誉欲はある、しかし人並みの情もあり、ペリーの死刑を望むべきか否かで苦悩する羽目になるトルーマンの人間臭さに恐れ入った。まるで人間の不合理さを絵に描いたようだ。「もう1人の自分」であるペリーが目の前で処刑され、彼の精神的な何かが一緒に壊れてしまった気がする。自分が処刑されたような自己暗示にかかったのかもしれない。もしペリーがトルーマンと生まれ育ちが全く違い、被害者に対する奇妙ないたわりを見せず、単なる残虐非道な人物であったら、「冷血」以降も作家はペンを取り続けただろう。私には途中からペリーとトルーマンがドッペルゲンガーの関係に見えた。 [DVD(字幕)] 8点(2009-04-22 21:07:03)(良:1票) |
12. 学校Ⅲ
試練を負いながらも前を向こうとする人々は、たとえ埃と油で汚れた作業服を着ていても、美しい・・・・・・ [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2008-12-19 15:51:59) |
13. 鏡
記憶の断片が無秩序に並び、それはカラーだったり色を失ったり。さらに各々の人物は台詞をつぶやくように語る。自分は画面に向かい、覚醒していながら、「夢」を体験している気分だった。明確なストーリーがなくてもラストまで酔えるのは、映像の美しさの奥に流れる、センチメンタルな潤いを感じるから。母性への憧れ。異性、子への愛情。自然の美にそれらの感情を溶かして、決して力むことなく、一篇のポエムを歌いあげている。そして、間に入るドキュメントタッチの映像があってこそ、人類が歴史というものに抱かれて、そこから逃げ出しようもないという哀愁を帯び、さらに深いのだ。ストーリー性が弱いだけに、かえって観る側の想像力が広がり、鑑賞後には、不思議な充足感が残る。あれだけ映像の数々が無秩序に散らばっていても、決して意味のないばらばらの「絵」を寄せ集めたものではないからだ。映像のコラージュ的作品で、その中に、監督の類まれな集中力を感じる。 [DVD(字幕)] 10点(2004-06-13 10:41:38)(良:1票) |