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1.  牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件(188分版) 《ネタバレ》 
映画とは暗闇の中で光を映写することだ。しかし『クーリンチェ少年殺人事件』は光よりもまず先に闇に重点を置く。それは、あまたの映画で見受けられる闇として描かれた光ではなく、視覚的情報を遮断するまでの真実の闇だ。暗闇の中に映し出される暗闇。そんな完き闇の中だからこそ、少年の持つ懐中電灯の光源だけが弱々しくけれどはっきりと、浮き上がる。この映画を映画館で観ることができないのは本当に不幸なことだ。楊徳昌監督は、あまりに不確かなこの世界の輪郭をそれでも不遜になぞろうとするのではなく、まぎれもなくそこにある空気そのものをありのままに写し撮ることで、世界を描こうとする。そのスタンスは、ヒロインとして登場する少女の描写にも適用されている。彼女がどんな少女で何を考えているのか、映画は一切の説明を加えない。登場人物によって語られる彼女に関する曖昧な情報だけが時に錯綜はしても、その真偽を確かめる手だては一切ない。少女は、不確かな世界同様に不確かなままそこに立ち、少年をただ見つめ返す。そこには、この不確かな世界を生きることの不安が常に漂っている。ブラスバンドの演奏の中で少年は少女に愛を宣言する。音楽にかき消されぬよう彼が声を強めた次の瞬間、響き渡っていた楽器の演奏がはたと止む。「きみを守る!」その声は、ふいにおとずれた静寂に一直線に放たれ、悲痛な叫びとなって世界にこだまする。けれどその切実な叫びは、彼女に届きようがない。「私はこの世界と同じ。だれにも変えることなんかできない。」少年は少女のその言葉に抗い反撃するかのように、憎むべき世界にナイフを突き立てるのだ。この世界は絶望に覆われている。それは60年代の台湾に限ったことではないだろう。少年は絶望の中で世界と対決すべくひたすら藻掻き、少女は絶望への抵抗を断念することで世界と折り合いをつけ、それぞれがそれぞれのやり方で生き延びようとする。どちらが正しいわけでも間違っているわけでもない。それは彼らにとってどちらも等しく、のっぴきならないこの現実を生きぬくための手段なのである。母を雇う金持ちの家の少年に身をゆだねる少女は、穢く汚れているのだろうか。決してそうではない。そこには絶望があるだけだ。そんな彼らの魂は、本当は限りなく等しい。だからこそ少年がナイフを片手に立ちつくし、少女が崩れ落ちる時、我々はこの世界の、暗闇の、絶望の、その深さを思い知るのだ。
[レーザーディスク(字幕)] 10点(2009-08-29 11:01:49)
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