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1.  軍旗はためく下に
 第二次世界大戦、ニューギニア戦線で「死亡」したとされる軍曹。その妻は戦後二十数年経っても軍人恩給など国からの援護から夫が対象外とされていることに疑問を抱く。厚生省に問い合わせると、彼は「戦死」ではなく「刑死」だったために援護を受給できないという。そこで彼女は夫と同部隊に属していた生き証人たちに真相を確かめにいくが、「敵前逃亡」「同僚殺害→その肉を食糧として売る」「理不尽な上官を殺害」・・・と次々に食い違う証言が現れ、まさに芥川龍之介の『藪の中』の世界に。  そんなサスペンスタッチで戦争の不条理をスリリングに突き付けるとともに、同じ「皇軍兵士」でも陸軍刑法に基づいて処刑された者(しかもその罪状は問わない)は国からの援護を受けられないという援護行政の矛盾を浮き彫りにする。  主演の左幸子の鬼気迫る演技の秀逸さはもちろんだが、自分の大好きな怪優・三谷昇の見せ場がふんだんになるのも嬉しい。  ゴマンとある戦争映画のなかでも、シリアスでグロテスクな描写が目を引くが、作品に貫かれた「戦争への憎悪」というメッセージが明瞭なだけに不快感はない。  新藤兼人の脚本の素晴らしさもさることながら、監督の深作欣二はこの翌年から東映ヤクザ映画の商業路線に浸かっていくわけだが、本当はこういう方向の作品をもっと作りたかったのではないか。  凄まじく迫力をたたえた反戦映画である。
[DVD(邦画)] 10点(2025-01-02 01:53:47)
2.  クレイマー、クレイマー 《ネタバレ》 
 1970年代後半、世界にウーマンリブの風が強く吹いている時代。女性の家庭からの解放、積極的な社会進出に寛容そうに思えるアメリカでも、主人公のように妻を”家に尽くす主婦”という型にはめようとする男性がまだまだ自然だったのかもしれない。  また、仕事と並行して個人のプライベートな時間も尊重するように思われるアメリカの企業も、家庭の問題にかまけて仕事に穴を開けた主人公を冷徹に解雇する。日本よりも「個人」が生きやすい理想社会と想いがちなアメリカ社会の実像を見せられた思いがする。  いつもよりは抑え気味な演技でダスティン・ホフマンが、離婚によってはじめて「父親」として成長していく中年を丹念に演じている。原題通り、タイトルは「クレーマーvsクレーマー」とした方が内容に沿っているのに、と思いつつ、裁判以外では妻の見せ場が思ったより少ないので、「vs」とするのも正直、微妙な印象ではある。  深刻な社会問題を扱いながら、軽妙な音楽とソフトな演出によって湿っぽくならず、後味のよい傑作に仕上がっている。  
[DVD(字幕)] 9点(2020-07-04 16:49:34)(良:1票)
3.  グッバイガール
もう若くもなく、容貌も性格もあまり褒められたものではない上に、いろいろと運から見放されている男と女。衝突と接近を繰り返しているうちに二人の間に心の溝はなくなっていく。だからこそ、一見、「あれ、この先、大丈夫かな」と思わせるあの結末でも、「よし」と拍手できるのである。とにかくニール・サイモンはセリフの妙が素晴らしく、そしてそれを堪能させてくれたリチャード・ドレイファスとマーシャ・メイスンの芝居の力量に感心するばかり。主役がこの二人で本当によかった(特にドレイファス)。爽快感が半端ない、一級品のラブコメディ。
[DVD(字幕)] 10点(2020-06-25 20:05:37)(良:1票)
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