1. ご挨拶
第1話。これは、バカヤロー系オムニバス作品の一節そのままです。タイトルの含みのある言葉が巻き起こすシニカルなドタバタコメディ。振り回される蟹江敬三が滑稽というだけの作品です。第3話は桃井かおりの初監督作品。不器用で投げやりな女の同窓会の前後で変わる微妙な気持ちを表した作品。個人的には可もなく不可もなくといった感じです。この2作品だけを見るとVHSのレンタルアップ品がAmazonあたりに1円で転がっているのも頷けるのですが、この「ご挨拶」という無名なオムニバス作品に第2話「佳代さん」があるだけで僕にとっては特別な価値を持つこととなる。この第2話は”キオスクのおばさん”と言う、とても地味な題材を主とし、ドキュメンタリーかと見まがうほどリアリティをもって作られています。古い木造アパートに一人生活する中年女性の悲哀とキオスクと部屋を往復する変わらぬ日々にささやかな希望を胸に抱く姿を市川流ともいえる情景を所々に差し込み淡々と映してゆく。高架の走る街の情景。木造アパートの暗い廊下。桜色の提灯。駅へ行き交う人々。キオスクでの仕事ぶりにも徹底したリアリズムが光る。次々にやってくる客を手際よく捌き、そこにいれば起こるであろう出来事を違和感なく演出する。例えば、大勢の客の大量の小銭が出入りするレジのカットの後に、石鹸で手を洗うカット。もうそういった小気味いいばかりの演出の数々に自然と満足度が上がる。そんな変わらぬ日々に小さな変化が起こるのだが、その変化に対する期待、嫉妬、戸惑いといった微かな心象の移り変わりを見事なまでに画で表現する。30分程度の短編だが充実度はかなり高い。そして最後にその心の葛藤を長まわしの“ご挨拶”でまとめ上げる。もう言うことはない。素晴らしいです。 [ビデオ(邦画)] 6点(2007-12-03 22:51:11) |