1. ゴジラ(1954)
《ネタバレ》 「ゴジラ」(1954年)とは、芹沢大助という人間の物語である。 ……というのが自分の持論だったのですが、此度再鑑賞してみても、やはりその持論は揺らぐ事が無かったです。 そもそも本作のストーリーラインって、剽窃や盗作と言って良いぐらいに「原子怪獣現わる」(1953年)そのままだったりする訳ですが、そんな中で最も独自性を感じさせるのが芹沢大助の存在なんですよね。 一応は主人公と呼べるはずの尾形秀人の影が薄いというか、出番が少ない事も、そう感じさせる一因。 自分としては「芹沢が主人公であり、尾形は主人公の最期を看取ってくれる存在」と、そう考えてしまうくらいに、芹沢博士のキャラクターは魅力的だったと思います。 とはいえ、そんな「隻眼の天才科学者」に魅了されるだけの映画って訳ではなく「芹沢博士が登場していない場面」あるいは「ゴジラが登場していない場面」も、しっかり面白い辺りが、本作が傑作たる所以ですよね。 後者に関しては特に重要であり「怪獣が出てこない場面でも面白い怪獣映画」と感じさせるのって、本当に凄い事なんじゃないでしょうか。 世に怪獣映画は数あれど、その大半は「怪獣が出てくる場面は力が入っていて面白いけど、出てこない場面は退屈」って品だったりしますからね。 本作に関してはゴジラを「原爆の象徴」「戦争の恐怖を思い出させる存在」として描いたのが大正解であり「ゴジラに怯える人々」や「何とかしてゴジラに対処しようとする人々」を描いた人間パートも抜群に面白いというのが、怪獣映画の歴史の中でも画期的な部分だったように思えます。 空襲の記憶が鮮明な時期に撮影された影響ゆえに、逃げ惑う人々の演技にリアリティが有るって点も「怪獣」という突飛な存在に実在感を与えているし、ゴジラの襲来によって「井戸が使えなくなる」という描写にも、恐ろしさを感じましたね。 後々のゴジラ映画とは異なり、ゴジラの熱線が「熱い」というより「冷たい」印象を受ける音であった点も、非常に印象深いです。 その他、ゴジラの存在を公表すべきと主張する「強い女性」的なキャラクターが登場しているのも興味深いとか、劇中に「美女とゴジラ」という看板があるのは、キングコングへのオマージュな気がするとか、語りたい事柄は沢山有るのですが…… やっぱり、この映画の一番の語り所と言えばもう、芹沢博士の最期を措いて他に無いです。 別れ際、かつての婚約者と、その恋人に掛ける「幸福に暮らせよ」という台詞も悲しいし、単なる自己犠牲の美しさだけでなく「芹沢博士は、人間を信じられなかった。だから禁断の新兵器もろとも自分も死ぬ道を選んだ」という哀愁も描いているのが、たまらないんですよね。 彼はゴジラに勝利した英雄であると同時に、人類に絶望して自殺した敗北者でもある。 この構図は実に悲劇的だし、それほどに人間を信じられなかった彼が、それでも愛していた女性と、その恋人に対しては「幸福に暮らして欲しい」と願って死んでいった事にも、切なさを感じます。 ゴジラを倒した後、マスコミが嬉しそうに伝える「この感激、この喜び、ついに勝ちました!」「若い世紀の科学者、芹沢博士は遂に勝ったのであります」という言葉に、なんと空しい勝利なんだと思える辺りも、皮肉な味わいが有って好きですね。 ゴジラの保護を訴えていた山根先生が「もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類が、また世界のどこかに……」と教訓的な台詞を吐き、敬礼で終わるラストシーンも、勿論良いんだけど…… 自分としては、マスコミの白々しい「勝利宣言」に合わせる形で、人々が敬礼を行う場面で終わっていたとしても、それはそれで名作に仕上がっていたんじゃないかって、そんな風に思えました。 [インターネット(邦画)] 9点(2024-11-13 15:00:17)(良:2票) |
2. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 ゴジラ映画の最高傑作。 ……なんて言い出すと、ほんの一年前の自分に「最高傑作は初代に決まってるだろ」とツッコまれそうなんですが、本当にそう評したくなるような逸品だったんだから、参っちゃいますね。 まずは何を置いても、主人公の敷島浩一というキャラクターが素晴らしい。 基本的に自分は「悲劇に酔ってる」って感じの主人公は苦手なんですが、本作の敷島は「悲劇に溺れてる」人物であり、その溺れ方が圧巻で、観ていて惹き付けられてしまうんです。 どんなに自分が不幸であっても、赤ん坊を預けられたら見捨てられないという善性の描写も丁寧であり、自然と感情移入出来る。 本当にベタですが「どうか幸せになって欲しい」と、心から応援したくなる存在でした。 思えば初代ゴジラが芹沢大助という人間の物語であったように、本作は敷島浩一という人間の物語だった訳で、その辺りの「初代ゴジラを徹底的に研究し、魅力を理解した上で、それを越えるような映画を撮ってみせた」って事も、観ていて心地良かったです。 特に、有名な「ゴジラのテーマ」の使い方が初代と同じであり「ゴジラに立ち向かう人類の曲」として流れる演出なんて、もう最高。 山崎貴は天才というだけでなく「ゴジラを愛してる人」なんだと、そう確信させられました。 脇役陣も魅力的であり、自分としては「隣のおばさん」こと澄子さんが、特にお気に入り。 憎んでたはずの敷島に「とっときの白米」を渡してやる場面も良かったし「あの子に重湯作るのに使いな」という台詞が、終盤で敷島が澄子さんに託す手紙にて「明子のために使って下さい」と大金を同封してる場面に繋がる脚本も、素晴らしいの一言。 幼子を救うという善意が、大人達の心を優しく繋いでみせたという流れ、本当に大好きです。 戦えなかった兵器の代表格である震電に、戦わなかった兵士の敷島が乗る展開も熱いし、敷島が死なせた兵士達の写真束の中に、明子に似た娘を抱いてる兵士の写真があるという(そこまでやるか……)って描写も、本作の面白さを高めていますね。 整備士の橘さんが足を引き摺る仕草を印象的に描いておき、彼が再登場する場面で「足を引き摺って歩く男の足元」を映すカメラワークになって、顔を見せるより先に(橘さんだ!)と観客に覚らせる辺りも、実に良い。 終盤で敷島が特攻死せずに生き延びたと知った時の橘さんの表情も、印象深いです。 「本当は生きたいと願ってた奴の命を救う」という形で、宿願を果たせた訳だし、憎かった敷島の命を救う事で、橘さんの戦争もようやく終わったんだなと感じられる、忘れ難い名場面でした。 一応、欠点らしき部分も挙げておくと「ヒロインである典子の黒い痣」や「最後にゴジラが再生していく場面」など、せっかくのハッピーエンドに影を残す終わり方をした点が挙げられそうですが…… 「黒い痣」に関しては、ゴジラが原爆の象徴である以上「たとえ生き残ったとしても、重い影を背負って生きなければいけない」と示す為に必要だった気もするし、初代より前の時間軸の話である以上、この映画世界にも芹沢博士が存在して、復活したゴジラと相対し「ゴジラを殺せるのは、オキシジェン・デストロイヤーだけである」と証明してみせたのではないかとも考えられるしで、決定的な瑕とは思えませんでしたね。 他にも、小説版にて文章で描かれた「震電から眺める家の一つ一つに、明子がいて、典子がいて、敷島がいて、日々の暮らしを営んでいる」「これをゴジラに破壊させる訳にはいけない」と敷島が決意を新たにする場面を、台詞に頼らず映像だけで描いてるのが凄いとか「録音した声をゴジラの同族の声と思わせて呼び寄せる作戦」は、ゴジラの元ネタである「原子怪獣現わる」(1953年)の更なる元ネタの「霧笛」(1951年)を彷彿とさせるとか、本当、この映画について語ると、止まらなくなっちゃいますね。 邦画でありながらアカデミー受賞作であり、作品賞や脚本賞を取っても驚かないくらいの出来栄えだったのですが、本作が受賞したのは「視覚効果賞」であったというのも、味わい深いものがあります。 それは怪獣映画にとって、最高の勲章。 逃げ惑う人々を踏み潰し、家屋も容赦無く破壊するゴジラの存在感が、圧倒的でしたからね。 人を殺すのも、家を壊すのも、それを実際に見せるのは大変だからって「見せずに想像させる」演出に逃げがちな部分を、全力で描いてみせた作り手の姿勢が、本当に素晴らしかったです。 「いるはずのない怪獣が、スクリーンの中に確かに存在してると感じさせる」という意味合いにおいて、本作は最高のゴジラ映画である以上に「最高の怪獣映画」なのだと、強く思えました。 [映画館(邦画)] 10点(2024-06-03 23:49:22)(良:6票) |
3. 50回目のファースト・キス(2004)
《ネタバレ》 何が凄いって、ヒロインの記憶障害が治らないままハッピーエンドを迎えるのが凄い。 ファンタジーな設定ではありますが、一応は「難病もの」に分類される内容だったし、これは「無事に病気が治って二人が結ばれる」「病気が治らず、別れる」のどちらかだろうと予想していた身としては、完全に意表を突かれましたね。 こういう「病気は治らなかったけど、二人で頑張って生きていこう」なレアパターンエンドだと(でもさぁ……結局、その後が大変で別れちゃうんじゃない?)なんて疑念が浮かび、素直に楽しめなかったりもするんですが、本作に関しては心配無用。 「二人で頑張って生きていこう」と共に未来に向かって歩み出した後、時間が飛んで「頑張って生きて、幸せになった未来」まで見せてくれるんですよね。 ここの見せ方が、また上手くって、朝目覚め、いつものように記憶を失ってるヒロイン同様、観客にも(結婚したのか)(赤ちゃん産まれたのか)という衝撃と感動を与える演出になってるんです。 BGMも併せ、何度観ても涙が滲んでくるような、文句無しの名場面に仕上がってたと思います。 脇役陣も良い味出してるというか、良い人達ばかりで、ヒロインが戸惑わず「いつもの日常」を送れるよう、新聞やら果実やらを用意して「優しい嘘」の世界を作り上げてる描写にも、グッと来ちゃいましたね。 そこに主人公のヘンリーが現れて、そんな嘘の世界を壊してヒロインに真実を伝える訳だけど、そこで「嘘」を教えて彼女を守っていた側と、彼女に「真実」を伝えた側、どちらも正しいというか、どちらもそれぞれのやり方で彼女を愛してるんだと、しっかり分かる作りにしてるのも見事。 全く正反対の方針を取った両陣営に対し、どちらかを悪役に感じさせたりはせず、どちらも良い人達なんだと思わせるのって、本当に理想的。 (これだけ愛を交わせば、起きた後もヘンリーを憶えてくれているんじゃないか)と思っていたら、やっぱり駄目だったとか、コミカルだけど絶望感ある場面を見せてくれたりもして、その辺りのバランスも上手かったですね。 基本的には「明るく楽しいラブコメ」なんだけど、その空気を壊さない程度にシリアスな場面も挟む。 だから笑えるし泣けるっていう、絶妙な形。 中盤にて、ヘンリーが自作の曲を聴かせる場面もロマンティックだったし、作中で何度も交わされる「ファーストキス」の描き方も良かったです。 気になった点としては…… 冒頭の場面からすると、ヘンリーは男(あるいは、性転換した女性?)にも手を出してたみたいなのに、中盤で「男とやる趣味は無い」と主張してるので、どっちなんだと戸惑った事が挙げられそう。 あと「シックス・センス」(1999年)のビデオに関しては、間違いで別の映画のビデオが入ってた事にすれば、皆で毎晩新しい映画を楽しめるのではって思えたんですが……まぁ、何度も「シックス・センス」を観せられヒロイン以外は飽き飽きしてるって方が話としては面白いし、これは重箱の隅レベルの不満点ですね。 もし自分が一日しか記憶が保てない身になったら、毎日この映画を観るだけで毎回感動出来るかも……なんて思えてくる。 そんな、素敵な贈り物のような一本でした。 [DVD(吹替)] 9点(2023-08-16 22:51:32)(良:2票) |
4. コヨーテ・アグリー
《ネタバレ》 若者が夢を叶えるまでを描いた、シンプルで気持ちの良い映画。 実在の店をモデルにしているようですが、特に柵のようなものも感じさせず、自然に仕上がっていたと思いますね。 アパートの屋上で歌う場面からは「都会で一人ぼっちの田舎娘」という切なさが伝わってきたし、ニューヨークを舞台にした意味も、しっかり有ったんじゃないかと。 一応、部屋に泥棒が入る場面などで「都会の恐ろしさ」も描いていますが「ニューヨークの人達も、良い人ばかり」という、牧歌的な世界観である辺りも嬉しい。 困窮してる主人公を見かねて、見ず知らずのオジサンが食事を奢ってくれる場面とか(良いなぁ……)って、しみじみ思っちゃいましたね。 冷たいイメージのある都会だからこそ、人の好意が身に沁みるという訳で、凄く印象深い。 「夢を叶える為にニューヨークに来たけど、妥協して別の仕事してる人なんて沢山いる」という事が丁寧に描かれているのも、本作に深みを与えていた気がします。 そんな「妥協した大人」の代表であるコヨーテ・アグリーの店長といい、主人公ヴァイオレットの父親といい、魅力的な脇役が揃っている点も良い。 自分としては、ケヴィン・オドネルというキャラクターが、特にお気に入りでしたね。 女性主人公なラブコメの相手役って、高嶺の花である「王子様」と身近で親しみやすい「彼氏くん」に分かれる訳ですが、本作のケヴィンは後者のタイプ。 幾つもの仕事を掛け持ちして、頑張って生きてる姿が眩しいくらいだったし、マッチョな二枚目なのに、意外とアメコミオタクだったりするのも憎めない。 一歩間違えれば「胡散臭い、女性に都合が良いだけのイケメンキャラ」になりそうなもんなのに、同性の自分から見ても好ましいバランスに仕上がってたんだから、お見事でした。 「アメイジング・スパイダーマン」や「最初のサイン」といったアイテムの使い方も上手いし、練習して瓶捌きが上手くなる場面など「働く楽しさ」が伝わってくる内容なのも良い。 そして何と言っても、ヴァイオレットがステージ恐怖症を克服し、唄い出す場面が素晴らしかったです。 これまで彼女を支えてきた人々が、歌声を聴いた途端に、嬉しそうな笑顔になる。 「夢を叶える事」だけでなく「夢見る人を支え、応援する事」も素晴らしいと伝えてくれる、文句無しの名場面だったと思います。 ヴァイオレットに対し、何かと嫌味な態度で接してたレイチェルが、野次を飛ばす客を黙らせる場面も痛快だったし、そういう「ツンデレな魅力」を感じさせるキャラクターが多かった気がしますね。 個人的には嬉しい事なんだけど、誰も彼もが「嫌な人かと思ったけど、実は良い人」ってオチになっちゃうので、その辺は好みが分かれてしまう部分かも。 後は主人公のステージ恐怖症について、描写が曖昧なのも(冒頭、友達と一緒にステージで唄ってるので後の展開と少々矛盾してる)欠点となりそうです。 こういう明るく楽しいノリで、若者向けの映画って、何だかそれだけで「傑作」とか「名作」とかいう言葉が似合わない気がしちゃうけど…… この映画には、そんな言葉より「好きな映画」って言葉の方が似合っちゃうんだから、仕方無いですね。 たとえ映画史に残る名作であっても、一度観れば充分だって感じる品も多いのですが、本作は定期的に観返したくなる。 オススメの一本です。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-06-30 15:14:53)(良:1票) |
5. コブラ
《ネタバレ》 「ビバリーヒルズ・コップ」(元々はスタローン主演作の予定であり、没になった脚本が本作に流用された) 「ダーティハリー」(本作の元ネタの一つであり、出演者も何人か共通している) 「フェア・ゲーム」(本作と同じく「逃げるアヒル」を原作としている) といった具合に、様々な映画と縁がある一作。 でも、映画本編を観た限りでは、あんまりそんな感じがしないというか…… 良くも悪くも個性が光る映画になってましたね。 例えば「主人公のコブラはダーティハリーを意識したキャラなんだよ」と言われても「えっ、そうなの?」と驚いちゃうくらい、ちゃんと独立したキャラになってると思いますし。 当時はイケてたかも知れないフラッシュバック演出などが、今観ると古臭くてダサく思えちゃう辺りも、何かそれはそれで「独特の味わい」になってる。 あと、自分としてはコブラに対し(銃を仕舞う仕草とか、気取り過ぎだろう)と、最初は共感を抱けなかったはずなのに、観終わった頃には、すっかり彼を好きになってたんですよね。 硬派でハードボイルドな主人公かと思いきや「やたら健康に拘る」「マッチ棒を咥えてるのも、気障というよりは禁煙の為にやってるだけ」「本名はマリオンで、女みたいな名前だと気にしている」といった具合に、次々と新情報が判明し、意外と愛嬌がある奴なんだって分かる形になってる。 それでいて序盤に描かれた「気取り過ぎな恰好良さ」も失われていないし、この辺りのバランスは本当に良かったですね。 犯人に対し「お前には黙秘権がある」と言った後「だから、そのまま黙って死ね」とばかりにトドメを刺しちゃう場面なんかは、素直に恰好良いなって思えますし。 冷蔵庫からピザを取り出し、鋏で切って食べるシーンなんかも、真似したくなるような魅力がありました。 敵が狂信的なカルト団体であり、陰鬱な作風なのかと思わせておいて、主人公もヒロインも相棒も全員生き残るという、能天気なハッピーエンドだったっていう落差も、何かこの映画を象徴してる気がしますね。 派手なカーチェイス有り、ニトロで加速する車というギミック有り、美女とのロマンスも有りで、贅沢な作りになってるのも良い。 意地悪な目線で観れば「あれこれ色んな要素を詰め込み過ぎて、破綻してる映画」「スタローンの魅力に頼り切りで、作劇による面白さなんて皆無の映画」って酷評する事も出来そうだし、自分としても、決して「出来の良い映画」とは思えないんですが…… それでもやっぱり、こういう映画が好き。 そして何より、スタローンが好きなんだなって事を再確認した一本でした。 [DVD(吹替)] 6点(2022-04-30 16:48:34)(良:2票) |
6. 極道めし
《ネタバレ》 刑務所+グルメ物という事で、どうしても「刑務所の中」(2002年)と比較してしまうのですが…… 「刑務所の中」のような乾いたシニカルさとは真逆の、湿っぽい人情路線が、独自の魅力に繋がっていましたね。 ・出所後に意中の女性を訪ねるも、彼女が別の男と結ばれているのを見て、そのまま立ち去る。 ・作り話だと強がった後に、実は本当の話であった事を窺わせる。 といった原作の名場面の数々を、少しずつ作中に取り入れ、別の話として再構成しているのも上手い。 「マカロニをストロー代わりにして牛乳を飲む」「看守がビールを飲む話をして、満点を叩き出す」等の小ネタも再現されているんですが、それらが原作と同じ流れで出てくる訳じゃないので(ほほう、ここでコレを出してきたか……)といった感じに、観ていてニヤリとさせられるんですよね。 たとえ原作をそのまま映像化した訳じゃなくても、原作のファンが満足するような品に仕上げる事は出来るんだなって思えて、嬉しくなっちゃいました。 「上を向いて歩こう」「待つわ」「さよなら」などの曲の使い方も巧みだったし、それより何よりも「ちゃんと美味しそうに食べる役者さんを選んでる」って点が、素晴らしいですよね。 メインとなる五人組の内(この人の食べっぷりは微妙だな)と感じるような人は一人もいなかったし、この原作を映像化する上で最も大切な点を、きちんとクリアしていたと思います。 主人公とヒロインの幸せな日々の中で「いただきます」をちゃんとしなきゃダメと要求するヒロインの姿が印象的であり、別れのラーメンを振舞った際にも「いただきます」してくれなかった主人公を、寂し気に見つめていた演出なんかも、良かったですね。 モノローグこそありませんでしたが(この人には、私の言葉は届かないんだ……)と、しみじみ感じていたように見えましたし、その後に二人が破局する結末に、自然と繋がっていたと思います。 出所後に再びラーメンを食し、泣き声の代わりのように麺を啜り、涙を飲み干すようにスープを飲み干す主人公の姿も、非常に味わい深い。 不満点としては……主人公と母親との別れの件が、ちょっと不自然だった事。 最後に子供が風船を渡すのは、わざとらしく思えた事。 作中で満点を取った「すき焼き」は確かに美味しそうだったけど、お肉が今時のスーパーで買った代物にしか見えなくて、今一つノリきれなかった事とか、そのくらいかな? 自分としては「すき焼き」よりも「パイナップルの缶詰」そして「黄金飯」の方が美味しそうに思えちゃったくらいですね。 もし、作中に出てきた料理で一番を決めるなら「黄金飯」に一票入れさせてもらいたいです。 [DVD(邦画)] 7点(2020-04-09 14:55:09)(良:1票) |
7. 小悪魔はなぜモテる?!
《ネタバレ》 色んな映画や小説のオマージュが散りばめられており、それらの答え合わせというか「元ネタ探し」をするだけでも楽しい映画ですね。 (あぁ、ここはあの作品が元ネタなんだな)とニンマリ出来ますし、そういう意味では「映画好き」よりも「映画マニア」ってタイプの人が喜びそうな内容に思えました。 それでいて「元ネタを知らないと楽しめない」っていう訳でもなく、きちんと万人向けの娯楽映画として仕上げている辺りも、実にお見事。 個人的には「緋文字」や「ジョン・ヒューズの映画」だけでなく「グリース」(1978年)の影響も色濃いというか「してもいない性体験を自慢する主人公」「強がって悪ぶってみせる自分と、本当の自分との葛藤で悩む主人公」って意味で、かなり参考にしているんじゃないかと思えたので、劇中で「グリース」の曲を流すだけでなく、もっとハッキリ言及してくれると、より嬉しかったかも。 黒人の義弟に、色んな経験談を語ってくれる両親など、主人公家族が「良いキャラ」揃いな事。 主演のエマ・ストーンが非常に可愛らしい事。 噂が広がる様をテンポ良く描いてみせる演出や、音楽の使い方が良かった事。 その他にも、数々な長所が備わっている映画なのですが…… ちょっと終盤のまとめ方が雑というか、色々と曖昧なまま終わった感じなのが残念でしたね。 なんていうか「主人公が誤解を受けて迫害されていく」までの流れは上手いし「この後、彼女はどうなってしまうの? どうやって救われるの?」と観客を釘付けにするまでは良かったんだけど、その解決法に説得力が無かった気がします。 ビデオ越しに主人公が真相を一方的に語るだけじゃあ、殆どの人には信じてもらえないと思うし「たとえ信じてもらえなくても、私には最高の彼氏が出来たから平気」って結論を出すなら、わざわざ真相を暴露するような真似しなくても良かったじゃんと思えるしで、どうも中途半端なんですよね。 同情の余地はあるにせよ、嘘を吐く見返りとして男達から代金(ギフト券)を受け取っている訳だから、それを「困ってる人を見捨てられないので、嘘を吐いてあげた」って感じに、まるで善行みたいに描かれるのも、ちょっと違和感。 「じゃあ代金を受け取ったりするなよ」とツッコむしか無かったです。 あと、親友のリーやマリアンヌとは和解出来たのか、グリフィス先生夫妻は今後どうなってしまうのかってのも気になるし……どうもカタルシスに欠けていた気がします。 主演のエマ・ストーンは好きな女優さんなので、最後の最後で疑問符が付いちゃう終わり方になったのが、返す返すも残念。 祖母からの贈り物であるメロディーブック「ポケットに太陽を」をすっかり気に入って、シャワーを浴びながら唄ったり、着メロに設定したりしている様もキュートだったし、彼女が画面の中でアレコレしているのを眺めるだけでも楽しかったので、それなりの満足感は得られたんですが…… 観ている間だけでなく、観終わった後も「映画の続き」が気になってしまうという、そんな物足りなさも残る一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2019-03-28 00:40:39)(良:2票) |
8. コン・エアー
《ネタバレ》 アクション俳優としてのニコラス・ケイジの代表作といえば、本作になるんじゃないでしょうか。 とにかく主人公のポーが強くて恰好良くて、初見だったとしても「この俳優さんは要チェックだな」と感じさせるような力がある。 ニコラス・ケイジの存在を知っている上で観たパターンでも、他の映画では中々見かけない長髪なので物珍しさがあるし(こんなに肉体派な俳優だったのか……)という驚きを味わえるしで、掘り出し物に思えるんじゃないかと。 ヒロインとなる奥さんと娘さんが両方美人で可愛らしいものだから「早く刑務所を出て、家族の許に帰りたい」と思っている主人公に感情移入しやすい点も良かったですね。 捕まった経緯に関しても「こんなの完全に正当防衛じゃん」と思えて、応援したくなる形になっている。 刑務所で黙々と身体を鍛えつつ娘と文通しているシーンも良かったし、囚人仲間のオーと仲良く話す場面も微笑ましくて、仮釈放に至るまでの流れが非常にスピーディーに纏められている点も、上手かったと思います。 この手のアクション映画は、やはり導入部が大事なんだなと、再確認させられましたね。 敵となる凶悪犯達も「濃い」面子が揃っており、特にジョン・マルコヴィッチ演じるサイラスの存在感は、圧巻の一言。 他の連中だってかなりの面構えの持ち主なのに、もう登場した時から(こいつがラスボスだな……)と直感させるだけのオーラを放っていましたからね。 凶暴なのに知的さを漂わせる悪党って、演じるのはとっても難しいと思うし、正に「怪優」たるマルコヴィッチの本領発揮といった感がありました。 ハイジャックした飛行機で何処を目指すのかと問われた際に「勿論ディズニーランドさ」と切り返す場面なんかを魅力的に演じられたのは、この人だからこそだって思えます。 そんなサイラスに主人公のポーが気に入られ、仲間の振りをしつつもポーは何とか人質を殺さないようにサイラスを誘導していく辺りも、さながら「潜入捜査官物」のような面白さがあって、良かったですね。 飛行機内に裏切り者がいると敵も気付いて、それを探っていく流れになるのは緊迫感があったし、そんなシリアスな魅力の一方で「飛行機から突き落とされた死体が地上の車に激突する場面」をユーモラスに描いたりして、必要以上に肩に力が入らないよう配慮しているバランスなんかも、ありがたい。 ベガスに不時着したら、スロットからコインが溢れ出すシーンを挟んでいるのも「お約束を分かってる」感があって、観ていて嬉しかったです。 で、そんな本作の不満点としては……やっぱり、スティーヴ・ブシェミ演じる「殺人鬼ガーランド」の肩透かし感が挙げられそうですね。 如何にも大物っぽく登場したのに、主人公側にも敵側にも与しないまま、飄々と一人だけ脱獄に成功しちゃうだなんて、流石に予想出来なかったです。 彼に関しては「予想を裏切られた快感」よりも「期待外れだったという失望感」の方が大きくて、今こうして文章を書きながらも(結局なんだったんだ、アイツは)と答えが出て来ないくらい。 「幼い少女の死体とドライブした」という台詞があり、その後に少女と二人きりになる場面を用意して、観客に(女の子が殺されちゃうんじゃないか?)とドキドキさせておきながら、特に何の理由も無く殺さずに別れて終わりってのも(何じゃそりゃ!)って戸惑うばかりだったんですよね。 ベタではありますが「こんなに優しくされたのは、生まれて初めてだ」的な台詞でも言わせておけば、少女を殺さなかった理由も納得だし、一人勝ちする結末に関しても「さりげなく主人公達を助けてあげた」的なシーンを挟んでおけば、それに対するご褒美のような形で逃げ延びる事が出来たって事で納得だしで(もっと、こうすれば良かったのに……)と思わされる部分が多かったです。 ちなみに、本作の小説版においては、そんなガーランドが捕まる場面まで描かれているのですが……それがまた非常にアッサリした逮捕劇なので「映画の続きが気になった人にはオススメ」とも言い難いのが辛いところですね。 キャラとしては独特の魅力があって嫌いになれないだけに、こんな事を書くのは心苦しいけれど、正直彼は登場させなかった方が、シンプルなアクション映画として完成度が高まっていたんじゃないかって思えました。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2019-01-24 21:20:12)(良:2票) |
9. コネクテッド
《ネタバレ》 「セルラー」(2004年)ほどのスタイリッシュな魅力はありませんが、アジア映画らしい泥臭さが濃密に盛り込まれており、あちらに負けず劣らずの傑作に仕上がっていますね。 勿論、全編に亘って改良が施されているという訳ではなく(ここは「セルラー」の方が良かったなぁ……)と思える部分もチラホラ見つかってしまうのは、非常に残念。 恐らく「セルラー」で不自然だった箇所を、なるべく自然にしようと改変を行ったのだと思いますが、それによってテンポが悪くなっていたり、逆に説得力が失われていたりもするんですよね。 この「悪くなっている部分」さえ無ければ、あの「セルラー」を越える傑作だと、胸を張って紹介出来た気がします。 中でもキツかったのが「監禁中のヒロインの手枷を解いてあげる犯人達」という場面。 確かに「セルラー」に対しても「なんでヒロインの手を縛っておかなかったんだよ」というツッコミは成立する為「最初は縛っておいた」という形にするのは分からないでもないんですが……それによって「わざわざ一度縛ったものを、何故解いた?」という、より強いツッコミ所が生まれているんだから、本末転倒じゃないかと。 無理矢理に推測するなら「手枷を解いてやる事によって飴を与え、自白させやすくする」という効果を狙ったのかも知れませんが、ちょっと分かり難かった気がします。 「セルラー」では「犯人達が手を縛る事を思い付かなかっただけ」という事で、ギリギリ納得出来る形だった訳だし、ここは変えなくても良かった気がしますね。 と、そんな具合に冒頭部で(こりゃあダメじゃないかな……)と失望させられたりもした訳ですが、その後にどんどん挽回。 気が付けば画面に釘付けになっていたんだから、やはり凄い映画なんだと思います。 先程は「セルラー」に比べて悪くなっている部分を述べましたが、それと同じか、あるいはそれ以上に良くなっている部分も多かったんですよね。 まず、主役格の「青年」「女性」「警官」の三人が、不自然な程に有能過ぎない、等身大な存在となっている点が好ましい。 中でもヒロインのグレイスが「教師だから色んな事に精通していて、何でも出来てしまう」という万能属性を取っ払われて「設計士だから電話を直す事が出来た」「男との揉み合いで勝利出来たのも、偶々刃物が血管を傷付けたから」といった感じに改変されており、これは凄く良かったと思います。 警官に関しても「これまでロクに銃を撃った事も無いはずなのに、何故か物凄く有能」というキャラから「性格に難があって降格させられている元敏腕刑事」という設定になっており、グッと説得力が増している。 極めつけはルイス・クー演じる主人公の青年であり「如何にも頼りない眼鏡姿」「でもやる時はやるという精悍な顔立ち」「経理関係の仕事をしており、頭も良い」「これまで息子に嘘を吐き続けていた為、今度こそ約束を守ろうと奔走する」というキャラクターになっていて、実に自分好みでしたね。 小道具として「バットマン」を巧みに活用し「ヒーローに憧れているはずなのに、現実と妥協して情けなく生きてきた主人公が、今度こそ本物のヒーローになる」というカタルシスを生み出している辺りなんて、見事としか言いようがないです。 誘拐犯のリーダーも貫禄があって良かったし、香港映画らしいカーアクションが盛り込まれている点も、嬉しい限り。 空港での犯人達との駆け引きも緊迫感がありましたし「一件落着かと思いきや、実は……」という、どんでん返しのやり方も上手かったと思います。 ヒロインは人妻ではなくシングルマザーなので、この後に主人公と結ばれる未来が示唆されているんですが、それも直接そうとは描かず、あくまで「結ばれるかも?」と思わせる程度に留めている辺りも、上手いバランスでしたね。 最後に息子に理解してもらえて、親子で抱き合うハッピーエンドになるのも、実に気持ち良い。 人質の命を救う為、止むを得ず息子との約束を破ってしまう主人公の姿が切なかっただけに、この「和解」のシーンは、本当に心に響くものがありました。 (あんなに約束を守ろうと頑張ったのに……)というやるせなさが強かっただけに、約束を破ってでも他人の命を救ってみせた主人公の恰好良さと、それが息子に伝わって仲直りする事が出来たという感動も、更に際立つという形。 「バットマンに転職したら?」との言葉通り、この後の主人公は、貧乏な家族を泣かせるようなヤクザ紛いの仕事なんて辞めちゃって、警官になっていたりもしそうですよね。 あるいは息子をロビン役にして、クライムファイター的なヒーローになるかも? なんて妄想まで出来ちゃう、実に面白い一本でした。 [DVD(吹替)] 8点(2018-12-19 21:30:31) |
10. コップ・カー
《ネタバレ》 観終わった後に上映時間を確認し(えっ、88分しかなかったの?)と思ってしまった事が印象深い。 体感としては二時間越えの映画に思えた訳ですが、中身が濃かったというよりも「一時間以内に片付けられるストーリーを、無理矢理引き延ばした」感があったりしたのが辛いですね。 とにかく演出の「間」が長くって(早く次の展開に移ってくれないかなぁ……)って、じれったい気持ちになる場面が多かったです。 それが最高潮に達するのが、ケヴィン・ベーコン演じる警官が車泥棒する場面であり、ここは本当に観ていてキツかったですね。 窓の隙間から靴紐の輪っかを通して、それで車内のロックを解除しようとする流れなんだけど、観客を焦らすように繰り返し失敗したりするもんだから、やりきれない気分になっちゃいました。 それだけ時間を掛けた訳だから、成功の際の達成感も大きくなる……って訳でも無くて、成功の寸前にカメラが切り替わり、次の瞬間には靴紐の輪っかが不自然に小さくなっていたりしたもんだから(あっ、ズルしたな)と思えて、作り手の不誠実さに幻滅しちゃったくらい。 この場面に関しては、もうちょっと上手く撮って欲しかったです。 少年達が家出した理由を「義理の父親」「お婆ちゃん子」などの断片的な情報だけで片付けたり、警官達が具体的にどういう理由で殺し合ったのかが謎だったり、終いには負傷した少年の生死も曖昧なままエンディングを迎えたりと、やたら説明不足なのも気になりますね。 この辺りは「無駄な説明を削ぎ落とした、スタイリッシュな話作り」「観客の想像力に訴えかけ、余韻を残す終わり方」と褒める事も出来そうなんだけど、自分としては「投げっぱなし」って印象の方が強かったです。 ……とはいえ、良かった部分も色々あって、一概に「嫌いな映画」とも言えないんだから、全くもって困り物。 主人公となる少年二人が「悪ガキなんだけど、愛嬌があって憎めないタイプ」だった訳だけど、この映画も丁度そんな感じだったりするんですよね。 自分としては「間延びした演出」「説明不足なストーリー」は明らかに欠点だと思うんですが、それを補うだけの長所も備え持っているという形。 何と言っても「男の子達がパトカーを手に入れて、好き勝手に乗り回す」という楽しさを、きちんと描いている点が良かったと思います。 映画でこういう展開があっても、すぐに大人に見つかって止められたりするものなんですが、本作はたっぷりと尺を取って「子供がパトカーを使って遊びまくる」場面を描いているんですよね。 何せ二人きりの「子供の時間」が破られ、トランクの中から大人の男が出てくるのが88分中48分を過ぎてからというんだから、凄い話です。 作り手側にとっても、後半の銃撃戦やら何やらは余戯に過ぎず「子供がパトカーで遊ぶ」場面の方をメインにしたかったんじゃないかなぁ、と思えてきます。 少々ブラックな内容ではありますが、ある意味では「子供の夢を叶えてくれる映画」と呼ぶ事も出来そうな感じですね。 敵役のはずの警官に関しても、演者であるベーコンの力量ゆえか、妙な魅力があったりして、これまた憎めない。 身の破滅を悟り、自宅に隠しておいた金塊やら何やらを掻き集めて逃げ出そうとする件なんて、特に好きですね。 この場面では、つい彼を応援しちゃって、無事に逃げ延びて欲しいなと思わされたくらいです。 中盤「そんな風に銃で遊んでいたら危ないぞ」と観客に思わせておき、終盤にて「それみた事か」とばかりに、少年達の片方が弾を受けて負傷する展開になるのも、上手い伏線回収の仕方でしたね。 ラストシーンに関しても「友達を救おうとしてパトカーを運転し、それまで出せなかった速度を出してみせる」「大人に背を向けて家出した少年が、無線に応答して、今後は大人と話し合っていく未来を示唆する」といった感じの演出が行われており、投げっぱなしな終わり方ではありますが「独特の味わい深さ」のようなものは、確かにあったかと。 総評としては、才能ある若手監督の作品に相応しい「粗削りで欠点も目立つが、光るものを秘めた映画」って感じになるでしょうか。 正直「楽しかった」「面白かった」って印象は然程残っていないんですが、忘れ難い魅力を秘めた、記憶に残る一品ではあったと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2018-12-02 09:47:38) |
11. コンプライアンス 服従の心理
《ネタバレ》 これ、とんでもない話ですね。 実話ネタという予備知識が無い状態で観ていたら、流石に呆れて「リアリティに欠ける」とツッコミを入れちゃっていた気がします。 この手の「異常な状況下における人間心理」を描いた映画は過去にもありましたが、舞台となるのが大学やら疑似刑務所やらではなく、身近な場所であるファーストフード店であるという点も面白い。 それゆえに、被害者である店員達が等身大に感じられるし、日常の中で起こった事件の異常性も、より際立ったように思えます。 恐らくは映画オリジナルの要素として、冒頭部分に ・「従業員を、ちゃんと教育していない事」を責められる女性店長 ・「今クビにされると凄く困る」と同僚に話す被害者女性 ・両者には「婚期を逃した年増女」と「恋人が複数いる若い女」という溝がある という伏線を張ってあるのも上手い。 ただでさえ現実味の無い事件なのだから、そういった細かい部分で少しでも物語に説得力を持たせようという、作り手の心配りが感じられました。 被害者だけでなく、悪戯電話を行う犯人側の描写も、これまた丁寧で、いやらしいんですよね。 「全ての責任を負う」「出来れば穏便に済ませたい」という台詞を、如何にも頼もし気に口にしたり、かと思えば「君なら警察官になれるよ」「店長の鑑だな」と煽てたりして、被害者達を巧みに操ってみせている。 特に呆れたのが「誰がこんな事、好きでやるか。そんな奴どこにもいない」と、好きでやっている犯人自身が言い放つシーン。 とびきり皮肉が効いている演出であり(本当に酷い奴だなぁ……)と思わされました。 観客としては、そんな犯人が早く捕まってくれるのを望む訳ですが、中々そうは行かず、ついに「性行為の強要」という決定的な犯罪が行われ、気分がドン底に落ち込んだところで、颯爽と「冷静な第三者」であるハロルドが現れ、場の空気を一変させてくれる流れも良いですね。 揺れ幅の大きさが快感になるというか、本当に安堵させられるものがあり「おい、あの男の命令はおかしいぞ」とハロルドが言い出した時には、もう拍手喝采したい気分になりました。 その後「犯人には幼い娘がいて、家庭では良き父親である」「今回だけでなく、同様の事件が他の州でも起きていた」「犯人はセキュリティ関係の仕事をしている人間だった」と、衝撃の事実を次々に明かしていく訳ですが、ここであまり時間を掛け過ぎず「ようやく犯人から解放された」という安堵感の余韻を残したまま、最短時間で終わらせる構成も見事。 欲を言えば「果たして店長は加害者だったのか? それとも被害者だったのか?」という問題提起だけでなく、犯人に決定的な厳罰が下される場面も欲しかったところですが、そこは実話ネタの悲しさ。 逮捕を匂わせるシーンだけで終わっており、勧善懲悪のカタルシスを得られなかったのが、唯一残念でしたね。 同事件を元ネタにした作品としては「LAW&ORDER:性犯罪特捜班」というドラマの第二百話「権力と羊」が存在し、そちらでも犯人が曖昧な最期を迎えたりするので、実にもどかしい。 せめてフィクションの世界では、スッキリと事件解決させて欲しかったものです。 [DVD(吹替)] 7点(2018-03-01 08:33:59)(良:1票) |
12. 子連れじゃダメかしら?
《ネタバレ》 「最低男と思われた彼が、実は良い奴だった」という意外性ありきのストーリーなのですが、本作に関しては主演がアダム・サンドラーという事もあり「実は良い奴だって事はバレバレ」なのが残念でしたね。 他にも、ヒロインが仕事中に雇い主の服を盗み着したり、文字通り服を持ち出して盗んでみせたりと、ちょっと「嫌な女」に思えてしまう事。 そしてパラセーリングの場面にて、地面にいる動物達が合成映像だと丸分かりで興醒めしてしまった事などは、欠点と言えそう。 「ママの幽霊」「浮気性の元亭主」などの要素についても、完璧な決着が付いておらず、宙ぶらりんな印象です。 でも、それらを考慮しても面白い映画であり、面白さ以上に(好きな映画だな)と感じさせてくれるものがありました。 そもそも、この主演二人の組み合わせの時点で「50回目のファースト・キス」が好きな自分としては、嬉しくなってしまうのですよね。 フランク・コラチ監督に関しても、作品履歴を眺めれば「好きな映画」ばかりなのだから、本作は自分との相性が、凄く良かったのだと思います。 好みじゃない相手とのデート中に、友人から電話を掛けてもらい「緊急事態」と言って逃げ出す作戦を立てていたら、相手側に全く同じ手をやられ、逃げるより先に逃げられてしまったという導入部から、もう面白い。 他にも、全く同じ車に乗っているとか、動きが逐一シンクロしているとか、そういった伏線を丁寧に張っていき「行動パターンの同じ男女二人が、同じように考えて、同じアフリカ旅行に参加する」ストーリーとして繋げてみせるのが、とても気持ち良かったです。 本作はラブコメであると同時に「家族モノ」「旅行モノ」でもあり、三つの意味で楽しめる、贅沢な品に仕上がっているのも良かったですね。 主人公とヒロインの家族は、男親と娘達、女親と息子達という組み合わせであり、お互いに「男同士」「女同士」で仲良くなっていく流れなのも微笑ましい。 アフリカ旅行する楽しさが、しっかり描かれている点も嬉しかったです。 初めてホテルを訪れたシーンでは(うわぁ、良いなぁ……)と感嘆させられるし、朝の訪れと同時に、大欠伸する豹の姿を映すのも(舞台がアフリカだからこそ)と思えて、雰囲気を盛り上げてくれる。 基本的には王道展開であり、主人公とヒロインは無事に結ばれる訳ですが、脇役関連のストーリーについては、結構こちらの予想が外れたりする辺りも、面白かったですね。 ヒロインの雇い主である金持ち家族も再登場するだろうと思っていたけど、そうじゃない。 喧嘩している息子と娘同士が結ばれるんじゃないかと思っていたけど、そうじゃない。 その一方で(これは結ばれないオチだろう。失恋した彼女をヒロインが慰めてあげて、主人公との距離を縮めるイベントにするはず……)と思っていた、主人公の娘と「吸血鬼系男子」との恋が実ったりするもんだから、もう吃驚です。 そういったサプライズがあるからこそ(流石に主人公とヒロインが結ばれないって事は無いだろう)と思いつつも、最後まで程好い緊張感を味わいながら、楽しく観賞出来た気がします。 それと、上述の娘に関してですが、作中に出てくる男共が悉く彼女を「男の子」に間違えるというのは、ちょっと無理がある気もしましたね。 「少女と見紛うほどの美少年」に思えない事もありませんが、それにしても髪型や口紅の色などは、もっと中性的に寄せた方が良かったんじゃないかと。 その方が、髪型を変えて女の子らしくなった時のギャップも際立ったように思えます。 そんな娘と結ばれた彼氏くんの両親も、旅先のホテルの従業員達も、これまた良い味を出しており、お気に入り。 勿論、娘達と、息子達も魅力的であり、特に娘達の方なんてもう、可愛くて仕方なかったです。 父親から「彼女を愛している」という言葉を引き出して、ガッツポーズを取る姿には、思わず(天使か!)とツッコんだくらい。 クライマックスには「少年野球の試合」という山場を用意し、盛り上げてくれるのも良かったですね。 ヒロインの息子が、主人公の応援を受けて、見事にヒット(=ランニングホームラン)を放ってみせる。 そして、勝利の興奮の勢いそのまま、主人公がヒロインに告白して、無事に二人が結ばれる。 その後はもう、アフリカから駆け付けた(?)面々も気球の上から祝福して、エンディング曲は子供達が唄ってくれてと、好き放題やっている感じで、最後まで笑えて、楽しくて、面白い。 色々と滅茶苦茶だし、整合性は取れていないかも知れないけど、そんなの吹き飛ばしてみせるだけのパワーが感じられました。 こういう映画、好きです。 [DVD(字幕)] 7点(2017-10-07 06:51:40)(良:1票) |
13. 恋とニュースのつくり方
《ネタバレ》 冒頭のシーンにて(シニアプロデューサーには昇格出来ず、当てが外れて落ち込むんだろうな)と思っていたら、まさかのクビ宣告。 失意のスタートとなった主人公なのですが、とにかく明るさと元気に満ちており、観ている側としても「彼女なら、きっとハッピーエンドを迎えてくれるはず」と、安心して見守る事が出来ましたね。 今は亡き父は彼女の夢を応援してくれており、それとは対照的に、存命の母は現実主義者という家族構成も良かったと思います。 「八つの時なら可愛い夢。十八の時には胸も躍った夢。でも二十八の今は、正直言って困った夢よ」 と諭す母の言葉には説得力がありましたし、いつもの出社時刻に目覚まし時計が鳴るも、それを止めてから何もする事が無く途方に暮れる主人公の描写なんかも、味わい深くて良い。 そういった「ドン底」をキチンと描いてくれたからこそ、その後のサクセスストーリーにも共感し、応援出来た気がします。 新しい職場に採用された後、早回しで引っ越しをするシーンや、初めての会議で矢継ぎ早に質問を浴びるも、ちゃんと一つずつ回答するシーンなんかも、スタイリッシュな魅力がありましたね。 こういった具合に、働く楽しさが感じられる映画って好きです。 陳腐な表現となってしまいますが、明日への活力を貰える気がします。 この辺りは監督が同じである「ノッティングヒルの恋人」よりも、脚本が同じである「プラダを着た悪魔」に近い魅力かも。 今や大統領となっているドナルド・トランプの名前が飛び出すのもニヤリとさせられたし、男性キャスターと女性キャスターの子供っぽい対立、そしてラストにて二人が和解し、恋仲となった事を匂わせる演出なんかも、オシャレな感じ。 唯一の難点はクライマックスに関してで、事前に料理の伏線を張っておいたのは分かるのですが、オチに使うには弱いネタだな……と思えましたね。 演出に関しても、あんな大袈裟に感動的な場面に仕上げる必要があったのか疑問。 「主人公を引き止める為に、傲慢なキャスターがささやかな、彼にとっては精一杯の誠意を見せてくれた」というストーリーな訳だから、もっとさりげなく、小さな感動を与えるような形にした方が良かったんじゃないかな、と。 一応ラブコメ要素もあるのですが「別に無くても良かったなぁ……」と思えるくらいに、彼氏役の存在が希薄な辺りも、不満と言えば不満。 あくまでも「仕事に生きる女」に特化させた方が、主人公のキャラクターも際立ったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。 そんなのは男性的な価値観であり、やはり女性からすると恋と仕事を両立させてもらわないと、観ていて嬉しくないのかも……とも考えられるし、難しいところですね。 とはいえ、その後の「これでもか!」とばかりに、次々と笑顔が咲き乱れるハッピーエンドっぷりは、本当に好きです。 母親が新聞記事を切り抜いたりして、実は娘の活躍をずっと見守っていた事を示す描写にもグッと来ましたし、冒頭の職場にて仲良しだった女性と再会し、また一緒に働ける事を喜んで、ハグしてみせる姿なんかも良い。 主人公達が頑張って幸せになる姿を見届けられる、気持ちの良い映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2017-02-01 11:59:10)(良:1票) |
14. 恋するベーカリー
《ネタバレ》 大好きな「ホリデイ」と同じ監督さんという事で、期待を込めて観賞。 女性目線で男二人と三角関係になるという、感情移入しにくいストーリーなのに、しっかり楽しむ事が出来て嬉しかったですね。 特に感心させられたのが、高齢の主人公に対し 「俺達、一緒に歳取るべきだ」 「年齢も君の魅力も一つだよ」 と男達が口説いてみせる件。 (うわぁ、これは言われたら嬉しいだろうなぁ……)と思えたし、普通なら負い目に感じそうな部分を肯定してあげるという、優しい作風である事が伝わってきて、ほのぼのとさせられました。 「元旦那がセックスフレンド」と笑いながら女友達に話す件なんかも、女性の逞しさと、姦しさまで感じられて、好きな場面です。 そんな具合に「これは良い映画だな」と途中までは思っていたのですが「元旦那とヨリを戻すのは止めにして、新しい恋人と良い感じになる」という結末には納得がいかず、全面的に肯定は出来なかったのが残念。 そもそも新しい恋人と急接近したのが「今の妻を優先させる元旦那への当てつけ」という動機にしか見えなかった時点で、あまり二人を応援出来なかったのですよね。 結果的に「元旦那は、今の妻と子供と別れる」「父と母が復縁すると思っていた我が子達を失望させる」という、二重の悲劇が起こってしまった訳で、それまでのコミカルな作風とのギャップが大き過ぎたように思えます。 元旦那が別れを告げてきた妻と子供の姿が、終盤には全く出て来ないというのも、何だかズルい気がして、受け入れ難い。 「傷付いた母子の姿が描かれたら、主人公が嫌な女に思われてしまうから」という理由なのは分かるのですが、だからこそ、そこは逃げずにやって欲しかったなぁ、と。 それでも後味が悪くなかったのは、やっぱりナンシー・マイヤーズ監督の演出が、自分の好みに合っていたからなのでしょうね。 登場人物全般に、何とも言えない愛嬌があって、妙に憎めない。 娘婿となるハーレイの存在なんて、特にお気に入りです。 一人だけ主人公達の不倫に気付いてしまい、他の家族にバレないようにと右往左往する姿が、実に愉快で、応援したくなる。 最後に、家族が分かり合えた事を喜び「僕も入れて」と一緒になって抱き合う姿も、微笑ましくて、温かい気持ちに浸れました。 本作のMVPには、彼を推したいところです。 [DVD(吹替)] 6点(2017-01-27 13:03:58)(良:1票) |
15. 故郷(1972)
《ネタバレ》 渥美清の演じる魚屋が「船長」と「労働者」の違いについて語る件が印象深いですね。 労働者よりも仕事がキツく、給料も安いと言われてしまうような、石船の船長という仕事。 それでもなお「叶うならば、ずっと船長のままでいたい」と願い続けていた主人公の姿に、切ない気持ちにさせられました。 途中、上述の魚屋が風邪を引いてしまい、ゴホゴホと咳込んでいる姿を目にした際には「もしや、彼が入院なり病死なりしてしまう展開じゃなかろうな……」と身構えてしまいましたが、そんな事も無く、最後まで明るく人懐っこい姿で映画に彩を添えてくれて、一安心。 主人公である夫は「船長」その妻は「機関長」という呼称も、何やら子供時代の遊びのような、不思議な楽しさがあり、彼らが石船の仕事に愛着を持っている理由も、分かるような気がしましたね。 冒頭の、船で大量の石を運び、それを海中に流し込むという一連の作業も、何だかアトラクションめいた趣きがあり、視覚的にも満足。 家族で力を合わせる姿を見ていると、それが単なる「仕事」の一言では片付けられない、互いの絆を強める為の儀式であるようにも思えてきました。 結局、この映画の一家は「都会の造船所で働く為」「大好きな船を捨てて、大好きな島からも去らなければいけない」という、辛い決断を下す事になります。 それでも、必要以上に陰鬱にはならず、どこか明るい空気すら漂っているのは「家族が生きていく為」という目的意識が、しっかりと描かれているからなのでしょうね。 ちょっと「田舎」や「船仕事」を美化し過ぎているというか、ともすれば「都会」や「工場作業」に否定的な印象を与えてしまう作りなのは気になるところですが、本作の場合は、そういった視点で描くのが正解だったのだろうな、と思えました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-08-04 16:05:28) |
16. コンゴ
《ネタバレ》 こういった冒険物は好きなジャンルなので、楽しく観賞する事が出来ました。 なんといってもマスコット……いやさヒロインとさえ呼べそうなエイミーの存在が魅力的でしたね。 手話をするゴリラというだけでなく、特殊な機械の音声によって、人間の言葉を話せるようになっているという設定が、可愛さに拍車を掛けています。 飼い主の男性に甘えて、抱っこされたり、くすぐったりされるのが好きな性格。 そして、彼に人間の女性が近付いたら、すぐにヤキモチを妬いちゃうような辺りも、何とも愛らしい。 人間の言葉を憶えてしまったがゆえに、同じゴリラからは忌避されてしまった際に浮かべる表情なども、切なさを感じられて良かったです。 欠点としては、そんなエイミーとの別れのシーンが、やや唐突に思えてしまった事。 そして、敵となる「番人」達が小柄なゆえか、恐怖感や緊迫感が伝わってこなかった事が挙げられそう。 また、本作は「エイミーを故郷のコンゴに帰してあげる」のを目的とした男性の他にも「現地で遭難した元恋人の男性を救出する事」を目的とした女性主人公も存在しているのですが、そちらには感情移入出来なかった点も残念。 何せ彼女の上司が、絵に描いたように嫌な奴であり、実の息子の安否よりも「レーザー兵器の材料となる特殊なダイヤモンド」の入手を優先する性格だったりするもんだから、作中で彼女のモチベーションが上がらないのと同じように、観ているこちらとしても、応援する気持ちが薄れちゃうんですよね。 本来の目的である「元恋人の救出」に関しても、冒頭の映像で死んだ事が示唆されており、案の定、終盤にて死体を発見する展開なので「あぁ、やっぱり……」としか思えない。 それらの要素は「最後の最後で、上司の命令を無視する爽快感を与える為」「実は死んでいたという落胆を与えない為」なのでしょうけど、やはりスッキリしないものが残りました。 飛行機からパラシュートを付けてダイブしたり、急流の河をボートで下ったり、キャンプしてテントで眠ったり、登山したりと「冒険旅行」のツボを押さえた作りであった事は、素直に嬉しかったですね。 月夜にボートを漕ぐシーンなんかも、幻想的な美しさを味わえて、お気に入り。 命の危機が感じられない作りである事に関しても、裏を返せば「安心して、驚いたり緊張したりせずに楽しめる」という長所に成り得るんじゃないか、とも思えてくる。 そんな憎めない一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-07-31 07:57:44)(良:1票) |
17. 恋と愛の測り方
《ネタバレ》 明るいラブコメ映画は好きだけど、こういう真面目な恋愛映画は苦手だなぁ……と、自分の嗜好を再確認させられましたね。 丁寧に作られているし、主人公の感情の機微を描いたという意味においては質の高い作品なのでしょうが、どうにも好みの内容とは違っていた為、楽しむ事が出来ませんでした。 男女の浮気の違いを描いている点は興味深いのですが、どうも女性贔屓な目線であるように思えてしまった点も、マイナスポイント。 夫は妻を愛しているのに、一時の欲情に流されて同僚の女性と浮気してしまう。 そして妻の方はといえば、夫と同じくらい愛している元浮気相手の男性と心を通わせ合うも、最後の一線は越えていない。 しかも、夫の浮気相手となる女性には殆ど好意的な描写が無かったのに、妻の浮気相手である男性の方は如何にも同情的に描かれているものだから、やりきれません。 「性欲に駆られた夫の浮気は醜い」「それに比べて妻の浮気は悲劇的で美しい」という対比が窺えてしまい、どうしても賛同する事が出来ませんでした。 観賞後に調べてみたら、監督さんは女性であったらしく、何だか妙に納得。 男性贔屓な内容の映画を観て、女性が呆れてしまうのと同じような現象が、今回我が身に起こってしまったみたいです。 そんな風に、今一つ魅力が分からなかった品なのですが、そんな自分でもハッとさせられる場面も盛り込まれており、作り手の力量を感じさせてくれましたね。 特にラストシーン。外出用のハイヒールが投げ出されているのを映し出し、その後の夫婦の衝突を予感させる終わり方には、素直に「上手いなぁ」と感心。 「あの後、どうなったと思う?」「やっぱり旦那に浮気バレたよね」「最後の吐息からするに、奥さんの方から告白しそうな気がする……」 などといった具合に、観賞後にアレコレ話し合う楽しみも与えてくれる映画でありました。 [DVD(吹替)] 4点(2016-06-17 07:06:09) |
18. 高校大パニック(1978)
《ネタバレ》 1974年のニューヨークにて、生徒が銃を携えて高校を襲撃する事件が発生し、それに着想を得たと思しき作品が幾つか作られましたが(リチャード・バックマン著「ハイスクール・パニック」など)日本でも作られていた事に驚きです。 ただ、どちらかといえば作中でも語られている通り、瀬戸内シージャック事件の影響が色濃いようにも感じられますね。 いずれにしても、当時の日本は今よりも身近に銃があったからこそ成立したお話なのだろうな、と思います。 印象深いのは、数学教師に向けて発砲した銃弾が、女子生徒に命中してしまった場面。 その瞬間、主人公である犯人の中にあったであろう「自殺した生徒の仇討ち」という大義名分が消え失せて、もう決して後戻り出来なくなってしまった事が伝わってきました。 他にも、事件によって授業を中断される事となった生徒達が、大喜びして騒いでみせる姿。 図書室に立て籠もる犯人に対し、説得に訪れた母親が泣きながら息子を気遣うの対し、父親は激昂して「早う出て来て、男らしゅう死刑になって、世間様にお詫びせんか!」と言い出すシーンなども、強く心に残っています。 抵抗を続けるも、とうとう逮捕されてしまった主人公。 途中、微かに心を通わせていたヒロインが警官隊に誤射されて、殺されてしまったという展開もあり、その事に対して怒りをぶちまけるのかと思いきや 「放せよ! 来年、受験があんだよ!」 と言い出すのだから、恐ろしくなりましたね。 完全に心が壊れてしまった主人公の叫びによって終わるという、文句無しのバッドエンドなのですが、その衝撃度の高さは折り紙付き。 観て良かった、と思える映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2016-05-22 14:47:07) |
19. 好色一代男
《ネタバレ》 こういったタイプの映画なのだから、性的倫理観は一時的にオフにしておこう……と覚悟を決めて観賞に挑んだのですが、予想を上回る衝撃を受けてしまいました。 といっても、性的にインモラルという意味での衝撃では無かったのですよね。 予備知識として仕入れておいた原作小説の「人妻との密通」「少年愛」などは、劇中では全く描かれていません。 その代わりのように、主人公の独特の価値観、奔放な生き様が濃密に描かれていたのですが、それがどうにも面食らってしまう代物だったのです。 他人の恋路を叶えてあげる為に、千両も払ってみせる姿は、そこだけ見れば確かに格好良い。 けれども、そのお金は主人公が働いて稼いだ訳ではなく、父親を騙して持ち出した代物だったりするのだから、大いに興醒め。 勘当された後に、何処か他所で一山当てて凱旋し、父親に借金を返してみせるストーリーなのかなと思ったら、それも全然違っていたのですよね。 父親が病気で死に掛けていると知るや「しめた!」と喜び、ちゃっかり実家に戻って遺産だけ受け取り、再び女遊びに耽るような主人公には、流石に肩入れする事は出来ません。 作中で「飯よりも女子が好き」と言いつつ、食欲に負けて愛する女を一人にしてしまい、不幸な結果を招いたりと、どうも一貫性が感じられない辺りも気になりました。 そういった訳で、自分としては、あまり好感が持てないタイプだった主人公の世之助。 それでも作中にて、彼と関わったお蔭で幸せになれた女性もいた事は、喜ぶべきなのでしょうね。 最後の「船出」で終わる場面も、現実逃避というより、ずっと前向きな 「もっと沢山の女子と出会って、彼女らを幸せにしてあげたい」 という主人公の願いが感じ取れる辺りは、好みの結末でした。 [DVD(邦画)] 3点(2016-05-22 08:51:55) |
20. コンフェッション(2002)
ジョージ・クルーニー初監督作品との事でしたが、その力量に驚かされた一方で、どうも既視感を覚えてしまう作風。 気になって調べてみたら、脚本がチャーリー・カウフマンだったのですね。 あぁ、何かに似ていると思ったら「アダプテーション」かと、大いに納得した次第。 悩めるクリエイターが体験した悪夢のような出来事、という点が共通しているように思えましたね。 とても実話とは思えない破天荒なストーリーだったのですが、それが作中で主人公の悩みにもなっており「こんな話、誰も信じてくれない」と嘆く形になっているのが面白かったです。 リアリティの無い展開になればなるほど、主人公の心境が理解しやすくなるという構造。 豪華な出演陣は画面に彩を添えてくれていますし、コーヒーカップの摩り替えなど、印象的な場面もありました。 ドリュー・バリモア演じるヒロインの、性に開放的な小悪魔のようでありながら、何処か母性を感じさせる女性像も好み。 観賞中は、上述の「既視感」が頭の中でチラついてしまい、あまり映画の世界に没頭する事は出来なかった状態にも拘らず、そういった長所をキチンと感じ取れたのだから、良い映画だったと思います。 一連のお話が真実が虚構かを考えるのは野暮な気もしますが、一つ気になったのは、主人公の妹の名前が「フィービー」である事。 これって、かの著名な小説「ライ麦畑でつかまえて」に登場する主人公の妹と同じ名前なんですよね。 つまり、このお話も創作ですよというメッセージにも思えたのですが、真相や如何に。 [DVD(吹替)] 6点(2016-05-13 12:21:34) |