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自己紹介 映画を観る楽しみ方の一つとして、主演のスター俳優・演技派俳優、渋い脇役俳優などに注目して、胸をワクワクさせながら観るという事があります。このレビューでは、極力、その出演俳優に着目して、映画への限りなき愛も含めてコメントしていきたいと思っています。

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1.  コーマ 《ネタバレ》 
ジュヌビエーブ・ビュジョルドの健気な頑張りが楽しめる医学ミステリーの映画化作品。  この映画「コーマ」の原作は、ロビン・クックの医学ミステリーで、脚色と監督は、アクション小説を書き、SF小説も書き、医学ミステリーも書くベストセラー作家で医学博士でもある才人マイケル・クライトン。  ヒロインは、ボストン記念病院に勤める若い外科医(ジュヌビエーブ・ビュジョルド)で、高校時代からの親友が、簡単な手術なのに麻酔から醒めず、コーマ(昏睡)の状態のまま、死んでしまいます。 そして、次の日にも若いスポーツマンが、手術の原因不明の失敗でコーマに陥り、ジェファースン研究所という、植物人間の療養施設に送られます。  これらの事に不審の念を抱き、過去にコーマの患者が意外に多いのを知って、原因究明に乗り出す女医のジュヌビエーブ・ビュジョルド。 越権行為だと怒られたりしながら、それでも調査を続けると、命を狙われて、夜更けの病院内を必死で逃げ回ったり、換気口の長い梯子をよじ登ったり、果ては救急車の屋根に腹ばいになって逃走したりと、まるで女ジェームズ・ボンドといった大活躍をするので、楽しくてしかたありません。  しかも、このビュジョルドさん、小柄な体に思い込んだら命がけという、ヒステリックな目つきをして脅えながら走り回ったりするので、もうその健気で必死の頑張りには、手に汗を握ってハラハラしながら、応援したくなってきます。  彼女がほとんど出ずっぱりのひとり舞台なので、おかげで他の俳優さんたちは、演技のしどころがなくなって、気の毒になってきます。 彼女には同じ病院に勤める外科医の恋人(マイケル・ダグラス)がいて、彼女の引き立て役的な存在です。 そして、外科部長になるリチャード・ウィドマークが、なかなかいい味を出していて、老優、衰えず、さすがの存在感を示しています。  マイケル・クライトン監督の演出は、前半部分がかなり単調で、ラブシーンもどことなくぎこちない感じですが、さすがにスリラーとしての場面では、冴えた演出をしています。 ビュジョルドに情報を提供しようとした機械室の職員が、電流で殺されるシーンは、ハッタリが効いていて、なかなか凄まじいものがあります。  その犯人に追いかけられて、夜更けの病院内を逃げ回ったあげく、ビュジョルドが必死の反撃をするシークエンスが特に素晴らしい。 それが三分の二あたりまで進んだところで、次にジェファースン研究所へ入り込むシークエンスは、コーマの患者をワイア・ロープで吊って、宙に寝かしてある病室が、SF的風景で非常に面白いのですが、ここでの追いかけ回されるサスペンスは今一の感があります。  そこで、最後に真相がわかって、ボストン記念病院でのクライマックスになるわけですが、そこのサスペンスの演出もやはり今一なので、映画全体として尻すぼみの感じがします。 もし仮に、アルフレッド・ヒッチコック監督だったら、もっとうまく演出するのになあ---などと無いものねだりをしながら観ていました。  しかし、病院内をビュジョルドが逃げ回る場面では、拳銃を持った相手を、彼女が死人の応援でやっつけるというところは新手の手法で、一見の価値がありましたので、このようにもっと映画の細部にまで気を使って、小味なスリラーに徹すれば良かったのに、マイケル・クライトン監督のハッタリ性が、邪魔をしたような気がして残念でなりません。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2023-11-07 18:23:24)
2.  黒衣の花嫁 《ネタバレ》 
ヒッチコック心酔者のフランソワ・トリュフォー監督が挑んだミステリ映画「黒衣の花嫁」  フランソワ・トリュフォー監督は、アルフレッド・ヒッチコック監督の心酔者だけあって、この「黒衣の花嫁」の他にも、「暗くなるまでこの恋を」など、ミステリ映画を撮っている。  フランスは、コート・ダジュールのアパートで独身生活を楽しんでいる一人の男がいる。 友人宅のパーティーに訪れて、妖しいまでに美しい女性に出会う。  女性は、その男をテラスに誘う。その直後、その男は、テラスから落ちて死んでしまう--------。  そこから、ほど遠くない町に、銀行員が住んでいた。その銀行員の手元に、音楽会の切符が届く。 心を弾ませて銀行員は、音楽会に出かける。  桟敷には美貌の女性が待っていた。そして、彼女は、翌日、銀行員のアパートを訪れる約束をした。 約束どおり、その女は来る。  しかし、銀行員は、青酸カリで殺される--------。  三人目の男。若手政治家だ。この男も女の毒牙に。女は男の「なぜ?」という質問に答える。 その女の結婚式の日。五人の狩猟仲間が、ふざけて、教会の風見鶏を狙って撃つ。  その弾が、誤って新夫に--------。  思えば、似たような映画があった。日本映画の「五瓣の椿」だ。 似ているはずで、両作品とも原作が、コーネル・ウールリッチだからだ。 「五瓣の椿」は、コーネル・ウールリッチの小説を、実に巧妙に江戸の世界に、山本周五郎が移し替えたのだ。  私は、二度目に、この「黒衣の花嫁」を観た時、トリュフォーが、いかに、お師匠さんのヒッチコックの手法を、取り入れたか、という視点で入念に観ました。 そして、トリュフォーは、師匠を乗り越えたか、という視点でも観ました。  その答えは「NO」。ヒッチコックに及ばざること遠しだ。 ただ、この「黒衣の花嫁」でも「五瓣の椿」でも、主演女優の出来はなかなかのものだった。  ジャンヌ・モローの妖しい殺人者、演技開眼の力演が素晴らしかった岩下志麻。 そういう意味では、両作品とも成功作だろう。
[DVD(字幕)] 7点(2022-05-01 09:30:12)
3.  午後の曳航 《ネタバレ》 
三島由紀夫の小説「午後の曳航」の映画化作品を先に観てから、その後で原作の小説を読んでみました。 そのことにより、映画と原作の小説について、いろいろと面白いことに気がつきました。  ルイス・ジョン・カルリーノ監督の「午後の曳航」は、映画それ自体としての出来栄えは、かなり良い作品だと思いました。 英国のデヴォンの港をメインにした撮影がとても美しく、雄大な海や白い崖と緑の野、そして落ち着いた古風な港町。  そして、それらとは対照的な少年たちの反抗的な行動、満たされない未亡人の生活、彼女と一人息子の生活の中に、不意に飛び込んできた海の男によって惑乱された母と子の関係、そして最後には少年たちによって、憧れの人から普通の人になり下がった海の男は処刑される-----。  このストーリーは、一歩間違えば、ひと昔前の港町を舞台にしたメロドラマになりかねないのですが、それを救ったのが、ごく控え目な、激しさを抑制したルイス・ジョン・カルリーノ監督の演出と、美しい自然の悪魔祓いにも似た作用だったと思います。  そして、海の男の英雄ぶりの失墜に対する少年たちの断罪こそ、原作者・三島由紀夫の観念に実に忠実なのですが、映画の表現としては、カルリーノ監督独自の解釈が表われていたのではないかと思います。  カルリーノ監督が、三島文学の愛好者であり理解者であることは、映画の中のいたるところによく表われていましたが、映画作家としての彼は、三島に忠実である以上に自分自身に忠実であったからこそ、そういう結果を生んだのだと思います。  それから、私は三島由紀夫の原作を読んで、やはり三島文学の忠実な映画化は、もともと無理だったのだということをつくづく感じました。 少年たちの秘密結社の行動は、確かに三島の小説の核心をなしているとは思いますが、それを三島の非現実的な理想主義的観念論で押し通すことは、はなから映画では浮き上がる恐れがある以上、これは、過去の例で言えば、リンゼイ・アンダーソン監督の「もしも---」に似た感じになるのも当然だったのではないかと思います。  海の男の凡俗化、堕落を処罰するという完全主義は、三島文学の信奉者でないかぎり、観る人を納得させることは難しいのではないかと思います。 むしろ、嫉妬からだと見るほうが、わかりがいいように思います。  いずれにしろ、三島の原作は派手な言葉の洪水に満ちています。絢爛という言葉が、まさにふさわしい小説なのです。 映画では、これはバッサリ切らなければなりませんが、切っただけでは通俗的なロマンスものになってしまいます。 映画は映画で独自の工夫というものをしなければなりません。  この点、脚色もしているカルリーノ監督は、なかなか巧みにアレンジしていると思います。 言葉と同じ価値のものは、あっさりと捨て去り、彼はそこに視覚的な世界を繰り広げてみせたのです。  彼も、三島の凝りに凝ったディテール描写の魔術をよく理解していたに違いないし、それを映画でも尊重していますが、もともと映画はそれを時間をかけずに一挙に映し出す特性を持っている以上、時間をかける三島の筆致を映画で踏襲することは、初めから無理なのだと思います。  そのため、カルリーノ監督はそういうことよりも、かなり質は違っても、街の風景や港の光景、特に海の景観の描写に重きを置いたのだと思います。 したがって、ここには、刺戟の強い三島の描写とは別の静かな情感にあふれた光景が表われている。  これが、原作に忠実な映画化かどうかには疑念があるかも知れませんが、少なくとも原作に忠実な映画作家の、映画に忠実な映画化であることは確かであると思います。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-03-11 14:47:27)
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