1. 稲妻(1952)
私的に1・2を争う傑作。 もう皆様が書かれているのですが、成瀬真骨頂といえる題材、動いてなさそうでアクション映画より動いているかのようなカットの素晴らしさ(本当に素晴らしい編集ばかり!!!)。 監督の遊び心かのようなシーンが好きで、川島雄三に小沢昭一が居るように、成瀬巳喜男には中北千枝子が居る。三浦光子と高峰秀子が談笑している軒の外に、赤ん坊をおんぶし、軒を行ったり来たりしている中北千枝子が小さく写っています。寅さんの登場シーンのようで笑ってしまいましたし、中北千枝子の家から帰る高峰・三浦の二人が橋の上で会話するのだが、その後方にある家の二階の窓からしっかり中北千枝子が覗き見していた。 その他にも、今では貴重である銀座の「柳」も観れますし、コミカルなカットから深刻なシーンにおいても様々な技を堪能できる作品でもあります。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-23 23:56:02)(良:1票) |
2. 鰯雲
成瀬監督の演出に精彩を欠くといった印象もあるんですが、何より、この題材は素晴らしい。昔ながらの封建的ともいえる掟に従い頑なに守ってきた地主が、戦後の農地改革によって変貌していく、いかざろう得ない。 家長の葛藤、対する各人の意思を尊重すべし子供達との対立がスクリーンから静かに感じられる。脚本・原作がとても素晴らしい。成瀬独特の<背景⇒人⇒台詞>の流れるカットは狭い日本家屋において絶大なる効果を発揮するが、広い民家が舞台ではどうか。 そのせいか、かなり淡々と演出が続く。 それでも、家長である中村鴈治郎の頑固ぶりにはじめは「敵・反体制」のようなイメージを持ってしまうが、次第に、まさに「鰯雲」のような寂しさのようなものを植えつけさせられた(ワイドカラーでの鰯雲はとても素晴らしい)。 そもそも、あまり自分から動かして作るといった印象のない成瀬監督の演出を考えると、やはり巧いんだなあと思った。 この情感は、これまでの成瀬作品では表現でき得なかった物だと思う。 [映画館(邦画)] 7点(2008-09-23 23:08:21) |
3. 家光と彦左と一心太助
これは喜劇として傑作に入ると思うので、私も乗っからせてもらいます。神保町で今、「時代劇特集」をやっていて、今週「中村錦之助小特集」として、「関の弥太っぺ」、「沓掛時次郎」「武士道残酷物語」「真田風雲録」「反逆児」「殿さま弥次喜多」と本作を上映していて、未見作品3作品を観たんですが、この作品が一番好きです。 「ズレ」を交換に使った見事な脚本。「小国英雄流石にやっぱ巧いなあ」と序盤感じた。だって、将軍・家光と江戸の魚屋・一心太助を交換するのだから面白くないわけがない。でも、それ以上に錦之助の演技の幅に感心。「将軍の威厳」と「魚屋のキップの良さ」を見事に演じきっていて、とにかく笑いの連続でした。 あと、進藤英太郎・中川怪奇モノの常連・北沢典子、あと、家光を補佐する役目で一緒に魚屋にいった柳生十兵衛・平幹二朗がストイックながらも時折見せるお茶目さが最高だ。 「くるしゅうない!すておけ!!」の錦之助には特に笑ってしまった。あの陽気さに当時天国に居た山中貞雄や伊丹万作が手を叩きながら笑っていたに違いない。 演出も冴え渡り、江戸の城のよりどっしりとした陰湿な官僚的な世界と魚市場のあの活気あふれる(動きの多さ・早さ)の対比が素晴らしい。魚市場での人の多さとスピード感は川島雄三も唸ったはずだ。 と堅い感想はさておき、多くの人が楽しむ「娯楽時代劇」としては最高峰に入るかと思います。 とにかく観てください(笑) [映画館(邦画)] 9点(2008-04-01 17:32:18)(良:1票) |
4. 異常性愛記録 ハレンチ
《ネタバレ》 私が席を立って笑った顔で映画館を出たというのは、この作品のほかあまり記憶にない。 若杉英二の「だって愛しているんだもん」のキモ顔と、吉田輝雄のあり得ない「ダンディズム」の両極端な人にくっついてしまう橘ますみが一番、変態なんではないかと思ってしまった。最後、この二人の男が対峙する場面で、橘ますみが「ハレンチよ!」と瞬間、この作品が名作へと昇華したような気がする。最後、雷鳴と共に爆笑の渦となりました。素晴らしい! [映画館(邦画)] 8点(2007-10-11 10:22:19)(笑:1票) |
5. 石中先生行状記(1950)
青森、岩木山の麓弘前を舞台に、原作者(石中先生)が見聞したエピソードを綴る三話からなるオムニバス映画。成瀬監督にしては(失礼?)、肩の力を抜いて観れて、かつ、ユーモアと田舎の純粋さ暖かさをも丁寧に演出しています。特に第二話と第三話が素晴らしくて、第三話の若山セツ子の清廉で明るい女性がよいし、髪の毛をぴたっとポマードで押さえつけた三船敏郎には爆笑させていただきました。青森(私の故郷であります)に、本当に居そうな「しゃべるのが苦手なシャイで暖かい青年」でしたね。実際、三船さんってああいうタイプの人じゃないかなとも思った。田園風景をバックに若山と三船、そして村の人間との面白い交流は暖まります。観終わった後、とても清々しい気分に。 [映画館(邦画)] 7点(2007-08-14 17:04:28)(良:1票) |