1. ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part 2 ルージュ編
《ネタバレ》 怒涛の展開だったPart1に比べると、さすがに少々ダレます。まあ2本続けて観るには、このくらいの方がいいのか。しかし作品としてはともかく、本人のやってることは相変わらず滅茶苦茶なわけです。脱獄、強盗、誘拐の末に行きついた先は、ジャーナリストの惨殺。民衆が彼に共感したのは、本人の意図かどうかはともかくとして、国家や社会が抱える矛盾を、その類まれなる行動力で明らかにしたからではないかと思う。まあそういう時代でもあったし。しかし結局つまらない自己顕示欲によって、身を滅ぼす結果となったわけだ。犯罪者の末路とは概してこういうものなのだろう。女の子を殺して逃げ回ってる、不細工な小男とは大分格が違うけど。「バーダー・マインホフ」と双子の作品という感じがするのだが、世間の関心はやっぱり「パブリック・エネミー」のようだ。そっち経由で観てくれる人が増えると嬉しいですね。欧州女優の綺麗さも共通している。特にシルヴィアのギャルっぷりが最高です。「私の犬が」って、耳を疑いました。素晴らしい。 [映画館(字幕)] 8点(2009-12-11 01:26:29) |
2. ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part 1 ノワール編
《ネタバレ》 ジャック・メスリーヌ。フランスでは有名らしいが、私はゴルゴ13で名前だけ知っている程度でした。本作は実にハードでガッツのあるクライム・ノワールであり、アルジェリアの亡霊に苛まれ、革命思想が吹き荒れた70年代のフランスを描いた社会派映画でもある。OASはフレデリック・フォーサイス原作「ジャッカルの日」でも有名ですが、同時代を描いている。戦時中の残虐行為が、彼をあらぬ方向へ導いたと示唆されているわけだが、ここまで凄まじい暴走ぶりだと、動機も心理も全く理解の範疇を越えている。劇中でも、裕福な家庭に育ち、威厳のない父親というところまでは描写されているのだが、果たしてそれだけで、どうしてああいう人間が出来上がるものか、どうにもわからない。この辺はボニー&クライドでも、誰でも似たようなものなのだが。暴走と言えば、カッセルがブルース・スプリングスティーンに見えて、気になって仕方がなかった。あとたまにジョン・レノン。あれは意識しているのか。刑務所襲撃のカオスっぷりが最高。ジェラール・ドパルディって、パンフ見るまでわからなかったな。バイオレンスのカタルシス。 [映画館(字幕)] 9点(2009-12-11 01:24:46) |
3. 死の標的
実にオーソドックスなB級セガールアクションです。セガールがまだ若くてスリムで、アクションも冴えてます。表情一つ変えずに、一回りも小さいジャマイカ人ギャングどもをバタバタと投げ飛ばし、ポキポキと腕を折り、プスプスとスナイプし、最後は華麗な剣技を披露しています。懺悔までして刑事辞めたっつーのに、いくら何でもそりゃヤバイだろうというくらいの大虐殺。セガール最高です。初期の傑作。 [地上波(吹替)] 8点(2006-05-20 00:05:23) |
4. シリアナ
《ネタバレ》 ストーリーも演出も、石油版「トラフィック」という感じである。最近はノンフィクションばかり観ており、本作もノンフィクションだと思い込んでいたのだが、基本的にはフィクションらしい。このテの話は好きなので、結構面白かった。同時進行するストーリーが収束していく複雑な脚本はなかなかお見事である。とは言え、アメリカ製の武器がテロリストの手に渡ったり、ダミーの政治団体が利用されたり、友好国の王子を暗殺したりと、いかにもありそうな話ばかりで、ショッキングな事実は特に出てこない。何せドキュメンタリーというか、リアリティタッチの演出脚本ゆえに、普通なら何らかの手段でわかりやすく説明すべき点も、あえて婉曲にほのめかすだけだったりする。実はいまだによくわからない部分がある。それでも実際に映像で見せられると、ショック以上に何とも言えない不気味さを感じる。ソダーバーグお得意の「自然な」演技の俳優陣を、ブレブレのハンディカメラで追い回す演出が余計に不安感を煽るのであろう。ドキュメンタリーですらなく、神の視点というべきか、その場で事実をそのまま見ているような気分になる。表情一つ変えずに、暗殺だの陰謀の話をするCIA、特に美人の女性幹部が怖い(実はちょっと好み)。弁護士の父親の存在が印象的だ。我々も陰謀とは無関係ではない、ということだろうか。複数のストーリーの中でも、失業した出稼ぎ労働者の青年がテロへと至る過程が秀逸。そしてその彼らの武器はクルーニー様が流出させたミサイルで、そのクルーニー様を殺したのは、テロの標的となった石油会社と政府の陰謀である。結局金持ち同士で陰謀をめぐらし、貧しい者たちを搾取するという構図に、アラブもアメリカも関係ないのかもしれない。確かに問題作ではあるが、良くも悪くもスマートなのはさすがソダーバーグ一派である。 [映画館(字幕)] 9点(2006-03-20 03:30:04) |
5. ジャーヘッド
《ネタバレ》 「フルメタル・ジャケット」へのオマージュから始まり、「トレイン・スポッティング」のような鬱屈した青春群像劇を経て、「プラトーン」的な戦場リアリズムで終わる。しかし「プラトーン」とは違い、イラク軍との戦闘シーンがほぼ皆無なのが面白い。訓練で殺人マシーンへと変貌する主人公。しかし戦場に来ても戦闘はなく、毎日訓練に明け暮れ、フラストレーションを発散するためにバカ騒ぎして、国の女には振られ、下ネタにオナニーと、体育会系のバカぶりと現代の若者たちのダメぶりが最高に笑える。戦争とは関係ないところで凶行に走るのがまた可笑しい。そしてやっと戦闘が始まり、狙撃兵の主人公に命令が下ったと思いきや、思いがけない結末が・・・。ストーリーは盛り上がるところであえて外しており、乾いたユーモアがさらに虚脱感を煽る。油田が燃え盛り、黒い雨が降るシーンは圧巻である。「僕たちはまだ砂漠にいる」のセリフが印象的だ。戦争自体が虚しいのか、時代が悪いのか、よくわからなくなってくる。当時のヒット曲満載で、特にパブリック・エナミーの「Fight the power」がいい。グダグダな戦争とグダグダな青春を描いた、ダルなリアリズム戦争映画。 [映画館(字幕)] 10点(2006-02-18 16:50:23) |
6. シベリア超特急
常人の想像力を遥かに凌駕した、壮絶な超脚本。通常の撮影技術のセオリーを根底から覆す超演出。そしてこれまでの演技の概念に新たな可能性を切り開くスーパー天然ナチュラルな超演技。トリックは超複雑で超アメージングだ。手に汗握るスリリングな展開は全く予測不能で、ほんの一瞬たりとも目が離せない。メッセージはあくまで力強く、戦争の惨禍に翻弄される人々の悲劇を余すところなく描ききり、観る者の心をぐらぐらと揺さぶる。「だましたのではない。心に呼びかけたのだ」これほど心を動かされ、そして考えさせられる映画が今までにあったであろうか。まさに映画の枠をはみ出した超映画。存在そのものがセンセーション。我々のちっぽけな常識など、天才ハリーの前では粉々に打ち砕かれてしまう。「シベリア超特急」により、水野晴郎の名は世界の映画史上に永遠に刻み付けられることであろう。ある意味。・・・・・。冗談はさておき、1時間半結構飽きずに見てしまった。30分で観る気が失せるような、本当に真面目なダメ映画もたくさんあるのだが、本作は違う。しかし私が観たのは深夜テレビであった。映画館に足を運んだ人は本当に尊敬する。映画館で映画を観るという行為自体がこれほどスリリングで、ある種の勇気を必要とするということはとても凄いことだ。従来の映画の概念を変えてしまったといえるかもしれない。もしかして水野は本当に天才なのだろうか。というわけで点数は1点。 [地上波(字幕)] 1点(2005-08-09 00:36:08)(良:3票) |
7. シルヴィア
シルヴィア・プラスは20世紀を代表する女流詩人である。作風は椎名林檎や鬼塚ちひろに似ており(かなり語弊があるか?)、また人生は金子みすゞや高村光太郎と千恵子の関係を髣髴とさせる。本作では彼女の主な詩を適度にちりばめつつも、あくまで主眼は彼女自身の人生に向けられ、テッド・ヒューズとの出会いから結婚、出産、破綻、死までをどちらかといえば淡々と客観的に描いている。演出は細部まで気が利いている。新婚時に彼女が山のように焼くパイは、彼女が自殺に使用したガスオーブンを連想させる。ボートで遭難しかけるシーンの海のうねりは印象的だ。その後の波乱の人生を象徴するように観る者の不安感を煽る。テッドの強力な才能によって彼女は、詩人と女性との間で引き裂かれた。人並みの幸福と創作は両立しないのだろうか。しかしそのおかげで我々は現在彼女の素晴らしい作品群に触れることができる。結局幼い頃に父親を亡くして父性愛に餓えていただけなのだ。それが死後にフェミニズムのイコンとして祀り上げられたのは皮肉な話ではある。同じくイギリス映画の「アイリス」と見比べるのも一興かもしれない。興味のある方はどうぞ。 9点(2005-02-25 13:24:47) |