1. ソーシャル・ネットワーク
《ネタバレ》 ガールフレンドとの噛み合わない会話で主人公の人となりを如実に示す導入が見事だ。主人公マーク・ザッカーバーグが如何に傲慢なティーンエイジャーであるか、そして自らのその傲慢さに如何に無自覚であるか、さらには彼が如何にコミュニケーション能力の欠落した孤独な嫌われ者であるかを、監督デイヴィッド・フィンチャーは、一見他愛のない冒頭の数分間だけで強烈に印象づける。ボストン大の学生なら時間を惜しんでまで勉強する必要もないだろうと悪気なく言う彼が、一目散に走り戻る名門ハーバード大の学生寮。フラれた腹いせにガールフレンドの中傷をブログに書き込むマークは、それが恥ずべき卑劣な行為であるなどとは夢にも思わない。自分を必要としない凡庸な人間への怒りと渇望、それこそが彼の持ちうるただ一つのコミュニケーション手段だからだ。悪趣味な女子学生の品評サイトも、それに続くSNSの立ち上げも、マークのそうした幼い承認欲求に基づく産物であるという意味では、本質は同じだ。欲求をあからさまにむきだしたブログや品評サイトは反発を食らい、欲求を包み隠したスマートなFacebookは万人に受け入れられた、両者の差違はただそれだけでしかない。彼の思惑どおり、驚異的なスピードで膨れ上がっていくFacebook。だがフィンチャーがここで真に見据え、そして描くのは、この若き天才青年によるサクセスストーリーの、奇型的なその裏側である。Facebookの爆発的成功とはうらはらに止めどなく空洞を拡げていくマークの青春と、その失敗。彼の不遜なまでの優越感と一方でその内に巣喰う巨大な劣等感は、まさに青春映画の構図そのものだ。 ウィンクルボス兄弟のようにボート部のエースとして活躍すること、あるいはエドゥアルドのように名門クラブから招待を受けること、そんなちっぽけな権威や名誉は、史上最年少で億万長者になったマークの成功に比べれば子どもだましな玩具のようなものだ。しかし誰もが羨む成功を手にしたこの孤独な天才が心の底で本当の本当に望んでいたのは、その玩具の方だったのかもしれない。ラスト、はじめて自分から痛切に友だちを求め「更新」キーをクリックし続けるマーク。皮肉たっぷりなビートルズのBaby You're a Rich Manが、負け犬の栄光と挫折を辛辣に祝福する。祈るように彼が見つめるモニターは、そして彼が見つめるその世界は、いつか更新されるだろうか。 [映画館(字幕)] 7点(2011-01-18 17:33:04)(良:5票) |