2. タクシードライバー(1976)
《ネタバレ》 上映されて30数年、今でも色褪せない名作だと思った。現代にも通ずる人間の心情を抉り出している。26歳のトラヴィス。タクシードライバーをやっているが、自分は社会や人間にもっと認められてもいい人間だと感じている。若い男なら誰でも抱くであろう自己顕示欲と焦燥感と孤独。『オレは、このまま人生を終わるような人間じゃないんだ。今に見ていろゴミどもめ』という感情がひしひしと伝わってくる。孤独は、自分の内面に向かう刃である。だが彼には、それを癒してくれる友達も、女性もいない。決して消極的ではないし根暗でもないのだが、人との付き合いが不器用であるが故に、孤独は癒されない。いつもから周り。そんな彼は、タクシーで街を走らせ、腐敗しきった社会の闇を覗く。女性にもフラレる。NY夜の闇に溶け込むにつれ、次第に彼の孤独は、外面に向かう刃へと変わっていく。銃を手にすることで自己有能感が姿を現し、身体を鍛えることでナルシズム的な陶酔を味わう。自分が認められないのは、社会が悪いせいであり、他人が悪いせいであると思い込む。彼は、不満や焦燥の本当の原因に気づいていない。それは、心の奥底で自分で自分が嫌いという感情から発せられるものである。何とも暗澹たる気持ちになる。 鏡のシーンは歴史に残る素晴らしいシーンだと思う。鏡は、主観的視点を客観的視点にする特徴的なものであるし、自分というものを認識するのには重要なものだと思うからだ。彼が内省もせずに自己正当化とナルシズムに浸ってるのは、滑稽であり、同時に観る者の心を抉る。それでいて、映像的にかっこよすぎるのだから始末が悪い。 彼が起こした事件は、現代でも世間を賑わしている無差別大量殺傷事件などの容疑者の心情と大して変わらないだろう。この映画は犯罪の動機付けに正義(見せ掛けの)を仕込むことによって、彼を英雄化する。英雄になった彼は、最後、一度振られた女性の優位に立つことで自己満足に浸る。スコセッシは最後のシーンで強烈な皮肉で彼を突き放し、タクシーから見た風景は、孤独なニューヨークの闇に溶けていく。全編に渡りダウナーで娯楽映画では全くないのだが、余韻を強烈に残す作品だった。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2009-06-24 14:26:14)(良:4票) |