1. 東京兄妹
《ネタバレ》 切ない。画もきれい。音楽もよい。でもなんだこのシュチュエーションは。「みゆき」のような展開をみせるのか、はたまた別の展開が用意されているのか期待してみていたが、ほとんど何も起こらなかった。生活感を出すためなのはわかるが、冒頭の無意味な妹の入浴シーンや緒方直人があの童顔で、ちゃぶ台の上の冷奴を瓶ビール片手につっついたりするもんだから余計に違和感が出る。若くして両親をなくした兄妹という設定はいいんだけど、昭和30年代の年季の入った夫婦のような佇まいはどうも馴染まない。その上、兄を想う特別な理由でもあるような献身的な妹がある日、男の元へ出てゆくのも解せない。行って戻ってでは市川監督らしくない。結婚を先延ばしにする兄への想い的なものがほしかった。ただ妹の心象変化として喫茶店でのシーンなどはうまさが光る。背筋をピンと伸ばした硬い姿勢から、ある時フッと背筋を崩す描写などは見事。細かいところでは市川監督らしさが覗えるのだが、ラストの展開といい、どうも腑に落ちないところも多い。話としては散漫とした印象は拭えません。やっぱり設定に無理があったのかな・・。情緒のある美しい画はまちがいないのだが。 [ビデオ(邦画)] 6点(2008-04-12 01:09:24) |
2. トキワ荘の青春
《ネタバレ》 原案は読んでませんが、寺田ヒロオを中心に据えたのは市川監督らしいですね。そうすることでトキワ荘での劇的な変遷も、創明期の若い漫画家たちの同志的な繋がりもよく表現されていたと思います。そう手塚治虫が寺さんを晩飯に誘うプロローグ的なエピソードからトキワ荘の性格を形付け、それから始まる青春群像へすんなり誘ってくれます。出前に来た店員だけに演技させた描写も素晴らしく、優れた小説の情景描写のように全てを静かに物語れるカメラワークは秀逸です。人間模様もうまく表現されていて、成功と挫折だけではない尊厳までもしっかりと描かれています。自分の世界を確立していても時代に取り残されるように、漫画のもつ無限の可能性と子供の娯楽といった要素との葛藤も寺さんを透して見事に表現されています。様々なジャンルがある現在ならば、寺さんの作品にも居場所があったのではないでしょうか。ラストの後輩たちからの相撲の誘い。トキワ荘の軒先から通りまでを捉え続けたアングルの中で一心に相撲をとり続ける寺さんの汗と涙がとても良かった。静けさの中、丁寧に散りばめられたエピソード一つ一つとそれらを優しく包みこむ素晴らしい選曲も心に沁みました。唯一、サントラもDVDも発売されていないのが悔やまれます。 [ビデオ(邦画)] 9点(2008-03-22 18:24:59) |
3. 東京マリーゴールド
《ネタバレ》 雨のおかげで扇風機もいらぬ程、めっきり涼しくなった日曜日の午後に鑑賞。最近になって市川作品にはまったおかげで、タイトルの語感は好きだったもののアイドル映画と思い込んでいた本作を手に取ることとなった。敬遠していた自分が悔しくなるほど言葉では語り尽くせない切なく美しい画が続いてゆく。話の流れはゆったりとし、登場人物も台詞の数もとても少ないのだけれど、ちょっとした仕草や表情、背景で言葉より饒舌に表現してゆく。深い青に包まれながら握り合う手。駅に向かう陸橋。一度だけある階段でのキスシーン。徐々に変わる気持ちの移ろいまでも映像で見せる。その映像表現ゆえ、不器用で真面目すぎる二人ゆえに最後で別れを拒むエリコと鼈甲飴を握り締め一人咽ぶ田村の気持ちの解放が際立つ。ただ少し気になったのは、バスの中での偶然すぎる出会い。話の展開自体はいいのだけれど、他にも表現方法があったのではないだろうか。でもそれも些細なこと。名作には違いない。 [DVD(邦画)] 10点(2007-07-02 23:34:06) |
4. 東京夜曲
蒸し暑さの和らいだ夜更けに網戸越しに聞こえる蛙の合唱をBGMに鑑賞した。退屈さを遥か通り越して、最高に心地良かった。もうここまでくるとストーリーはいらない。どのシーンの画も惚れ惚れするほどに美しい。その辺にあるような街角や店先を撮ってはいるのだけれど、構図の取り方に悉く唸らされる。それは溝口健二監督を想い出すほどですが、それ以上に市川監督の作品は光の使われ方が印象に残ります。芸術の域だと感じました。それにしても良い晩に見ることができて良かったです。 [DVD(邦画)] 9点(2007-07-01 01:38:56) |
5. 東京物語
尾道から東京までの長い旅路。容赦ない夏の暑さ。息の詰まるような東京の町。着物の重苦しさ。履物の不安定さ。気を使う息子たちの家。これでは気の休まる暇も無い。唯一、親身になってくれる紀子だけが救いである。遠くの親戚より近くの他人と言うが、本作は遠くの親戚より遠くの他人(他人ではないが)といったところか。たしかに世間では相続争いや兄弟喧嘩、果ては更に悲惨なことまで毎日のように起こっている。本作にも「それを思えばまだ幸せだ」というセリフがあるが、そうであったとしても老夫婦には心身ともにつらい旅となった。そういった老夫婦の寂しい話ではあるけれども作品としてはとてもよかった。朴訥としながらも品のある老人を演じた笠智衆を筆頭に美しいとは思わないが気品溢れる原節子の優しい眼差しにも心が洗われた。そして尾道の美しい風景や東京の復興目覚しい街並といった背景も印象的で、穏やかな情感ある音楽も作品の雰囲気に合っていたと思う。傑作であると素直に感じられた。本作が上映された1953年というと「雨月物語」といった後世に名を残す名作が封切られた稀有な年でもあり、更にこの50年代は両監督にとっても日本映画界にとっても黄金時代にあたるのだなと改めて感じた次第です。 [DVD(邦画)] 9点(2007-05-11 23:19:58)(良:1票) |
6. 時をかける少女(2006)
エフェクトっぽい展開かなとも思ったけど、ちと違ったみたい。入道雲と蝉の声が響く夏の高校生活という、もってこいの背景は好きだけど携帯の無い時代を過ごした僕にとっては少々ズレを感じてしまった。ふと深夜にでも見れば良かったかも。でもやっぱり夏はいい。 [DVD(邦画)] 6点(2007-04-23 02:59:13) |
7. どですかでん
いつものように勤務を終え、ガラス戸越しに帽子を置く六ちゃんが一番まともに思えた。 [DVD(邦画)] 9点(2007-02-27 02:13:53) |
8. トニー滝谷
とても静かな作品。抑揚は無いがシーンの切り替えはリズムがよく、短い時間も好感がもてる。イッセー尾形と宮沢りえは2人とも好きな俳優なのでよかったのかもしれない。まるで空に浮いているかのように美しい映像。坂を駆け上がってくる宮沢りえが印象的。秀作。 [DVD(邦画)] 8点(2007-02-01 01:11:44) |