1. エースの中のエース
《ネタバレ》 ベルモンドのアクションコメディーはどれもそうなんだけど、アクションの本気度がハンパない。 冒頭の戦闘機のバトルで、ウイングが撃ち落されたまま飛ぶのは、まぁ何とか編集で誤魔化せる(いざとなれば脱出できる)としても、前のプロペラに網を被せられた状態のまま着陸というのが凄いと思いますが、どうでしょう。 ストーリーとしてはナチスドイツ全盛期に開催されるベルリンオリンピックに出場するフランスボクシング選手団の話から、映画後半は「サウンド・オブ・ミュージック」を彷彿とさせる亡命物語に移行していきます。 序盤で、ゲシュタポに追われるベルモンドが群衆の中に姿をくらますと、なんとタイミング良く聖火リレーの真っ最中(笑) 聖火ランナーで走るベルモンドには下着姿でスタンバっている所から既に面白かったですし、聖火でタバコに火をつけて去っていくのも笑えます(何という冒涜!)。 映画中盤、決勝戦の前日にもかかわらず飛行機を飛ばしてパラシュートで少年を迎えに行くシークエンスはこの映画一番のハイライトですが、個人的には小熊を後部座席に乗せたまま検問を突破するシーンからチロル地方の広大な山並みを背景にしたカーアクションもなかなか甲乙付け難いほどの好きなシーンです。 このシーンの撮影にあたり、子供にハンドルを握るのを許可したオーストリアも寛大ですし、パラシュートをかぶったまま道を外れて木々に突っ込むスタントマンらの本気度もさすがといった感じです。 ヒットラー役を演じた役者さんが義姉も演じていたりして、いろいろと楽しい映画でした。 [映画館(字幕)] 7点(2021-06-09 17:53:33) |
2. 英国王のスピーチ
《ネタバレ》 この映画はレビューするのに困る。なぜなら、自分も吃音者だから。 自分の場合ですと、やはり英国王同様、家族や親しい友人などに対しては吃音が出にくくなる場合が多いため、そういった身近な人ほどなかなか自分が吃音持ちだという事をわかってくれず、他所でどもると、「単に緊張しているだけだからそのうち慣れる」「場数を踏めば大丈夫」などというトンチンカンな指南を受けるのがオチ。 難病でもなければ障害でもないこの吃音という症状が世に広く認知されるのは喜ばしい事ではあるものの、「吃音?」「じゃあ、英国王みたいに練習で治るでしょ」と、軽く考えられるのも困るわけで、そもそも、最後のスピーチを立派にやり遂げたように描かれていましたが、あれは対処療法的にその場を凌いだに過ぎず、根本から克服したと勘違いされてしまうのは吃音者である我々としては何とも微妙な所なのであります。 さて、ここからは映画のレビュー。 一番気になったのが、人物を画面の中心からずらした構図が多用されていた事なのですが、ただ単に中央に配置しないだけならまだしも、本当に画面の隅っこ1/4くらいの場所に人物を配置していたりといった極端な構図が多かったということ。 それと、どのシーンにおいても(特に療養所のシーン)画面が暗いことが多く、人物を正面からクローズアップで捉えたショットなど、ここぞという場面であっても顔に当たる光が弱いため、あまり上手くはないなぁと感じました。 ストーリーに関しては、英国王が医者と公園を歩いていたシーンで、口論になって別れた際、煙草に火をつけるというアクションが仲違いを象徴するするように機能していたのが良かったというのと、冒頭とラストでスピーチする時の独特のハラハラ感などは他の映画では味わったことのないような独特の感覚があったりして、自分にとってはいろいろとレビューが難しい映画でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-06-01 15:20:36)(良:1票) |
3. 駅馬車(1939)
《ネタバレ》 西部劇の金字塔と名高いこの映画。クラシック映画に興味を持った者なら一度は目にするこの「駅馬車」という映画は、ジョン・フォードという名前同様に崇高なイメージを抱いていたのですが、馬車を走らせながらのインディアンとの対決がメインだと思って期待して観ると、意外にも人間ドラマの方に多くの時間が費やされていて、完全に読みを誤ったというか何というか、要らぬ予備知識というのは邪魔にしかならないという事を再確認させられた映画でした。 この意外と重要な(失礼!)馬車の中の群像劇ですが、先に書いた通り、あまり面白いとは思えず、やや冗長に感じてしまったり、ローズバーグに辿り着いた後も一気に畳み掛けるようにエンディングに向かってくれれば良かったのですが、少しダラダラした感じに思えてしまい、最後に保安官が見せた粋な計らいも余り心に響くものはなかったです。 ジェロニモとの対決は、それまでに彼らの描写が皆無だっただけに、追われているからただ戦うというだけで、どうも安っぽさが出てしまうシーンのようになってしまいがちですが、そこは流石ジョン・フォードというべきか、片側の視点のみで撮ってもあのような素晴らしいシーンが出来てしまう。移動撮影による馬の躍動感や疾走感と地面からのフィックスによる蹄の迫力、馬に飛び乗るスタント、銃撃戦の絶妙のカッティングなどは、もはや芸術の域でしょう。 人間ドラマにはさほど魅力を感じなかったと書きましたが、ジェロニモに襲われている時に馬車の中で赤子を抱きしめるヒロインには、何かここだけはグッと来るものを感じました。 [映画館(字幕)] 7点(2011-12-24 01:07:56) |
4. 悦楽共犯者
《ネタバレ》 主ヴぁん九枚得る(直接変換したらこんなん出た)じゃなかった、シュヴァンクマイエルの作品は「アリス」に続いて2作目なのですが、まぁ~何と言うか、食べ物を不味く撮る天才だなと。頭の中を見てみたい。どんな環境に身を置き、どんなものにインスパイアされると、ああいう発想が生まれるんだろう?? さて、この映画はアレですよ。意識下にしろそうでないにしろ、人間誰でも行う心地良いと感じる行動を比喩的に表現した映画なんじゃないかというのが私の見解です。 例えて言うなら、映画を観てレビューをするという我々の行為は、それをしている自分たちにしてみれば楽しさを追求したり見聞を広めるとかストレスの解消だったりと、なんだかんだで好きでやっていることだと思いますが、一転、その行為を赤の他人が見ると、釘を打ち付けた棒を体じゅうに転がして悦に浸っているオッサンと何ら違いはないように見えているかもしれません。 ところで、「アリス」を観た時も思いましたが、パペットの動きが凄くスムーズで、カットが切り替わる前後に違和感がほとんど感じられず、非常に丁寧につないでいる印象を本作でも感じました。 画面の中の女子アナに夢中になっている時のロボットの手の動きなんかも、凄く丁寧でリアルに動かしているなと思ったら、男の後頭部をまさぐる時の手は・・・あれは本物ですね。 [映画館(字幕)] 6点(2011-09-11 13:47:48) |
5. エリン・ブロコビッチ
《ネタバレ》 主人公のキャラクター設定が普通すぎて、抜きん出た魅力らしい魅力もないごく一般的なヒーロー像(・・・じゃなくって、ヒロイン像)だったように思えます。 ジュリア扮するエリン・ブロコビッチは、大胆で細かいことなんぞ気にも留めない型破りで破天荒な性格。学もなければTPOもわきまえないような礼儀知らずなところもあるけれど、自分の信じた道をとことん貫く意志の強い持ち主で、まさに“大物”という言葉がピッタリな人物像。おまけに、ふとしたことでホロッと涙を流してしまうような弱い一面も兼ね備えていたりして、見る側の共感を得たりもする。 要するに、教科書通りのごくありきたりな主役という感じで、人物に深みのない非常に描きやすいキャラクター設定だなと思いました。 ストーリーもまた、1人の女性のサクセスストーリーというのは別に構わないのですが、実話を元に作ったところに甘んじている部分が感じられます。 例えば、水道調査の書類を自由に閲覧してコピーできるところなんか、もしフィクションだとしたら、ありえね~!となって一気に評価が下がりそうなところ、実話と言われてしまえば、観ている方としては噴出寸前だった不満を引っ込めるしかなく「これは実話なのだから仕方ないブツブツ・・・」と無理矢理自分をなだめるハメになってしまい(笑)、何とも情けない気持ちになってしまう。 また、最後にエリンが200万ドルの報酬を貰うシーンも、その直前にエドがニヤッと笑っているカットが挿入されているせいで、エリンと同じ驚きを共有できなくなってしまい、下手糞な演出だなぁと思ったりと、いろいろな部分でダメな映画でした。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2011-02-19 23:24:33) |
6. エル・スール
《ネタバレ》 この監督の作品は「みつばち~」とこれだけしか観てないのですが、幼少の頃の記憶とかを凄く大切にする監督なんですかね? 小さい頃の視点ってとても素直で純粋で、それだけでもう、ひとつの芸術として成り立ってしまうような感じ。 また「みつばち~」同様、周りの大人たちも子供を相手にしているだけあって、凄くシンプルで愛情溢れるような語り口なものだから、観ているこっちまで不思議と幼少の頃に戻ったかのような気持ちになってしまいます。 映画を観終えてから、自分が小さい頃、親父ってどんな存在だっただろうかと考えてみると、まぁ、息子と娘とでは父親に対して持つ感情は違うだろうけど、中学生の頃までは少なくともエストレリャのように、父親としてどう思うかの他に1人の人間としてどんな過去・恋愛遍歴を辿ってきたかとかいうことに関して興味が向いたことは一切なかったと思う。 現実の世界で実際にどこかで聞いた話だが、いきなり風呂に入って来た親父に驚いて慌てて逃げるようにして風呂から上がったその数日後に、その親父が自殺してしまったという話があるように、フランス語の授業サボれないかと聞いてきた父親に一瞬ゾッとしてしまい、独りになった父親が凄く小さくて寂しそうだったのがとても印象に残った。 最後は尻切れトンボで凄く残念。ロードムービー好きの自分としてはかなり不満な印象。しかも、自分のための旅ではなく、父親のルーツを探る旅というのが何かいい。映画のストーリーとして聞いただけで胸が高鳴りそうなテーマなだけに非常に惜しい感じがしました。 [映画館(字幕)] 6点(2009-12-25 01:20:46) |
7. エンジェル(2007)
《ネタバレ》 この人はイギリスをどのように思っているのだろう。 オゾンはこれまでに、イギリスを舞台にしたり、イギリス人を登場させた映画をいくつか撮ってきていますが、皮肉った感じで撮っているのもあれば、憧れをもって撮っているのもあり、毎回作品によってイギリスに対する印象が異なるのが興味深いところ。今回描くのは、憧れか、羨望か、それとも軽蔑か・・・。 ストーリーですが、ごく平凡な一人の女性のサクセスストーリーとその転落を描いただけで、特に意外性もないストーリー。細かな所を指摘すると、久しぶりにパラダイスに戻ってきて、カーテンの配置が違うとか、犬が死んだとかというのがその後のストーリーに全然繋がっていない、というのがちょっと気になってしまいました。 また、完璧でない合成映像にも閉口。序盤で、エンジェルが編集長に連れ戻されて馬車に乗ってはしゃいでるシーンや、新婚旅行のシーンの映像は、誰が見ても合成とわかるようなものでしたが、これがもし、オゾンの言う“60年台ハリウッド映画へのオマージュ”としても、ちょっと問題でしょう。 映像面で更に付け加えるならば、序盤で駅のホームまでエンジェルを追ってきた編集長が、やっぱり君の言う通りにすると言ったときのエンジェルの表情(不敵な笑みを浮かべる)にピントが合っておらず、編集長の顔だけにカメラが集中してしまっているので、少々演出に失敗しているような気がします。 さらに、シャーロット・ランプリングの、若い女主人公に冷たい視線を浴びせる役も「スイミング・プール」の時と似たような役で、こういう役柄を2回も連続して与えてしまうキャスティングもいかがなものかと。女優を殺すなと言いたい。 ここ数年、毎年のように楽しませてくれたオゾンでしたが、久々の新作とあって期待を持ちすぎてしまったようです。ここは、大好きなオゾンなだけに厳しく評価させて頂きたいと思います。次作に期待。 [映画館(字幕)] 5点(2008-01-03 16:56:39) |