1. 内海の輪
《ネタバレ》 岩下志麻と中尾彬が不倫のカップルを演じる松本清張原作の映画。この二人といえば極妻を思い浮かべてしまいそうになるが、それ以前にこういう役で共演してたのねと思うとなんだか妙な気分になるのだが、同時に新鮮でもある。斎藤耕一監督といえば「旅の重さ」の高橋洋子の瑞々しさや、「無宿」の梶芽衣子の違った魅力を引き出した美しさが印象的で、女優を撮るのがうまい監督というイメージなのだが、本作の岩下志麻は確かにきれいなんだけど、それは監督の力では無い感じだし、内容は脚本の問題もあるのかもしれないが、事件ものというよりはこの二人の道行不倫が中心の昼ドラにでもありそうな展開で話自体は見どころといった見どころもなく正直言って退屈。冒頭の刑事たちが事件のあった旅館で捜査してるシーンとか、白骨死体が発見されたエピソードも投げっぱなしという感じなので、不倫話一本でいくならこれら中途半端な部分はバッサリカットしたほうが良かった。中尾彬がまだのちの面影があまりなく、見ていて容姿的にも若さを感じるのに対し、岩下志麻は奥ゆかしさがありながらもこのころから既に貫ろくがあり、見ていてなにかどこか得体の知れない怖さを感じさせているように見えるのは気のせいだろうか。 [DVD(邦画)] 5点(2018-08-04 16:33:24) |
2. 長屋紳士録
《ネタバレ》 小津安二郎監督の戦後第一作で、長屋を舞台に親とはぐれて拾われてきた少年の面倒をいやいやながらに見ることになった女性・おたね(飯田蝶子)を主人公に、人情味あふれる長屋の人々がイキイキと描かれた小津監督らしい人情喜劇で、戦後第一作にしてかなりの傑作だと思う。子供を無理やり押し付けられ、最初は邪険に扱うもだんだん情が移っていくおたねの心情の変化が丁寧に描かれていて実に良い。おたねの心情の変化が最初に感じられるのはやはり干し柿のシーン、盗み食いしたと疑われて怒られ、疑いが晴れても泣き止まない幸平に対して干し柿を差し出すおたねの優しさがなんともあたたかくてたまらないし、次の日おねしょをした幸平が家出したのを本気で心配しているのも良い。(また最初のように幸平が笠智衆演じる田代に拾われて戻って来るのが笑える。)そのあとの写真館のシーンもこの子とずっと一緒にいたいというおたねの心情が良く出ていて、しかし、誰もいない写真館の部屋を映すことによってこの後の展開を暗示しているのが切なく、忘れられない名シーンだ。その夜に幸平の父親が迎えに来て別れた後のおたねの涙は幸平が実の父と会えて良かったというのと、別れることになったつらさ、両方ある涙だと思うのだけれど、とてもあたたかい涙で、とても感動できた。主演の飯田蝶子の演技も素晴らしく、小津作品で飯田蝶子と子供というとやはり「一人息子」が思い浮かぶが、本作もそれに並ぶ飯田蝶子の代表作といえるだろう。小津監督の喜劇センスや子役に対する演出も相変わらずうまく、幸平を茅ケ崎に連れて行くのをくじで決めるシーンのイカサマや、置き去りにしようとした幸平がおたねにずっとついてきて結局一緒に戻ってきてしまうシーンも笑える。もちろん、笠智衆や河村黎吉といった脇役陣も良い味を出していて、中でも笠智衆の口上シーンは印象的だった。それにおたねとおきく(吉川満子)の何気ない会話シーンも良かった。チョイ役ながら殿山泰司や小沢栄太郎が小津作品に出演しているのは珍しい。冒頭から戦後間もない時期であることを感じさせる映画なんだけど、いちばん最後のシーンであふれかえった戦災孤児たちが登場したのを見てこの時代こういう光景が当たり前のようにあって、まだまだ戦争の傷跡が身近にあったことを考えさせられた。 [DVD(邦画)] 8点(2017-06-04 18:41:28) |
3. 名もなく貧しく美しく
《ネタバレ》 聾唖者夫婦の十数年間の人生を描いた松山善三監督のデビュー作。こういう映画はつい身構えて見てしまうのだが、松山監督が助監督をつとめていた木下恵介監督からの影響も見られる年代記もので、聾唖者(に限らず障害者)が世の中で生きていくとはどういうことかということがよく描かれていて、最後まで素直な気持ちで見ることができた。産まれてくる子供が聾唖者だったらという不安、妊娠したことを母親(原泉)に笑顔で報告に行った秋子(高峰秀子)が母親から出産を反対される辛さ、産まれてきた子供を聾唖者であるがゆえに事故死させてしまった辛さ、次に産まれてきた子供である一郎(島津雅彦)から聾唖者であるがゆえに避けられてしまう辛さ、耳が聴こえたらという秋子の苦悩、そしていわれのない差別。そういう辛さが見ている側であるこちらにもじゅうぶんに伝わってきて主人公夫婦につい感情移入させられてしまうし、そんな中でも二人で力を合わせて生きていこうというこの夫婦の生き方は本当に美しく、勇気づけられる。「私たちは一人では生きていけません。お互い助け合って普通の人に負けないように生きていきましょう。」という秋子のセリフにも心打たれた。既に書かれている方もおられるが、弟(沼田曜一)にミシンを持っていかれ、失意のうちに自殺を考え、家を飛び出して電車に乗った秋子を道夫(小林桂樹)が追いかけ、車両の窓越しに手話で説得するシーンは本当に名シーンで、道夫が秋子に言われた言葉を今度は秋子に言って説得するのが泣けるし、このセリフにあらためて「人はひとりでは生きていけない」ということを考えさせられた。松山監督の代表作ともされている映画だが、ハンディを持っているからといってけっして特別な人間(←こういう表現は個人的にはきらいだ。)などではなくたとえハンディを持っていてもそれ以外は普通の人間と変わらないのだという松山監督のメッセージのようなものが感じ取ることができて良かった。賛否両論ある秋子が交通事故死するラストだけは安直なお涙頂戴に走った気がしないでもなく、普通にハッピーエンドでも良かったような気がするが、(でも、意図としては分からないではない。)それでも本作は紛れもない名画で、本当に見て良かったと心から思える映画だったと思う。また、昭和36年というまだ今よりも障害者への理解が進んでいないと思われる時代に作られたことも評価したい。 [DVD(邦画)] 8点(2015-07-24 01:52:31)(良:1票) |
4. なにはなくとも全員集合!!
《ネタバレ》 ドリフターズの映画デビュー作。ドリフの映画を見るのはこれが2本目だが、やはりみんな若くてイキイキとしている。草津を舞台に駅とバス会社が温泉を訪れる客を奪い合うという内容なのだが、本作の主人公はドリフの面々ではなく、三木のり平演じる新任の駅長で、ハチャメチャコント映画というよりは普通に人情喜劇の体裁のため、駅前シリーズのスピンオフでも見ているような雰囲気がある。三木のり平の主演映画というのは初めて見た気がするのだが、ここでもライバルのバス会社の宴会を自分の歓迎会と勘違いして出席したりして、社長シリーズなどと同じように笑わせてくれるのが嬉しい。(この人は本当に宴会とかよく似合うよなあ。)一方のドリフはそんな三木のり平の引きたて役に徹しているのかと思えばそうではなく、いかりや長介(先日、「踊る大捜査線」のDVDを見たばかりなのでなにか異様に若く見える。)が目覚まし時計を食べ、腹の中で時計が鳴り出すシーン(これには思わず爆笑してしまった。)など(全員にではないが)ちゃんと見せ場が用意されている。とりわけメンバーの中で目立っていたのはやはり駅員の一人を演じた加藤茶で、駅長の娘(中尾ミエ)に惚れ、なんとか振り向かせようと奮闘する姿がどこまでも滑稽だが、憎めず愛すべきキャラクターなところが好感を持てて良い。見る前は少し不安な面も多かったが、素直に楽しむことができた映画だった。少し甘めの8点を。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-06-08 12:36:05) |
5. 波の塔
汚職事件を担当する検事が容疑者の妻と不倫関係になるというサスペンスメロドラマ。監督は岩下志麻主演の「古都」で京都をこれでもかと言わんばかりに美しく撮り上げ、格調高い傑作に仕上げていた中村登なのだが、本作はそつなくまとまったプログラムピクチャーという感じ。主演の有馬稲子は確かに魅力的で演技もうまいと思うものの、なにかしっくり来ない感じがしたのも事実だし、個人的にはどちらかと言えば助演の桑野みゆきの方が好みだ。検事役の津川雅彦の演技ははっきり言って下手で、今もそんなに好きな俳優ではないが、それでも今のほうがいいと思える。ストーリーはどちらかと言えば汚職事件の絡んだサスペンスよりも、主役二人のメロドラマに焦点があてられてる感じであるが、深みはあまり感じられず、普通に昼ドラでやってそうなレベルなので正直見ていても退屈。しかし、ラストシーンは印象的だった。 [DVD(邦画)] 5点(2009-06-25 13:36:38) |