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1.  憎しみ
かつてのこと、私はようやくこの映画について語る時を持てた。それというのも私は詰まらぬ仕事で、ほとんど墓穴を掘りそうな状況下にいたからだ。私は悪意ある相手に対して全く無防備だ。無防備が美点であるとすれば、徹底して無抵抗を貫いたガンジーは地上を歩いた天使というべきであろう。きわめて崇高な思想の体得者でありながら、危険に身を挺せず、単一に純化された行動類型に徹した。だが何かが欠けていた。それが憎しみだ。私は憎しみにとらわれていた。この映画を観たのも、もの凄い形相で拳銃を発砲しようとするヴァンサン・カッセルのスチール写真が眼に飛び込んできたからだ。タイトルそのものが、私の求めていたものであった。憎しみは向こうから微笑みかけてきた。私とこの映画は荒々しく手を結んだ。憎しみは私の中と外を自由に往復した。観客は数名、これこそ映画館だ。映画は『ストーカー』の引用から始まった。深い井戸を落下する火。高層ビルから飛び降りた男の話だ。落下しつつ、1階毎に「まだ大丈夫、まだ大丈夫。……大事なのは落下ではなく、着地だ」という。これが彼らの生活態度における落下の隠喩であることが語られる。あとは拳銃をぶっ放す直前の異様な緊張感が間となって、暗くそして唐突に続いて行くばかり。ゴダールのロードムービー『気狂いピエロ』の紛れもない盗作。フィルムノワールの伝統にある『汚れた血』、人種差別に抗議する『ドゥ・ザ・ライト・シング』など、いくつかの映画が兄弟である。驚くべきことに、ドストエフスキーまで登場する。高層ビルから飛び降りた男の話は、『白痴』で語られる断頭台のエピソードに酷似する。絶望的な瞬間へ向けて、いよいよ意識は鮮明となる。最後の4分の1秒となっても、まだ耳は聴いている。頭が身体から切り離される瞬間へ向けて、死の瞬間へ向けて、頂点へ向けて、異様な成熟を作り出していく。これは本来的な時間の成熟、つまり時熟である。そして同時に引き算の無限分割が、アキレスと亀のような無限時間を錯覚させる。それが落下であり浮遊である。落下する天使、これが堕天使だ。ショットのつなぎ方も抜群に心地よい。拳銃がぶっ放されていなくとも十分に映像と音とで効果的に撃たれてしまう。撃たれることの享楽に偏執的にとらわれてしまう。最期の互いに拳銃を頭に付け合うシーンは鮮烈だ。私はこれと同じシーンを見た。それは何と、子供たちが互いの頬をつねるジャンケン遊び「ブルドック」であった。
10点(2003-01-06 22:37:35)
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