1. 野火(2014)
《ネタバレ》 塚本晋也監督の資質が非常に素晴らしい形で発揮された奇跡とも言える傑作だったと思います。塚本晋也監督はこれまで主人公が異常な世界に紛れ込んでしまい、その不条理な状況を彷徨っている内に、どんどん異質なものに変貌していくというホラー作品が多いですが、このフォーマットをレイテ島で彷徨い続ける第二次大戦末期の日本兵に当て嵌めたそのセンスがまず素晴らしいです。 ゲリラと仲間内の裏切り等によって疲弊していき、最終的に人肉を求めてしまう様な人間に変貌していってしまう、その戦争の恐ろしさ。何より恐ろしいのが、これは映画でありますが、実際のレイテ島で起きていた事実とは全く同じであるということです。レイテ島の戦闘に参加した日本兵の多くが戦闘ではなく、餓死で死んだというのは有名な話、しかしその事実を映像で見せられると「戦場で死んでもこんな目に会いたくない」という気持ちになりました。 大抵の人がそうであると思いますが、子どもの頃に観たショッキングな映画というのは、脳裏にこびり付いて消えないことがあります。戦争映画なら私は子どもの頃に観た『プライベート・ライアン』の戦闘シーンは未だにトラウマとして記憶に強く残っています。逆に大人になると、どんなに感動的だったり、ショッキングな映画を観ても、いつの間にやら記憶から薄れてしまうものですが、本作は現在鑑賞から日数が経っても未だに消えてくれません。そのくらいのパワーを持つトラウマ映画になりました。特に映像として消えてくれないのが、日本兵たちが夜のうちに行軍をするも、敵兵から集中的に射撃されてハチの巣にされる場面で、一人の兵隊の脳味噌が零れ落ちて、その脳味噌を逃げようとする兵隊が踏みつけるというシーンです。これ程、人間の尊厳とか色々がゴミの様に扱われるシーンを私は知らない。しかし当時は普通に起こっていたことでしょう。戦争の恐ろしさ、人間を人間とも思わない行為の恐ろしさを伝える作品としては、生涯ナンバー1の作品でした。 [映画館(邦画)] 9点(2015-09-17 07:25:59) |
2. 紀子の食卓
《ネタバレ》 この映画が嫌いだ。逆光を使った小奇麗な風景、幸せそうに流れるオルゴール、登場人物たちのポエム、言い換えると独り言。それらは虚構の幸せを映す鏡なのだろう。私にはかったるかった。クシャミが出た。こんな「クシャミ」なんていらないのだ。『自殺サークル』の飛び降り自殺の場面もうんざりした。意図は解る、けど何度も映されるとウンザリだ。 でもとっても感動した。何故だかはハッキリと分からない。"家族の血"というモチーフに固執し続ける園子温監督の意識が一番強く感じられたからかも。始まりの家族はどこか変だ。イビツで嘘だ。だから紀子は逃げ出した。紀子は自殺サークルでレンタル家族になった。みんな自分の役割を演じるのだ。みんな幸せそうだ。とっても。でもこんなに幸せそうなのもやっぱり変だ。まるで判を押したような幸福な光景の気味の悪さ。家族は痛みを伴って存在するものなのだ。 「一からやり直そう――」徹三の言葉が心を打った。とっても平凡な言葉。クミコの母親も同じことを言っていた。でもその言葉の重みには数万光年もの差があるのだ。紀子は紀子として生きていく。ユカは真っ新な、白いキャンパスみたいに新たな家族を求めて生きていく。どっちが良いのかは分からない。分かるのは本当の家族であるには痛みを伴うということだけだ。クシャミが出た。この映画は大好きだけど、こんな文章は大嫌いだ。 [DVD(邦画)] 8点(2013-10-15 23:59:52)(良:1票) |
3. 野良犬(1949)
《ネタバレ》 前半は単純に面白いサスペンスが続き、この刑事サスペンスの手際の良さからして驚愕の出来なのですが、後半に進むに従って「人間は何故悪に染まるのか?悪とはなにか?」という人間にとって根源的なテーマに突き進んでいく展開が素晴らしいです。そしてベテラン刑事、佐藤の家で呑んだ帰りがけ、「どんな人間でも悪に染まる恐れはある」と議論した後に映る、無垢な子どもたちの寝姿のカットの良さよ。数々のカットが物語のテーマを象徴し、観客に「君はどう思う?」と質問を突きつけて来る。実に映画的な魅力に溢れた作品だったと思います。 近年の映画は恐らく『ダークナイト』の影響でしょうが、絶対悪との戦いを通して善と悪を描いた作品が多くなっていますが(勿論、それも描くに値するテーマです)、本作の様に一義的な善悪の話に収まらない話も素晴らしいと思います。その象徴として段々と狂犬じみた相貌に変わっていく正義感・責任感溢れる村上刑事と、最後に子どもの歌を聞いて泣き崩れる遊佐の関係がある。最後の佐藤刑事の物語の締め方も実に良かった。 またホテルで佐藤刑事が遊佐に撃たれる場面ではバックにラジオから流麗な音楽が流れますが、こういうバイオレンス描写と美しいBGMを合わせるという手法も恐らくその後の映画に多大な影響を与えているんだと思います。私がパッと思い出すのは『時計じかけのオレンジ』『フェイス・オフ』『ドラゴンタトゥーの女』等ですが、そういう点でも大変映画史にとって重要な作品だと思います。 [DVD(邦画)] 9点(2013-07-27 11:10:08) |
4. のぼうの城
《ネタバレ》 本格時代劇を観に劇場まで行ったら大河ドラマを見せられた様な気分でした。もうオープニングからウンザリさせられます。懇切丁寧に豊臣秀吉の勢力拡大図をナレーション付きで説明してきますが、そんなもの無くても画面を見てりゃ話は分かるし上映時間を悪戯に長くするだけだと思うんですがね。それとも観客を歴史も知らない馬鹿扱いしているのか。主要な人物名にはご丁寧に字幕まで付ける始末。1時間のドラマなら一見さんが続きから見ても理解し易い様に字幕を付けるのも分からんではないですが映画でしちゃってる。ドラマのつもりで作ってるのでしょうか?役者のオーバーアクトも只々不快でした。エキストラも含めて全員が笑うシーンでは「ワッハッハ!」と笑い、どよめくシーンでは「どよよッ」とざわめいたり、この映画コントか!?まあこれは役者のせいじゃなく演技を注文してる監督のせいでしょうが。音楽の使い方もまるでセンスを感じない。曲りなりにも時代劇の癖にBGMがアコギのジャンジャカした曲だったり意味不明です。しかも特に流す必要のないような場面でも流れて正直うるさいだけ。序盤でこのザマですから、私は途中からおちゃらけコメディとしてテキトーに見ていたのですが、変にシリアスなシーンは必要以上にシリアスにしているところもムカつきます。コメディだったらそれに徹して欲しい。勿論、『戦火の馬』の様にシリアスとファンタジー、ヒューマンなどをごちゃ混ぜにして観客のテンションを乱高下させる映画もありますが、『戦火の馬』ではシリアスな部分は極限までシリアス、ヒューマンドラマの部分は極限まで感傷的に演出していました。しかも何より映像の美しさで魅せていた。この映画は全ての場面が半端なので単にフザケて映画を撮っているようにしか見えませんでした。テレビでごろ寝しながら見るには丁度いいヌルさなのかもしれませんが、映画館で二時間以上にらめっこするにはキツイ映画でした。 [映画館(邦画)] 2点(2012-11-18 18:30:36)(笑:1票) (良:1票) |
5. ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
《ネタバレ》 致命的な重病を患った二人の若者のちょっとオフビートな逃避行。彼らは天国に行く前に海を一度見てみたいと海を目指す。海は数々の映画で絶望の象徴や終着点の暗喩として登場する。最も有名な例はトリュフォーの「大人は判ってくれない」だろうし、北野武の「HANABI」も長年連れ添った夫婦は人生の終わりに海を目指す。恐らく全ての大陸において歩き続けた先に広大な海という終点が広がっているからだろう。本作はその様な象徴として描かれることが多い海を天国への切符、ある意味希望の象徴として描いている点が面白い。主人公二人は海を目指していなければあの病院で自身の望みも果たせぬまま死んでいただろう。海と言う絶望・終着点が皮肉にも彼らを希望へと導いたのだ。ルディは最後にマーチンに「(死ぬのは)怖くないさ」と言う。最後に海を見ることで天国への扉を開けた彼らは雲の上で仲良く駄弁っていることだろう。 [DVD(字幕)] 7点(2012-07-29 18:38:54)(良:1票) |
6. ノーカントリー
《ネタバレ》 色々な方の感想を見てやっとこの映画の真の意味が理解できました。ホントに初見で理解できなかった事が恥ずかしい……。 コーエン兄弟の映画は初めて観ましたが、音楽が全然無くリアリズムを徹底的に追求している様で、私には少しきつかったです。徹底的にするのは映画人として正しい事だとは思うのですが、やっぱり少しは音楽も欲しかったのが本音です。 最後に殺し屋が家から出てきて、足の裏を拭く動作だけで、モスの奥さんを殺したんだなと理解させてしまう演出は凄かったです。凄く不気味で恐ろしく感じました。 [DVD(字幕)] 7点(2008-08-14 23:31:36) |