1. オペラの怪人(1943)
オペラ座のセットにおけるクレーン撮影とか、人物を手前と奥に配置する構図とか、シャンデリアと客席を捉えた俯瞰だとか、カメラがいろいろと見せ場を作っているのですが、いかんせん、映画を通じての緊張感に、やや欠けていて。 「オペラの怪人」が、怪人になるまでのくだりを前半にもってくる構成が、まずあまり魅力的とは言えず、もともとちょっと変だった人が本当に変になりました、くらいの印象。謎もなければ驚きもなく、説明的な展開になっちゃてるのが、もったいない。 そのまま存在感をいまいち発揮できない怪人、その姿のカットがチラ見せで挿入されるのも、不気味というより、何だか頼りない。 警官とオペラ歌手がヒロインにちょっかいをかける恋のさや当て、みたいなギャグも、映画がちゃんと不気味でコワけりゃ、ちょっとした気分転換によいかもしれないけれど、この作品ではますます緊張感を遠ざけているだけ、のような。ラストもこのノリに作品を乗っ取られてしまい、哀れなのは存在感が最後まで薄かった怪人。 オペラ上演のシーンがふんだんに取り入れられていて、これがショパンとかチャイコフスキーの有名曲を豪華絢爛たるオペラ調にアレンジしたもの。『砂の器』なみに音楽に力入れまくりで、ストーリーそっちのけ、もはや怪人の立場ナシ。 ところで、マエストロのリストさんとかいう人が登場しますが、あれ、フランツ・リストのカメオ出演(?)ってことでいいんですかね。リスト晩年の写真にソックリ。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-08-04 09:16:09) |
2. オースティン・パワーズ ゴールドメンバー
《ネタバレ》 3作目なもんで、「ゴールドフィンガー」ならぬ「ゴールドメンバー」。見てると実はこのタイトルが下ネタだったことがわかるのですが、このシリーズ、3作で終わらずに4作目があったとしたら、次は「サンダーボール作戦」をモジって・・・いや、何だかすでにエロそうな。 それにしても、またもやってる影絵シモネタ。ホント、好きなんですねえ。確かにテッパンだけど。 そして例によって例のごとく、ネタに困ったら「日本」ネタに頼っちゃえ、と。これもテッパンだから仕方ないか。 しかししかし、いくらネタに困ったからと言って、とりあえず「マイケル・ケイン」を出せばいい、ってもんじゃないでしょう。いやこれもテッパンネタか。 冒頭、マイク・マイヤーズもえらく男前になったもんだ、と思ったら実はそれはよく似た他人、いやよく似てない他人で、この胡散臭いスマイルは、まぎれもなくアノ人。さらにそれは劇中作品の一コマで、監督しているのがこれまた、アノ人。2002年というと、これはもしや『マイノリティ・リポート』の撮影現場・・・なワケないか。 このツカミの後は、いつも通りの低調路線。あくまで苦笑しながら、しょうがないここは一つお付き合いしましょうか、というシリーズな訳ですが、いかにも「ゴールドメンバー」な有名人が次々に登場して、ああ、皆さん、ヒマなんだなあ、と(忙しい人はこんな映画に出てはいけません)。で、ラストにまた、このキャラの正体がアノ人だと明かされて、ビックリする仕掛け。いや、もうここまできたら誰もビックリしないってば。 アメリカ人はこういうので喜ぶのか、というのがどちらかというと最大の驚きであったこのシリーズも、今や過去。映画史上の汚点(?)も、歴史の一部には違いない訳で。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-11-11 06:04:06) |
3. 折れた槍
一人の若者が3年の刑期を終えて刑務所から出てくる冒頭。ちょっと任侠映画みたいですな。で、家に戻った彼は肖像画を見上げ、さらに兄弟たちとのやりとりの中に不穏な空気が流れる。 過去に何があったのか? がそこから描かれて、終盤にまた現在、そして肖像画へと物語が帰ってくる、という魅力的な構成になっています。ツカミの上手さ、回帰する物語。 頑固過ぎる親父役にスペンサー・トレイシー。困ったヒトではあるのですが、どこかユーモラスです。父と徐々に対立を深める長男が、リチャード・ウィドマーク。まさにこの親にしてこの子あり、こちらも充分過ぎるほど頑固そうな。 スペンサー・トレイシー演じるこの頑固オヤジ、何かと周囲に突っかかり、座っている最中に機嫌が悪くなると、やたらと席を立とうとするそぶりを見せる。なんか他の切り口の演出もあってよさそうな気もしますが。 冒頭の「現在」へと帰るラストでの、対決。岩場での取っ組み合いで、頭を岩にぶつけないか、見ててヒヤヒヤします。 先住民への差別なども織り交ぜつつ、家族の愛憎劇を描いた西部劇で、意外性もあり楽しめました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-08-19 11:33:30) |
4. 追われる男
主人公役がジェームズ・キャグニーで、対する悪党の役はと言うと、こちらもキャグニー? では無くって、よく見るとボーグナインなのでした。そっくりさんとまでは言わないけど、タイプ的には同路線の顔立ち。ワルそうだけと愛嬌があります。 それにしても、これまた面白い西部劇。ストーリーは結構、適当というか、行き当たりばったりというか、白々しくも強引に進んでいくのがまず楽しい。そもそも冒頭、列車強盗に間違えられるくだりなど、ほとんどコメディかと思ってしまうのですが、その後、自警団に襲撃され、主人公と一緒に居た青年は銃撃で生死を彷徨った挙句、重い障がいを負ってしまう、という、笑うに笑えぬ深刻な展開。この振れ幅の大きさが、物語を推し進め、一方ではちゃんと、主人公と青年の関係をここに織り込んでいたり、無法者の跋扈する西部の町、横行するリンチ、などといった物語の軸を織り込んでいたり。 だから、物語は変化に富んでいて、やや暴走気味ではあるけれど、散漫な印象はなく、納得感があります。B級納得感とでも言いましょうか。 何がどう「追われる男」なのかはよくわからん邦題ですが。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-02-12 08:56:28) |
5. オクラホマ・キッド
映画の見どころの一つが、例の土地獲得大レース。『遥かなる大地へ』とかに出てくるアレですね。このシーンがなかなかの迫力。1939年の作品、と言うと、同年に『駅馬車』がありますが、あのド迫力の襲撃シーンなんかにも引けを取りません。 主役のオクラホマ・キッドを演じるのがジェームズ・キャグニー。ワルそう、というか、やんちゃそうな顔が、役に似合ってます。そういう鼻つまみ者のキッドに対し、さらに極悪な連中が登場、そのリーダー格が、ルー大柴。に似てますが勿論そうではなくって、ハンフリー・ボガートです。アクの強さで、いい勝負。 開拓により町ができると、そこには法や秩序が必要、だけど無法は常にその先回りをする。開拓民たちはこんなオソロシイところで日々を送り、その先に今のアメリカがあるのだとすると、やっぱりこの国はちょっと別世界、なのかも。 それはさておき、避けられないのは二人の対決。終盤に繰り広げられる格闘シーンは、短いカットをこれでもかと畳みかけて、これも見どころ。 もう少し主人公の人間像に魅力があれば、という気がしなくもないけれど、割と楽しめたかな、と。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2023-01-29 12:23:39)(良:1票) |
6. 大いなる旅路
《ネタバレ》 三國連太郎演じる鉄道員の半生記。喜びも悲しみも何とやら、といった感じの作品です。息子役に若き日の高倉健が出てます。要するに「ぽっぽや」の父さんも「ぽっぽや」だった、ということですね。親子役をやるほど歳は離れてないと思うんですけど。でも違和感ないです。 機関車、そして駅が、映画に何度も登場します。この二つが出てくる映画は、まずハズレが無い。とまで言うと、言い過ぎですが、機関車も、駅も、映画では魅力的なアイテム。そして蒸気機関車には雪がよく似合う。 しかもなんとこの作品、機関車の脱線・横転シーンまである。気合い入ってます。この事故で、主人公は九死に一生を得るけれど、先輩は命を失ってしまう。この事故の前は機関車のカマ焚きしかやらせてもらえず腐り気味だった主人公、事故の後のシーンでは、これから心を入れ替えて一生懸命やるぞ、と笑いながら宣言する。先輩が死んでしまったのに、こんな笑ってていいのか?と、気になってしまうシーンですが、その引っかかりがあるからこそ、印象的なシーンにもなってます。現実生活であれば、落ち込む場面かもしれない。映画だからこそ、彼の笑顔が、彼の転機を如実に物語ります。 中盤、主人公は鉄道員というより、単なる頑固オヤジになってしまいますが、ホームドラマでもあるのだから、仕方がない。鉄道以外に印象に残るのが、主人公の家。時の流れとともに世の中は移り変わるけれど、自分の家はいつでも自分の家。 そういや、映画は戦前から始まり、やがて戦時中となって世の中殺伐としてくる。戦後、平和になるのかと思いきや、やっぱりゼネストだとか言って行進してたりして、世の中移り変わると言っても、結局、同じようなことやってるんだなあ、とも思ったり。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2023-01-28 17:47:30) |
7. 王立宇宙軍 オネアミスの翼
《ネタバレ》 ライトスタッフに不器用なロマンスを絡めたようなお話、地味と言えばこの上なく地味なんですが、えてしてそういう映画は映像がスゴかったりする訳で、アニメーションのこの見事さには驚き、呆れ、圧倒されます。 この、立体感。一部のシーンではCGを援用したらしきメカニックな動きも見られますが、手描きでこそ感じられる、立体感の危うさ、みたいなものも多分にあったりして。 緻密さと誇張との、せめぎ合い。 で、まあ、最後は宇宙に行って、人間なんてちっぽけだよねえ、と。 そうなんです。我々も日常生活にクサクサしたら、つい宇宙のことを考え、つくづく、自分たちがちっぽけな存在であることを意識するんです。 さらに、そんなこと考えても何の解決にもなってないことも意識するんだけど。。。 何にせよ、この作品も、ついに宇宙に到達して、達観したように幕を閉じる。なんとも感慨深いものが確かにあるんだけど、そりゃ、「宇宙」と言われりゃ自然に感慨深くなるもんであって、この感慨が、この作品の映像から来ているのかというと、よくわからない。打ち上げの素晴らしい映像、その後でそれを上回る「宇宙を感じさせる映像」を見せてくれたらもう納得せざるを得ないんだけど、正直、あれ、こんなもんか、と思っちゃいました。 とかいうのは、贅沢ですかねえ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2023-01-23 22:05:18)(良:1票) |
8. おしどり駕篭
《ネタバレ》 錦之助演じる左官屋の源さんは、美空ひばり演じる町娘と互いに憎からず思う関係なのに、強情っぱりなのもお互い様なもんだから、なかなかうまくいかない。ところで源さんの正体は実は若殿様で(んなアホな)、プチお家騒動が起こって・・・という、何とも他愛ないオハナシ。それを、美空ひばりが起用されてるだけあって、ミュージカル仕立てで描きます。なんなら、もっと歌や踊りが盛り込まれていてもよかったかな、と言うくらい。 しかしコレ、それ以前にまず、マキノ映画。なんでもないようなオハナシなので、一見なんでもないようなシーンも多いのですが、そこにこれでもかと「アクションつなぎ」の演出が投入されてます。動きのないところに、動きを作り出すこの、ご苦労サマな演出の妙。 勿論見どころはそれだけではなくって、クライマックスでは大勢の敵に囲まれた錦之助が、流れるような刀さばきで敵を打ち倒していく。殺陣が上手い、というのとは少し違うかもしれないけれど、まさに流麗、と言ってよいでしょう。そして、全ての敵を薙ぎ倒し、まさに死屍累々たる惨状のド真ん中で、錦之助とひばりがラブラブ~~~というこの光景は、ちょっとした見ものだと思います。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-07-23 12:57:42) |
9. 狼/男たちの挽歌・最終章
敵多過ぎ、撃ち過ぎ、ヒト死に過ぎ。無限に弾丸が出る銃をチョウ・ユンファが乱射しまくる、バイオレンス巨篇。ってか。 やり過ぎるくらいやってナンボ、とは言え、「やり過ぎ」をやり過ぎるとギャグになってしまう。そこがジョン・ウーらしさ、とも言えるんでしょうけど。 しかしまあ、自分のせいで視力を失ったという「守るべき女性」がいて。 本来なら敵である刑事との間に生まれた友情があって。 あの今ではお馴染みになった白いハトもいて。 必要なものは揃ってるので、いいんじゃないですかねえ。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-06-19 14:10:25) |
10. 大いなる陰謀
この「大いなる陰謀」という邦題はどう考えたらいいんですかねー。まさか、「民主党支持者のレッドフォードが、トム・クルーズ演じる共和党上院議員に一見もっともらしい事を喋らせて、必ずしも共和党ばかりが悪い訳じゃないんだよ、という体裁を取りつつ、最終的には痛烈な批判に結びつける。これこそまさに、レッドフォードの大いなる陰謀だ」ってコトなんですかね。いや、まさか。 しかしいずれにせよ、政府を茶化しさえすれば自分の役割を果たしている、と言わんばかりの言論にはもう飽き飽きしている昨今、この映画の真摯なアプローチは新鮮でもあり、訴えかけてくるものも大きいです。 この映画では、密接に関わりつつも直接には交わらない3つのオハナシ、というか「場面」が、並行して描かれます。共和党上院議員とリベラル派の記者との対話。作戦中にヘリから転落し、雪山で敵に囲まれた2人の兵士。そして2人をかつて受け持った教授と、キレ者のエリートだけどいささか斜に構えたところのある学生との対話。 いくらお題目を並べてみたところで、表向き見えないところでは、貧しき者が兵士となって戦場で命の危機にさらされている、という現実がある。その批判に対して、「じゃあ私の成績優秀さが罪なのか」という、上院議員と学生とのセリフがシンクロして。 アメリカって国は、日本よりはるかに、エリートが引っ張る国、になってます。だからこそ、エリートが現実に対し目を向けないといけない。現実を直視した上で、エリートが声を上げ、行動しなくちゃいけない、ということなんでしょう。 という訳でこの作品、社会批判ばかりではなく、そういう自己への戒めまでもが含まれているようにも感じられます。だからこそ、3つのオハナシを対立するように配置させ、トム・クルーズ上院議員の勝ち誇ったような表情と、やつれて何だか頼りないレッドフォードの表情とを、戦場の兵士の絶望感の中に容赦なく放り込んでくる構成、これが大きな効果を上げているように感じられます。 もっとも、この映画でもって、世の中が簡単に変わるものではないのですが・・・。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-06-19 09:54:50) |
11. 女吸血鬼
吸血鬼のくせに、満月についつい反応してしまうという狼男モドキ。吸血鬼のくせに、鏡に映らないどころか「鏡に映りまくってます」とやたら強調する演出。日光だって(ある程度は?)平気らしい。 では吸血鬼らしくないのかというと、これがとんでもない、バッチリ、これぞ吸血鬼という雰囲気出しまくり。というか、ハマー・プロっぽい雰囲気、とでも言えばいいですかね。まだ50年代で、洋画にも引けを取らない怪奇映画らしさを出してるのは、オドロキです。 西洋館には西洋館らしく、西洋の甲冑が飾ってあり、謎の西洋画が神秘性をもたらす。終盤の吸血鬼の巣窟みたいなところも、底なし沼だか底なし温泉だかがあって何だかミョーではあるものの、怪しい雰囲気はバッチシ。 満月に苦しみつつ変身する天知茂の、その怪しさに至っては、クリストファー・リーなんかにゃ絶対負けてないと思うのですが、どうでしょうか。 彼が運転するクルマのトランクから、わざとらしく(?)衣装がはみ出てる。と思ったらトランクが透けて、中に閉じ込められた女性の姿が。これってまさに、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』じゃないですか。 時代を超越しちゃってますね。さすが。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-06-16 22:24:04) |
12. 女必殺拳 危機一発
最近はとてもチャーミングなお嬢さんが実は長年、カラテをやってたりしたとかで、その素晴らしい身体能力を女優としてアクション映画の中で披露してくれたりして。いやはや、いい時代になったものです。 それもこれも、志穂美悦ちゃんがパイオニアとして先鞭をつけてくれたからこそ。みんな、悦ちゃんに憧れてアクション女優を目指したんだろうね。 と言いたいところだけど、まあ、そんなワケ、ないですわな。女必殺拳の頃と現在との間には、大きな空白の期間が。志穂美悦子に続くアクション女優はなぜ現れなかったのか・・・。 当然と言えば当然な気もしますね~、こんな妖怪映画みたいな作品しか作られないんじゃあ、ねえ。 こういう作品を安心して楽しむには、ある程度の距離感が必要ですね。だから、今こそ楽しむべき映画!なのです。 今回も敵の一味として、面倒くさいヤツが大量に登場します。コケオドシ感、満載、なのですが、これらのややこしくて面倒くさい妖怪じみた連中だけではなく、なななんと倉田保昭兄さんまでが、敵の一味? という展開。最終的にどうなるかは、見てのお楽しみ? 志穂美悦ちゃんのアクションは、今見ると微妙なところもありますが、それでも前作よりパワーアップしてるんじゃなかろうか。激しく、そしてキレがいい。 さらには、そのアクションを支える、カメラの躍動感。破綻寸前といって良いほどアングルを振り回し、それでも何とか、アクションがカメラに収まっている、そのギリギリな感じが、スリリングかつ迫力満点です。 もう、お腹いっぱい。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-05-16 22:37:01)(良:1票) |
13. 男の顔は履歴書
男の顔は履歴書、だなんて言われても、とても私の顔なんぞまるで履歴書っぽくはないのだけど、これが安藤昇だとドンピシャ当て嵌まる。「現在」の顔は眼鏡にヒゲの典型的な中年オヤジ風、しかし頬の傷は間違いなく、彼の過去を語ってます。さらにはこの、冷たい眼光。この顔ならば、セリフが棒読みであればあるほど、かえって迫力が。 そこから場面は敗戦まもなくの、闇市へ。この後も時代がアチコチに飛び、さらには中途半端な独白が入ったりして、多少ヘンな映画ではあるのですが、それでもなお、独特の迫力が。 朝鮮人の一味の横暴なども描かれるけれど、登場人物それぞれが皆、それぞれの言い分、それぞれの思いがあって。あ、菅原文太はあまり無さそうですけどね。 クールな安藤昇の弟役に、伊丹十三。「ゆーとぴあ」かと思ったぞ。とくに言い分が多そうな役で、映画を盛り上げます。 でもって、映画にさらに迫力をもたらしているのが、例によって独特のローアングル。そしてクローズアップは、被写体が画面からはみ出んばかり、まさに、はみ出るかはみ出ないかの臨界状態。 クライマックスの銃撃戦、斬り合いも、もはや、尋常なものではなく、凄まじいエネルギーを放ってます。 ちょっと意外な、しかしこれしかないだろ、という絶妙のラスト。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-03-17 22:52:23) |
14. オマールの壁
《ネタバレ》 分離壁によって生活が分断されたパレスチナが舞台。主人公の青年が、反イスラエル活動に加わるも当局に逮捕され、拷問の末、仲間に対するスパイとなることを命じられ・・・というオハナシ。 ですが、単に抑圧の悲惨さを訴えるのではない「何か」が、この作品にはあります。 銃撃を受けようとも壁を乗り越えていた主人公。自由を求め、抑圧に反抗していた主人公が、スパイとなることを強要された末、当局に、あるいは状況に、呑み込まれ支配される存在となっていってしまう。 ついに自力では壁に登れなくなってしまう主人公の姿が、それを象徴しています。 いわば、人間の持つ弱さというものが、この理不尽な環境によって、残酷なまでに露呈されていて。 それでも人は、運命に抗うことができるのか、というラスト。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-02-20 15:46:47) |
15. 脅迫(おどし)(1966)
三国連太郎演じる主人公は、立派そうな会社の営業部長、ということで(壁にはモーレツ会社であることを示すような過激な標語が)、それなりに裕福らしく、マイカーにマイホーム。しかし時代そのものがまだ裕福ではないもんで、あくまでローンでの購入。ってそれは今も大差ないか。 マイホームと言っても周囲はまだようやく区画整理がなされたのみの土地分譲中。まだまだ寂しいポツンと一軒家状態。 そこに悪党二人が闖入し、主人公ごときの資産には興味ないとばかり、あろうことか彼に誘拐事件に片棒を担ぐ事を強要する。 人質は赤ん坊。泣き喚いたかと思えば上機嫌な顔を見せたりして、それが映画のアクセントになってます。いっそ助演賞の一つでも差し上げたいところ。 主人公は身代金授受の役をやらされるのですが、どうやら裏ではすでに警察が動いているらしい。刑事らしき連中の姿がチラホラするけれど、描写は基本的に主人公の視線、警察がどの程度の規模でどう動いているのか判らないサスペンス。 それが終盤に、映画の視線が犯人ベースとなって、主人公が何を考え、どう動くのかが判らなくなる。それまで超然としていた兄貴分の方の悪党・西村晃の顔に焦りが浮かび、物語が一気に加速します。 映画全体を見れば、さほど意外な展開もないのですが、さまざまな「疑念」によって物語に起伏をつけるあたりは、なかなかの上手さです。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-12-19 12:51:41) |
16. 女必殺拳
《ネタバレ》 さすがは志穂美悦ちゃん、カット割りで誤魔化すことなく、一連の流れるような動きで格闘アクションを見せつけてくれます。多少、単調なところもありますが、まあ、千葉チャンも大体こんなもんでしょ。構えのポーズもちょっとヘンですが、いやいや千葉チャンだって。 単調さを補うのが、敵のキャラの多彩さ。ほぼ怪人。ほぼ妖怪。多彩なキャラが多彩過ぎる武器を手に、次々に襲ってきて、次々にアッサリ斃されていきます(笑)。 死に方もバラエティに富んでいて、脳天に剣を刺されるヤツ、内蔵をはみ出させるヤツ、剣山に串刺しになるヤツ、面白いように血を噴き出させるヤツ。秀逸なのは、首をねじ切られて180°回った状態のまま、後ろ向き(前向き?)に歩いていくヤツ。 戦いの舞台が突然、崖の上に切り替わったりするのも、いいじゃないですか、夢があって。 燃えよドラゴンのパクリ感をあちこちに感じさせる作品ではありますが、逆に言えばその高いハードルに挑戦した悦ちゃん、なかなかお見事でした。 しかし、あの、吊り橋から転落するシーン。最近、私も視力に自信が無くなってきているのですが、見間違えでなければ、あれはもしやダミー人形。いや、どう見てもダミー人形。後の映画で真田サンに無謀極まりない飛び降りスタントをやらせてたのに比べると、千葉チャン、悦ちゃんにはちょっと甘いんじゃないの~。 いえいえ、真田サンがやり過ぎなだけです。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-10-17 08:03:05)(笑:1票) |
17. オンリー・ザ・ブレイブ
昔は、消防士は英語でファイアマンだ、と習ったもんですが、すると「華氏451」にはその言葉通り、火を消すのでは無く火を点けるのが役割のファイアマンが登場したりして。 一方でこの森林火災の消防士もまた、必ずしも今燃えてる火を消すのが仕事とは限らず、木を切ったり、それこそ、逆に火を点けたりしてて、とにかく燃えるものを無くし延焼を防ぐのが、彼らのミッション。 建物消火以上に、我々にとっては馴染みが薄く、それ故に、映画の題材としてはそれだけで興味深いものとなります。冒頭、いきなり家の上空にヘリが現れ、プールの水をホースで吸い上げていく、なんてのもなかなか意表を突きますが、消防士なのに描かれる訓練が、我々の想像する「消防士っぽい」ものでないことに興味を引かれます。 それはどちらかというと、まるで野戦に備える兵士のような。 シカが駆ける野山の光景、と思いきや、カメラアングルが移動すると、すぐ向こうは山火事。燃え上がる「大惨事の光景」と、燃えていない「日常の光景」とが、その境界ではっきりと区切られていて。その大惨事が、じわじわとその領分を広げ、日常を浸食する。 この浸食さえなければ、まさに対岸の火事、であって、その光景に消防士たちが歓声をあげたりもするけれど、猛然とその浸食が襲いかかってきたら、もはや為す術がない。 実話に基づいている作品ではありますが、あえてストーリーの軸を隊員の一部のみにおいていて、スペクタクルの面では確かに火災シーンがクライマックスだけど、ドラマとしてはその後の学校のシーンにこそクライマックスがあって。 劇中でさりげなく描かれていた、その他の隊員たちの姿が、ラストにおいて、実際のモデルとなった人物と重なり、胸を打ちます。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-09-04 18:02:01)(良:1票) |
18. 女ガンマン・皆殺しのメロディ
「女ガンマン」なんてのがいかにも、企画モノ、っぽい感じがしちゃうのですが、コレ、なかなかの作品です。ちゃんと起承転結になってます。あるいは、交響曲の4楽章構成。 主人公の女性が、自分を襲い・夫を殺害し・家を焼いて去って行ったポンコツ悪党三兄弟への復讐を誓う、と言うオハナシ。凄腕ガンマンへの弟子入りを希望するも何度も断られる、その過程がいい。ある瞬間に、転機が起こる、その流れがいい。 ようやく射撃を教えてもらえることになっても、映画はそこから、銃を入手するための旅へとエピソードを移す。海岸で子供たちと戯れたりする、平和な日々。もう復讐なんて忘れてしまってもいいんじゃないか、という気がしてきて、だからこそ、「それでもやはり復讐しなければ」という主人公の意志が、一種の宿命のようなものを感じさせ、見てて、やるせない気持ちにさせられます。 いずれにしても、彼らの元にある日、三兄弟とは別の悪党一味が現れて、平穏が破られます。 ここでの銃撃戦が、映画中盤の見所です。なかなかの迫力。こんな連中と戦った後で、今更あのポンコツ三兄弟と戦っても、盛り上がらんよなあ、と言う気がしてくるのも事実ですが。 しかしそこは我らがボーグナイン。強敵として彼女の前に立ち塞がります(ジャック・イーラムなどは予想通り戦力外)。終盤の刑務所跡での対決の場面では、影を使って間接的に人物の動きを見せるなど、心憎い演出もあったりして。 意外に正統派の作品、という印象です。企画モノだなんて、とんでもない。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-05-18 22:39:59)(良:1票) |
19. 男はつらいよ お帰り 寅さん
そりゃもう、一種の、怖いもの見たさ、ではあるんですけどね。寅さん抜きの寅さん映画、だなんて。そういやピンクパンサー映画もピーター・セラーズ亡き後に、クルーゾー失踪ということにして途轍もなくツマラない作品を作ってましたけどねえ。あるいはブルース・リー亡き後の『死亡遊戯』(いや、『死亡の塔』の方は悪くないと思いますけども)。 というか、過去のシリーズ諸作の映像を流用するという時点で、『宇宙怪獣ガメラ』を思い出してしまいます。それだけはマズい。さすがに。 ですけれども、マッハ文朱をわざわざ呼ぶまでもなく、こうやって、シリーズを支えてきた俳優陣がほぼ全員集まり(御前様代替わりを別にすると、代役は橋爪功くらいでしょうか?)、新作を撮り上げる。これってもう、一つの事件と言ってよいのでは。山田洋次監督の人徳、みたいなもんですかね。 ただ内容はと言うと、ちと薄い印象。舞台は関東近郊に限定され、満男と泉の出来レース的なやりとりだけ。シリーズとして見れば、満男の一言多い病も泉ちゃんのセリフ棒読み病も健在、ではあるけれど、そのどちらも作品にとってのマイナスでしかなくって。 過去のエピソードの引用も多分につまみ食い的。少なくともあの伝説のメロン事件は、私もちょっとこだわってしまうところ。こんな表面的な形での引用なら、して欲しくなかったなあ。 しかし皆さん、イイ感じにお爺ちゃんお婆ちゃんになって、特に倍賞千恵子は、「さくらがお婆ちゃんになったら、そりゃこんな感じになるよなあ」というのを見事に体現していて、そりゃ本人なんだから当然だといわれりゃそうなんだけど、いい歳のとり方だなあ、とつくづく思います。 それにしても気になるのは、満男と、池脇千鶴との今後。ウソです、全然気になりません。再婚するなり何なり、勝手にしてちょうだい、もう。 だいたい、満男ごときが作家になる、ってのが、あり得なさすぎ、なんですけど、まあどうせシリーズ最終作(ですよね?)なので、この際何でもアリ、ですかね。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2021-05-03 20:32:20) |
20. 黄金の犬
所持するマイクロフィルムのために悪徳政治家の手先に追われる男一匹と、家から遠く離れた北海道で飼い主からはぐれた犬一匹との、逃避行。 単に可愛いはぐれ犬を夏八木勲が拾った、みたいな感じになっちゃってるのがちょっと弱い気がして、彼が犬に惹かれたことの動機付けがもう少しあってもよさそうだけど。ただ結果的に、犬が彼を鼓舞することになる、というエピソードは準備されてませす。 彼らを狙う狂犬のような男が地井武男。主人公の犬よりも獣っぽい役どころ、確かに地井さん、目付きは鋭いのですが、顔立ちが整ってて、狂気までは感じさせず、迫力不足に思えます。こういうのは安っぽい映画ほど得意なところで、メイクで顔に傷痕のひとつでも描き込んで、迫力を補うもんです。 そして事件の真相に迫る型破りな刑事が、鶴田浩二。すぐに手錠を持ち出したりして破天荒さをアピールしますが、これこそ「人の良さそうな眼鏡のオジサン」にしか見えない悲しさ。もう少し落ち着いたキャラに変更してもよかったのでは。 で、それらの登場人物たちが日本各地を転々とする、その割には、妙に易々と互いに出会っちゃう。これを安易に「ご都合主義」とは言いたくないけど、でも、ここまで簡単に出会えちゃうと、スケール感を損なってる気がして(地井さん、アナタのことですよ!)。 しかし、銃撃戦あり、カーアクションあり、海上保安庁の協力あり、犬とアザラシの死闘(?)あり、そういった点での見せ場は多く盛り込まれて、映画を盛り上げます。銃で撃たれりゃ噴き出す血ノリの量も通常の2、3倍。森田健作など、どこからそんなに湧き出るのか、という血の量に、仕込まれた火薬の煙がまるで湯気を上げているようで、まさにこれぞ熱血漢。 あと、サービスとして、一番星桃次郎とおぼしき人物まで特別出演。チョイ役なので実現しなかったけど、もしも彼が島田陽子に出会ってたら、また例によって彼女の周りにお星サマがキラキラきらめいていたんだろうか。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-04-10 13:25:20) |