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1.  女相続人 《ネタバレ》 
 近代国家は婚姻の自由を個人の権利として認めるようになった。しかし、やはり現実の家庭では家長の承認がなければ、いかに相思相愛だろうと結婚はかなわなかった。19世紀中葉の米国でも、少なくとも上流階級の家庭ではそれが当然であった。  裕福な家庭に生まれた主人公キャサリンは、容貌は人並み以上であるが、性格は暗愚で非社交的な娘である。そんな彼女が一途に愛する相手はどこの馬の骨ともわからぬ無職の青年モーリス。そんな二人の結婚を断固として認めない父親。家父長制の観念が根強い日本人には共感しやすい設定である。 実は財産目当てで近づいてきたモーリスの真意を見抜けず、キャサリンは父の反対も押し切って婚約しようとするが、結局は見捨てられる。  ここからが本作の見どころである。大きく傷ついたことでキャサリンは、うぶで純情可憐な娘から、ふてぶてしく冷厳な女性へと変貌を遂げていき、自分を騙した男に痛烈な報復を食らわせるのである。このプロットはその後、どれほど多くのサスペンスドラマで模倣されてきたことか。  また、キャサリンが覚醒するきっかけが、余命いくばくもない父から「お前は何の価値もない娘だ」と卑下された時であった。その際も、キャサリンは衰弱していく父に対し、これまで溜め込んできた父への反発を一挙に吐き出して追い詰める。ここには、近代の個人主義が浸透しつつある時代において、娘の自立志向が家父長制の崩壊を呼び込むという構図がはっきり示されている。  104才という驚きの長寿の末にみまかったオリビア・デ・ハビランドは、訃報では判で押したように“『風と共に去りぬ』の”という枕詞が付けられていたが、2度目のオスカーを獲った本作がもっと語り継がれるべきである。それにしても、この人は笑っている時も眼が笑っていない。ベティ・デイビスのようなあからさまに毒と色気を含んだ目とはまた異なり、人の心を見透かしたり試しているかのようなささやかな底意地の悪さが感じられる。  そんな彼女からモーリスが痛烈なしっぺ返しを食らうラストは悲痛にして爽快。こういう幕の下ろし方で魅せるのも希代の名匠ウィリアム・ワイラーならでは。
[DVD(字幕)] 10点(2025-02-18 06:43:05)(良:1票)
2.  小原庄助さん
 何度観てもとおかしさとぬくもりを感じる名作だ。  ムラ社会における人情ともたれ合いが紡ぎ出す「共同体」の構造がユーモラスに描き出される。  「小原庄助さん」といえば、民謡『会津磐梯山』でおなじみ。「朝寝朝酒朝湯が大好きで、それで身上潰した」「もっともだ、もっともだ」と歌われるように“放蕩の権化”というべきイメージが独り歩きしているが、単純に考えれば、ギャンブルや女遊びに耽るのでないなら「朝寝~」くらいで身上潰れないだろう。  本作の主人公は旧家の大地主で村人から「小原庄助さん」の愛称で親しまれているが、戦後の農地改革で一気に左前になってしまった。にもかかわらず、野球、ミシン、ダンスなど習い事教室など農村の文化振興に借金までして積極的に寄付をするなど建設的な金の使い方に余念がなく(客人が来たら必ず酒をふるまうのは散財かもしれないが)、決して放蕩にうつつを抜かすような人物ではない。  その篤志家ぶりに加え、何より名家の出ということから村人から村長選挙に推されるも、これを固辞するように政治的野心もない。というよりは、「人柄」より「家柄」が立身出世の源となっていた従来の日本社会が敗戦後になってもはや転換してしまったことを彼は理解していたのである。  大河内傳次郎の現代劇というのはかなり貴重。その彼が抑えた演技で旧態依然にみえる農村社会にも押し寄せる「戦後改革」の波を屈託なく体現してくれる。  思わず吹き出しそうなエンディングの粋な遊び心も素晴らしい。
[DVD(邦画)] 10点(2025-02-14 02:25:04)《更新》
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