1. ミンナのウタ
《ネタバレ》 ネタバレしています。未見の方はご注意ください。 都市伝説的に有名な『暗い日曜日』や邦画ホラー『伝染歌』など、歌うと死ぬ系のギミックは既に存在しますが、本作の場合「歌うと消える」でした。とはいえホラーですから「消える=死」だと理解していましたが、一件落着後「現れる」というミラクルな着地を見せます。そのため作中現在進行エピソードでの死者数はゼロでした。これは『GENERATIOS from EXILE TRIBE』という人気アーティストを本人役で主演に配した影響であり、完全にネタバレですがGENERATIOSのリアルライブシーンで終幕します。そう所謂『アイドルホラー』ジャンルの作品。これは冒頭に記した『伝染歌』(AKB48)や本作出演の早見あかりが在籍したももいろクローバーの『シロメ』と同ジャンルということ。そもそもファン向けのアイドル映画ですからファンが納得すればそれで良く、あまり外野がとやかく言う筋合いはありません。ですが、とやかく言います。そういう趣旨のサイトなので。 一言でいってしまえば「トンチキホラー」です。決して正統派ホラーではありません。でもこれが「面白い」のです。この「面白い」には「笑える」と「ホラーとして楽しめる」の2通りの意味があります。前者については何といっても「劇中リアルカラオケ」が挙げられるでしょう。唐突に始まるGENERATIOS楽曲のカラオケ風ムービー。主演はマキタスポーツ。ホテルの夜景。ちゃんと画面に歌詞まで出ます。このスカシ(ギャグ)が秀逸でサスペンスで重要とされる「緩和剤」の役目を果たしていました。当然「こんなのフザけてる!」と立腹される方が居るかもしれませんが、そもそも「トンチキホラー」なので言うだけ損です。それよりも一人だけドラマ不参加メンバーが居ることを問題視しましょう。スケジュールの都合かな?ゴネたのかな?理由は分かりませんがライブシーンのみの出演でした。私は逆に滅茶苦茶ウケましたが、そのメンバーのファンだったらどう思うのでしょうか。気になるところです。後者については意外と言ったら失礼ですがホラーとしてちゃんと怖かったのです。演出面で際立っていたのは「はーい」のところ。これは同監督の『呪怨 白い老女』でも使用されているフォーマットで、その構造を理解していても鳥肌でした。掃除機のコードにしてもそうですが、日常風景の些細な違和感に由来する恐怖に私自身殊更弱いようです。設定面ではタイトルに隠された真の意味に震撼しました。これは相当にエグいでしょう。呪いの歌のメロディはキャッチ―で覚えやすいものの、すぐに忘れられるのが有難い。実生活に影響しません。もっともこれは私の加齢による効果かもしれませんけど。 「そもそも呪いのトリガーって何?」「みんなちゃんと歌を聞いていましたか?」「弟はどうやって殺されたの?」「呪い殺すより時空を歪ませる方がずっと大変な気がしますけど」等々。疑問点を指摘し出したらキリがありませんが、そこは「トンチキホラー」なので言ったら負けです。「トンチキホラー」最恐ではありませんが最強かも。 観終えてみればショッキングシーン控えめのマイルドな仕上がりで、デートムービーとしての実用性もあり。ホントか?GENERATIOSのファンは勿論、それ以外でも「トンチキホラー」を笑って許せる御方であれば(そこそこ)楽しめる映画ではないでしょうか。少なくとも私は嫌いではありません。ところで「みんなのうた」だと某SASの楽曲が思い起こされますが、カタナカ表記にすることで著作権的な話はクリアになるのでしょうか。いっそエンディングテーマに採用してくれたらアッパレだったと思いますがLDHが許しませんか?点数は4点~6点が妥当だと思いますが、本作についてはももクロちゃん加点が適応されます。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-08-20 18:15:37) |
2. みなに幸あれ
《ネタバレ》 以下私なりの解釈です。誤読ご容赦ください。また未見の方はご注意ください。 「生命を脅かすもの」や「理解できないもの」に対して私たちは恐怖を覚えます。本作は後者のタイプ。徹底して意味不明な展開に終始しており所謂「不条理系ホラー」に該当しました。ただ解釈は可能です。テーマはおそらく「年金制度」かと。「納税」や「国民皆保険」でもおおよそ当てはまりそうですが「老婆の出産」が判断の決め手となりました。 年金は世代間扶助。高齢者を現役世代が支える社会保障制度です。この観点で解釈を試みると物語は実にクリアとなります。横断歩道を渡る老婆への若者の気遣いは「年金制度」の理念を示していますし、生贄が中年男性から若者へ変わったのも昨今の社会情勢を反映したもの。そして前述した「老婆の出産」。ご丁寧にも分娩する老婆を大人2人が馬となって支えています。もちろん老婆が出産できるはずもなく『いくら高齢者を手厚く支援したところで喫緊の課題「少子化問題」など解決しませんよ』という強烈な皮肉が見て取れます。ちなみに世捨て人となった伯母さんは国民年金未払い者。社会不適合者の末路は哀れでした。主人公を「制度の主旨を理解せず批判だけする者」と捉えると、家族を含めた彼女の周りの冷ややかな反応も腑に落ちます。お気持ちで現状を否定するだけならば、彼女は確かに「お花畑」かもしれません。 年金制度を「誰かの不幸の元に成り立つ幸せ」と断じてしまうのは流石に暴論です。しかしそう言いたくなる気持ちも分からないでもありません。制度が破綻して血を流すのは受益者も負担者も同じ。それなのに皆他人事。危機感の欠如こそ最上級のホラーであります。目と口を塞がれ搾取される現状は、やはり正常とは言えません。たぶん年金制度自体は崩壊しないでしょうが、大きく様変わりし割を食う世代が出るのは必定です。それでも社会保障を維持する恩恵は一般大衆にとって絶大であり、ドロップアウトした伯母に比べれば「圧倒的にマシ」という現実は動きません。釈然としなくとも、これが「最大幸約数」なのです。この事実を受け入れることが「大人になる」なのでしょう。そんな大人になりたかったか?と問われると口籠ってしまいますが。幸いにも私たちに「最大幸約数」を増やす手立ては残されています。行きましょう。選挙。 解釈しない素の状態では「不条理ホラー」。解釈を加えると「風刺コメディ」に変化する二面性を持った作品(「パンケーキ食べたい」はコメディ宣言でよろしいのですよね)。まるで食べている途中で味変できるラーメンのよう。なかなか凝った意欲作だと思いますが、味変したラーメンが元に戻らないように解釈を試みた後はホラーには戻れません。そういう意味ではホラー直球勝負でも良かった気がします。画作りや演出のセンスを見るに監督に「ホラー適正あり」と判断しました。何より古川琴音さんのホラー適正が◎ですし(偉そうですみません)。 [インターネット(邦画)] 6点(2024-07-02 18:22:47)(良:1票) |
3. Ms.ベビーシッター
《ネタバレ》 冴えないベビーシッターがボーイスカウト(ガールスカウト?)で身につけたスキルを武器に家に押し入って来た狂信者と対決するお話。一昔前のホラーサスペンスでありがちな「何でそこでアドバンテージを放棄するの」「優先順位が違うがな」など、主人公の行動にフラストレーションが溜まり爽快感に欠けるのが辛いです。また前述のスキル紹介が状況にそぐわぬ軽めな(ポップな)演出のため緊張感も削がれがち。敵も強敵とは言い難く、どうにもこうにも締まりません。まさにB級サスペンスでありました。それでもキャラクターが魅力的ならA評価に覆える現金な私ですが、ヒロインが好みのタイプではなく残念(上から目線失礼)。ただしビジュアルイメージ(DVDパッケージ)より実物は美人です。活躍仕出してからはより一層魅力が増しました。多分ギャップ狙いで芋っぽさを強調したかったのでしょうが、単純に老けてみえます。基本的に残念な仕上がりの本作ですが、ボスとの対決シーンだけは素晴らしかったです。致命傷を負わせてもなお絶命するまで。僅か10秒ほどの攻防ですがスリリングで楽しめました。 ところでエンドクレジット後の一件(10ヶ月後の出来事)は一体何なんでしょう。悪魔?が娘に取り憑き、狂信者が望んでいたように世界の秩序が作り変えられたということでしょうか。正直分かり難いですし、そもそもそんな展開誰も欲していない気がするのですが。因みに原題は『ベビーシッター・マスト・ダイ』。こちらの方が圧倒的にキャッチーだと思いますが、何故に当たり障りのない邦題が付いたのか本気で謎です。 [インターネット(吹替)] 5点(2024-06-06 18:16:28) |
4. 宮松と山下
《ネタバレ》 香川照之が記憶喪失の役者というとまるっきり『鍵泥棒のメソッド』ですが、本作の場合コメディ要素は皆無です。淡々と綴られる日常。その全てが映画の中のよう。なぜ男は記憶を失ったのか。というより、なぜ記憶を失う必要があったのか。不意に、いやいや、訪れるべくして訪れた「宮松が山下を取り戻す瞬間」をどうぞ見逃さないでください。さすが名優香川照之の演技力。必見です。 ところで主人公の犯した「罪」の重さとは如何ほどでしょうか。法律というより倫理の領分。状況がいまいち不明ゆえ観客が審判を下すことは出来かねますが、少なくとも男にとってはリセットボタンを押したくなる程に罪の意識があったのは間違いないでしょう。記憶を失っていた12年はいわば懲役刑のようなものか。いや現状から逃げ出し自身の罪と向き合っていない以上罪を贖ったとは言えませんし、そもそも罪は消えません。そういう意味では12年の歳月は懲役ではなく執行猶予期間が正しいかもしれません。ただ、そうであったとしても12年は長い。誰かが「大抵の問題は時間が解決する」と言っていた気がしますが本当にそう。究極的には寿命が来ればご破算ですし。山下が言う「家族の問題」は兄が不在の間に自然と解決したように見えます。実際のところは分かりませんけども。ただ傍目からみる分にはこれで正解だと思いますし、宮松も納得している気がします。 それにしても記憶喪失で役者を志す思考回路が興味深い。消えたアイデンティティを探す感覚でしょうか。あるいは自分が無いから何者にでもなれる理屈でしょうか。正直宮松は役者としては三流ですが、過去を取り戻した今、一皮も二皮も剥ける可能性大かと。やはり土台があってこそ人は跳べるのです。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-05-21 20:15:05) |
5. M3GAN ミーガン
《ネタバレ》 もし本作が『バス男』とか『トランスモーファー』なんてパクリ邦題をつけた配給会社に当たっていたら『ミーガン・プレイ』とか『AIの踊りを観せて』なんてトホホなタイトルを付けられていたかもしれない。これが一番恐ろしい。ところで『エイリアン2』のオマージュありましたか? [インターネット(吹替)] 6点(2024-01-10 00:08:21) |
6. 見えざる手のある風景
《ネタバレ》 ネタバレあります。ご注意ください。 エイリアンによる地球侵略を描くSF映画ですが、戦前戦中ではなく戦後の「経済侵略」や「文化浸食」を描くのは珍しいかもしれません。形態は人間の植民地支配と何ら変わりません。エイリアンは見た目こそ違えど内面は人間と同じということでしょう。奴らは「特異な価値観」を有し「コミュニケーション」が可能でした。言葉が理解できる分かえってタチが悪い。言葉が通じない相手なら気持ちを分かってくれなんて思わないのに。 人類が「主権奪回」のために戦った形跡はあるものの長くは続かなかった模様です。それはテクノロジー(戦力)の違いというより植民地支配が成功している証。手法は「アメとムチ」「生かさず殺さず」「同化させる」。その第一歩が「教育」にありました。かつての脳神経外科の権威はエイリアン専用運転手に成り下がり、同居人家族は誇りを捨てました。静かに、ゆっくり、確実に、人類はアイデンティティを奪われてゆく。見た目以上に恐ろしい物語でありました。人類に希望が残されているとすれば、主人公が見せた芸術家としての矜持でしょうか。彼が取った「愚かな選択」の中にこの支配を脱するヒントが隠されていそうです。人類が目覚めるのが先か、はたまた飼い慣らされ家畜に落ちるのが先か。かなり分が悪そうな戦いではありますが。 ところでエイリアンの造形はまるで寄生獣(原作:岩明均)でしたが何かしら影響を受けているのでしょうか?また奴らが人間の言葉を話す仕草が何とも面白い。手の動きはハエがモチーフですか?SFパッケージとしてユニークな装丁であり、独特なテンポを持つブラックコメディとして一見の価値がある映画だと思います。エンタメ的に凄く面白いかというとそんなことはありませんけども(失礼)。最後にタイトルについて。一般的に「見えざる手」とはアダム・スミスの『国富論』に由来する経済用語であり「市場における自由競争が最適な資源配分をもたらす」の意味だそう。あるいは「神の見えざる手」とも。難しい事は分かりませんが「自由な市場競争バンザイ」と捉えて良さそうです。でタイトル『見えざる手のある風景』に戻りますが、これは本編ラストカットをこれまで主人公が描いてきた絵画(奴らが言うところの人間芸術)に見立て、名づけられた表題でありました。要するに皮肉です。この荒廃した世界のどこに自由競争の恩恵があるんだよ。あんな気持ちの悪いお尻フェイスな生き物が「神様」では貧富の差は開くばかりじゃないか。一応体裁はSFですが、本質的には現代のリアルな巨大資本経済の弊害を憂いた風刺映画でありました。 [インターネット(吹替)] 7点(2023-12-26 18:21:58)(良:1票) |
7. ミセス・ノイズィ
《ネタバレ》 元ネタは当時世間を賑わせた通称『騒音おばさん』。「引っ越せ、引っ越せ、さっさと引っ越せ、しばくぞー」とリズミカルかつパワフルに布団を叩く姿はインパクト絶大で、ワイドショーネタに疎かった私のような者でもハッキリと記憶しています。ただ、詳細については承知しておらず、こんな隣人がいたらたまったもんじゃないなと感じた程度の話。言い方は悪いですが、人面魚やアザラシのタマちゃんと大差ない、暇潰しとして消費されるネタキャラの一つに近い感覚だった気がします。 さて、センセーショナルなパッケージとは裏腹に、ドラマとしては実に丁寧に作られており感心しました。加害者、被害者、それぞれの視点で捉える事象。同じ意味の台詞でも言い方一つで印象が大きく変わりました。まさに『ミステリと言う勿れ』の整くんの持論「事実は一つでも真実はその人の数だけある」のとおり。改めて「一方を聞いて沙汰するな」を肝に銘じた次第です。結末は些か綺麗にまとめ過ぎかもしれませんが、心から反省した者へのセカンドチャンスは大歓迎であります。また元ネタの当事者が存命ゆえ双方に配慮する必要があったかもしれません。 最後にひとつだけ。これは実際にあった事件に着想を得た完全フィクションであるということ。実際の『騒音おばさん』事件の真相とは無関係です。ネット上では嘘やデマを含む様々な情報が散乱しており、その中から事実のみを抽出するのは不可能です。極論すれば裁判結果でさえも「事実らしきもの」でしかありません。数多くの情報を得やすくなった現代、私たちは以前より事実に近づけるようになったのでしょうか。結局は自分次第かと。信じられる自分でいられるように、でも自分を信じすぎないように。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-05-14 16:46:16) |
8. Mr.ノーバディ
《ネタバレ》 邦題は『Mr.ノーバディ』原題は『Nobody』。私は勝手に「誰でもない男」=「どこにでもいる普通の男」と意訳してしまい、DVDパッケージのキャプションも相まって、マイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』みたいに一般人がブチ切れるお話だとばかり思っておりました。しかしこれが全く的外れ。タイトルは『存在しない人』が正しく、主人公は何処にでもいる普通のオジサンではなく、国家レベルの力で存在を隠蔽してしまうトンデモない素性の男でありました。劇中の台詞を借りるなら、羊の皮を被った『狼』どころではなく『オルトロス』『キマイラ』あるいは『ケルベロス』クラスの化け物だったワケであります(注:当方現在『真・女神転生Ⅴ』にドハマり中です)。まあ、とにかく強いこと。でも決してスーパーマンではありません。普通に反撃をうけて傷だらけ。彼の凄さは技術面ではなく、精神面の方。修羅場を潜った経験値がべらぼうなんでしょう。そんな主人公のキャラクターが実に魅力的で、「やりすぎ」「無茶しすぎ」「ちょっとオフザケ」な超絶バイオレンスアクションを存分に堪能することができました。音楽もサイコー!大別すると『キック・アス』とか『ザ・ハント』と同じバイオレンスアクションで、コンプライアンス無縁の代物でありますが、体に良くないものほどオイシイのが世の常であります。 [ブルーレイ(吹替)] 9点(2021-12-06 22:19:58) |
9. 未来のミライ
《ネタバレ》 個人的にこのテーマはドストライク。くんちゃんが、お気に入りの黄色いズボンを前にして、青いズボンを脱ぎかけてまた履くシーンがツボ。映像で語るとはこういうこと。ファンタジー設定も理屈っぽくなく軽やかで良いじゃないですか(クレヨンしんちゃんか)。唯一注文を付けるとすれば、細田守は宮崎駿を目指さなくていい。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-06-07 18:26:59)(良:1票) |
10. ミッドサマー
《ネタバレ》 盛大にネタバレしています。未見の皆様はご注意ください。 学生たちが訪れた村は、いわゆる『カルト教団』のコミュニティ。その特異な風習は、我々の価値観(ルール)の範疇から逸脱するものでした。しかし学生たちは当初『文化の違い』と捉えました。研究対象としての魅力に抗えなかったのでしょう。もちろんこれは誤りです。我々の社会が許容できない価値観を『文化』とは呼びません。『蛮行』、いや『習性』でしょうか。狼が小動物を食らい、小鳥がさえずるが如し。村人は良心の呵責を一切感じる事無く人を殺せました。同じ顔、同じ言語を話しても、基本的な価値観を共有できなければ、それはもう『別種の生き物』です。DNA的にはどうあれ、『野生動物』や『宇宙人』に同じ。この要点を見誤ったが故に、学生たちは命を落としました。彼らは危機に対して鈍感過ぎました。 『別種の生き物』とは共存するのが人類の基本戦略です。豊かな生態系を維持することは人類にとって有益だからです。人の多様性を認めるのも然り。しかしカルトは、人間社会にとって百害あって一利なしです。我々の文化・生活圏と隔離されているならまだしも、彼らは人間社会に足を踏み入れ『尊厳』を踏みにじりました。これは看過不可。『文化の違い』などでは決してなく、我々にとってはただの犯罪集団、というより『害獣』です。世間に気づかれたら最後、コミュニティの解体は免れません。にも関わらず、長年集団が維持されてきたのは、そのシステムが巧妙であったからと考えます。 (ここからは完全推論です)最重要ポイントは、村人全員がそこで生まれた者ばかりということ。第1期(誕生~18歳まで)は教育期間。村の『常識』を植え付けます。『常識』に理論武装は必要ありません。だから最強。異なる価値観に触れたところで揺らいだりしません。工作員の学生は「自分も親を亡くした」と口にしていましたが、これは主人公を取り込むための方便でしょう。村に親子の概念なし。全員が家族ですから。我々にとって村人が『別種の生き物』であるように、村人にとっては外界の人間もまた同様。役目が終われば全員廃棄でしょう。また、注目すべきは村の憲法『経典』を常にアップデートできること。彼らは常に外界の文化文明に触れていますから、古の理では満足できなくなること必至です。時代の流れに沿うように経典を書き換えられる制度設計が、村の維持に大きく役立っているのは間違いありません。そういう意味では『蛮行』が廃止になる可能性もゼロではありません。しかし『伝統』は『常識』に負けない強固な概念。簡単には覆せません。ちなみに、意図的に障がい児を作り出し『無垢なる王』に据える手法も見事な知恵と言えましょう。神輿の上は軽いほど良く、有力者に都合がよい「神託」を出す便利な道具であります。 気づけばバッドエンド一直線の物語は恐怖でしかなく、ホラーとして一級と考えます。しかしその一方、サスペンスとしては選択肢がないため物足りません。学生たちには最低限、生きる為に足掻いて欲しかったなあと。これが本作に対する率直な感想です。同じ設定・脚本で、市川崑監督とか堤幸彦監督だったら、どんな物語になるのか見てみたい気もします。 [DVD(吹替)] 7点(2020-11-25 19:24:15)(良:3票) |
11. ミッドナイト・バス
《ネタバレ》 ネタバレあります。ご注意ください。 家族の終焉を描く物語。妻は嫁姑問題でいち早く離脱、娘は起業し家を出て、息子は異国へ旅立って行きました。寂しい事ではありますが、遅かれ早かれどの家族にも訪れるイベントです。たんぽぽの綿毛が飛び立つように、今居る場所から別の場所へ。辿り着いた先で根を張り、また新たな家族をつくります。多くの生物がその種族を繁栄させるために採用しているシステムとも言えます。さて、最後に残されたのは夫でした。大仕事終えた男の、今後の身の振り方や如何に。残りの人生、自由気ままに謳歌する道もあったでしょうが、彼が望んだのは新たな家族の構築だったようです。余力があるオスとして正しい選択に思えますが、如何せんタイミングが遅い。遅すぎます。一つ仕事をやり終えてから、次の仕事に取り掛かりたい気持ちは分かりますが、自分の都合だけで仕事は出来ません。ましてや協働必須の家族構築であれば尚更のこと。初婚ではないにしても、若い女性の貴重な時間を無為に奪った罪を、彼はきちんと理解しているでしょうか。今カノに別れを告げた件は、確かに彼女の将来を慮っての事でしょう。でもその背景には、元妻と復縁の青写真がチラつきます。要するに男は“独りになりたくなかった”だけでは。パートナーは元妻でも今カノでも、どちらでも良かった気がします。そもそも元妻との離婚も、夫が真剣に家族と向き合っていたら避けられた話。コニタン、そんな男がいいんですか。生活拠点はどこにする?家計の分担は?子どもを望む?本気で2人の将来を見据えていたら、課題を放置などしません。物分かりのいいコニタンは「一定の距離を保ってくれて楽だ」と言いますが、男に覚悟が無いだけです。コニタンほどのイイ女であれば、誠意のない男など袖にして問題なし。コニタンには情に流されぬ賢明な判断を期待します(注:本文中のコニタンとは小西博之ではありません)。 物語を整理してみて、改めて「良いお話じゃないな」と思います。泰造はダメ男でしょう。でもこれが結構標準的な男の姿という気もします。私も面倒な案件は後回しにしますし。そういう意味では、模範的ではありませんが、リアルな人生の有様が描かれていたと思います。それに子どもがちゃんと巣立ったのですから、十分合格点の『家族』ではありますし。さて、これからの2人について。結局コニタンは泰造を受け入れる気がします。やっぱりモテ男は強いですから。悔しいなあ。私が脚本家なら、「復縁なんて、許可しません(ハート)」でワインを頭から掛けてやりますけども。で、そのあとチューな(ツンデレだな)。 見慣れた景色が多数出てくるご当地映画で、本作の深夜便はライブ遠征等で大変お世話になった路線です。という諸事情込みで、若干甘目に採点しております。 [インターネット(邦画)] 8点(2020-09-25 18:54:48)(良:1票) |
12. ミス・メドウズ ~悪魔なのか? 天使なのか?~
《ネタバレ》 主人公のキャラクターが強烈です。歳の頃は三十路半ば。クセのある美人。ガーリーな服装にハンドバッグ、手袋、白のロングソックスにタップシューズがマストアイテム。そこはかとなくメン〇ラ臭が漂います。で、悪人を見つけたら躊躇なく引き金を引くという。イメージ的にはアダルト版『ヒット・ガール』かと。メドウズ役のケイティ・ホームズのルックスが、アリよりのナシというか、ナシよりのアリというか、もう絶妙でした。地雷女なのは火を見るより明らかなのに、それでも手を出したくなる不思議な魅力を醸し出していました(熟女好きってこんな感じなのかな)。トム・ク警官の気持ちも分かります。ただ避妊をしなかったのはアホとしか言いようがありませんが。悪趣味と言われようとも能天気に徹した『キック・アス』とは対照的に、本作では主人公の内面に潜む闇に訴求しています。真面目かと。でも悪手です。この手のお話は、言い訳しないのがお約束なのに(ルパン3世だって泥棒の言い訳はしないでしょ)結果、辛気臭くなったばかりか、観客に善悪の是非を考えさせてしまい、爽快感が目減りしてしまいました。誠に残念であります。ところで私は吹き替え版を鑑賞したのですが、メドウズの日本語吹き替え声優さんが明らかに下手でした(ごめんなさいね)。なんとなくタレントのローラっぽい感じ。コレ、普通ならマイナス査定ですが、本作に限っては吉と出ました。子どもがそのまま大人になったような危うさが、上手く表現されていたと思います。調べたところ「川崎サキ」さんという女優さんだそうですが、誰やねん(またまたごめんなさい)。この起用がコネか何かであるならば『奇跡』ですし、ちゃんとオーディションで選んだのであれば『お見事』としか言いようがありません。 [インターネット(吹替)] 6点(2020-08-10 18:25:43)(良:1票) |
13. ミッドナイト・アフター
《ネタバレ》 (ネタバレ含みます。未見の皆様はご注意願います。あと長文になってしまいました。ごめんなさい。) それでは謎解きを。嘘です。テキトー妄想解釈です。参考程度でお願いします。 バスはデロリアン号に同じ。核燃料未搭載なれど、性能は遥かに上。瞬きする間に6年後の未来にタイムスリップしました。行き付いた先は人気の無いまるでゴーストタウン。ライフラインが機能していることから、直前まで人々が生活していた事は明らか。近くで原発事故が起き急遽避難したため、街はもぬけの殻だった。これが事象の外郭と考えます。 次に詳細をつめましょう。まず彼らが死んだ理由。これは飛び越えた6年の間に、本来各人に起こるはずだった出来事と解します。それが遅れてやって来た。発火した者、体が崩れた者=火葬されるはずだった人(こちらは原発事故とは無関係)。死斑の方は疫病の可能性を示唆します。捕えたガスマスク男の異常な怯えの理由も、放射能というよりこちら。何なら、原発事故も疫病に起因する人災かもしれません。つまり彼らが知らない6年間に、香港で凶悪な疫病が流行し、直近には原発事故も起きた。ガスマスク集団は政府の救助班でしょう。ほとんど輩ですが。と、ここまでは常識的?な推測が可能な範囲。 問題は以下のワケワカラン要素です。「一斉電話」「赤い雨」そして「ユキちゃん」。ついでに「タイムスリップ」も含めましょうか。ここからは大いに妄想力を働かせてみましょう。電話の主は、かつての流行歌の歌詞をモールス信号で送って来ました。典型的な「宇宙からのメッセージ」。赤い雨=血の雨。『宇宙戦争(2005)』でも同様のシーンがありましたね。ユキちゃんには記憶障害が見られ、時折人ならぬ雰囲気を醸し出していました。もしかして『カイル・マクラクラン状態』では。タイムスリップなんてそもそもあり得ません。でもそんなテクノロジーを持った知的生命体がいたならば・・・。 ではまとめます。「事件の黒幕は宇宙人。彼らの目的は人類を捕食すること。まずは疫病で弱らせよう。でもその前に保護に値する種族か見極めてから。サンプルはマイクロバス乗客。宇宙人は若い女性に憑依し乗客に紛れ込むことに。タイムスリップにより彼らを隔絶・極限状況下へ。そこでの行動を観察しよう。結果、蛮行を働く者。そしてそれを咎めるための蛮行。保護する価値なしと判断された人類は、宇宙人に捕食され血の雨を降らすことになりましたとさ」ちなみにヤク中男もその不死身ぶりから宇宙人の可能性あり。占いおばさんの自説通りと考えるのも面白いと思います。以上です。 このように宇宙人説を採用してしまうと、本作に限らずほとんどのミステリーが意味を為さなくなります。宇宙人って無敵。超便利。だからこそ丁寧な説明や、繊細な伏線が必要だと思うのですが、本作の場合悪ノリで突っ切った感があります(そこが魅力でもありますが)。とはいえ、「バス乗客全員死亡説」を最初に口にすることで、如何にもありそうなオチを真っ先に排除するあたり、意外と親切な面も見られます。バラエティに富んだキャラクター造形もお見事でした。私的には、“投げっ放しと見せかけ、実はしっかりクラッチされた綺麗な放物線を描くジャーマンスープレックスホールド”との印象です。このニュアンス、伝わりますか。 [インターネット(吹替)] 8点(2020-05-20 18:50:33)(良:1票) |
14. 三十路女はロマンチックな夢を見るか?
《ネタバレ》 本文激しくネタバレしております。未見の方はご注意ください。 クライムサスペンス+ヒューマンドラマ。前者の感想から。おそらく観客から総ツッコミが入るのは、強盗犯がアホだということ(良く言えば人がいい)。3人組が主人公宅に押し入るワケですが、余裕で逃げられます。もちろんそれで即御用では物語にならないので、主人公が“ある思惑”を持って強盗犯と行動を共にするという仕立て。主人公の行動原理で、まずミスリードが働きます。退屈な日常からの逃避。この部分はOKでしょう。ただし注文が付くのは、彼女の素性に関するヒント。単に“仕事に遣り甲斐を見いだせない公務員”で十分でした。何故に制服姿の同僚まで映してしまうのでしょうか。『どんでん返し』におけるヒントは細心の注意と計算が必要です。この致命的なミステイクで、『どんでん返し』の予備知識がある観客は結末を察してしまいますし、そうでない観客でも衝撃は各段に弱まってしまいます。ミステリーの手際は“バカ正直過ぎて下手”との印象です。次にヒューマンドラマパートについて。テーマは“夢を取り戻せ”(予告編より)。何だか某世紀末救世主伝説のテーマを思い起こさせるフレーズですが、これまた『何だかなあ』という感じ(阿藤快の口調で再生希望)。かくいう私も主人公と同じくチャレンジせず夢破れた組なので偉そうなことは言えませんが、生きてりゃ何かありますって。日常って意外とスリリングですよ。いろんな体験なり感情なりを咀嚼しながら、日々自分の人生を作っていくんです。主人公がこの刺激的な体験を通じた“自己改革”で導き出した答え=タイトル『ロマンチックな夢』を叶えた結末を否定する気は毛頭ありませんが、表層的で安易な着地点ゆえ『何だかなあ』と思ってしまうのです。ロマンチックって、もっと広い意味で考えて良いんじゃないかなあ。三十路ならではの経験値と視点をもってさ。 [DVD(邦画)] 5点(2019-07-30 18:55:41)(良:1票) |
15. ミスミソウ
《ネタバレ》 壮絶ないじめ、両親を焼き殺される!~からの~復讐劇と聞いていたので、それはもう陰惨かつ過激な敵討ちを想像しておりましたが、実際それほどでもなく。確かに主人公の殺戮ぶりは容赦なく一線を越えておりますが、ヤッパ片手に敵地に乗り込む積極的な報復(任侠映画の如きノリ)はなく、見方によっては正当防衛(というか過当防衛)の範疇と言っても差支えない反撃に終始しています。あくまで相手からの仕掛けを待っての倍返し的な。決して仇の絶命や、苦しむ姿を見たいがための殺人ではありません。社会生活を営む人間が決して外すことのない“リミッター”を解除しているだけと見て取れます。ある意味それも致し方ないこと。本来コミュニティが保持している抑止力なり秩序なりが、何ら機能していないのですから。唯一覚悟を決めて対峙したであろう親殺しの実行犯にさえトドメを刺さぬばかりか、発端となった首謀者に赦しを与える主人公。復讐劇としては物足りなくもありますが、その分終盤に意外な展開が待っていました。もう誰も信じられない地獄の結末。八方塞。希望ナシ。ハッピーエンドが望めない物語であることは解りますが、そこまでやるかと。もちろん加害者に赦しを与えたところで魂が救われるとは思いませんし、差し違えての敵討ちにも価値は見出せません。ただ唯一、救いらしきものがあるとすれば、主人公とイジメ首謀者の間に、友情が僅かに残っていたことでしょうか。実際、首謀者は親殺しに直接関わっていませんでした(コレ重要)。首謀者が指摘した「他人の尻馬に乗って暴走する取り巻きは質が悪い」は正論だと思います(ただし、お前が言うなとは思いますが)。他人をダシに使って己の悪行(憂さ晴らし)を正当化するのは、卑劣極まりない行為です。責任をとる気が無いから、何でも出来るとも言えるでしょう。無責任な馬鹿が一番怖いということ。なかなかの鬱映画でありました。一瞬ギャグか?と思えるような軽薄なセリフや描写が散見されたのは何故でしょうか。除雪車が人を巻き込んでも緊急停止しないとか。基本設定は勿論ですが、全体的にリアリティを排除しているように感じました。マンガ原作ゆえのこと?あるいは凄惨な物語を薄める為に、わざと狙って粗いつくりなのでしょうか。 [DVD(邦画)] 6点(2018-10-30 20:25:15)(良:1票) |
16. ミックス。
《ネタバレ》 『スポ根』+『ラブコメ』+『サクセスストーリー』の教科書どおりの仕様。それゆえ観易いというか、手堅いつくりとの印象です。細部に気配りも感じられました。例えば、元天才卓球少女と元プロボクサーというポンコツ負け組が、実業団トップと対等に渡り合うという“無理難題”を成立させるために数々のギミックが用意されています。「一流選手はミックス専門の練習はしない」「元天才卓球少女の底力」「一流ボクサーの運動神経」「1年という長尺の特訓期間」「右利き+左利きコンビのアドバンテージ」「道場破りで実力アップ」「元中国ナショナルチーム選手のコーチング」「敵チームの不仲」。これだけでも、本作が『卓球』というスポーツに対し敬意を払っていると言えましょう。それでもなお、卓球で必要とされる“技術”は一朝一夕で(下地のあるガッキーは兎も角も、瑛太は無理)身に付くものではありませんし、こと練習量で実業団選手を上回るとも思えません。元中学卓球部員としては、“在り得ない”と思うワケであります。また、男女混合(ミックス)を安易にラブストーリーのダシに使った点が腑に落ちません。それなら『社交ダンス』とか『フィギュアスケートペア』とか、男女が体を密着させている競技なんか、もう絶対デキてるって話じゃないですか!(失礼。興奮してしまいました。)冗談はさておき、肝心のラブストーリーが弱いことは否めません。決戦直前、卓球王子様からの再誘惑は「恋の最終ハードル」なのでしょうが、流石に無理があるでしょう。教科書に沿うがあまりの不自然さ。そもそもガッキーが冴えないOL役だったり、浮気されたりする時点で「そんな馬鹿な」ではありますが。サイドストーリーのドラマ(夫婦が卓球に打ち込んだ秘密、元ヤン心の解放)の方が、出来が良かったりします。 [ビデオ(邦画)] 6点(2018-10-25 19:53:42)(良:1票) |
17. ミッション:インポッシブル/フォールアウト
《ネタバレ》 シリーズ最高峰のハイスパートアクションエンターテイメント!笑い控え目、シリアス多め、目まぐるしく入れ替わる攻守、そして表と裏。ハントが何時にも増してよく走る!巧みな脚本とサスペンスフルなストーリー。シリーズの総括であり、新たな始まりとも言える本作は『ミッション:インポッシブル』ブランドの力を遺憾無く発揮した見事な大作でありました。ただ、個人的な好みを言わせてもらえれば、あの人には死んで欲しくなかったです。今回は徹底してシリアスモードだっただけに、主要キャラの一人や二人死んでも不思議は無いのですが、だからこそ死人を出さずにドラマを成立させることに挑戦して欲しかった気がします。“仲間一人の命も大切に“が本作のキーワードであったわけですから。とはいえ、満足度は満点級。映画館で観るべき映画でしょう。あっという間の2時間半でした。以下余談。大スター、トム・クルーズにも流石に加齢の波が感じられるようになりました。ハイクオリティを誇るシリーズを終わらせるのは如何にも勿体ない話ではありますが、そろそろキレイに店じまいをする頃かもしれません。すっかり売れっ子になったジェレミー・レナーにも復帰して頂いて、有終の美を飾って欲しいと願うワケであります。 [映画館(字幕)] 9点(2018-09-10 12:19:05) |
18. 巫女っちゃけん。
《ネタバレ》 お寺(お坊さん)を扱った映画だと、元シブがき隊のモックン(←誰ももうこんな呼び方はしない)の『ファンシイダンス』や元チビノリダー(←これまたもう誰も呼ばない)の『ボクは坊さん。』、あるいは元ともさかりえの旦那(←スネオヘアー)の『アブラクサスの祭り』など、すぐに幾つか思い出されますが、神社(神主や巫女さん)を扱った映画ってほとんど無かった気がします靖(スッとぼけ)。日本人にとって身近な存在でありながら、実はよく知られていない神社の経営や巫女さんの生態が、どう映画の中で描かれるのかと期待しておりましたが、秘密のベールが脱がされるなんて部分はナシ。至ってオーソドックスなヒューマンドラマ&コメディとの印象でした。ネグレクトの少年と、同じく幼少期に母と別れた主人公(巫女さん)の心の交流がメイン。ぶっきらぼうなアリスちゃんがなかなかに魅力的でありました。設定、展開ともに“基本的に”ベタなのですが、ちょいちょい?が付く描写が。放火とか、カッターナイフで切りつけるとか、小さい子供にやらせたらイカンですよ。おそらくコメディとして許容される一線を越えています。悪戯は頭にゲンコツでは済まされる範囲でないとね。問題解決(ネグレクト母の改心)もイマイチ理由が解りませんが、それが「神様の力」と言われてしまうと、ぐうの音も出ないのがもどかしいところです。まあ、アリスちゃんの絶品巫女姿が頂戴できるという点で、すでに本作の存在価値が担保されているワケではありますが。 [DVD(邦画)] 6点(2018-08-30 19:16:58) |
19. Mr.&Mrs. スパイ
《ネタバレ》 “スパイコメディ”は映画で人気のジャンル。サスペンスの緊張感が笑いを際立たせるという構造です。ちなみにダウンタウンの『絶対に笑ってはいけない~』シリーズも同じ仕組みですね。サスペンス強めから、ガッチリコメディまでテイストに幅があるのも特徴でしょうか。さて、本作の場合はどうでしょう。平凡な家庭のお隣に越してきた“パーフェクトな夫婦”が実はスパイでしたという王道設定。本来ならスパイは目立ち過ぎ厳禁のはずですが、そこはエンタメ重視。スタイリッシュなアクションも見どころのひとつで、笑いは控え目。盗聴あり、尾行あり、留守宅への忍び込みあり、銃撃戦ありと、およそ『スパイもの』のフォーマットをキッチリ抑えた正統派スパイ映画とも言えます。さらにヒューマンドラマの傾向も顕著で、ハラハラ・クスリで最後はホロリと、盛り沢山。ただし、平気でヒトが死にますし、下ネタもガンガンですので、家族団らんで楽しむタイプの映画ではありませんのでご注意を。『ワンダーウーマン』ガル・ガドット様目当てで鑑賞しましたが、文句なしの美貌に大満足。さらに何処かでみたオッサンだなと思ったら『ハング・オーバー』の奇人アランの姿が。実に立派になったものです。幕の内弁当的にバランスの良い映画ではありますが、個人的には“ちょっと物足りない”という感想です。 [DVD(吹替)] 6点(2018-03-30 21:21:34) |
20. ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
《ネタバレ》 安全安心のループ人生は、未来に対する夢と希望を放棄して得たもの。不老不死、何人からも脅かされない人生は、確かに魅力的ではあります。世間の酸いも甘いも知り尽くした大人(一般的には親。本作の場合は守護者)からすれば、“見えないモンスター=世間の迫害”から愛する子供たちを守る事に大義はあるでしょう。しかしその一方、その選択が本当に子どもたちにとって最善と言い切れるのか?という葛藤も、ミス・ペレグリンの何処となく不機嫌な態度から観てとれるような。少なくとも、奇妙な子供たちの親は皆、ループ人生を選ばなかったに違いないのですから。そんな囚われの天国(永遠のモラトリアム)にやってきたのは、透明なモンスターを見る能力を持った少年。そう、彼の長所は単に“見える”だけです。モンスターと戦う力は持ち合わせていません。ここがポイント。彼は“勇気”の象徴でした。実際に戦って勝てるかどうかは別問題。それでもなお、戦おうとする心が勇気です。戦う能力はあっても、戦う勇気を持たぬ子供たち。戦う勇気があっても、戦う術を持たぬ少年。この出会いに意味が無いはずがありません。果たして彼らは、力を合わせて危機を退けました。勇気を知った子供たちが次に戦う相手は一体何でしょうか。前の“勇気”はチャンスを逃しましたが、今回の“勇気”はどうやら待ち合わせに間に合った様子。1人で戦えぬのなら2人で戦えばいい。捨てたはずの夢と希望が、今また手の届くところにある幸運を、彼らは知らねばなりません。いや、その気になれば何時だって、誰だって。キスそして船出。映画的に極めて正しいエンディングには、子供たちの輝ける未来が詰まっています。 [CS・衛星(吹替)] 9点(2017-11-30 19:42:11) |