1. 無法松の一生(1958)
《ネタバレ》 未見にもかかわらず、何故か観たようなつもりになっていた映画っていうのが自分の中に結構あるんですが、これもそのうちの一本。オリジナル=モノクロ阪妻版は大昔、子供の頃見た記憶があるけど、あまりに昔過ぎてよく覚えてないや(笑)先日観た川島雄三監督「わが町」(8点)で辰巳柳太郎が演じたタアやんと同じく、いまやほぼ絶滅種となった「正しい日本快男児の美徳」標本のような魅力的な男の一代記。画面作りや演出も、非常に厚みがあって丁寧で感心。内務省の介入で肝心なシーンをカットせざるを得なかったという、オリジナル版への稲垣監督の熱き想いが伝わってきます。憧憬の対象、吉岡未亡人が高峰秀子っていうキャストも文句なし。今の感覚だとこの未亡人が都合のいいように松五郎を使っていると感じてしまうのはどうしても無理からぬ事だが、明治時代ならこういう身分の格差はごく自然的なものだったはず。ジレンマに懊悩する三船の無償の献身愛っぷりに、とにかく自分は泣かされました。多分、序盤ちょっとだけ出てきた吉岡大将=芥川比呂志の男っぷりに惚れたせいじゃないかなあ・・・。あの旦那がたいした事のないフツーの亭主だったら、あそこまで未亡人に対してストイックな態度を取らなかったんじゃないかと自分は思うんですよね。それだけに花火の夜、遺影の前でうなだれる、彼の苦悩の大きさが実感として観客にも伝わってくるわけです。「正しい日本映画の美徳」が顕著に現れた秀作として高く評価させて頂きます。 [DVD(邦画)] 9点(2008-03-07 11:30:47)(良:1票) |
2. 娘・妻・母
数少ない高峰秀子と原節子の共演作という事で期待していたんですが、いわゆる「両雄並び立たず」の典型映画になっていたのが残念ですね。映画の役柄さながら、高峰秀子が先輩=小姑役原節子に華を持たせ、立てよう立てようとしている様子が見え隠れしました。いつも成瀬映画では最初仏頂面をして登場してくる彼女が、ここでは全編にわたりずっとぶっきらぼうで不機嫌そうにも見える。というより、彼女の「妻」役にそもそもあまり明確な性格が与えられていないような気が。高峰秀子ともあろう女優が数多くの登場人物の中に埋もれ、あまり存在感を発揮していない映画なんか自分は初めて観ました。脇にいる団令子や草笛光子の方がよっぽど演じ甲斐のあるやくどころ。高峰秀子主演作という事ではやや不満があるけれど、一個の映画としてみると、これは大スター総出演成瀬版「楢山節考」なのかなあと。あちこちにエピソードを広げすぎ、肝心のテーマが絞り切れなかったような印象も残ります。今ならこの二時間の内容を、橋田連続ドラマで半年くらいにわたって登場人物が下品に口角に泡吹かせ、カンカンガクガクと遣り合うオハナシでしょうねえ・・・。 [DVD(邦画)] 6点(2008-02-09 10:51:48) |
3. ムーンライト・マイル
ヤバい・・・、これ俺大好きな映画なんだけど・・・。途中からずっと大泣きだったんだけど。ここでの評価が意外に低くて正直びっくりです。しかも8点から上が一人もいないなんて!な~ぜなんだろ?どしてなんだろ?(←古い)ジェイク・ギレンホール君はいわゆる典型的な二枚目じゃないけど、観客を演じる人物に感情移入させる不思議な術を身につけてる役者だと思います。彼のマスクが気持ち悪いっていう人の意見もよく解るW。「遠い空の向こうに」から順調にキャリアを伸ばしてるんで、これからも期待度大ですね。自分には一連の彼の行動、優柔不断だとは思いませんでしたけどねえ。おそらく僕自身が、彼に輪をかけた救いがたい優柔不断人間だからかもしれません(汗)。愛する家族・親友を突然失った喪失感、そこからの回復への過程は「息子の部屋」より数段巧く描けています。脇のホフマンとサランドンがこれまた何とも言えないいい味わいを出して見事なサポート。人が信じられなくなった時、愛情に飢えてる時に観るとたまらなく心に沁みてくる秀作。 [DVD(字幕)] 9点(2005-12-02 11:21:44) |
4. 息子(1991)
寅さんシリーズもそうだけど、山田監督の映画にはほとんど悪人が出て来ない。それでいてこんな面白い人間ドラマが作れるのが凄いと思います。当時の和久井映見の笑顔には、永瀬じゃなくてもヤラレちゃいますよ。しかもキスシーンが殊のほか積極的でびっくり。ラスト親父さんが見た幻、あれこそ山田監督が思い描いてる理想の家族像なんでしょうね。これで「いいではないか!」 [DVD(字幕)] 8点(2005-06-18 12:19:17) |
5. 息子の部屋
タイトルとのギャップに戸惑ったけど(ドラッグとか女モンの下着やらがドシドシ出てきてもっと下世話なお話になるのかと)うん、これはこれで面白かったです。日本映画ならもっと感情過多でベタベタな展開になると思うんだけど、この映画にはいい意味でイタリア人らしいドライさが出てました。恋人の死に執着しないガールフレンドの存在もユニーク。 [映画館(字幕)] 7点(2005-05-08 15:54:54) |
6. 宗方姉妹
これは小津としてはストーリーを語る事にもう精一杯状態の失敗作だと思う。なにより高峰秀子という女優が小津映画向きでない事が一番のマイナスポイント。実際木下、成瀬映画での彼女の自然体名演技を観慣れた方なら、いかにこの映画の窮屈な画面の中、無理矢理な「小手先芝居」をさせられているかわかるはず。映画のメインテーマとなっている「何が古いもので何が新しいものか」という議論云々より、言わなければいけない事を腹の中にためているだけの姉と、思った事をズバズバすぐ口に出して周囲を困惑させる妹、それぞれの性格設定自体にそもそも問題あり。笠智衆の父親が不治の病という設定もなんだが意味ないような感じ。えへらえへらと薄ら笑いを浮かべているだけのモテモテ上原謙より、無職のプータローだがどっしり構えている山村聡のほうがよっぽど魅力的。しかし格調高い小津映画で必殺七連発平手乱れ打ちを観られるとは思ってもみなかったよなあ。 [映画館(字幕)] 7点(2005-01-15 14:22:23)(良:1票) |