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1.  メメント
ノーラン監督のブレイクスルーとなった作品で、何度か観返してしまう作品である。 時系列の分解、時間の逆進といったノーラン監督のエッセンスが詰め込まれた作品であると今ならそう評価できるかもしれない。  ただ後のノーラン作品にみられるようなヒューマニティは本作では皆無。もちろん予算の関係で、IMAXの映像特性を活かしたシネマトグラフィーや重低音を効かせたBGMといった特徴も本作には存在しない。終始沈鬱で不穏なノワールが展開される。基本的には時系列ネタ一本で勝負するスタイルの作品であるため、点数的には7点くらいが妥当ではないだろうか。ダンケルクやインターステラーのように人間性に訴えかける部分が少ないため、余韻があまりないのも弱点か。  正直に告白すると、初めて本作を観たときは、面白いとは思いつつも、なんか奇を衒った印象の作品だなあと思っていた。いわゆる面白いし評価はするけれども、決して好きなタイプの作品ではない、というのが本作だ。ノーラン監督についてもこのころは、暗いノワールばかりを作る、気取った印象のイヤな監督でしかなかった。しかし、本作の成功をきっかけに、ノーラン監督は色々と成長をしていく。成長の過程で人間性を全開にした作品も手掛けるようになった。ちなみに私はノーラン監督のクールさの中にある生真面目で熱い人間性が大好きだ。久しぶりに本作メメントを観返すと、作品そのものの評価はあまり変わっていないが、監督に対する印象はまったく変わったことに気がつく。今や映画界を牽引する巨匠の一人だが、このころはエッジの効いたとんがった作品を作っていたのだ。
[ブルーレイ(邦画)] 7点(2019-07-31 17:41:12)
2.  メタリカ:真実の瞬間 《ネタバレ》 
今となっては世界で最も成功を収めたメタルバンドであるメタリカが、迷盤セイントアンガーを発表した時期のドキュメンタリー作品。 私がメタリカを知ったのがちょうどこのセイントアンガー発表時のころで、当時を思い出すと、この映像作品が発表されずとも、バンド内のゴタゴタが多くのメディアを通じて伝えられており、様々な問題がバンドに鬱積していたのだろうなと傍目にもわかっていた。改めてこの映像を見ると、バンドメンバーとの確執だけでなく、健康問題や、巨大ビジネス組織に変貌したバンドそのものの停滞や凋落が複雑に絡まる、厄介な問題にメンバーが極限まで疲弊していたのだとわかる。そしてメンバーたちがそうした複雑な問題を処理し切れず、もがき苦しむ姿が延々と映し出され、大変痛ましく思った。  で、映像作品として本作は面白いのか?という点であるが、これが痛ましい内容にも関わらず大変面白い。 スラッシュメタルの覇者と呼ばれ、頂点を極めたバンドが、いつしかメンバーの意志から離れて巨大な偶像、巨大なビジネス組織、まさにある種の怪物に変貌してしまい、中年にさしかかったメンバーたちは若いころのように自分たちのやりたい音楽をやりたい放題やるということが許されず、軋轢や確執に追い込まれていく。胡散臭いセラピストに大金を払う場面はその金銭感覚に唖然とするしかない。だがこれは、メンバー自身も成功を収める中でいつしか怪物になってしまったという象徴的な場面でもある。レコーディングを投げ捨てて引きこもったり、仲間を口汚く罵倒する場面は、子どもの醜い喧嘩を見ている気分になる。そうしたどん底にメンバーたちが追い込まれてから、復活劇は始まる。メンバーたちは互いの絆を確認し、新メンバーがバンドの空気を一気に変える。痛々しい場面の連続だが、最後にようやくメンバーたちに覇気と笑顔が戻ってくる。もう一度、シーンに踏み出そうとするメンバーたちの姿を描いて、映画は終わる。そう、本作は、決して監督が意図したわけではないが、バンドがどん底に追い込まれてからの復活劇、という物語ができているため、映像作品としてみても抜群に面白いわけである。徐々に徐々にバンドが活気を取り戻していく瞬間を見ると、本当に胸がほっとする。  最後にメタリカの大ファンとしては、新メンバーであるトゥルージロの加入はバンドにとって僥倖だったと心から思う。セイントアンガーそのものは賛否激しい作品にはなったが、ここでのバンドの悪戦苦闘が、のちのバンドの順調な経過や良好な人間関係、デスマグネティックの成功などに繋がると思うと、実に感慨深い。
[DVD(字幕)] 9点(2019-01-21 21:29:12)
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