1. ヤコブへの手紙
《ネタバレ》 まず特徴的なことは登場人物が極端に少ないことです。盲目の牧師、人殺しの女、そして郵便配達人。この3人のみです。ヤコブは終始痛々しい。盲目であり、身内もいなく、家はボロボロで、自分自身の体もボロボロ。案の定、彼はすぐくたばる。人生は理不尽であり「白い犬」などいないのだ。そんな老人のことを、関取の豊響にちょっと似ている女は、終始傍若無人な態度で、よぼよぼの善人のじいさんに接する。特にヤコブの手紙を読むのが面倒臭いという理由で捨ててしまうシーンなどはかなり残酷でした。しかも金まで盗んで出て行こうとする。そんな女でも、タクシーに乗って家から出ようとしたとき、急にある事実に気が付きます。「自分には行く場所がない。」という事実に─。女は自殺しようとする。この瞬間、私は彼女を赦した。そしてラストシーン、絶望したときに発したヤコブの言葉─「わたしは神のために、手紙を読んで、そして人を救っていると思っていた。しかし神がわたしのために手紙を与えてくれていたのだ」と。人は生かされているという事実─。どんなに信仰を持った信者でもなかなかそれを意識することは難しい。むしろ信者や神父だからこそわかるはずもない真実なのだ。人は努力して頑張っているときほど、頑張っている自分が偉いのだと思いこんでいる。そして大抵は人がみえない恩恵を受けている事実に気が付くときは、その恩恵を失ってからだ。人間は愚かだ。失って気が付くのが人間だ。人を救うことすら、救う人間にたいして、自分自身が救われている。人の役に立ちたい、誰かのために生きる、という考えも、ある意味では人間の驕りなのかもしれません。女の苦しみを救った瞬間の、ヤコブのあの嬉しそうな顔─。救われたのはじつはヤコブでした。神がヤコブを救うために、ヤコブの前に豊響を遣したのだとおもいます。ヤコブの手紙には宗教問題にかかわらず、すべての人間に当てはまる普遍的なテーマが描かれているとおもいます。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-02-20 23:21:34) |
2. 闇の列車、光の旅
《ネタバレ》 個人的な話で申しわけありませんが私はクソ男が嫌いだ。その「クソ男」が主役でした。主役はクソギャング。クソがクソったれの男の子をギャングに勧誘したことがきっかけで、そのクソの男の子に殺されてしまうというクソドラマなのです・・。救いようがありません。普段なら躊躇なく0点ですね。ただ、映像が恐ろしいほど綺麗でした。こんな綺麗な映像は、タイトルは忘れましたが、台湾の監督が作った日本の北海道を舞台にしたあの映画を彷彿とさせるほど素晴らしかったです。こうみえても私も18切符を使って四国一周旅行をしたことがあるのですが、「闇の列車、光の旅」で、主役のクソとヒロインがアメリカへ行こうとしているその列車の描写は、まさにその「四国」と一緒な印象を受けました。主役のクソは悪党でした。しかし彼は「愛」を知って、理不尽な行動に出る。それが悪の頂点にたつクソボスを殺すという暴挙です。「愛」は見境がなくて怖い。しかし「愛」は損得なんて忘れてしまう。主役のクソはなんと「愛」のせいで、ギャングから「善人」になってしまった・・。それゆえに殺されてしまう。そんな物語、私の知る限り、何百回も観てきた・・。しかし何度観てもやはり切ない。悪が善になったがために自滅するという話・・。久しぶりにクソ男に同情して好感を持ってしまいました。想像を絶する綺麗な映像に乾杯!ワウワウに乾杯!クソ男に乾杯! [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-11-13 21:12:30) |
3. 約束の旅路
《ネタバレ》 混乱必死なので簡潔にまとめます。◎イスラエル人(ヘブライ人)・・イスラエルを祖国とする人たち。。◎ユダヤ人・・ユダヤ教を信仰している人たち。イスラエル人の中には、他宗教を信仰する者もいるし、無宗教の左派もいる。従ってユダヤ人=イスラエル人ではない。いずれにせよモーセ作戦の対象者である彼らは、エジプト人からはよそ者と言われ、ユダヤ人からは「黒人」と言われてしまうわけです。黒人で、キリスト教徒で、しかもユダヤ人を偽るエチオピア人の主人公は悩みます。(この設定が難解だ)彼は叫ぶ。自分の祖国はどこ?自分は何人?しかし手紙を書く宗教家のおじさんや、養家の祖父の愛情があまりにも深すぎて号泣してしまう。彼らは主人公の正体を知っていたはずだ。しかしそれでも彼を愛していたのだ。青年に成長した主人公が警察で自分の正体を告白するシーンは、あたかも「罪と罰」のラスコーリニコフであり、彼は正体を隠す自分を罪人と思い込んでいた。恋人のサラだけは主人公の正体を知らなかったのでショックを受けた。だが彼女は言う。「白だろうか、黒だろうが、ユダヤだろうが、エジプトだろうが、わたしには関係ねえんだよ。おい、わたしはあなたという人間を愛していたのだ、なぜ10年間も言ってくれなかったのか?」この女、虚言癖が激しいが、じつは非常にいいヤツで本気で泣けてくる。差別というのは、知らない人が、知らない人を評価するときに生まれる。知らないからこそ、民族や肌の色、デブハゲなど、容姿で判断してしまう。しかし人が人と接するうちに、そんな記号の偏見は消える。差別があるから愛せないのではない。知らないから差別するのだ。母親は、我が子を捨てることで命を救った。その子は遠い場所でずっと母を想いつづけた。そしてラスト。主人公がエチオピアに帰還し、自分を捨て、同時に命を救った母親を抱きしめたラストシーン。ただ、ただ、ひたすら号泣した・・。もう言葉もない。紛れもなく名作だ。 [DVD(字幕)] 10点(2011-09-20 19:39:45) |
4. 野生のエルザ
《ネタバレ》 はじめて「ライオン」という動物に興味を持ちました。百獣の王と呼ばれ、動物の中でも最強だと言われるライオン、しかし子供の頃は子犬と見分けがつかないくらいに本当に可愛かったです。その子供ライオンが成長して無敵のライオンに変貌する様子は圧巻としか言いようがありません。ライオンが人間と共生できない理由は、ライオンがあまりにも強すぎるからだと思います。犬とは違うのですね。 だたし、この映画では、野生を失ったライオンのエルザの「ひ弱さ」を遠くから心配そうに見守る人間夫婦の姿があまりにも印象的で、涙腺を刺激します。 この夫婦は子供がいないのに、エルザの前では、妻が夫のことを「パパ」と呼んでいるのですよ(笑) ライオンを、わが子同様に思っており、終始、エルザに対するこの夫婦の視線は愛情に溢れていて温かさを感じました。 そして一番の見所は、海を一度も見たことが無いエルザをはじめて海へ連れて行ったシーン。私はライオンが泳ぐのをはじめて見ましたよ。 ライオンは泳げないと思いましたが、しっかりと犬かきで泳ぐではありませんか! いや犬ではないので、ライオンかきかもしれません。泰然自若としたエルザの泳ぎっぷりに、私はどうしてこのライオンが主演男優賞を取れなかったのか不思議でなりませんでした。エルザと夫婦が一緒に泳ぐシーンは幸せの絶頂だと感じましたが、逆にそれがラストの暗雲を予想せずにはいられませんでした。心配性の私としては、最近キングコングを観た影響もあって、実は野生のエルザがラストで悲運の最期を遂げるのではないかと嫌な予感を抱きながら見ていたのです。人間社会は自分勝手ですからね。 しかしその暗雲も一瞬に吹き飛ばす文句のつけようが無い完全無欠のハッピーエンド!やはり哀しい涙を流して感動する映画よりも、嬉しい涙を流して感動する映画を私は愛します。「実話と違う」なんて考えずに、ファンタジー映画としてみると本気で号泣できます。最近、インパクトだけを重視したよく意味の分からない邦題をつけた映画が多いですが、「野生のエルザ」というタイトルのなんと素晴らしいことでしょうか! いやはや、久しぶりに夢を見させて貰いました。 [DVD(字幕)] 9点(2006-01-21 20:57:34)(良:1票) |
5. 山の郵便配達
この映画は私のツボにはまった。 父親をお父さんと呼ばない息子。 そういう息子に対して、あの情けなくて頼りない笑顔の父親は、見返りを求めない無条件の愛情を息子に降り注いでいる。 それが痛いほど分かった。 人は誰かを好きになると強くなると言われるが違うかもしれない、人は好きになればなるほど弱くなる─。 ・・こういうぎこちない2人の親子と次男坊の面白くも哀しい3日間の郵便配達は、平凡だけど、親子関係に問題を抱えている人が見ると胸を打たれるのではないだろうか。平凡だからこそ、風で郵便物が飛ばされただけで、声を上げたくなるほど驚くこともある(笑) ハリウッド映画に侵され続けているとそういう感覚が分からなくなるのかもしれないが、私はこの映画を純粋に楽しめる自分に気がついた。それがうれしい。 10点(2004-06-06 21:52:50)(良:1票) |