1. ヤング≒アダルト
定番の流れなら反省して最後に違う幸せを見つけそうなもんだが、かつての自分のような考え方を持つ妹に説かれ、あっというまに元通り。そもそもその兄とベッドを共にした翌朝のシーンは、最初の方のシーンと全く同じ構図。観客はそこで違うものを想像する。例えばベッドから抜けずに寝ている彼を優しく抱擁するとか、また幸せそうに眠りにつくとか。しかし彼女は全く同じようにベッドから抜け、着替え、妹の居るリビングへ行く。そして説き伏せられもとの自分に戻るのだ。つまりベッドを抜けた時点で元の自分のままでいることが暗示されている。車と同じように、へこんだまま走り続けるのだ。そこが定番の映画と一味違う脚本のよさだろう。佳作。 [DVD(字幕)] 6点(2013-02-26 23:29:02) |
2. 闇の子供たち
《ネタバレ》 この映画の致命的な点は、陳腐さあるいは既視感に鈍感な点である。全てにおいてステレオタイプな描き方とストーリーの陳腐さが、この映画を凹凸のない平板なものにしている。唯一良いところは、南部が過去に児童買春をしたことがあり、それへの悔恨から鏡の周りに新聞記事を貼り、鏡で自分を見るたびにそれを思い出させようとしていたこと、そしてそれを布でしばらくの間覆っていたという演出である。売春施設の兄ちゃんも過去のトラウマをひきずりながら、最後はすっきりしたような顔をしていたのが印象的。銃撃戦などはなぜ警察官と戦わなければならないのか理解不能だった。そしてラストの歌と字幕は言うまでもなく蛇足である。 [DVD(邦画)] 4点(2011-06-26 00:00:27) |
3. 山猫は眠らない
それなりに100分でまとめており、飽きずに観られる。弾丸のスローモーションはちょっとださい。スタイリッシュな映像は特に無いが、まぁ楽しめる。 [DVD(字幕)] 6点(2011-05-05 22:11:49) |
4. 約束(1972)
《ネタバレ》 ぼかしやズームアウト、手ぶれ、逆行、静止画などなど、テクニック盛りだくさんで、これらをいちいち発見していくのも楽しい。特に逆行をはじめ、陰影の使い方は非常に上手く、美しい。 ただ個人的には、岸恵子は完璧なキャスティングなのに、ショーケンってどう考えてもかっこよくない‥‥。このころの映画って主役男優に過剰な演技をさせすぎだと思う。今観ると、の話なので当時の評価は知らない。つまるところ、なぜあの二人が恋に落ちるのが釈然としなかった。恋に落ちる過程を度外視すれば、なかなか面白いとは思うのだけど。 そして結局この映画は二人の悲しい恋を描いているだけで、二人の人間は描いていない。映像には凝っているが、二人の内面は何も見えてこない。特別に外出中の女囚とチンピラの恋、という設定を盛り上げているだけで、どんな女囚か、どんなチンピラかが分からなかったのは残念だった。 [映画館(邦画)] 5点(2010-11-23 01:17:19) |
5. 山猫
《ネタバレ》 完全版で鑑賞。一大叙事詩という意味では「バリー・リンドン」と似ている。こちらはもっと人物描写に力を入れながらも、一つの時代の終焉を描く。時代の終焉とはすなわち、その時代の象徴であるサリーナ公爵の内面の死を意味する。ラスト、大舞踏会のシーンでサリーナ公爵が予感する「老い」や「死」とは決してサリーナ公爵という人物の死という意味のような生やさしいものではない。自分の生きてきた、信じてきたイデオロギーの死を確信しているのである。重厚な演技と相まって、えもいわれぬ哀愁と尊厳をそこに感じる。また、この時代考証と徹底的な絵作りは凝っている、なんてレベルではなく、1860年代当時のイタリア(もちろん見たことはないが)そのものである。 [DVD(字幕)] 10点(2010-10-01 15:34:25) |
6. 山の音
《ネタバレ》 原節子。この人の貼り付いたような笑顔はいつも僕を戦慄させます。説明的描写が少ないところが素晴らしい。菊子がなかなか子供ができないことを実は悩んでいたことや、遺書を書こうとしていることなど、直接的ではなくさりげなく語られます。 また、映像の面でも小津作品よりも開放的というか、ロケ撮影が多いです。木漏れ日の当たる細い道を二人が歩くシーンは何度も出てくるし、ラストシーンもロケです。セット撮影であっても外とのつながりを重視しているように見えます。少なくともいきなり屋内、というシーンはあまり無いような気がします。一つの成瀬映画の特徴と言ってよいでしょう。そして屋内の移動の描写が多いです。小津は一室一室のカットが多いのに対し、成瀬は部屋から部屋への移動や庭を挟んでの移動、小道から家へ入る移動、廊下から部屋への移動、事務室のドアから部屋への移動、というように空間の移動が殊更意識されているように見えます。「家」そのものを描写しようとしているかのようです。 堕胎はまるで自殺だぞ! という台詞が強烈でした。堕胎の前に心中の話題を出し、伏線を張っておいてのこの台詞は素晴らしい。明るい笑顔ばかりを見せていた菊子が、その心中の話を義母に聞かされたところで初めて思い詰めた顔をするのも効果的です。 目線だけで人物の移動を表現する手法も多用されており、所々に成瀬節のようなものを感じました。日本間のタテの線の美しさも感じられ、非常に質が高い映画です。 [DVD(字幕)] 7点(2010-07-24 22:51:51) |